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Antique  作者: ゆとり
第二章
8/66

子守唄③

 パントマイム。ジャグリング。アクロバットや手品の数々。そしてどこに隠していたのか取り出した大玉に乗って、再び先程のバトンを使ったジャグリング。たまにわざとらしく失敗して見せ、観客たちの笑いを誘う。


 尽きぬことなく飛び出す鮮やかな芸の数々。大人たちは童心に還ったかのように目を輝かせ、まるで子供のように大いにはしゃいだ。


「すごい、こりゃすごい」


 何がなんだかよくわからないが、とにかくすごい! とレインチェルは拍手をしながら、足の痛みも忘れてヌワラエリヤと一緒に道化師の芸を見続けていた。


「Ms.レインチェル。あのクラウンは近所で有名な道化であったりするのですか?」

「いや~、初めて見る顔だねぇ(いや見えないけど)。おそらく流れの芸人だろう」

「公園でこのような突発の芸が行われるのはよくあることなのでしょうか」

「よくあることではないけど、たまにはあるかねぇ。でも、首都の噴水広場の方がこんな町はずれに比べて人も何もかもが段違いに多いから、芸人が稼ぐならあっちの方がいいと思うけどさ」

「なるほど、あちらの方が富裕層も多いでしょうし、くたびれた銅貨ばかりではなく、磨かれた銀貨以上の貨幣が投げ込まれたのでしょうね」

「言い方!」


 というかそれ最初に小銭投げたアタシのこと悪く言ってないか!? とレインチェルはヌワラエリヤのよく回る毒舌に非難の声を上げる。


 その時であった。道化師から外れていた視線を再び戻した彼女の眼前に、いつの間にか林檎が差し出されていたのは。


「え?」

「……」


 差し出したのは道化師。相も変わらず濃すぎる化粧のせいで、感情の起伏が読み取れない表情のまま、ただただ黙ってレインチェルに林檎を差し出し続ける。


「え、アタシに?」

「……」


 イエスとも、ノーとも言わない道化師。レインチェルはキョロキョロと首を振ってみたが、周囲の観客たちは受け取れ受け取れと囃し立てるだけだ。


 状況が飲みこめないレインチェルは困惑するも、林檎を受け取ろうとゆっくり手を伸ばす。


「―――あ」


 受け取ったところで、道化師はレインチェルの手を両手で優しく掴む。そして、ゆっくりと彼女の耳元に顔を近づけると、他の誰にも聞こえないように小さく呟いた。


「―――僕を信じて」

「え……?」


 男性とも女性とも聞き取れる中性的な声。甘い囁きのようなソレを耳元で聞いたレインチェルは、ぞくり、と背中に電気が奔るような快感を得た。


 林檎を渡した道化師がスッ、とレインチェルから体を離す。なんだったんだ今のは、とレインチェルは胸をどきどきさせていると、隣にいた男性から声をかけられた。


 ―――気のせいか、男性の表情は若干青ざめている。


「いや、すげえな姉ちゃん。俺には無理だぜ」


 それだけ喋ると、憐れむような視線を残して男性はレインチェルから離れた。


「え、何が?」


レインチェルは頭上に疑問符を浮かび上がらせた。一抹の不安を覚えた彼女はヌワラエリヤに話しかける。


「ねえ、ヌワラエリヤ、ねえ」

「Ms.レインチェル。あなたの勇気に拍手を」

「え、何が?」


 やる気のないヌワラエリヤのまばらな拍手。レインチェルは再び周囲を見渡すと、自分の傍からヌワラエリヤ以外の人間が消えていることに気が付く。


「え、え、え、え?」


 レインチェル。ヌワラエリヤ。少し離れて道化師。その三人を囲むようにして、観客たちが固唾を呑んで様子をうかがっている。ちなみに、レインチェルの後ろは綺麗に誰も立っていない。


