第12章
かなり遅くなってすいませんでした(>_<。)
間違って小説を消してしまったり携帯を水没させたりとアクシデント続きで……
…自業自得ですが……(;^_^
皆様に楽しく読んで頂けたら幸いです。
「んっ……眩し……い…」
窓から差し込む光りに顔を顰めながらわたしは再び眼を覚ました。
クラクラする頭を押さえ辺りを見渡せばあんなに薄暗かった部屋は今や太陽の光りに満ち溢れている。
「イタタ…風邪引いたらこんなに辛いなんてね……」
少し動かすだけで悲鳴をあげる身体を恨めしく思いつつ、わたしはため息混じりに呟く。
幼い頃から滅多に病気なんてかかった事のないわたしには風邪の辛さは初めての経験だった。
……アヴィス、大丈夫かしら…?
なるべく身体を動かさない様に寝転び、窓越しに見える青空をぼんやり見つめながらわたしはアヴィスの事を考える。
―――――コンコン
「ルイーゼさん、ヴューイです。医師を連れて来たのですが起きていますか?」
「はい、起きています。どうぞお入りください」
扉越しに聞こえるヴューイ様の声に返事をするとわたしは身体が痛むのを我慢しながらゆっくりと身体を起こした。
「失礼します。ルイーゼさん、寝てなくてはダメじゃないですか」
扉を開けた途端、身体を起こしているわたしを見てヴューイ様の顔が曇る。
「これくらい大丈夫です」
「ダメですよ。風邪は万病の元なんですから」
少し苦笑するわたしに近寄り、ヴューイ様はそう言うと横になる様に促した。
「こいつが今回の遊び相手か?」
ヴューイ様の背後で不機嫌そうな声が響く。
わたしがベッドに横になりながら声のする方に視線を向けると扉の側で仏頂面の男の人が立っていた。
誰かしら?
「ファイン、ルイーゼさんは遊び相手じゃありませんよ」
「どうせ遊ぶならこんな山猿じゃなくても良いだろうに」
ヴューイ様にファインと呼ばれた男の人は悪びれる様子もなく呟いた。
ファイン様は肩までの紫紺の髪を無造作に束ね、ヴューイ様程ではないけどかなり綺麗な顔立ちをしている。
但し、仏頂面さえしていなければ……ね。
「あの…この方は?」
「この人は王宮医師のファイン。口は悪いですが腕は確かですよ」
「王宮医師であるオレがお前の様な山猿を診てやる事などあり得ないんだがヴューイの頼みだから仕方なく診てやる。有り難く思えよ」
ファイン様は偉そうにそう言うと手に持っていた大きなカバンをテーブルの上にドッカリと置いた。
……誰が山猿ですって……?
「ファイン、ルイーゼさんに失礼な事を言わないでください」
「……ヴューイ様」
ファイン様を窘めるヴューイ様の服の袖をわたしは軽く引っ張る。
「どうされました?」
「ヴューイ様には申し訳ありませんが……わたしこんな『ヤブ』医師様に診て頂きたくありませんわ」
「なっっ!?無礼な!」
わたしの『ヤブ』発言にファイン様は不機嫌な顔を更に曇らせてわたしを睨み付ける。
「あら?人間と山猿の区別のつかない医師様を『ヤブ』と言って何が悪いんですか?」
「ぐっ…!?」
「ファインの負けですね。ルイーゼさんに非礼を謝りなさい」
言葉に詰まるファイン様をヴューイ様はクスクス笑う。
「誰がこんな山猿に……!」
「……ファイン、それ以上言うと本気で怒りますよ?」
尚も悪態をつこうとするファイン様にヴューイ様はニッコリと笑って言った。
……怒って言われるより怖いかも……。
「チッ!わかったよ!」
ヴューイ様の言葉にファイン様は小さく舌打ちするとわたしたちに背を向けてしまった。
「ルイーゼさんもご機嫌を直してくださいね。このまま風邪が長引くとあなたも困るでしょ?」
………確かにこのまま風邪が長引けばアヴィスの世話が出来ないしヴューイ様にも多大なる迷惑をかけてしまうわ。
「……ヴューイ様、すいませんでした」
「あなたが謝る必要はありませんよ。ファイン、早くルイーゼさんを診てあげてください」
ニッコリ微笑みながらヴューイ様はわたしの頭を撫でると背を向けているファイン様に声をかける。
「……仕方ないな……」
「では、わたしは診察の邪魔にならない様に隣の部屋で待っていますね。ファイン頼みましたよ」
大きなため息をつくファイン様の背中を軽く叩くとヴューイ様は部屋から姿を消した。
部屋に残ったのは相変わらず仏頂面のファイン様とわたしの2人きり……。
ハッキリ言ってかなり気まずんですけど……。
「おい、口を開けろ」
「は……?」
ベッドの中でこの状態をどうすべきか考えているわたしに突然、ファイン様が言った。
「何を間抜け面している。診てやるから早く口を開けろ」
「………」
……怒っちゃダメ……怒っちゃダメ……。
ファイン様の言葉にムッとしつつもこれ以上ヴューイ様に迷惑をかけるワケもいかないのでわたしは無言で口を開けた。
「寝不足と過労からくるただの風邪だな」
気まずい雰囲気のまま、ひとしきり診察した後でファイン様が仏頂面で言った。
「……寝不足と過労……」
そう言えば王宮に来てから熟睡した記憶がないわ。
オマケにヴューイ様のお蔭で色々と苦労が絶えないし……。
「数日ほど薬を飲んで寝てれば直ぐに良くなるだろう」
