邂逅
推定規模S3ランクダンジョン、『エラド遺跡』3層。
Lv67の冒険者であるグライスは、深層48層からの長い帰路を終えようとしていた。
「約五日ぶりか、早く風呂に入りたい…」
「おいグライス、まだ油断は良くないぜェ?ちゃーんと家に帰るまでが探索だからなァ」
そんな軽口を叩くのは召喚獣のレミン。全長20cm程のヤモリのような姿をして、グライスの左肩に張り付いていた。
「もし3層でかすり傷でも負うようなことがあったら、冒険者を引退してやるよ」
「ヒヒッそれじゃ今日は引退記念日になるな。お前の」
「言ってろ…!」
そのやりとりを皮切りにグライスは残りの帰路を駆け出した。側にある壁や小さな池などの風景を置き去りにし、一気に地上を目指す。
暇そうに欠伸をしていたレミンが何かに反応したのはちょうど2層に差し掛かるときだった。
「ん、グライス、ここから右300m先にアルミラージの群れ。15匹くらいだな。冒険者が襲われてる」
「15?3層にしては多いな。了解、向かおう」
そう言って右に進路を変え、更に速度を上げる。すぐに、兎のような小さな体に、5cmくらいの一本の角を持つ魔物、『アルミラージ』がギャーギャー喚く声が聞こえ、その群れも見えた。冒険者の姿も見えてきた。襲われているのはどうやら14歳くらいの少女。小さなナイフを無様に振り回している。見たところソロらしい。少女でソロ冒険者というのはなかなかレアだ。群れに対してよく粘ってはいるが、もう傷だらけで持ちそうにない。
「レミン!」
グライスの声でレミンが肩を離れる。そしてグライスは腰にある刃渡り20cm程のナイフに手をかけ、
「――ふッッ!」
四閃。
それだけで都合15匹のアルミラージの首が飛んだ。ただの肉塊と化したアルミラージの頭と胴体は霧散し、あとにはドロップアイテムである『アルミラージの角』がいくつか残るのみ。それを回収し、側で尻餅をついていた少女に声をかける。
「大丈夫か?ソロだよな?」
少女は、何が起こったか分からないようでしばらくポカーンとしていたが、正気を戻して、
「は、はひっ!たっ助けてくださり、あ、ありがとうございます!」
と、可愛らしい声でたどたどしく受け答えた。
肩まで届く程の茶色い髪は一本に括られている。くりっとした大きな目に、スッと通っている鼻。小さく、ほのかに赤みがかった唇がまた愛らしい。身長は150cm程とやや小柄だが、臀部や胸部はなかなかに主張している。少女は土と血に塗れてもなお、薄暗く冷たいダンジョンには似合わず、とても可憐だった。
「これに懲りたらパーティを組むことだな。こんな感じで囲まれた場合にも取れる対策が格段に増える。あとはLvを上げること」
それだけ言うとグライスは踵を返し、レミンを回収して元の道に戻ろうとする。
「あっあの!」
「なんだ?」
少女の声でグライスが振り返る。そこでかけられた言葉は、グライスの予想を大きく裏切るものだった。
「でっ、弟子にして下さい!」
「……………は?」
――この少女との出会いが、彼のこの先を大きく変えるということは、誰も知る由がない…
初投稿です。至らぬ点はございますが、よろしくお願いします。