ふたりでひとり
「うぅーん」
久しぶりによく眠れて、あんなに重くてだるかった身体がまるで羽のように軽い。
ベッドから起き上がって姿見の前に立つ。
鏡の中に写っているのは、そう、私の1人だけ。もう遠の姿はなかった。
でも何かが違う、この違和感の正体はなんなのだろうと部屋中を見渡すと、机の上の使っていないノートに目が止まった。
何故だろう、これは机の中にしまってあったはずなのにどうして机の上に出ているのだろう。そして自分の書いた遠への手紙の置き位置も変わっている。
まさかとは思いつつ、淡い期待を胸にノートを開いた。
"しーちゃんへ
今、僕はしーちゃんの身体を借りる形で、この手紙を書いています。
たまたまだけど、お母さんとも話し合えたよ。
この存在を認めてもらえたんだ。だから僕はしーちゃんとずっと一緒にいるよ。鏡越しに会えなくても、沢山、沢山話そうね。
遠より"
そこには、そう綺麗な文字で遠の言葉が書かれており、そのページにあのネックレスの片方が挟まれていた。
「遠......っ」
すぐさまノートの次のページに返事を書いてくしゃくしゃにならないように、大事に抱きしめた。
遠はここにいる。もう1人じゃない、うぅん、ずっと1人じゃなかった。
そう思った瞬間、世界に色がついた。開けた窓から入り込んでくる風に、どこかの花の香りを感じる。
頬を伝っていく涙のぬくもりと感触も、何もかもが鮮明になっていくようだった。
「一緒に生きようね、遠」
"もちろんだよ、しーちゃん"
開けた窓の、遠い空からそんな声が聞こえた気がした。
***
それから5年の月日が流れた。
遠との交換ノートは今でも続いている。
時々、花や可愛らしいプレゼントを貰うこともある。私はそのお返しに美味しい珈琲豆を探して眠る直前に珈琲を入れて机の上に置いておく。
すると、次の日には代わりに空になったカップと共に感想を書いたノートが置かれる。
今日はこんな日だった。今日はこんな事があった。
そんなささやかなやり取りを楽しみに私は社会人としての生活を送っている。
拙い文章ですが読んで下さった方、ありがとうございました。