「わかりました。ファイン様ありがとうございます」
「礼ならオレじゃなくヴューイに言うんだな」
わたしは素直にお礼を言うけどファイン様は素っ気ない。
「そんな事わかってます」
「ならいいが。用も済んだしオレは帰らしてもらうぞ」
「はい?でも、ヴューイ様が…」
「アイツにはお前から結果を伝えるんだな。オレは忙しいんだ」
うんざりした様に顔しかめてファイン様が言った。
「わ、わかりました」
「薬は誰かに後で届けさせる。苦い薬をな」
「……苦い薬……!?」
滅多に飲まないから薬はかなり苦手。
ましてや苦い薬なんて最悪だわ……。
わたしの慌てる顔を見てファイン様は少し意地悪く笑うとテーブルにあった大きなカバンを持ち、扉に近づく。
「じゃ、な。ちゃんと飲めよ?」
そう言うとファイン様は扉に姿を消した。
「……ヤブ医師め……」
ファイン様が消えた扉に向かってわたしは小さく悪態をついた。
――――コンコン
「失礼します。……あら?ファイン様が来ていると聞いていたけど?」
ノックと共に手にトレーを持ったマリノアさんが部屋に入ってきた。
「マリノアさん!」
「体調は大丈夫?」
「いえ、まだ少しダルいです。あの…アヴィス様の様子はどうでしたか?」
「アヴィス様は大丈夫よ。あなたの事をとても心配されていたわ」
持っていたトレーをテーブルに置くとマリノアさんは優しくわたしの頭を撫でてくれる。
「マリノアさん。ご迷惑かけてすいません」
「病人がそんな事を考えなくて良いのよ。それよりファイン様は?」
ニッコリと微笑みマリノアさんは部屋を見回しながら尋ねる。
「ファイン様はわたしを診た後、忙しいからって直ぐにお帰りになられました」
「そう、ファイン様らしいわね」
わたしの言葉にマリノアさんは少し苦笑した。
「ルイーゼさん、お腹減ってない?昨日の夜から何も食べてないでしょ?」
「あ……!」
そう言えば昨日から何も口にしていないわ。
グゥゥゥ……。
何も食べていない事に気づいた途端、正直なわたしのお腹が自己主張をし出した。
「やっぱりお腹空いているのね。温かいスープを持って来たから食べましょうか?」
お腹の音を聞かれた事が恥ずかしくて顔を真っ赤になったわたしの身体をゆっくりと起こしてマリノアさんはクスクス笑う。
「……すいません……」
「お腹が空くのは当たり前よ。しっかり食べて早く良くならないとね」
マリノアさんは謝るわたしの前にトレーを置きスープを勧める。
「美味しい…」
温かいスープをゆっくりと口に運ぶととても美味しくて何だかホッとして気持ちになる。
「よかった。たくさん食べて眠ったらきっと直ぐに良くなるわよ」
「はい。ありがとうございます。あの…ヴューイ様は?」
スープを食べながらいつまでも姿を現さないヴューイ様の事が気になってマリノアさんに尋ねてみた。
「ああ、ヴューイ様なら姫巫女様に呼ばれてわたしと入れ違いにお出掛けになられたの」
……姫巫女様に……。
姫巫女様の名前が出た途端、わたしの心臓がチクりと痛んだ。
「そう…ですか」
「そんな顔をしなくてもヴューイ様は直ぐにお帰りになるわ」
「えっ!?」
わたしの顔を覗き込む様に見つめるとマリノアさんはまたクスクス笑う。
そんな顔ってわたしどんな顔してたのかしら…?
「変な顔をしてました?」
「いいえ、ちょっと寂しそうな表情だったわよ」
「そっ!そんな事……」
「違ったかしら。ごめんなさい」
慌てて否定するわたしにマリノアさんは少し悪戯っぽく微みかける。
寂しそうなんて……あり得ない!
べ、別にヴューイ様がいなくても寂しくなんて……。
頭の中で否定しながらわたしはスープを食べる。
「ご馳走様でした」
「あら?もういいの?」
「はい。とっても美味しかったです」
途中から味なんてわからなかったけど……。
少し苦笑しながらわたしは食べ終わったお皿をマリノアさんに渡してお礼を言う。
「そう。じゃ、その内ファイン様から薬が届くと思うからそれまでゆっくりと休みなさいね」
「……薬……」
ヴューイ様の事ですっかり苦い薬の事を忘れていたわたしは顔を顰める。
「どうしたの?」
「いえ……ちょっと薬が苦手で……」
「ルイーゼさんって子供みたいね」
顔を顰めるて答えるわたしにマリノアさんはクスクス笑う。
「だって、ただでさえ薬が苦手なのにファイン様が苦い薬を届けるって言ってたんですもん」
「あらあら、ファイン様ったら仕方ないわね。まだ戻るには時間があるからわたしがファイン様の所に行って苦くない薬をお願いして来てあげるわ」
「本当ですか?」
「ええ。だから薬が届くまでは良い子でおとなしく寝ていなさいね?」
パッと顔を輝かせるわたしにマリノアさんは優しく頭を撫でてくれる。
まるで子供をあやす様なマリノアさんの仕草に少し照れながらわたしはベッドに横になった。
「ありがとうございます」
マリノアさんに微笑み返すとわたしはゆっくりと瞼を閉じた。
「ゆっくりとおやすみなさい」
満たされたお腹とマリノアさんの優しい声にわたしは安心してゆっくり、ゆっくりと静かな眠りの中に意識を落として行った……。