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第7章


「あら、ルイーゼお姉様。お帰りなさい。何処に行ってたの?」


息を切らし部屋に戻ったわたしに既に帰っていたアヴィスが優しい微笑みを向ける。


「うん…ちょっと用事でね」


息を整えながら少し苦笑してわたしは答える。


何も知らないアヴィスに言えるワケがない。


ヴューイ様と噂になった上に証を付けられたなんて……。


「そう。お姉様少し調子が悪いの?何だか顔が赤い気がするけど?」


「そ、そうかしら…?」


心配そうなアヴィスに言われてわたしは近くにあった鏡を覗き込む。


鏡に映るわたしの顔はアヴィスの言う通り少し頬が赤い。


更に下に視線を向ければ服の胸元に小さな紅い跡がしっかり付いていた。


これ……キスマークっっ!?


しっかり付いている紅い跡を見てわたしは隠す様に手で押さえる。


―――コンコン。


「はい。どなたですか?」


ふいに部屋の扉がノックされアヴィスが返事をした。


「ヴューイです。少しお邪魔してよろしいですか?」


「げっ!!」


扉越しに聞こえるヴューイ様の声にわたしは思わずおかしな声を上げてしまった。


「ルイーゼお姉様……?」


「あ…あの…わたし…やっぱり調子悪いみたい。アヴィスやヴューイ様にうつしちゃ悪いから奥の部屋で休んでるわねっ!」


わたしの態度に不思議そうな表情をするアヴィスの返事を待たず、わたしは逃げる様に奥の部屋に飛びこんだ。


「ふぅ〜…」


扉を閉めてやっと1人になったわたしは小さな部屋に置かれている質素なベッドに倒れ込む様に身体を預けた。


この部屋は姫巫女候補の世話をする侍女たちが使う部屋。


本来なら幾人かの侍女たちが使うのだけどアヴィスにはわたししか侍女が居ない為、わたしの部屋になっていた。


アヴィスの部屋では先程、別れたばかりのヴューイ様の声が微かにする。


……どうしよう。いくら変な事されたからって……ヴューイ様に馬鹿とか言ってしまった。


薄暗い部屋で少し冷静さを取り戻したわたしはベッドの中で頭を抱えた。


明日からヴューイ様がアヴィスの護衛をするのであれば嫌でも一緒に行動しなくちゃならない。


でも……馬鹿とか大嫌いとか言ってしまった手前、平気な顔でヴューイ様の側に居られないわ。


本当にどうしよう……出来ればこの部屋で試練が終わるまで引きこもりたいっ!


枕に顔を埋め、出来もしない事を考えながらわたしは眼を閉じた。




「…んんっ……」


それからどれくらい時が経っただろう。


わたしが再び眼を開けると薄暗い部屋は更に暗くなっており、窓からは銀色の月明かりが差し込んでいた。


「……考え過ぎちゃっていつの間にか寝てしまったのね」


自分の行動に少し呆れてつつベッドから身体を起こした。


結構寝てしまったから、当分寝れそうにはないし…ちょっと気分転換に外の空気でも吸ってこようかしら。


少し乱れた髪と衣服を整えながらわたしは音を立てない様にゆっくりと部屋を出る。


人気もなく、しんと静まり返っている庭園をわたしは1人歩いていた。


「綺麗な月…」


紫紺の夜空に綺麗な満月が優しい光を放って輝いている。


「姫巫女候補の試練が終わるまでどうやったら平穏に過ごせるのかしら」


満月を眺めながらわたしはため息をついて呟いた。


いくらアヴィスが優秀と言ってもこれ以上迷惑をかけたら支障がでるかもしれない。


このまま家に帰ってしまおうかしら…。


でも……そんな事したらお父様に叱られてしまうかも。


ううん。それどころか家に入れてもらえないかもしれないわ…。


暴漢の事もあるし……本当にどうしたらいいのかしら。


「誰かいるのか?」


月を眺め色々考えているわたしの背後で誰かの声がした。


声に驚き振り返るとそこには王宮の護衛らしき男が険しい顔で立っていた。


「そこで何している?」


「あ…わたし…」


護衛に咎めるように尋ねられ、わたしは思わず口籠もる。


「……怪しい女だな…」


「いえ、わたしは姫巫女候補のアヴィス様の侍女です」


「姫巫女候補の侍女…?あぁ、お前が噂の……」


護衛は何かに気付いた様にわたしへと好奇の眼差しを向けながらニヤリと笑う。


何かイヤな感じ……。


「……では、失礼します」


「おっと。待てよ」


少し睨み付けながらニヤニヤ笑う護衛の脇をすり抜けようとしたがわたしは護衛に腕を掴まれてしまう。


「離してください!」


「……ふーん。顔はお世辞にも可愛いとは言えねぇな。お前みたいのがどうやってヴューイ様に取り入ったんだ?」


怒るわたしをジロジロ見つめながら護衛が言う。


わたしが取り入ったですって!?


護衛の言葉にわたしの中の何かがキレた。


「護衛さん」


「ん……?」


「あまり悪ふざけが過ぎると……」


少し俯きそう言うとわたしは護衛が腰にぶら下げている剣を逆手に持ったまま一気に引き抜いた。


「うぐっっ!?」


小さく呻く護衛の首筋には鈍く光る剣が宛がわれている。


「痛い目にあいますよ?」


驚いた顔の護衛の顔をわたしは冷やかな眼差しで見つめる。


「この女ぁ……。上にお前の事を報告してやるからな!」


「……ご自由に。その代わりわたしもこの事を有りのまま報告させて頂きますから」


唸る様に言う護衛にわたしはニッコリ微笑んで答えた。


「うぅっ…!」


わたしの言葉に護衛は一瞬にして顔を真っ青にした。


侍女であるわたしにこんな醜態をさらした事が王宮中に知れたら護衛としてプライドはボロボロだものね。


最悪、護衛を辞めさせられる可能もあるし。


「……冗談ですよ」


わたしは少し苦笑しながら剣を護衛の腰にある鞘に戻す。


途端、真っ青な顔をした護衛はその場にペタンと座り込んだ。


「今後は女だと思って悪ふざけなされない事ですわ。では、失礼いたします」


護衛を見下ろしながらそう言うと庭園からゆっくりと立ち去さり自室に戻る。


「ふぅ〜…」


部屋に戻ったわたしは夜風で少し冷えた身体をベットに沈めるとため息を吐いた。


「結局、全然気分転換にならなったわ…」


少し苦笑すると先程の騒ぎで疲れたのか直ぐに睡魔が襲ってくる。


……もう、明日考えよ……。


悩むのも睡魔に抵抗するのも面倒になりわたしは布団を頭から被り静かに眼を閉じた……。






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