「では、私も離れることにします」

「え、やだ。傍にいておくれよ」


 とても、嫌な、予感が、する。レインチェルは本能的にヌワラエリヤの肩を掴もうとしたが、その手を冷たく弾かれ、ひょこひょこと揺れる銀髪を見送った。


 振り向くと、道化師の手には―――ヌワラエリヤの髪の毛と同じ色をした―――ナイフが怪しい光を放っていた。


 どろり、と今日は大して暑くもないのにレインチェルの額……どころか全身から汗が噴き出した。目を大きく見開き、水を求める魚のように口をパクパクと開いたり閉じたりしている。


 ―――察しの悪い彼女でも、自分がナイフ投げの的にされていることにようやく気が付いた。


「―――嘘だろ?」


 的になるのは正確には自分ではなく自分が抱えている林檎なのだが、そのような些細な訂正などレインチェルの慰めにもならない。勿論これは芸だ。安全な見世物だ。もしかしたらナイフなど投げないかもしれないいやよく見ろナイフをもう一本取り出してこれ見よがしにシャキンシャキンとこすり合わせているぞあれは投げる絶対投げる。レインチェルは一周回ってふふっと笑みをこぼした。


 林檎を地面に叩きつけて逃げ出してやろうかとも彼女は考えたが、思うように走れない上、「僕を信じて」という言葉が脳裏からどうしても離れない。期待の籠った周囲の視線は割とどうでもいい。


 レインチェルは、今一度「本当に?」という視線を道化師に送ってみる。返事はなかったが、こくり、と頷いた気がした。


「……仕方ないねえ」


 何度も何度も深呼吸をして息を整える。えぇい、しょうがない。アタシも女だ! とレインチェルはペチペチと頬を叩くと、震える手で林檎を頭の上に乗せようとしたところで、


「おうおうおうおうおうなにやってんだアァン!?」

「ショバ代払ってんのかアァン!?」


緊張感を吹き飛ばすような粗野な大声に驚いて、思わず林檎を落としてしまった。


 痛い! 押すな! という非難の声が人垣の外側から聞こえてくる。やがてその声は近く、より大きくなり、人々の体を押しのけ二人の大柄な男たちがレインチェルの前に姿を現した。


「楽しそーなことやってんじゃねえかよアァン!?」

「アニキやっちゃってくださいよアァン!?」


 非常に頭の悪そうな一言共に現れた二人の男。一人はやや整った顔をしており、身なりもそれなりに小綺麗にしてはいるが、鼻をつまみたくなるほどの酒の匂いを纏わせており、酒に弱い人間であれば近づいただけで酔ってしまう程の酷いアルコール中毒者である。今も酒に酔っているのか、焦点があっているのかあっていないのかわからない表情で唾を飛ばしながら大声を上げている。


 もう一人は酒臭い男の取り巻きなのか、しきりに彼をアニキアニキと呼んで慕っているようだ。こちらも負けず劣らず酒の匂いを纏わせているが、一点だけ違うのは煙の臭いが混じっていることだ。安い葉巻の残り香なのか、酒の匂いと混じってこちらも鼻が曲がりそうである。


 酒臭い男と煙臭い男。周囲の目も気にせず、白昼堂々と大の大人が唾を飛ばしながら道化師にわけのわからない因縁をつけているのだ。


 ―――結論から言って、どうしても関わり合いになりたくない人種であるということは明らかであった。


 一方、レインチェルはその二人の顔を確認した瞬間、酷い頭痛に襲われた。


「げ……あいつらパロとストロじゃないか」


 眉間に深い皺を刻みながら目頭を押さえるレインチェルへ、いつの間にか傍に近づいていたヌワラエリヤが知り合いですか、と尋ねる。すると、冗談じゃない! と彼女は頭を振りながら答えた。


「パロとストロっていう馬鹿な二人組だよ。マフィオーゾに憧れてるんだけど、そもそもマフィオーゾへ入る方法も、なる方法もわからないからとりあえず悪さばっかりしてる暇人さ。以前アタシの店でもスープに虫が入ってたとか何とか言って因縁つけてきたんだ。その時はたまたま集まってきた常連のおっさんたちのおかげでなんとかなったんだけどね、あいつら腕っぷしだけはそこそこあるから厄介なんだよな……」


