15.転性聖女は冒険者
「おめでとうございます。
これでお二人も冒険者ですね」
「ありがとう御座います」
冒険者ギルドに戻り、受付業務に戻ったルシルさんから
ギルド員の証となるドックタグの様な金属プレートを受領した。
ルシルさんはお酒の供給が終わった途端に素面に戻ったようだが、
お酒に強いってレベルじゃないですね。
そもそも、仕事中にお酒飲んじゃだめでしょ。
まぁ、そんな事を気にしてもしょうがない。
受け取ったギルド員証を自分とアキの首にかける。
Eランクでは少しチープな鉄のタグだが、まぁこんなものだろう。
努力の成果だと思うと少し誇らしい気もする。
「かーさまとお揃い」
「アキちゃんすごいねー。
これで同じクランの仲間だね!」
アキとベルがまた二人ではしゃいでいる。可愛い。
私も凄く痛い思いをした甲斐があったと言うものだ。
「また戦う機会を楽しみにしているよ」
「あはは、その時はお願いいたします」
アッシュさんはどうやら再戦希望らしい。
冒険者ギルドで昇進したいわけでもないし、
もう試合なんて二度と御免ですよ!
「おい、お前達は買取依頼に来たんだろ?
さっさと行ったらどうだ?午前の部が閉まるぞ」
「え、そうなんですか!ありがとう御座います」
もう体は大丈夫そうなグスタフさんは
不機嫌そうに買取の受付の方を指差す。
受付時間があるんですね。危ない危ない。
素直にお礼を言って向かうとしよう。
グスタフさんにはそっぽを向かれてしまったが。
「すみません、買取をお願いします」
「私も、私も」
買取の受付まで行き、自分とアキのリュックサックの中の採取物を広げていく。
その隣でベルも同じようにバックの中身を出していく。
「わ、凄い量ですね。
確かにお預かりしました。
見積もりに少しお時間を頂きますね」
3人分の採取物となると、なかなかの量だ。こんもりとした小さな山になっている。
受付のお姉さんも少し驚いている様だ。
見積もりの番号札を受け取り、受付から少し離れたベンチに座る。
目的であった採取物の換金も無事に終わりそうだし、
今日の予定としては、後はお楽しみのお買い物だけだ。
孤児院時代も町まで出た事が無かったので、
この初めてのお買い物に少し浮き足立ってしまう。
何を買おうか。やっぱり食材と日用品かな。
娯楽品も欲しいなー。などと考えを巡らせていると、
冒険者ギルドで受付を済ませてから
ずっと黙っていたアルフが口を開いた。
「なぁ、あんた達はいったい何者なんだ?」
「何者と言いますと……?
初めて会ったときにお伝えした通り、孤児ですが」
何を今更と言う感じで返答するが、
アルフは釈然としない顔をしたままだ。
「これでも俺は同年代には負けない自信があったし、
今でもそうそう負けることは無いと思っている。
だが、俺でもビビって固まってしまった
あの支部長の眼力を受けても
平然としているあんた達は何なんだ」
ギルドの受付に行ってからずっと黙っていたのは、そういうことか。
自分よりも小さな子供がアレを受けて平然としていることに
違和感を覚えたということね。
確かにベルは怯えていたし、あれが普通の反応なのだろう。
これからご近所さんになるのだから、不信がられても良くない。
ここは簡単に説明をしておきましょうか。
「あのですね、実は私たちは、エクリプスの戦場帰りなんです。
ほら、私は先程のとおり治癒魔法が得意ですから、
ヒーラーとして従事していたんです。
それで、多少の戦場慣れと言うか、色々な視線に慣れていたんですよ。
終戦後は元々孤児なので帰る場所が無かったんですが、
怪我人を治療する中で、クリスタやエイスの町出身の方々から
話を聞く機会が多くて興味があって、此方に向かっていたんです」
アキとの関係は複雑なので、一緒に戦場にいたことにしよう。
エイスの町に辿り着いたのも本当は偶々だったが、
真実を交えてそれっぽい理由をつけておこう。
人間、自分が納得できる理由が用意されていると
それを疑うという事をし難くなるものだ。
「そうか、あんた達はエクリプスの戦場帰りなのか……
なあ、クリスタの町の出身者にどんな人が居た?
俺やベルにそっくりな人は居なかったか?」
アルフは少し食い気味に問い詰めてくる。あ、圧が強い。
でも、その気持ちは良くわかる。
自分にとって大切な人の手がかりが得られるかもと
考えれば当然の動きだろう。
でも、心苦しいが全く記憶に無い。
「すみません。一人一人のことは良く覚えていなくて……」
「いや、すまない。気にしないでくれ。
そんな余裕が無いくらい酷い戦場だったと聞いたことがある。
それよりも、クリスタの町の人たちを癒してくれて感謝する」
色々思う事があるのだろうか、アルフは神妙な顔をして此方に頭を下げてくる。
自分にとっても辛い話題だろうに、クリスタの領主の息子として
礼を尽くそうとしている事が伝わってくる。
若いのに立派な青年だ。頭が下がる思いだ。
少しくらいなら、この青年の負担を減らしてあげても
良いのではないだろうか。
正直、私は面倒ごとには極力巻き込まれたくないタイプの人間だが、
身近な人に対して、自分が疲れない範囲で手を貸す位の人情は持ち合わせている。
立派な青年に対しては尚更だ。
「アルフ、私たちを貴方のクランに登録してください。
恐らく、貴方の面倒を見ている孤児には小さな子も居るでしょう?
ご近所のよしみで貴方の留守くらいなら守りますよ。
私のやれることはやってあげます」
まぁ、言うまでも無いですが、もちろん私が余り疲れない範囲でですよ。
「なぁ、どうしてそこまでやってくれるんだ?
何が狙いなんだ?」
「狙いも何も、年端も行かない子供に手を差し伸べるのが
年長者の勤めでしょう?」
私の前世が文明人で良かったですね。
既に最低限の道徳教育が頭の中に根付いております。
「いや、だからってそこまでする義理はないだろ?
「なら、貴方も同じじゃないですか。
メリットも無いのに私たちをクランに入れてくれようとしましたよね。
それに、私は大人にはこんなサービスはしませんよ。
色々と痛い目を見たので余り信用できないので」
折角の機会なので、アルフに戦場で酷使された愚痴も聞いてもらおう。
さぁ、私の溢れ出る戦場経験をお聞きなさい。
少女、愚痴垂れ中
どれくらい愚痴を垂れていただろうか。
アルフはもう聞きたくないのか、露骨に話題を変えようと、違う話を振ってきた。
「なぁ、ちなみにあんたは何歳なんだ?
年長者って言うくらいだし、その見た目だが俺より年上なのか?」
「あれ、年齢は伝えてませんでしたっけ?11歳ですよ」
「おい、ベルと同い年って、年下じゃないか!」
「大丈夫です。精神年齢は40歳代ですよ」
あ、アルフが可愛そうなものを見るような、
それでいて不信そうな目で見てくる……




