二十歳⑯
買い上げた品は宮廷まで届けてもらうよう店側に頼み、私達は中断していた街の散策を再開した。
日もそろそろ西に傾き始めるかという頃合いになり、あまり時間もない中、スレンツェは武具の店を私は薬草や植物を扱っている店が見たいという話になり、街中に何店舗かあるであろうそこを目指すことになった。
問題は土地勘も有益な情報も持たない私達が、この広い市街地の中からどうやって効率よく目的の店を探し出して巡れるかだ。
通りを片っ端から歩いて地道に店を網羅していくか、誰かに情報提供をお願いするか―――前者は時間と体力の無駄になりそうだし、後者はそれを誰に頼むかが悩みどころだ。どうしようかと私達が額を寄せ合って相談していた、その時だった。
「あれ? おーい、ユーファ―!」
聞き覚えのある大きな声がして、そちらを見やった私達は近くのカフェのテラス席で大きく手を振るラウルの姿を見つけた。
「あっ、ラウル!」
「やっぱりユーファ! そうか、保護が解かれたんだもんね! 今日はみんなで仲良くお出掛け?」
「そうなんです」
ラウルの近くへ小走りで駆け寄った私は、彼女の正面の席に座る見覚えのある女性に会釈をした。
挨拶くらいしかしたことがないけれど、この人は第五皇子専属の宮廷薬師ティーナだ。
「こんにちは、ティーナ」
「こんにちは。いいお天気ね、ユーファ」
微笑んで、挨拶の為に立とうとする彼女をフラムアークが押しとどめた。
「ああ、いい。気持ちだけで」
「……そうですね、こんな所でかしこまった挨拶は無粋というものですね」
頷いて目礼し、座り直した彼女をラウルが感心したように見やった。
「殊勝だね。こんな場面でもきちんと挨拶しようとするなんて」
「あなたはもう少し礼儀をわきまえた方がいいわよ。せめて形だけでもそういう素振りを見せなさいな」
第四皇子を前にそういうことを言ってしまう辺り、ティーナも変わり者と言われる第五皇子の臣下なんだなぁ、と妙な納得をしてしまった。
「私はこういう場面では形式ばったヤツじゃなくて、人としての挨拶を重んじる派なの!」
ラウルは謎のこだわりを持ち出すと、片手を上げてフラムアークとスレンツェに白い歯を見せた。
「こんにちは、ご両人!」
「いや、どうなのよそれ……絶対おかしいでしょ」
ティーナの突っ込みを意に介することなく、ラウルは朗らかに私に話しかけた。
「今日は両手に花だね! これからどこに行くの?」
両手に花という言葉は、普通は男女の比率が逆の場合に用いられるものだと思うのだけど、まあいいか。
「武具のお店と薬草を扱うお店を見て回りたいんですけれど、何分私達はそういった情報にまだ疎くて。どこかお勧めのお店はありませんか?」
「あ、武具店なら私がよく行くお店が二つ向こうの通りにあるよ。ちょっと奥まったところなんだけど」
「薬草店も、私がよく利用するお店なら反対側の通りにありますよ。少し入り組んだ場所にあって初めてだとちょっと分かりづらいかもしれませんけど」
わあ、有益な情報が二つも! 彼女達のお勧めなら品質的にも間違いなさそうだ。
「助かります、そのお店の名前と場所を詳しく教えてもらえませんか?」
勢い込んで尋ねると、ラウルはあっけらかんと申し出た。
「説明するの面倒だし、私達が案内してあげるよ!」
えっ!?
「ちょ、ちょっとラウル、出しゃばらないの! ご迷惑かもしれないじゃない」
慌てて諫めるティーナに対し、ラウルは「何で?」と言わんばかりに小首を傾げた。
「だって案内した方が間違いないもん。あの店、奥まってるから見えづらいし。ユーファ達もその方が手っ取り早くていいでしょ?」
「えっ、それはまあ、案内してもらえるのなら私達は確実でありがたいですけど、でも、それこそそちらのご迷惑では?」
「全ぜ~ん! ちょうど食べ終わったところだったし。ねっ、ティーナ?」
「まあ私達は別に構わないんですけど、そちらの男性陣はそれで問題ないのかしら?」
ちらりと視線を向けられたフラムアークとスレンツェは目配せし合って頷いた。
「君達さえ迷惑でないのなら、こちらとしては非常に助かる」
「時間の有効活用はありがたい」
「はい、決~まりっ! 行こ行こー!」
こうして思いがけずラウル達に道案内してもらえることになった私達は、まず武具店へと向かうことになった。




