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赤い絆と緑の襷 第23話 付記その1

付記はサイドストーリー。


主人公の行動とほぼ同じ時間に別の場所で別の登場人物達が織り成す物語で有ったり、主人公が紡ぎ出す本編へとつながって行く支流のような展開で有ったりします。


それは次章、更にその先へとつながる、誘う、この物語の外伝。章の最後に付け加え。

その為、通常とは違う三人称形式となります。ご了承ください。

 パルスレーザーに匹敵する驚異的な破壊力を見せつけた長距離狙撃を終えて、ジレーザの主は今、静かに廃墟の小学校を見下ろしていた。


 「さて、とりあえず。と言った所か」

 「遅延ちえん。作戦開始から既に3時間が経過」

 「致し方有るまい。素人しろうと混成部隊ではな」


 モニターで校内の様子を見ている童女の言葉に、スタリーチナヤは笑う。


 「到着。ようやく一つ上の階の部屋に」

 「あの小僧、やっと辿り着きおったか」


 ジレーザ第12席の見ているモニターを覗き込み、姫君は鼻を鳴らした。


 「なんとも心細げな姿よな。まこと子供であるな、時保琢磨とも在ろう者が」

 「当然。我ら1221番宇宙の故・時保琢磨様では無い」


 殊更ことさら、故人である事を強調した物言いに、ジレーザの主は眉間にしわを寄せる。


 「怒った?」

 「さて、どうであろうかの?」


 肩をすくめる部下に、話は変わるが。と姫君は口にした。


 「認識。姫様も、あれが気になる?」

 「またのぞかれておるのは、ちと気が滅入るな。撃ち落とすには距離があるしの」


 そう言いつつ、スタリーチナヤは己の額、髪の生え際に手をやる。


 「御自重ごじちょう。それは、おめ頂きたい。第8席が意識を取り戻した時、私が罵倒ばとうされる」

 「まことからいな。ブゥディーリニクは」

 「承知。それが私の役目。このリュドミラ・フェイギン、その為にこそ第12席を生きている」


 あい判った。

 そう言って姫君は額から手を離す。


 「そこまで言われては、致し方有るまい」


 未だコントロールできない自身の力を解放するのは彼女にも不安があった。


 「過失は二度も犯せぬゆえな。さて、どう致すか。あのピロシキめを」

 「適任。それこそ私の役目」


 無表情のまま童女は、モニターに映る景色を切り替える。

 星の見えない夜空に、昨日の夕暮れに姫君が捕らえた1580番宇宙の戦略探査機が映し出された。


 「完了。既に機能は制圧済み」

 「怖いな、そなたの端末は。では、小僧の突入を容易にしてやるとしよう。あのピロシキめを向こう側の校舎に」

 「否定。それでは破壊規模が大きくなりすぎる」


 自分を見上げる無表情な部下に、スタリーチナヤは問いかける。


 「昨日と同じ機体であろう? であれば液体燃料を使用して居るはず」


 無言で頷く童女に、姫君は告げた。


 「壁に叩きつける前に、燃料は放出すれば良い。屋上にでもくが良い」

 「承知。作戦を開始」


 再びモニターを見つめる第12席に向かって、赤い長大な弓を収納しつつ姫君は付け加える。


 「あの小僧の突入も、そなたに任せる。後、屋上の二人に消火もさせておけ」

 「姫様は?」

 「呼ばねばならぬ者がってな。妾としては無視できぬゆえ


 そう言いつつ、スタリーチナヤは再び仮面舞踏会用のマスクに見える物を、その顔に浮かび上がらせた。


 「わらわじゃ」


 切られたいの?

