1月
空さんと年を越した。
今日はお店もお休みだ。
私が部屋で勉強をしていると、コンコンっとドアを叩く音が聞こえる。
「どうぞ」
すると、ニットにジーパン姿のラフな格好の空さんがコップと本を持って入ってきた。
「どう?はかどってる?」
「あ、ここ少し教えてもらってもいいですか?」
「もちろん!これ、ココア。置いておくね」
そう言って、カップを置いてくれる。
いつもいいタイミングで空さんは部屋に入ってくる。
「どこがわからない?」
ここですと言うと、いつものように教えてくれる。
私がまた解き始めると、しばらくは私の部屋にいて本を読んでいる。
急に本から顔を上げて言う。
「ねえ、千春ちゃん。今日、近くの通りのイルミネーション見に行かない?」
イルミネーションか、最後に行ったのはいつだろう。
小さいときに3人で行った、イルミネーションは綺麗だったな。
「イルミネーョンの見えるところでご飯食べたいなって、私が行きたいだけなんだけど」
「行きたいです!」
「じゃあ、決まり!6時にお店予約しておくね。後2時間頑張れ」
そう言って、気を利かして部屋を出ていく。
ほんとに、空さんは優しい。
私が学校の出席日数ギリギリでも何も言わない。
ただ、行く日はちゃんと見送ってくれる。
もう少しで、面談の日だ。
私は、最初行かなくてもいいかなって思ってたけど空さんが私の姉という形で学校に行くことになってしまった。
ほんとに申し訳ないと思っていたけど、意外にも空さんは嬉しそうだった。
空さんは優しくてお姉ちゃんみたいだ。
今は勉強をがんばろう。
2時間弱立って伸びをしていると、空さんが部屋に入ってくる。
完璧にニットにロングスカートを着こなしている。
「お邪魔だった?」
「あ、大丈夫です。今終わったとこです」
「そう。千春ちゃん、もう直ぐ行くから着替えてきてね!」
「はい」
そう言って、また階段を降りていく音が聞こえる。
何着よう、、、
私は、あまり空さんのようなおしゃれな服を持っていない。
でも、ロングスカート1着だけあるしって、この前空さんに買ってもらったんだっけ、、、
まあ、ロングスカートにフーディーでいいかな、、、
コートはいつものがあるし。
さっと着替えて、2つの指輪を通したネックレスを首から下げ服の中にしまう。私は、この指輪を一生離さないと思う。絶対に。
いつも、見守って欲しいから。
急いで部屋を出て一階に行く。
「すみません。遅くなってしまって」
「大丈夫。まだ全然時間あるし、、、って、可愛い!すごく似合ってる!」
「あ、ありがとうございます」
少し照れ気味に言う。
「でも、空さんも綺麗ですよ」
ほんとだった。
髪の毛も、お化粧も完璧!
「ありがとう!千春ちゃんとお出かけあんまり行かないから、ちょっと張り切っちゃった。じゃゃあ、行こうか」
「はい!」
二人で車に乗って、20分。
「到着!」
「わぁ〜!おしゃれ!」
色とりどりに光るイルミネーションが木や建物を埋め尽くしている。
「でしょう?今日は、好きなものたくさん食べてね!」
2人で料理を食べた後は、散歩することにした。
夜空に星がたくさん光っている。
「すごいきれいですね〜!」
「よかった、喜んでくれて」
ふふっと空さんは笑う。
「ありがとうござい、、」
「あれ、あれって、田中じゃね?」
「ほんとだ!田中じゃん!」
後ろの方から聞こえてきたその声にびくっと体を震わす。
最近は、あまり学校にも行かないから人と関わることはあまりなかったけど、、、
なんで、今なの?
「千春ちゃんの、友達?」
耳元で、空さんが聞いてくる。
ギュッと目を瞑ったまま思わず首を横に振った。
「田中と一緒にいる人きれいじゃね?」
「確かにな。姉妹か?」
「違うだろ、あいつに姉妹はいなかったぞ。ま声かけようぜ」
そう言って、こっちにやってくる足音が聞こえる。
「いやっ、、、」
小さく声を漏らす。
空さんはハッとして手を握ってくれる。
「大丈夫。私がいる、、、ね?」
コクっとうなずく。
「田中久しぶりだな!」
「よぉ〜!この女の人紹介してくんない?」
「失礼ですけど、どちら様でしょうか」
「おれ、こいつのクラスの尾崎っす」
「同じく、岩井っす」
「そう。私たちはまだ寄りたいところがあるから」
そう言って、私の肩に手を置き歩こうとする。
しかし、尾崎が私の肩をグイッと引っ張る。
「っつ、、、」
思わず顔をしかめる。
最悪だ。
「なんですか?」
空さんが、冷めた声で言う。
「俺たちも連れてってくださいよ〜」
「すみませんが、無理です。では」
そう言って、今度こそ歩こうとするが、今度は岩井会えに立ちはだかる。
岩井は野球部でよく焼けている上に、身長がとても高いからとても迫力がある。
私は少し後ずさってしまう。
しかし、そんなことで空さんは全く動揺しなかった。
「あの、私は、あなた達を連れて行きませんし、行きたくもありません。退いてもらえますか」
私でも、身震いするような低く透き通る声で言う。
すこし、びっくりしたのか、少し後ずさる。
「ほんとうに、迷惑なんです。行こう、千春ちゃん」
「は、はい」
空さんが私の手を引いてくれる。
後ろから舌打ちが聞こえたけど、気にしないことにした。
少し、歩いたところにベンチがあったのでそこに座り込む。
「ごめんね。私がもう少しうまくできてたらよかったんだけど」
申し訳なさそうに空さんは言う。
「大丈夫です。ありがとうございます」
「余計に学校行き辛くなったよね、、、本当にごめんね」
「いえ、、、嬉しかったです」
「え?」
「空さんが、言い返してくれて。私、全然言い返せないんです。自分でも、嫌になるくらい」
「そう。でも、私は今の千春ちゃんが好きだよ。それに、人には得意不得意があって、必ずしも人ができたからってできるわけじゃない。だから、千春ちゃんは千春ちゃんのままでいいと思う」
「あ、ありがとう、、、ございます」
その言葉に少し涙が出てきた。
「ほんとに、ありがとうございます」
すると、私の背中に手を置いて優しくさすってくれる。
「どういたしまして。明日は、勉強おやすみにしない?」
「でも、あまりすることが、、、お店もお休みですし」
「たまには、ゴロゴロするのもよくない?」
「じゃあ、私、料理してもいいですか?」
「つくれるのっ?!」
「そ、そんなに驚かなくても、、、」
胸に手を当ててウッとうめくフリをする。
「「ふふっ、、、」」
お母さん、お父さん、私、今とっても幸せです。
月を眺めながら、指輪を握り締めた。