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サンたくっ! ~異世界なんて隣町? 俺って、この複雑怪奇な多元宇宙で、3人目?~  作者: 星嶺
第1章 「俺がアンタで、アンタが君で、君はヤッパリ俺なのか?」
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俺がアンタで、アンタが君で、君はヤッパリ俺なのか? 第8話

挿絵(By みてみん) 



走り出した俺の目に、奴が、あの危険な電気シェーバーもどきを構えるのが映る。


 「ボウズ、ご苦労さん。交代だぜぇ」


 それまで黙っていたオッサンが俺の声で、そう言った。同時に俺は体のコントロールを失う。


 「少年、お別れだねぇ」


 ニチャっと笑いながら、ニセ総理が言う。俺の体はオッサンの指示通り、右手に水の盾を発生させて前に向けて突き出した。


 「これで終わりだぁ!」


 雄叫びを上げるオッサン、でも俺は視界の端で点滅する赤いランプが気になってる。

 その点滅する赤以上に、真っ赤な球体が俺に向かって来ていた。嫌な予感がする、さっきのコンビニの時よりもマズイ感じが。 



 このスーツの視覚機能が、何かを知らせようとしています。これは、熱……



 言い終わる前に体が動いた、ガス人間8号くんの声が俺の背中を押してくれたんだ。

 オッサンの支配を跳ね除け、手の平を雨が止んだ曇り空に、俺は前に向けて構えていた水の盾を斜め下に向けた。

 そこへ強烈な衝撃が。


 「痛!」


 何かが、ぶつかって飛び去る感じが右手に伝わる。

 その瞬間だけ、円形の水の盾は周りを照らし出す程に明るく輝いた。空っぽのアルミ缶を潰すような音と共に。

 再び夜の闇に包まれた裏通りで、俺の後方の路面が轟音を立てて抉れる。もし、あのまま盾を構えていたら……



 熱です、ディスラプターの弾丸が異常な高熱を発生させてます。通常では無いレベルでの使用、油断でした。



 いや、もう少し早く気付いて欲しかったな、ガス人間8号くん。

 右手の水の盾は蒸発して拳より小さくなっちゃったよ。これじゃ、もう使えない。


 「オメェ、やっぱり抜け作だろぉ」


 オッサンが俺の声で呆れたように言う。そこまでは言わないけどね、まぁ確かに。

 とりあえず残りは左手の分だけ。果たしてこれで防げるのか? でも、ここでやるしか無いんだ。


 「行くぞ! ニセ総理!」


 叫びながら再び走り出そうとした俺に、1398番宇宙からのたった一人の侵略者が声をかけてくる。。


 「何度も同じ手が通用すると思っちゃいけませんよ、君」


 ニセ総理が高笑いと共に、そんなセリフを吐いた。

 俺は怒鳴るしかない。くそっ、走り出す前に止められた格好になってしまった。


 「うるさい! 試してやるよ!」



 奴がディスラプターの出力を、更に上げています。



 俺の目にも、スーツの機能で尾部の持つ手が倍以上赤く輝くのが映った。


 これ、無理なんじゃないのか? 防げるのかよ。


 「さっきよりデカいのが来んぜぇ、ボウズよぉ、ここは任せろやぁ」


 発射された弾丸が、スクリーン上に赤い球で示され、俺に向かって飛んでくる。


 それを言葉通り、見えるなら大丈夫とオッサンはカンフースターみたいなポーズを取りながら、華麗に避けた。


 「すげぇな、オッサン。今の避けるか」



 琢磨くん。君こそ、ですよ。よく今の動きが出来ましたね。この人の体の動かし方に付いて行けるなんて。



 驚いた。

 そうガス人間8号くんが肺の中で言う。そうだった、避けたのは俺の体。確かに動かしてるのはオッサンの意識だろうけど。


 「オメェだって奮闘中だろうがよぉ」


 オッサンが、ガス人間8号くんに向かって呟いた。

 気化生命体の俺、1637番宇宙の時保琢磨は今、俺の肺をシェルターの代用にしてるはず。

 何を奮闘中なんだ?


 「何、言ってやがんでぇ、ボウズ」


 考えた途端、俺に憑依中の今や幽霊状態の1398番宇宙の時康琢磨が、ぼそっと小声で呟いた。

 何なんだよ、ハッキリ言えばイイじゃないか。そう思う俺に、また肺の奥から声が。



 二人とも! 今は戦闘に集中してください。それに後ろの音が気になります、確認を……



 と、ガス人間8号くんが言い終わらない内に、後ろから奇妙な音が。

 振り返る俺の目に、高熱で溶けて倒れてくる薄暗い街灯が飛び込んでくる。

 熱反応弾と化したディスラプターの一撃が命中したのだと気化生命体の俺が解説してくれた。


 「でも、これじゃ避けられない!」


 大通りじゃないんだ、どう避けても何かに当たる。

 街灯でまだ良かった、もし通行人だったら? 物音で家から出てきた住人だったら? 