 間髪を入れず、その言葉が返ってきた。

 電話の向こうの相手に、何度同じ反応をされたら改める。と言われて彼女は鼻で笑う。


 「け。それよりも敵の抵抗が激しいゆえ、廃墟が瓦礫がれきに変わるやも知れぬ」


 あんたねぇ、一応、都会の真ん中だって事を……

 そう苦言を呈する相手に、姫君は笑いながら告げた。


 「後始末を頼む。そろそろ野次馬とやらが出没し始めそうじゃ、急いだ方が良いぞ。必ず、そなたが陣頭指揮を取れ。良いな」


 なに勝手な事を!


 怒鳴る電話の向こうの女性の顔を思い浮かべながら、スタリーチナヤは電話を切る。


 「必ず来るのじゃぞ、そなた自身の為に」


 ジレーザの主は廃墟の校舎を見下ろしながら、微笑むように呟いた。




 同時刻。

 廃墟の小学校の反対側。台東区区役所の屋上からは見えない方に、3人の男女が集まってきていた。


 「どうします? 教頭先生」

 「屋上が騒がし過ぎますね。先ほど跳び去る者を確認しましたし。おそらく、既に計画は破綻はたんしたと……」


 教頭先生と呼ばれたアラサーの眼鏡女史は、銃声どころか爆発音すら聞こえる廃墟を見上げて、眉間みけんしわを寄せる。


 「こんなの持たされても、何の役にも立たなかったですよ」


 3人目の、少し小柄でボーイッシュなショートヘアの女性が、打ち上げ花火の入った袋を突き出した。


 「まあまあ、棟梁とうりょう。気持ちは判りますが。それは班長がお戻りになられた時の、宴会用にでも」

 「花板さんは適当過ぎますよ。何とか言って下さいよ、教頭先生」

 「はいはい。あ、ちょっと待って」


 スマホの反応に、アラサー女性はジャケットの胸ポケットから仕事用の物を取り出す。


 「え?」

 「どうかされましたか?」

 「今から、こちら側に大規模な攻撃を仕掛けるって……」

 「あ、あれ。何ですかね、かなり大きめの楕円形のドローンみたいな」


 棟梁とうりょうと呼ばれた小柄な女性の声で、振り仰ぐ二人の視界にも飛んでくる物は入ってきた。

 それが一旦、高く舞い上がった後、斜めの軌道で真っ直ぐに校舎の壁に向かっていく。


 「あれは……ぶつかる!」


 花板さんと呼ばれた初老の紳士が珍しく大声を上げるのと、ジレーザにコントロールを奪われた探査機が爆発するは同時だった。


 「逃げますよ、二人とも。こんな所に居たら間違われますよ」


 犯人の一味に。そんな思いを言外に忍ばせ、棟梁は花火の入った袋を投げ捨てる。


 「早く!」


 呆然とする年長者にショートカットの女性は呼びかけ、強引に二人の手を引っ張って走り出した。




 更に、時間は経過した。

 台東区区役所の屋上から、ドレス姿の姫君は全てを睥睨へいげいしている。


 「小物めが、やりおったわ」

 「軽微けいび。火薬量が少な過ぎ、大した被害は出ない」

 「その通りでは有るが……小僧を巻き込みおったわ」

 「同意。白燐はくりんも」


 ジレーザ二人の会話通り、ピンクモヒカンのテロリストによる爆破騒ぎは爆発に比べて被害は少なかった。

 ただ、その爆発の真正面に時保琢磨が居た事は、スタリーチナヤの予定を越えている。


 「あ奴にしては良くやったものよ。見事、小僧の盾と成りおった」

 「未満。肝心なのは、ここから」

 「よう判っておるの、ブゥディー……」

 「あ!」


 姫君が第12席の二つ名を呼び終える前に、その童女の叫びが起きた。

 同時に、ジレーザの主の眉間みけん縦皺たてじわが刻まれる。苛立ちを隠さず、姫君は割り込んだ相手の翻訳機に向かって怒鳴っていた。


 「馬鹿者! 逃げるな!」

お読み頂きありがとうございました。


厳しい御批評・御感想、そして御指摘、お待ちしております。

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今後とも宜しくお願い致します。

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