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第6章


ヴューイ様との賭けの話は数日であっという間に王宮中に流れた。


いや、正確にはヴューイ様がワザと王宮中に流したのだけど……。


「だって賭けの間に他のお嬢様方に誘われても困りますからね」


賭けをバラされ、抗議するわたしにヴューイ様は悪びれた様子もなく微笑んだ。


やっぱりあの時点でキッパリ断っておけばよかった……。


微笑むヴューイ様を尻目にわたしは深く深く後悔した。


賭けの話が広まった事を全く知らずにいたわたしが部屋から出るたびに王宮中の女性方の向ける視線が痛い事、痛い事。


たまたま出会ったソフィーナに賭けの話が広まった事を教えてもらってわたしは王宮中の視線のワケをやっと理解した。


「賭けがバレて何か不都合でもありますか?」


「あるに決まってるじゃないですか!」


優しい微笑みを向けるヴューイ様にわたしは怒り心頭で言った。


「どうして?」


「わたしは姫巫女候補様の侍女。わたしが目立った行動をとればアヴィス様の妨げになります」


「それは大丈夫ですよ。アヴィス嬢はかなり優秀な様ですから」


「〜〜〜〜」


アヴィスが優秀な事は姉であるわたしが1番良くわかってる。


アヴィスの妨げになる事を理由に賭けを無効にしようとしたわたしの目論見は儚くも消え失せた。


「賭けの無効はなしですよ?」


バレてるし……。


わたしの目論見を見透かした様にヴューイ様がクスクス笑う。


「そんな事より部屋に帰らなくて大丈夫なんですか?そろそろ試練が終わる時間でしょう?」


ヴューイ様の言葉に落胆しつつ、窓に視線を向ければ既に茜色の夕暮れ空が広がっていた。


「あ!早く戻らないと」


「では、一緒に行きましょう」


「あの…アヴィス様に何か用事でも?」


一緒に歩き出すヴューイ様にわたしはおずおずと尋ねる。


「ルイーゼさんはまだ知らないんですね。この間、襲われた事により護衛がいないアヴィス嬢の為にわたしが試練の期間だけ護衛するように命じられたんですよ」


「えっっ!?」


「これで試練の期間中はずっと一緒にいられますね」


驚きのあまり歩みを止めるわたしにヴューイ様はニッコリ微笑んむ。


「…なんで今更……?」


わたしたちが襲われたのはもう随分前の事。


その事すら記憶に薄れかけてる今更になって護衛の話が出てくるなんてどう考えてもおかしな話だわ。


「それはわたしが姫巫女様に進言申し上げたからですよ」


その場に怪訝そうな顔で考え込むわたしの手をとるとヴューイ様はゆっくりと歩き出した。


「何故そんな事を?」


ヴューイ様に手を引かれわたしもゆっくり歩き出す。


「あなたと一緒に居たかったから」


「は?」


「冗談ですよ」


「……」


わたしの反応を楽しそうに笑うヴューイ様をわたしは無言で睨む。


「この間の暴漢は姫巫女候補と知りながら何らかの目的であなたたちを襲ったのでしょう。ならば、皆の感心が薄れかけた今こそ再び動き出すんじゃないかと思いましてね」


「……」


確かに…あの暴漢は何らかの目的があってわたしたちを襲ったんだと思う。


でも、生まれて19年、命を狙われる程に恨まれてる覚えはわたしも、ましてやアヴィスにもあるハズがない。


――と、なれば残る理由はただ1つよね。


アヴィスが姫巫女候補になった事……。


「はぁ……」


「大きなため息ですね」


憂鬱な気持ちを隠し切れず特大のため息をついたわたしの頭上で聞き覚えのある声がした。


「えっ?……あ!」


びっくりして顔をあげるとクスクス笑いながらわたしの顔を見つめているヴューイ様……。


しかも、ヴューイ様の手はわたしの手をしっかりと握っている。


……忘れてた……。


わたしは先程のヴューイ様の言葉に考え込んでヴューイ様の存在を忘れていた。


「……その顔…もしかしてわたしの事忘れていました?」


「い…いえ…あの……手…手を離してください!」


ヴューイ様の言葉に焦るわたしははぐらかす様に手を引っ張った。


「誤魔化そうとしてもダメですよ。悪い子にはお仕置きしないとね」


手を引っ張るわたしにヴューイ様はニッコリ微笑むと掴んでいたわたしの手を強く自分の方に引き寄せた。


「え……?」


突然の出来事で抵抗するヒマもなくわたしはヴューイ様の腕の中に納まっていた。


「離してく……きゃっ!」


慌ててヴューイ様に抗議しようと顔を上げた瞬間、わたしの胸元にに柔らかい何かが触れたのを感じた。


その感触に驚いて見開いたわたしの眼に映るのはヴューイ様の艶やかな漆黒の髪……。


今の状態を理解出来ずただ呆然としていたわたしの胸元に小さな痛みが走った。


「痛っっ!?」


「はい、お仕置き終了」


小さな悲鳴をあげるわたしに少し悪戯っぽく笑うとヴューイ様は耳元で楽しそうに囁いた。


「な…な、何するんですかっっ!!」


「だから…わたしの事忘れたお仕置きですよ。これで鏡を見るたびわたしの事を思い出すでしょ?」


真っ赤になって睨み付けるわたしにニッコリ微笑みヴューイ様は答える。


「お仕置きって……?」


「わたしのモノって言う証を付けただけですよ」


「わたしはヴューイ様のモノではありません!ヴューイ様の馬鹿!大っっ嫌い!」


ヴューイ様の言葉にわたしは更に顔が赤くなるのを感じ、そう怒鳴るとヴューイ様を押し退け1人アヴィスの待つ部屋に向かって走り出した。


「本当に可愛いい人ですね。ついつい苛めたくなりますよ」


わたしの後ろ姿を見送りながらヴューイがそんな事言ってるなんて知る由もなく……。






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