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第4章


空に夜の帳が静かに降り、王宮の一際美しい大広間には煌びやかな衣装を身に纏った来賓たちが集まっていた。


「今宵は姫巫女候補たちの為にお集まり感謝します。どうぞ、厳しい試練を受ける姫巫女候補たちに暖かい言葉をあげてください」


大広間の上段からワイングラスを片手に持ち、美しい女性が宴に集まった来賓たちに穏やかな微笑みを向ける。


その女性は艶やかな銀糸の髪にアメジストの優しげな眼、額には美しさを引き立てるかの様に姫巫女様の証であるサークレットが輝いていた。


姫巫女様、綺麗な方だなぁ


わたしは目立たない様に大広間の隅っこから上段の姫巫女様を見つめていた。


姫巫女様の傍らでは国中から選ばれた5人の姫巫女候補たちが並んでいる。


その中にはモチロン美しく飾り立てたアヴィスの姿も。


「この姫巫女候補たちの前途に幸あらん事を!」


「幸あらん事を!」


姫巫女様の言葉で来賓たちは各々が持っていたワイングラスを天に掲げるとそれを合図に大広間に音楽が流れ始め宴が幕をあけた。


美しく飾りたてた来賓たちはキラキラ輝くシャンデリアの下、談笑したりダンスを踊ったりと楽しんでいる。


再びアヴィスに眼を向けると来賓たちに囲まれ談笑していた。


何時もの可愛い笑顔は些か引きつってるけど…。


アヴィスったら、あんなに緊張して大丈夫かしら…。


緊張気味のアヴィスを見てわたしは少し苦笑する。


わたしが侍女になる話をした時、アヴィスは猛反対した。


アヴィス曰く、


「姉様を呼び捨てなんて出来ない!」


…だ、そうで…。


でも、わたしからすれば『貴族のお嬢様』より『侍女』の方がある程度の自由があって都合が良いのよね。


わたしが1ヶ月も王宮でお淑やかに過ごすなんて多分無理だし……。


「……あの〜?」


談笑しているアヴィスを見つめていたわたしの背後で何とも間延びした声がした。


「はい?」


「あの、あのっ!……ルイーゼさん……ですよね…?」


振り返ったわたしの眼の前には何故か興奮している女の子が1人…。


少しクセのある栗色の髪を頭の上で纏め、エメラルドのような眼をキラキラ輝かせてわたしを見つめている。


「そうですけど…?あなたは?」


「わたし、ソフィーナって言います!あなたと同じ姫巫女候補様の侍女をしています!やっぱりあなたが噂のルイーゼさんなんですね!!」


「はぁ……?噂って?」


わたしの問いにフィーナと名乗った女の子は興奮気味に大声で言った。


「今、王宮中ではあなたの噂で持ち切りですよ!捨て身で姫巫女候補様を悪漢から守った上に……王宮1の騎士ヴューイ様に抱きかかえて王宮に来たんですから!」


「え…?」


わたしはソフィーナの言葉に絶句してしまった。


だっ…だっ…抱きかかえられたですってっっ!?


「何だか楽しそうですね」


興奮気味のソフィーナの背後から笑いを含んだ聞き覚えのある声がした。


「ヴューイ様!」


「こんばんは。体調はもう大丈夫ですか?」


「はい。おかげさまで」


優しく微笑むヴューイ様の登場にわたしは少し俯きながら返事をする。


辺りをチラリと見回せば噂のせいか来賓たちの好奇と嫉妬の視線を感じた。


……勘弁して欲しいわ…。


「それは良かった。でもまだ無理してはダメですよ」


心の中で特大のため息をつくわたしにヴューイ様は優しく言った。


「は…」


「ヴューイ様」


返事をするわたしの言葉を遮るように誰かの甘ったる声がヴューイ様を呼んだ。


「イリアス嬢。こんばんは」


甘ったる声の方に視線を移すと艶やかな亜麻色の髪と眼を持つ綺麗なご令嬢が華やかな笑みを浮かべて立っていた。


「こんな所にいらっしゃったのね。今日こそはわたくしと踊っていただきますわよ」


ヴューイ様の腕に自分の腕を絡ませながらイリアス様は上目遣いで擦り寄る。


「残念ながらわたしはまだ仕事中なんです」


「あら、このような侍女とはお話する時間があってもわたくしとのダンスする時間はありませんの?」


困った様に微笑むヴューイ様の言葉にイリアス様は少し眉を顰めてわたしを一瞥する。


イリアス様の眼は完全にわたしを敵意してる。


いやいや、わたし全然関係ありませんから…。


「ヴューイ様。わたしそろそろ仕事に戻ります。お心遣いありがとうございました」


イリアス様の敵意むき出しの視線に冷や汗をかきながらわたしはヴューイ様にお辞儀をする。


「そうですか。もし何か王宮で困った事があればわたしに相談してください。出来る限り力になりますよ」


「はい。ありがとうございます。では、失礼いたします」


優しく微笑むヴューイ様に再びお辞儀をするとわたしはヴューイ様に見惚れているソフィーナを引っ張りその場を逃げる様に離れた。




「はぁ…近くで見てもヴューイ様ステキでしたね」


華やかな大広間を離れ、人気ない庭園で夢心地のソフィーナが言った。


「わたしはイリアス様が怖かったわよ」


ため息をつきながらわたしは苦笑した。


「あ!それは仕方ないですよ。イリアス様はヴューイ様の花嫁候補の1人ですもん」


「花嫁候補……?」


「はい。今までヴューイ様は色々なご令嬢方と噂になられたのに結婚まで進まなかったんです。それに業を煮やしたヴューイ様のお父様が2人の花嫁候補をお決めになられて今日から1ヶ月内にヴューイ様は花嫁を選ばなくてはならなくなったんですよ」


「なるほど。だからあんなに敵意むき出しだったのね」


ソフィーナの話にわたしは納得した様に頷いた。


「花嫁候補になってもヴューイ様を狙ってるご令嬢は沢山いるでしょうからね。わたしも1度で良いからお近づきになりたいです」


「わたしには関係ないけどね。ところでソフィーナは仕事に戻らなくて大丈夫なの?」


まだ夢心地のソフィーナにクスクス笑いながらわたしは尋ねた。


「あ!そろそろ戻らないとお嬢様に叱られてしまいます。では、ルイーゼさんまたお話しましょうね!失礼します」


「うん。またね」


わたしの言葉にアタフタしてソフィーナは手を振りながら大広間に向かって走りだした。


「はぁ〜……」


ソフィーナを見送った後、わたしはまた特大のため息をつくと紺色の空に浮かぶ下弦の月を見上げる。

この1ヶ月これ以上問題が起こりません様に。


下弦の月にそう願うとわたしも大広間に向かって歩きだした。











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