 昼間から嫌なものを見てしまった、と顔を伏せるレインチェル。


 その様子を見たヌワラエリヤが小さく呟いた。


「なるほど、いわゆる町のゴミというわけですね」

「……ん?」


 なら話は早い、とヌワラエリヤは小さく肩を回すような仕草をすると、パロとストロに向かって真っすぐ歩き出した。


「ちょちょちょちょ……おい!」


 レインチェルは思わず足の痛みも忘れ、ヌワラエリヤの腕を引っ張るようにして静止させた。その行動が何故だかわからないといった様子でヌワラエリヤは口を開く。


「何故止めるのですか、Ms.レインチェル」

「何故止めるかって? ようし、今からあんたがしようとしてることを当ててやろう。あの二人にちょっかいを出すつもりだろ?」

「……ちょっかい、という言葉がどの程度の実力行使までを示すのかわかりかねますが、」

「その実力行使のことをアタシは言ってるんだ! 駄目だって! あんたただでさえ強いんだし、ちゃんと手加減できるのかい!? 絶対騒ぎになるって!」


 レインチェルの脳裏に狼男という名の化け物と真っ向から殴り合った銀色の少女の姿がよぎる。果たしてあの力を一般人に振ったらどうなるのか。考えただけでも背筋が冷たくなる。


「……ですが皆が迷惑しています。恐らく円満に解決するだけの力を持っているのはこの場で私だけです」


「円満って書いてなんて読むつもりだよ!」

「むっ。そもそもMs.レインチェルはいったい私のことをどこまで知っているおつもりですか。一般人に対しての手加減などたやすいものです」

「…ほんとぉ?」

「えぇ、本当です。両膝を打ち抜けば大人しくなるとお嬢様から教わっております」

「不安しかない!」


「何が不安だって?」


「「え?」」


 レインチェルとヌワラエリヤが同時に声の方向に顔を向けた。見上げるようにして視界に入ったのは、渦中のパロとストロであった。二人の大柄な男がニヤニヤと笑いながら彼女たちを見下ろしている。


「―――」


 自然と、レインチェルはヌワラエリヤを庇うようにして抱き寄せた。その行為に―――レインチェルからは見えなかったが―――ヌワラエリヤは驚くようにして目を見開いた。


「さっきからなんだよ姉ちゃんたちよ。俺たちになんか用でもあるのか? アアン!?」

「アニキは忙しいんだぞ! 用ならとっとと言えよアアン!?」

「あー、別にアタシらはなにも」


 面倒なことになった、とレインチェルは内心二人に唾を吐き、どうか顔を覚えられてないといいが、などと考える。酒と煙の臭いに耐えながら精一杯の愛想笑いをして誤魔化そうとしたその時だった。


「皆が困っています。早急にこの場から立ち去ってください」


 あの涼しげで端的に用件だけを告げる、ヌワラエリヤの真っ直ぐな声がパロとストロに向けられたのは。


「―――あぁ? なんだこのガキ」


 一瞬で空気が変わる。今までの行動は二人にとってもただのおふざけであったのだろうか。適当に気弱な市民を威圧して遊んでいただけなのだろう。それが、自分たちよりも一回り以上は年下の、体格だって何倍も劣る少女に、真っ向から正論をぶつけられたのだ。


「子どもに怒られてるよ…」


 ボソッ、と誰かの呟きがパロの耳に届く。その瞬間、パロは無表情のまま、ヌワラエリヤの顔を踏みつぶそうと勢いよく蹴りを繰り出した。


 プライドを傷つけられたのか、気に食わなかったのか、ただ、その誰かの声が引き金になったのは間違いないが、それでも極めて無表情のまま、呼び動作もなく繰り出された蹴りには慈悲の欠片もない異常性が垣間見えた。


