補給事情の悪化と激しい防衛戦
次の日、新しい小銃を手に入れた、整備をしっかりやっていても壊れる物は壊れるだから新しい支給品として来たが普通のマウザーGew98のようだが若干重い、不思議に思っているとアードリアンがやってきた。
「どうやらクルミ材じゃなく、ブナ材になったようだぞ」
この言葉に少し驚いた、帝国は広大な土地を有するが食糧事情どころか武器に至るまで徐々に劣り始めたのである。 クルミ材は頑丈で軽いがブナ材は耐久性が劣りそして重い。 しかし考えてみたら大国が介入している上に4正面に戦線が構築されている、食糧事情の悪化も武器の劣化も考えられるのが妥当だろう。
そういえば昨日居た新兵が居ない、アードリアンに聞いて見た。
「そういえば、新兵のブルーノ二等兵は?」
アードリアンは目を逸らしながら答えた。
「奴は後方に異動したらしい、大きな怪我じゃないらしいが砲撃音が怖くなって動けなくなったんだと」
「砲撃音でか?理由は分からんが無事なら良いんだが…」
この様子だと戦死はしていないだろうが恐らく戦争の狂気に気が触れたのだろう。誰だって士気を下げたくないだろうから誤魔化しているが分かる奴には分かる。 1か月前の自分だったら分からないだろうが今なら分かる、彼はもう砲撃音でやられたのだろう。
「まぁ、気が落ち込む話は置いといてクッキーが配られるそうだ」
「ほう、珍しいな…前線でそんな物が食えるとは」
そう話している内に号令がかかった。
前線の指揮官のフリードリヒ大佐が配給事情を説明した。
「前哨と機関銃手以外全員集まったな、しばらくの食事に関しては問題無いが昨日、敵の爆撃機隊によって一部の線路と道路が損傷してしまった、そして補給部隊に損害が出た、その為、今日から食事制限を設ける」
大佐の発言によって部隊の士気がガタ落ちした、冷や飯でも腹に溜ればマシだがそれすら出来なくなると言う現実に非常に不味い状況である、言うまでも無く周りはざわついている。
「安心しろ、諸君、後方の部隊が早急に取り込んでいる、すぐに改善される」
戦争での安心しろは信用できない言葉だ、何故なら想定外の出来事は多々ある、ここに来てから補給部隊がやられたのは10回は越えている。 色々な思考を巡らせていると大佐がまた発言した。
「ただここに来る1個師団が爆撃機によって壊滅的なダメージを受けた、旅団編成でしか到着出来ない状態だ、その為しばらくこちらからの攻勢は無しだ」
この発言に愕然とした、補給部隊だけではなく歩兵師団をもやられていたことが、少し錯乱している所でアードリアンが小声で話かけてきた。
「厄介な事になったな、士気を下げる発言するとは…事実を伝えるのは良いがこれじゃ新兵が持たないぞ」
「そうだな、とは言えっても俺達が何とか出来る訳じゃないしな…」
大佐が解散命令を発したと同時に周りの空気がどんよりとした雰囲気になったと同時に砲撃音が聞こえてきた。
「敵の攻勢だ!早く持ち場に戻れ!」
大佐が怒鳴るように命令を発すると同時に皆、持ち場にへと移動した。
いつもよりも敵兵が多かった、重機関銃の音が止まない、小銃を連射している為か腕が痛くなってきている、疲労がピークに達し始めたと同時に砲撃音とは違う轟音が聞こえてきた。
「戦車だ!重砲、砲撃開始!」
味方の砲撃の轟音が聞こえた、これでまた耳がおかしくなるだろうと思いつつひたすら敵兵を撃って何時間かしたら重砲も重機関銃の音も小銃の音も敵兵の足音すら無くなっていた、破壊された戦車、積み上がるだけの屍、我々は一体何をやっているのかが分からなくなってきている。
夕飯時、食事制限がありジャガイモ1個、缶詰の不味い肉半分、K-Brot(Kパン)だけは1個丸々、そして少しは気分が高揚するクッキーが食べられる事が出来た。しかしアードリアンと他の古参はクッキーを割りながら食べている、新兵達は不思議そうに見ていたが士気が落ちている中、余裕が無いのもあり本来なら教えるべきことだが士気が下がる事を恐れた俺達は教えなかった。戦時中は食糧事情が悪化する、それはどこの国もそうだ、そして運ばれてくるものも決して質が良い物では無い、中には虫が湧いている事もある、そういう事もあって割って食べている。 もう一度言うが本来なら教えるべきことだ、しかし更に士気が下がってしまっては折角の食事を台無しにしかねない事もあり教えなかった。