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赤い絆と緑の襷 第15話

 本日、金曜日。ただ今22時を回りました。

 目の前にそびえる台東区区役所も真っ暗。当然だよね。

 まだまだ梅雨入りには早いはずなんだけど、今夜は何となく蒸し暑いのでTシャツにGパン姿。

 そして俺は、目の前の二人に頭を下げた。


 「来てくれて、ホントありがとう」


 こんな時間に俺の頼みを聞いて、こんな所に同行してくれたんだ、まず礼を言わなきゃ。


 「仕方有りませんね、放っては置けませんし。ここでは教育者の端くれですし」

 「オメェのカァちゃん泣かす訳にゃ、行かねぇだろうがよ。オレ様、警察なんだぜぇ。ボウズよぉ」


 二人とも渋々って感じで答える。

 それも当然か。命の恩人を助ける為に、強盗団のアジトに忍び込むってTELしちゃったからね。


 「本当は止めなければならないのですが……今回に限り、ですよ」


 5月も下旬に入った気候によく似合う、涼しげな洗練されたジャケットを身に纏った青年。二琢にたくこと銀八さんが口を開いた。


 「まぁな、あのジジィにゃ借りが有っからなぁ。たぁ言えボウズ、絶対ぇ無理すんじゃねぇぞぉ」


 この季節には絶対、不似合いな革ジャンを着た男、一琢いったくことなつめのオッサンは偉そうに言う。このままだと説教たれ始めそうだ。

 まぁ、ここに来るって話をした途端、親に説教されたのも事実なんだけど。


 「無理なんて……」


 できる訳ない。

 この所、心配かける事ばかりで俺は全く信用されてない。それだけに夜、出かける話をしたら反対されるのは当然だった。

 それがここに居られるってのも、この二人のお陰だったりする。

 二人と廃墟見学ツアーに行くと言ったらアッサリOK。信用度が違うってさ。


 「判ってるって、それに戦闘なんかに参加しないって」


 それは俺の役目じゃない。

 昨日、陸自駐屯地の廃墟から走り去りながら俺は、阪本銀八こと1637番宇宙の時保琢磨に電話した。


 「ビューレットさんが監禁されたんだ。俺、助け出したい。だから手伝って欲しい。棗のオッサンと一緒に」


 だ、そうです。ケータイの向こうから聞こえた一言。その直後に俺は思いっきり怒鳴られる。


 「馬鹿かよぉ! オメェは何で、そう面倒事に首突っ込むんでぇ!」


 あ、銀八さん、オッサンと一緒だったのか。丁度イイや。


 「とにかく! 明日の夜。台東区役所の裏にある旧台東区立下谷小学校の正門前に来て欲しい。頼んだよ、二人とも」


 そう言って俺は電話を切った。

 もう既に星空が見えてきて、ちょい遅くなったかなって感じ。まもなく家に着こうかって時に、突然ケータイが鳴る。


 「はい、もしもし」


 慌てて俺は電話に出た。銀八さんかオッサンが掛けてきたと思って。


 「もしもし、か。そう言うのだね、この1500番宇宙では」


 穏やかな低音が、俺の耳に流れ込んでくる。


 「え? あ! あの、もしかして第2席さん、ですか?」


 肯定の返事が、また穏やかな声で聞こえる。でも、どうして俺のケータイの番号を?


 「済まない。先ほど君と御友人方の会話を傍受してね」


 え~っと、それ……盗聴って言いません? とは口に出せないけど。


 「な、何の御用で、しょうか?」

 「緊張する事は無い」


 いや、しますって。絶対。


 「君が先ほど口にした場所、我が情報処理担当が割り出した所と一致していてね」


 金営さん、凄いよ。ジレーザと同じだって。聞かせてあげたいね。


 「君らが、そこへ行くと言うのなら」

 「邪魔、ですか?」


 感情を押し殺して、俺は努めて冷静に言う。


 「戦闘になれば、はっきり言って」


 ハッキリ言われたよ、判っては居たけど。


 「だが、君は必ず行くのだろう? 姫様が君の安全確保の為、あのような物言いをなさったにも関わらず」


 もちろんです。胸を張って俺は答えた。そう言ってから、姫君様の事を考えてその胸がちょい痛む。

 俺の為に、あんな事を? 俺を心配して?

 考えが他に行ってしまいそうになる寸前、電話の向こうから静かに意識を引き戻す声がした。


 「そこでだ、君達には陽動で参加してもらいたい」


 ようどう?