―――やはりこうなりますか。


 やれやれ、といった様子で、ヌワラエリヤは眼前に迫る足を掴みとってやろうと手を伸ばす。しかし、伸ばしたはずの手はいつまでも足に届くことはなく、ヌワラエリヤの視界は見慣れた彼女の顔でいっぱいになった。


「ぐっ!」


 やはり聞き覚えのある、しかし低く、くぐもった声がヌワラエリヤの耳に届く。レインチェルが自分を庇ってパロの蹴りを後頭部に受けたのだ。衝撃を受けると同時に、痛みによる反射か、果てはヌワラエリヤを守るためか、レインチェルは力の限り少女を抱きしめた。


 余程蹴りの威力が大きかったのか、二人はバランスを崩してそのまま地面に倒れる。林檎がころころと力なく転がり、砂糖菓子の入った袋が中身を地面へ散らした。


「……レインチェル?」


 一体、今、私の身に、何が、起きたのだ?


 ヌワラエリヤは眼を大きく見開きながら、自身に覆いかぶさるようにして倒れ込んだレインチェルに小さく声をかけ、優しく揺さぶってみた。


「……」


 返事はない。蹴りに加え、倒れると同時に当たりどころが悪かったのか、レインチェルは苦しそうなうめき声を上げるだけだ。


 パロはぺっ、と唾を吐きながら砂糖菓子を踏みつぶす。


「―――」


 ―――カチリ、とヌワラエリヤの頭の中で小さな音が鳴った。


「ちっ、この女邪魔しやがって…まあいい。それよりも、ガキが調子乗ってんじゃねえぞ」

「アニキ容赦ねえ! すげえ!」

「だろ? 子どもってのは、こういう小さな時から大人に逆らっちゃいけません、って教えてあげなきゃ、なっ!」


 間髪入れず、今度こそヌワラエリヤの頭を踏み抜こうとパロの大きな足が迫る。


 ヌワラエリヤは、その迫る足を見つめながら、一瞬、ほんの一瞬だけ思考する。


―――…してしまってもよいか。


 ローズマリアの許可はない。レインチェルにはそもそも暴力すら止められた。


 ……しかし、自分はゴミ掃除をするだけなのでは?


 そうして、ヌワラエリヤは汚物を眺めるような視線と共に左手をパロに翳し…、


「お客さん、そろそろおイタは止めてくれませんかね。営業妨害です」


 男性とも女性とも聞き取れる中性的な声がその場の空気を新たに塗り変えた。


 ボロボロの外套から伸びた手がパロの足を掴みとっている。


 ―――道化師が、ニコリと笑った。


パロは口をぽかん、と開けて少し呆気にとられたような仕草をしていたが、我に還るとまた足に力を込めた。しかし…。


―――動かねえ!


 片足立ちになっている分、どうしても力を込めづらいというのはあるが、それにしたってビクともしない。外套からチラリと覗く腕は女の細腕のようで、とてもではないが大柄な男の脚力を片手で受け止められるようには見えない。


 道化師はニコニコと笑顔を崩さないまま、パロの足をそっと地面へと戻す。パロはバツの悪い表情をしながら数歩後ずさった。


「ア、アニキ…?」


 ストロが心配そうにパロに駆け寄る。パロは何でもねえよ、と唾を吐きながら応えた。


「……」


 ヌワラエリヤは、未だ目覚めぬレインチェルの頭を抱きかかえながらその様子を観察していた。


―――この道化師…。


 ただの大道芸人ではなさそうだ、とヌワラエリヤは警戒の色を露わにする。先程の芸から見て取れた人間離れした身のこなしに、成人男性の蹴りをやすやすと受け止められるあの腕力。一体、何者なのか…。


