二十二歳⑫
ユーファの捜索が三日目を迎える中、未だ彼女の行方が掴めないフラムアーク達の焦燥は増していた。
「川沿いの捜索は捜索隊に任せて、オレ達は付近の集落を当たってみよう。可能性は低いが、もしかしたら自力で岸にたどり着いて近くに助けを求めているかもしれないし、通りすがりの誰かに助けられているかもしれない。あらゆる可能性を視野に情報を収集しよう」
フラムアーク達は周辺の地図を頼りに、川の近くに点在する集落をひとつひとつ当たっていった。
藁にもすがる思いだったが、なかなかユーファに関する情報に行きつくことが出来ない。
その日は何の収穫もなく終わり、焦燥感を募らせながら臨んだ翌日、昼過ぎに訪れたある集落でついに有力な情報にたどり着いた。
「あんた達が捜している人かどうかは分からないけど……」
そう前置きをして話をしてくれたのは猟師の青年だった。
「ついこの間、隣の集落で物騒な騒ぎがあったんだ。ほら、最近噂になってる人さらい? あれが出たとかで、居合わせた薬師のファルマさんが患者の女の人と一緒に連れていかれてまったらしくて……確か、その患者が兎耳族だったって……。ファルマさんはこの辺りを定期的に巡回してくれてるとても良心的な羊角族の薬師でさ、オレのじいさんも診てもらってたからスゴく心配してるんだ。何とか助けてやってほしいって、集落の代表が近くの駐屯所へ陳情しに行ったらしいんだけど―――」
宮廷からこの付近に居を移した兎耳族がいるという話は耳にしていない。その兎耳族の患者は、きっとユーファだ。
それに羊角族の薬師ファルマ。彼女の名前がここで出てくるとは思わなかった。
ようやく掴んだ手掛かりに心臓が震えるのを覚えながら、フラムアークはスレンツェ達と顔を見合わせた。
ユーファはやはり無傷とはいかなかったようだし、帝国内で問題になっている犯罪組織に連れ去られたとあっては決して楽観視できる状況ではなかったが、何よりもユーファが生きていた―――まだ確証とはいかないものの、そう思える情報に出会えたことが大きい。
青年の情報通りユーファ達の連れ去りに問題の犯罪組織が絡んでいるのだとすれば、彼らとしても貴重な兎耳族の商品を失うわけにはいかないだろうから、無下には扱うまい。むしろ商品価値を高める為、状態の回復に努めようとするだろう。連れ去られたのは不運だったが、モンペオで薬師の責任者を務めていたあのファルマが一緒というのは不幸中の幸いだった。
「なぁ、あんたら身分ある人っぽいし、あんたらからもファルマさんを助けてくれるよう偉い人に頼んでもらえないかな? その、捜しているっていう兎耳族の人のついでに」
猟師の青年にそう請われたフラムアークは大きく頷いた。
「もちろんだ。彼女達の早期の救出に全力を尽くすと約束する。話してくれてありがとう」
急いで件の集落へと向かったフラムアーク達は、ユーファを手当してファルマに引き合わせたというエナという女性の元を訪れた。
ファルマの予言通り現れた、高貴そうな身なりをした端整な面差しの金髪の青年に、エナは目を大きく瞠りながら、たどたどしく事の次第を話した。
発見時にユーファが握っていたという折れたナイフの柄と、薄汚れ擦り切れた白衣を受け取り、フラムアークは半眼を伏せた。
わずかながらでも、このナイフの加護があったからユーファは転落死を免れたと、そう思ってもいいだろうか。
不遇された少年時代、自身の生誕を祝したナイフなど形ばかりのものと、何の感慨も抱かなかった。
これをユーファに渡したのは気休めでも彼女の無事を祈りたかったのと、自分が彼女からもらった香袋のように、何か自分が渡したものを彼女に持っていてほしいという、そんな独りよがりな願いからだった。
だが今初めて、このナイフにまつわる全てのものに心から感謝する。例え形ばかりの慣習であったとしても、このナイフがあったからこそ、きっと大切な人の命は繋がれた。
―――ありがとう。
転落現場を目の当たりにした時は正直、最悪の事態が脳裏をよぎった。わずかな可能性を信じながら、時間だけが経過していく日々に心が擦り切れそうだった。
あれほど重く張り詰めていた空気が、今は軽い。
ユーファが生きている―――まだ手放しで喜べる状況ではないものの、その確証を持てて言葉にならない安堵感で胸がいっぱいになった。
その思いはスレンツェ達も同様だった。先行きの見えなかった状況に希望を見出した彼らは同時に、討つべき相手を見定めて静かに息巻いた。
「ユーファを迎えに行くついで、害虫退治だな」
わずかに口角を上げて馬首を返したスレンツェに、エレオラが穏やかながら物騒な物言いで相槌を打つ。
「そうですね。慎ましく生きる弱き者をかどわかす輩など百害あって一利なし、この機会に掃討してまいりましょう」
フラムアークはそんな二人に頷き返しながら、ユーファ達を乗せた馬車が走り去ったという方角を見やり、力強く瞳を輝かせた。
「ああ、何の罪もない子女を連れ去った罪は重い。―――行こう、ユーファ達が首を長くして待っている」