 「おとりとして、敵の目を引きつける役目。無論、危険の無い範囲で、だがね」

 「お、お手伝いって感じですか?」

 「そう、なるかな。我らジレーザが穏便に潜入する為の、になるが」


 それでも、あの姫君様のお役に立てるなら。って俺は、ちょい胸熱ぎみだよ。


 「どうすれば……」

 「今夜、メールで作戦計画を送ろう。それを読んで欲しい」


 そう言うと、ジレーザ第2席さんは電話を切ったんだ。

 そして送られてきた計画書通りに、俺は今、異世界の同一人物である二人の俺と共に居る。

 金曜日の夜22時を過ぎた、ここ旧台東区立下谷小学校って言う廃墟の前に。


 「約束の時間は過ぎましたね……」


 銀八さんが、お馴染みのスマホもどきを覗き込んでる。


 「ったくよぉ、大丈夫かぁ? 相手はあのジレーザだろうがよぉ」


 棗のオッサンが口を開いた瞬間、人通りのない道の向こうで壮絶な金属音が。


 「こちらに向かってきますね、あれは」


 落ち着いて状況判断するガス人間8号さん、やっぱ頼りになるね。


 「いんやぁ、もう来てんぜぇ」


 そう言って、オッサンはカマキリの頭みたいなサングラスをしたまま頭上の夜空を指さした。

 見上げた俺の目に、見慣れた長い脚が飛び込んでくる。

 それはそのまま、俺達の居るすぐ横に落ちてきた。


 「ティンはん!」

 「げっ! クソガキ? またお前かい!」

 「確かに、手はず通りですね」


 冷静な銀八さんの声、それを耳にした巨乳地下アイドルの罵声が轟く。


 「やっぱり! お前がウチを売ったんやな! このクソガキ!」

 「ちょ待って、ティンはん。俺の話を……」


 最後まで言えなかった。

 俺の横を一陣の風って感じで駆け抜けた影が、お宝ティンはんの後ろに回り込む。


 「そうだ、まずは話を聞け。81号」


 異世界の泥棒女子の首筋に、黒く鋭い刃がピタリと当てられ、聞き覚えのある声がそう告げた。


 「イケメンさん?」

 「久しいな、少年」


 白い砂漠の時と同じ軍服が、夜目にも華やかだ。


 「ジレーザ・リェーズヴィエ! もう大丈夫なのですか? お体は」

 「コイツがよぉ、アバラ折ったくれぇで動け無ぇなんて事ぁ、有り得ねぇだろうがよ」


 オッサン無茶苦茶な事を。銀八さんも失礼過ぎますって言ってるし。


 「未だ固定したままだが、今回は人員不足でな。私も参加する事にした」


 昨日、第8席さんがトンデモ無い事になった現場にいた俺としては納得、なんだけど。


 「ほ~ぉ、ジレーザ様でも人手不足ってかよぉ」


 絡むなよオッサン、そう言いたくなるね。


 「今回に限り、人手はけん。残念だが」


 穏やかな低音が、俺達の後ろから。


 「第2席さん」


 振り向いた俺に、姫君様がザボールって呼んでた紳士が穏やかに笑いかけてくれた。


 「少年、約束通りだ。次は君が姫様との約束を果たすように」

 「はい! ありがとうございます」


 そう言って俺は、今はイケメンさんと同じ軍服に身を包んだ、あのダンディー紳士に頭を下げる。


 「第2席……ボリス・ザギトワ司法長官!」


 ガス人間8号さんの驚きの声に、棗のオッサンの口笛が続く。


 「ジレーザ様の見本市だぁな、コイツぁ」


 相変わらず失礼だな、オッサン。でも、司法長官? そんな偉い人だったのか、第2席さん。


 「さて、これを」


 司法長官さんは俺に紙袋を渡す。中身は……打ち上げ花火?


 「それを廃墟の校庭で、打ち上げて欲しい。おそらく中に隠れている者共が、君達を追い払いに出てくるだろう」

 「その間に忍び込むってぇ寸法かよぉ?」

 「そう言う事だ、蟷螂眼鏡」


 お宝ティンはんの喉に黒い刃を当てたまま、イケメンさんことジレーザ第3席は言う。


 「誰がカマキリメガネでぇ」


 いや、アンタしか居ないって。オッサン。


 「花火を打ち上げながら、彼女を説得できれば良し。もしできぬ時は……」


 貴方もそこで切るんですね、第2席さん。姫君様と同じく。


 「我々は卵さえ戻れば、それ以上は求めない。姫様も確約なされた。後は君次第だよ、少年」


 う、いきなり大役ってヤツ?

 話をしながら司法長官さんは、廃墟の学校の校門の柵を調べてる。


 「全くセンサーらしきものが無いな、驚きでは有るが。とりあえず、開ける愚行は犯すまい」


 俺達の方を見て、そう言うと第2席さんはアコーディオンフェンスって言われる柵を、軽く飛び越えた。


 「我々も続きますか」

 「たりめぇだろうが」


 二人の俺、異世界の時保琢磨らも同じように軽々と、フェンスを越えて行く。俺は……無理だぞ、そんなの。


 「先に行く」


 短い挨拶を残してイケメンさんが、お宝ティンはんを捕まえたまま飛び越えてく。

 最後に残った俺は、意外と新しいフェンスをよじ登り、なんとか越えた。


 「では、後は任せる。少年、頑張りたまえ」

 「少々不安だが、姫様がお決めになった事だ、口出しはするまい」


 第3席さんは、そう言って泥棒女子を離してくれた。 


 「このゴム製カエル女を見事、説得してみせよ。時保琢磨なら」


 え? 俺の名前にそんな重みを乗せられても。そう口に上るより早く、巨乳地下アイドルが吠えた。


 「おのれら何、好き勝手抜かしてくれとんねん! あの卵はウチのもんやて、ずっと言うてるやろ!」

 「ティンはん、お願いだから。俺の話を聞いて……」

 「喧し! お前がウチを売ったんや。二度と顔見せんな、ボケ!」


 ほな! 叫んで跳び去ろうとする彼女に俺は、しがみつく。それしかできない。


 「待ってくれ、ティン……」

 「離さんかい! このクソガキ!」


 叫ぶと同時に、しがみついた俺ごとお宝ティンはんは跳んだんだ。真っ暗な校舎の廃墟へと。

お読み頂きありがとうございました。


厳しい御批評・御感想、そして御指摘、お待ちしております。


今後とも宜しくお願い致します。

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