「…喋れたんですね」


 それはそれとして、ヌワラエリヤは小さく感想を漏らした。


 その声に反応したのか、道化師は屈みこんでヌワラエリヤの顔をしげしげと眺め始めた。急に何だ? とヌワラエリヤは一瞬身構えるが、敵意があるとしたら余りにも隙だらけな様子に肩の力を抜き、その舐めまわすような視線を受け入れた。


 道化師はほうほう、と一人納得するようにうなづくと、


「……さて」


 と呟き、ゆったりとした動作で立ち上がると、パロとストロに向かってスタスタと歩き始めた。


「な、なんだテメエ!」

「なんだテメエ! アニキ! やっちゃってくださいよ!」


 いやその兄貴分が今手も足も出なかっただろうが、などという周囲の視線もおかまいなしに、道化師は二人の目前まで迫る。


 しかし、近づくにつれ道化師が自分たちよりも一回りは背が低いのを察するや否や(道化師もなかなかの長身ではあるのだが、単純にパロとストロがでかいのだ)、先程の醜態を忘れたかのようにガラの悪い表情を浮かべて凄み始めた。


「っだぁテメおらぁっ!? 殺すぞ!!」

「んんんんんうううぅぅぅ!?」


 非常に知能指数の低そうな脅しが道化師に向けられるも、彼(彼女?)は涼しげな表情のまま、その言葉とも取れない雑音をただただ聞き流す。


 いったいどれ程の罵詈雑言が道化師の耳を通り抜けていったか。自分たちの考えうる限りの脅しのパターン全てを言い切ったパロとストロが大きく肩で息をしていると、道化師は再びニコニコと笑い始める。


「な、なんだやんのかテメ―――なんだこりゃ」

「リンゴだよ。リ・ン・ゴ」


 ごそごそ、と道化師は外套の下から真っ赤なリンゴを数個取り出すと、動かないでね、と言いながら二人の手、肩、頭など数か所に乗せ始めた。状況が全く呑み込めないパロとストロは「おぉ…」などと弱々しく返事をしながらそれを受け入れてしまった。


「さて、準備完了かな」


 そう言って、道化師が次に取り出したもの、それは怪しく光る先程の銀のナイフであった。それも一本や二本ではない。両手の指に挟めるだけ挟んでおり、その数は十数本にも及び、レインチェルに投げようとしたソレとは比べようもない本数である。


 ―――今度こそ本番が始まる、と空気を察した周囲の人間が唾を飲みこむ。


 それでも何が我が身に起こるのかまったく理解できずにいるパロとストロが文句を言おうと口を開いた瞬間、それは悲鳴に変わった。


「ひいいいぃぃいぃっ!」

「うおおぉおんっ!」


 頭、肩、手に置かれたリンゴめがけ、道化師の手から弾丸のように飛び出したナイフが順番に標的を射抜いていき、見事当たるたびに周囲は悲鳴にも似た歓声を上げる。一つのリンゴにつき数本のナイフがほぼ同時に突き刺さるのはかなりの威力があるようで、その衝撃が体にも強く響くのか、的と化している二人の恐怖を倍増させていた。


「ラスト―――あ、やば」


 最後に投げられた銀の一閃は、あろうことかストロの眉間めがけて飛翔した。あわや大惨事、という瞬間に、道化師はナイフに括り付けていたワイヤーを引っ張り上げてその軌道を逸らし、ストロの薄皮を切っただけのそれを外套の下に仕舞い込んだ。


「―――ぁひゅん」


 大事には至らなかったのだが、ついに恐怖の容量を超えてしまったストロは、素っ頓狂な声を上げてその場で気絶してしまった。パロは慌てて弟分を抱き起こして頬を叩くも、泡を吐いているその口からは当然のように返事はない。どうしていいかわからなくなり、最終的には「覚えてやがれ!」という捨て台詞と共に、パロはストロを引きずるようにしてこの場から逃げて行った。


 その瞬間、観客たちは大喝采を道化師に浴びせた。その拍手と歓声を一身に浴びながら、道化師は笑顔でそれに応えるようにうやうやしく一礼をしたのであった。

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