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29話 暖かな雪の村

 ルド雪林の奥。そこはどこまでも続く雪の世界のように思えた。パラパラと雪が降り始め、身体が冷えていく。俺もクレアも消耗した気力を回復する場所が必要だった。


 その時、林の奥から人影が出てくるのが見えた。


「お困りのようですわね」


 長いウェーブのかかった亜麻色の髪に、ツリ目気味のハツラツそうな茶色の瞳。もこもこの毛皮でできた衣装とロングスカートに身を包んだその少女は、いかにもなお嬢様だ。頭にはちょこんと黒いベレー帽をかぶっている。背丈はクレアよりは大きい。


 なぜ少女がここにいるのだろう、人がいるということは近くに村か何かがあるのか、そう思い至った俺は少女に尋ねた。


「連れが怪我をしてるんだ、この近くに治療できる場所はないか?」


「だったら、わたくしの村に来なさい。辺鄙なところですけど、医者ぐらいはいますわ」


 まさに渡りに船。俺は少女に村に連れていってくれないかと頼む。


「いいですわ、ついてきなさい」


 俺達は、少女についていくことにした。彼女は慣れた足取りで雪道を歩いていく。辺りが薄暗くなってきて10分ほど歩いただろうか、白い息の向こうに明かりが灯っているのを見つけると、少女が声を発した。


「そろそろ着きますわよ、ええと……」


「俺の名前はソウタ、こいつはクレア、わけあって薬草を探してた」


「そう、ソウタというのね。あそこにいた理由ぐらいは見当がついていますわ。おおかた、薬草を探してテンタクルグリズリーの縄張りに入ってしまったのでしょう」


 ここの地理に詳しいようで、俺達の行動は把握済みのようだ。


 雪の積もった門を開け、村に入ると、ベッドのマークがついた看板の家や、薬のようなマークのついた看板の家、ほかにも民家と思われる家々が立ち並んでいた。村と言っても、ジーハ村より大きく、屋敷などもあるようだった。


「あそこが医者の家、あっちは宿屋ですの。じゃあわたくしはこれで」


 そう言うと、少女はどこかへ行こうとする。


「もう行くのか? まだお礼が」


「構いませんわ、別にそんなことを期待して案内してませんもの。『富めるものはパンを与えよ』という言葉もありますし」


 少女が言い切るので、黙って見送ることしかできなかった。見送ると、俺はクレアを背負いながら医者の家へ向かった。片手で玄関をノックする。


「ほう! どなたですか?」


 玄関から出てきた、人の好さそうな恰幅のいい医者。こんな時間だが、診てもらうことはできないかと尋ねると彼は快諾してくれた。彼はクレアの容態を見て取ると、ベッドで診察を始めた。

 

「外傷はさほどでもないですな、寒さで体力を消耗したのでしょう。治療をして、しばらく安静にしていれば回復するでしょうな」

 

 手慣れた様子でカルテを書き込む医者に、俺は安堵の息を漏らす。


「助かったよ」

 

 医者は愉快な様子で笑った。


「ほっほう! いや、このルド村に旅人は珍しいのでな。お客さんは大事に扱わなければならん! 交流が少ない村だからこそ、交流を大事にせねばな!」


「急患にも手慣れてるんだな」


「よくあることなのでな、先ほども、例の患者かと思ったぐらいですな」


 例の患者とはなんだろう、疑問に思ったが、深く追求するのも失礼だろう。夜遅くなってきたので、俺はそれから治療代を置いて、医者にクレアを任せると、俺は外に出て宿屋へ向かった。


 翌朝、よく晴れた日。日の光で照らされるルド村は雪の反射でまぶしいぐらいだ。多くの民家はレンガでできた丸いコテージ型になっている。まるでかまくらが立ち並んでいるようだ。


 村の大きな広場では子供たちが朝早くから遊んでいる。足元に雪玉が飛んできたのを避けながら歩く。医者の家へ向かうと、クレアはすでに目を覚ましていた。


「どこ行ってたのさー、起きたらおじさんしかいないんだもん」


 ほっぺを膨らませるクレアをなだめる。


「朝イチに来てやっただろ、それに、おじさんじゃなくてお医者さんだ」


「ほう、もう大丈夫ですな。いやはや、若い人の回復力は大したものだ」


 医者に感謝を伝え、俺はついでに薬草のことについて聞いてみた。


「これは確かにピリファイ草ですな」


「ゴウシ病で薬草を待ってる人がいる、早くセントラの方へ帰りたいんだが」


「ほう、しかし……それは危険でしょうな」


 クレアが首を傾げ「なんで?」と理由を問うと。


「ルド雪林は今日一日吹雪(ふぶ)きますな」


 そう言うと、医者は窓の外を見つめ、その先の空には暗く重々しい雲が立ち込めている。


「ゴウシ病ならば、早く治したい所ですが、病気の進行自体は遅い。吹雪の中ではルド雪林は越えることはできませぬ。心苦しいでしょうが、待つのが賢明かと思いますな……」


 俺は反論しかけたが、クレアの方を見て思い直した。さすがに、クレアを連れて無理をすることはできない。足止めを食らってしまうことになるが……リゼに心の中で謝った。


「……分かったよ」


「我が村には温泉があります。どうです? お嬢さんの湯治もかねて行かれてみては?」


「温泉があるの!? ソウタ、今日は帰れないんなら行ってみようよ!」


 悪くない提案だった。

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