12月1日
今日は私の17歳の誕生日だ。
誕生日。私の生まれた日。それだけで不思議と心が浮き足立ってしまう。
しかし、今回の誕生日は楽しいだけで終わりそうになかった。
病院に向かう車の中で、嫌な想像を払拭するかのように明るく振舞おうとするも、父も母も俯いており、これではまるで誕生日どころか、葬式にでも向かう最中のようである。
どうやら遠の事がバレてしまったようで、鏡に向かって1人で話し出した私を案じての行動らしい。
正直に言えばただのおせっかいだと思った。
遠と自分はそれなりに上手くやっていっているのに、何がいけないのだろうか。
「鏡の中に誰かいるのかな?」
病院に着いて、まず医者から言われたのはその言葉だった。
今この部屋には両親がいない。この人が席を外すよう指示を出したからだ。
「......信じてもらえないかもしれませんが、
私にだけ見える人がいます」
医者に聞かれて嘘をつくわけにもいかず、渋々《しぶしぶ》、正直に答える。
「その人はあなたに話しかけたりする?」
「はい」
「その人は男性?それとも女性?」
「男の人です」
他にも気づかないうちに物が移動していたり
傷を負ったりしていないかを聞かれたが、あまりその辺に心当たりなどなく、首を横に振って否定した。
「少し待っていてくださいね」
次に両親への聞き取りが行われ、待合室でのんびりと退屈な時間を過した。
私が今いるこの病院の精神科は、普通の病院とまるで変わらず、清潔感のある綺麗な場所で、思ってたよりもずっと静かな所だった。
「もう入っても大丈夫ですよ」
2、30分が経った頃漸く診察室に呼び戻されて何故か目元を腫らした母と、落ち着きのない父と共に目の前に座る医師が口を開くのを待った。
「この症状や、親御さんから伺った話をまとめると、おそらく解離性同一性障害というものだと思われます。お子さんの場合はその中の、二重人格と呼ばれるものだと......」
解離性同一性障害。なんらかの心因的なショックにより心と身体のバランスが崩れ、一時的、もしくは全面的に記憶を失ってしまったり、幻覚や幻聴に苛まれたり、他の人格が現れたりする事のある病気なのだという。
長々としたその話によると、私はなんらかの原因によって記憶を一部失ってしまっており、幻覚と幻聴という形で他の人格、つまりは遠が鏡に写し出されているらしい。
「この病気は、その原因を取り除いていかない限り完治が難しい病でして......
一応、幻覚や幻聴を抑える薬を出しておきますので、まずそれで様子を見てやって下さい」
「はい、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
その後の薬の説明や細かい話は全く頭に入ってこなかった。
ショックではあったが頭はすっきりとしているし、大きな混乱はない。どころか不思議と冴えわたっていて、周りの状況などがよく分かった。何故か?それは事前に遠が教えてくれていたからだ。
「傍目から見たらこれは、人格障害って言われるんだろうね」
その時の笑みが脳裏に染み付いて離れない。器用に目だけを細めて笑う、それはそれは綺麗な笑顔だった。
そう、つまりはだからなんだ?という事だ。
「......ありがとうございました」
振り返りざまに軽く頭を下げて診察室を出た。
「あのね、雫......」
「大丈夫だよ」
今にも泣き出しそうな様子の母を笑顔で慰めると、その手で抱きしめられた。
母の肩越しに見た父は母ごと私を抱きしめて2人して嗚咽を漏らす。
「ごめんね、ごめんね」
「すまない、俺達を許してくれ」
なぜ謝られるのか、訳が分からないままそうして時間が過ぎていく。
「お母さん、お父さん」
突然の抱擁から2人を慰め続け、やっと開放された頃には日も暗く落ちてしまっていた。
目を腫らした両親を何とか落ち着け、車で家に帰る。
母がリビングから見かけた覚えのある箱を手にして戻ってきた。
「それって」
「青いネックレス、入ってたでしょう?」
白く細い両手の中にはあのネックレスの入っていた本の形をした小物入れがあった。
「う、うん」
自分の表情が苦虫を噛み潰したようなものになっている事が自分でも分かる。
やはり、勝手に持ってくのはいけなかっただろうか......
怒られる事を覚悟して両手を握りしめたが、母は悲しそうに眉を下げ、父と頷きあった。
「これはね、あなたとあなたの実のお兄さんの物なのよ」
"お兄ちゃん"その言葉を聞いた瞬間、激しい頭痛と猛烈な眠気に襲われ、私は堪らず意識を手放した─────