 派手な音を立てて割れた街灯の、飛び散る破片を浴びながら俺は考え込む。

 どうする、どうすれば、どうしよう?



 尾部が更に出力を上げています、これが最大でしょう。そして、これが最後でしょう。これさえ凌げば勝ちです。



 ガス人間8号くんは、そう言うけど。ニセ総理まで、あと15メートルちょい。


 「もう一回、避けてやるぜぇ」

 「逃げちゃダメだ!」


 有名なアニメのセリフが飛び出しちゃったよ。今度のは、もう弾なんてレベルじゃない。


 「終わりにしょうねぇ、君。私は忙しいんだよ、時は金なりって言うでしょうが」


 勝ち誇るように尾部甚三は口元を歪めながら、俺に向かって言う。消し去るつもりかよ、人間一人分を完全に。

 装甲服のモニターに映るそれは巨大な火球と言っていい、避けたらどこかの家が被害に遭う、絶対。

 俺が盾にならなきゃ……盾、そうか。それだ。

 もう一つ有る。だけど、これは。


 「小さい。薄っぺらい」


 右手の方は手の甲に張り付いてる程度、左手の水玉だって、さっきと同じくらいの盾にしか成らない。


 「雨さえ、まだ降ってれば……」



 琢磨くん、半日以上降っていたんですよ。しかも、この辺は水はけが悪いようです。



 「何が言いたいんだよ?」

 「あぁ、そう言う事かよぉ」


 オッサンの呟きと同時に、二人の考える事が映像になって俺の頭に流れ込んできた。


 「ホントに三位一体なんだな」


 呟く俺に、出番ですよ。と肺の奥から声が。


 「一緒に叫べやぁ、ボウズよぉ」


 左手を突き上げながらオッサンが言う。


 「これで勝負だよな、オッサン」


 装甲服のモニターには、限界まで真っ赤に加熱したディスラプターの銃身が。この一撃で決めるつもりだ、ニセ総理も。

 俺の声で、オッサンが雄叫びを上げた。


 「三千世界の理! 物理法則の全てにおいて、我はこの地に顕現す! 気は我に答えよ」


 その呪文に応じて、路面の水たまりから、両脇の家々の庭木などから、ありとあらゆる所から雨水が集ってくる。


 「それは、あの術師の? なぜだ! なぜ貴様が?」


 異世界からの侵略者、尾部甚蔵が疑問符を撒き散らす間に、俺の左手には俺自身さえ包み込むような、巨大で分厚い水の盾が生まれていた。


 「おのれ! 術師めが悪あがきを!」


 そう言うと同時に、ニセ総理は最大出力とかで凶悪な火球を撃ち出す。

 俺は飛んでくるディスラプターの弾丸に、盾の角度を調整しつつ突き出す。


 水の盾は渦巻きながら流れを生み出していた。オッサンがサイコキネシスで、盾を構成する水を前から後ろに押し流してるって。

 肺の中から響くセリフを、俺は叫ぶ。


 「反射できないなら、送り出してやればイイんだ!」


 どこへ? 雨が止んだ曇り空へ。

 瞬間、真昼のような明るさが路地を照らし、鉄パイプを打ち合すような音が鳴り響いた。

 水の盾を半ば蒸発させて、凶悪な火球は雲が隠す夜空へと飛び去って行く。


 「ば、ばかな!」

 「バカは、お前だ!」


 三人同時に叫んだのかも知れない。一気に残りの距離を駆け抜けて、俺はニセ総理に詰め寄る。

 残った水をボクシングのグローブのようにして一撃を繰り出した左手が、顔を庇った尾部が手に持っていた銃身に当たった。

 爆裂音が響く。


 「ひぃいいいいいい!」


 尾部甚三の、総理ソックリの悲鳴が上がる。

 真っ赤になるほど熱を持っていたガス人間8号くんの銃は、急激に冷やされた為に砕け散った。でも、こっちも何も無い。武器なんて、もう。

 その時、こんなセリフが俺の口から流れ出た。


 「遠慮すんなよぉ、ボウズ。肩に二本も差して有んだろうが」


 え? イイのかよ? 形見なんじゃなかったっけ?


 「爺様も喜ぶぜぇ、犯人逮捕に貢献できりゃよぉ」


 

 使わせて頂きましょう、琢磨くん。尾部逮捕が最優先です。



 「そう言うこったぁ、行くぜぇ!」


 オッサンの気合で、俺は肩にストックされていた木の杖を引っこ抜き、ガラ空きのニセ総理のこめかみに振り下ろす。

 木っ端微塵って感じで杖が砕け散った。そして顔全体に細かなヒビを入れながら、尾部は天を仰ぐ。


 「んん、ぶぅ……」


 何だか養豚場に居るような気分になる呻き声を残して、異世界から来た殺人鬼、ニセ総理こと尾部甚蔵は気を失って倒れ込んだんだ。

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連載エッセイ
『平行宇宙(パラレルワールド)は異世界満載?』
「サンたくっ」の世界観を構築、解説してまいります。どうぞお立ち寄りくださいませ。

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