15.死神皇帝と5歳の魔女
幼い頃から父である皇帝に疎まれ、実兄には蔑まれてきたジルにとって、家族の愛情というものは縁のない存在だったが、それでも皇族の血を引く者であることだけは、嫌というほど教わってきた。卑しい母の血が流れていようと、魔力を持つ恐ろしき金色の瞳を持つ子供であろうと、ヴァルナという国を統べる一族として誇りある生き方をするのだと言われ続けた。その事が、何一つ持たないジルにとって唯一の救いでもあり、何一つ価値が無いと想いながら生きてきた中で唯一の道標でもあった。
成長していく中で、父と実兄の悪政を知った。世の不条理を知った。このまま進めば皇国の未来は暗雲に満ちるだろうと悟った。
それは皇族として生を受け、使命だけを生きる価値としてきたジルには変えるべき未来だった。
だからこそ、己の肉親を躊躇なく殺した。彼らこそ、己に流れる血を穢す存在と成り果てた。彼らが誇る皇族としての血筋を、国の栄光を守るためであるのならば、皇帝こそ納得して刃に身を差し出すべきだとすら考えた。
実際のところ、彼らを前にして考えを述べれば、気が狂ったかと罵られるだけで何の未来も考えていなかった。だから殺した。皇帝として在ってはならないから。
残すは実兄のクローディだった。彼を始末さえすればジルの求める道標は途絶えない。例えその先に自身が居なくとも、ヴァルナ皇国に栄光をもたらしてくれるであろう後継者のオルセーがいる。
だからジルは、クローディと対峙して命を失うことがあっても、何の悔いも残らない。
そう思っていた。
けれど。
「どうか無事であってくれよ。クリスティーヌ」
彼女の笑顔が見れなくなる未来を考えると。
胸が苦しく。今まで感じたことのない痛みがジルを襲う。
それは今まで皇族であることを誇りとして生き続けてきたジルにとって初めての感情だった。
クリスティーヌは記憶に無いだろうが、ジルがクリスティーヌに初めて会ったのは、彼女がまだ5歳ほどの幼い少女だった頃の事だった。
新皇帝として即位したばかりのジルが中立機関であった魔術師の塔に訪れていた時のこと。
まだ5歳の少女に次期魔術師の塔の長の位を譲る話を聞いたジルは、その流れのまま、魔術師の塔に災いが起きた時には守り、そして保護を目的として幼き少女を婚約者にして欲しいと頼まれた。その見返りはヴァルナへの定期的な祝福、泉への結界だった。まさか本当に魔術師の塔が襲われ、婚約者が皇国に訪れることになるとは思いもしなかったが。
皇国に戻る前に立ち寄った魔術師の塔の庭園に少女は一人で花を眺めていた。
同世代の子供と遊ぶでもなく、ぼんやりと花を見つめていた。
その少女がふと視線に気づいて、顔を上げた。
宝石のように金色に煌く大きな瞳。
同じ瞳の色とは思えないほど、少女の瞳は純粋で綺麗だと思った。
クリスティーヌもまた同じ瞳の色をしたジルに興味を示し、すぐさま近寄ってきた。
「ねえ、クリスティーヌのかぞくなの?」
突然そんな事を聞いてきた。
「家族?」
「おんなじ目の色してるよ。ねえ、クリスティーヌのおとうさんなの?」
「違う」
「じゃあお兄さん?」
「違う」
立て続けに否と答えたためか、みるみるクリスティーヌは下を向いた。見れば瞳が少し潤んでいる。
そうか。彼女は家族が恋しいのか。
同じ瞳の色をしたジルを家族と思い声をかけたのだろう。
ジルはクリスティーヌに視線を合わせるため屈んだ。
「そなたの父でも兄でも無いが、いずれは家族となるかもしれないな」
そう、何かあれば彼女を婚約者にと契約を結んだ先刻の事を思い出し、そう告げれば。
少しばかりきょとんとしていた幼い少女が、満開の笑顔でジルに笑った。
「クリスティーヌのかぞくだぁ」
「うん」
会ったばかりの金色の瞳を持つだけのジルを、こうして純粋に家族として焦がれるクリスティーヌに抱きしめられたジルは。
初めて受ける子供の温もりに抱きしめ返した。
きっとそれは。
クリスティーヌも覚えていない、ジルだけのたった一つの思い出。
ジルがさらにロリ(自主規制




