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サンたくっ! ~異世界なんて隣町? 俺って、この複雑怪奇な多元宇宙で、3人目?~  作者: 星嶺
第1章 「俺がアンタで、アンタが君で、君はヤッパリ俺なのか?」
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俺がアンタで、アンタが君で、君はヤッパリ俺なのか? 第7話

挿絵(By みてみん) 



 そう。瞬間、世界は変貌した。いや、変貌したのは俺の方だった。


 「ほぉ! こりゃ、すげぇ」


 呑気なオッサンの感想を無視して、俺は叫ぶ。当然だった。


 「なんじゃ、こりゃぁ!」


 コンビニの窓ガラスに映る自分を指差す。

 今や俺は、昔TVで見た宇宙刑事か何かのような、メタリックボディの装甲に覆われていたんだ。

 うん、ちょいカッコイイかも。


 「これなら、何とか成りそうだぜぇ」

 


 これは、警官用装甲服のプロトタイプ……



 「て事ぁ実験用ってかぁ? ちぃと不安が残んなぁ」


 オッサンの残念そうな声を聞き流しながら、俺は別の事を考え、声に出した。


 「ガス人間8号くんさ、もしかして」



 何ですか?



 「最初からお父さんのプレゼント使ってたら、俺の肺に逃げ込む必要も無かったんじゃ……」


 返事は無い。ただ、明らかな動揺って奴が体の奥から伝わって来る。


 「きっと、こんな事になっても大丈夫なように、考えてくれてたんだよ」



 そう、かも、知れません



 「有難いもんだぁな、親御さんてぇのはよ」


 認めたとも言い難いガス人間8号くんのセリフの後に続いた、オッサンの一言に同意して、思わず俺は頷き続けた。

 そんな俺の視線の先には、砕けたオッサンのご遺体横の、あの木の杖が。


 「オレ様の方は、爺様の形見が真っ二つかよぉ。会わせる顔が無ぇ」

 「え? お爺さんの形見?」



 そんな、大切な物、だったのですか……



 こう言う話になると、ガス人間8号くんはまたまた動揺を隠せないらしい。



 「まぁ、形ある物は、いつか壊れるってぇからよぉ。仕方ねぇ、が、置いてく訳にゃ行かねぇしなぁ」



 肩の背中側に二つ、ライフルのストック用ベイが有るはずです。そこに差せますよ。



 「こう?」


 その声を聞いて、俺は二つに折れてしまった木の杖を拾い上げ、肩の後ろに有る穴に差し込む。

 カチッと音がして止まった。


 「こいつぁ助かるぜぇ」


 しみじみと言うオッサン。本当に大事だったんだな。でも背負った二本の木の杖で見た目、宇宙刑事から機動戦士になってしまった。

 まぁ、これはこれなりにカッコイイかも 


 「さぁてと、湿っぽいのはお開きにして野郎を追うぜぇ」


 俺の声でオッサンは断言する。でもニセ総理がどこへ行ったのか、俺達じゃ判らない。

 


 琢磨くん、私のマルチプルコミュニケーターを。



 あのスマホみたいなのを探す。おぉ、ちゃんと、この装甲服に収まってるよ。そこが定位置みたいに。

 とりあえず、ガス人間8号くんの説明通りに動かしてみる。


 「野郎、どこへ向かってやがんでぇ」

 「これの、でかい道路……」



 判るんですか?



 「多分、3号渋谷線だ。首都高速の」


 自分の言った単語で思い出した。

 今日は、本物の尾部総理が生出演するニュース番組が有る日だったって事。


 「夜10時からの、だったはずだよ」


 

 あと2時間も有りませんね。



 「きっとタクシーに乗る気なんだ。ここからなら、赤坂まで一直線だし」


 ミニマラソンに使われたりする心臓破りの坂なんてのが有るテレビ局。ニセ総理は、そこを目指してるに違いないよ。


 「なるほどなぁ、だから野郎、金をかき集めてやがったのか」

 


 しかも、もう一人の店員の服が剥ぎ取られています。



 肺の奥から響く声の通り、上半身裸にされた男の死体が転がってる。奴の狙いは、もう間違いなかった。

 それにしても、この装甲服ってのを身に付けてから、全くメガネ無しでも良く見えるのは嬉しい。


 「野郎がその3号何とかってぇデカい道路に出るまでが勝負って訳だぁなぁ」


 オッサンは俺の声でそう言うと歩き始める。って、これ俺の体だよね。完全に操られてるだろ?


 「聞こえ悪ぃだろうがよぉ。ボウズの体、使わせてもらってるだけじゃねぇか」


 いやいや、それを操るって言うんだろ?



 精神体で憑依して、他者の肉体を操作するとは、まるで剣と魔法の世界ですね。



 呆れたように、ガス人間8号くんは言う。


「んな危ねぇ世界に生きてる訳ねぇって」


 そんなセリフを吐きながら、オッサンは自分のご遺体から手の平サイズの箱を取り出した。赤いレンガみたいな外観の。


 「こいつを忘れるトコだったぜぇ。さぁて行くかぁ」


 なんとかケーターの収まってる場所に、強引に箱をねじ込みつつ、出入り口で振り向いてコンビニ店内に手を合わせてから俺の体は外に出た。


 「小雨になってきた……」

 「後は、あの厄介な武器を、どう躱すかだぁなぁ」

 「この装甲服なら大丈夫だろ?」



 甘いですね。ディスラプターを最大出力で撃たれたら、プロトタイプのこのスーツでは防ぎきれませんよ。



 「え? そうなの?」



 普通は出力を上げたりはしません。銃の方が加熱してしまうので。



 「まぁ、この店でも相当ぶっぱなしてやがるからよぉ、弾切れに期待するかぁ」

 「そんな他人任せで大丈夫かよ、オッサン」

 「せめて弾が、見えりゃぁな」



 ディスラプターは非可視光線弾を射出する武器なので……



 「光線弾……て事は、反射できる? 光ならさ」

 


 鏡のような物が有れば、あるいは。



 「ほぉ、ちょいと今、手が浮かんだぜぇ」


 コンビニの方を見ながらオッサンは言う。


 「オラァ気体使いだからよぉ、風を集めて砕いたギヤマンごと回してやりゃ乱反射できんじゃねぇか?」


 ギヤマンってガラスの事だろ、オッサン。


 「砕いたガラスなんて、どこに?」

 「その店に幾らでも有んだろうがよぉ、窓に」



 器物破損は警察官のやる事では有りませんよ。考えてください。



 「窓ガラス割る気だったのか……無茶言い過ぎだよ。オッサン」

 「いいじゃねぇかよ、少しくれぇ」


 そう言うと、オッサンは俺の体を動かす。両手を頭の上に突き上げた。


 「三千世界の理! 物理法則の全てにおいて、我はこの地に顕現す! 気は我に答えよ」


 さっきのコンビニの中と同じように、空気が渦巻くのが判る。でも今度は、それだけじゃ無かった。


 「お? おぉ!」


 俺の声でオッサンが雄叫びを上げる。


 「爺様。ここへ来て、ついにアンタに並んだぜぇ」



 これは、雨を集結して回転させている?



 「水の盾……」


 それを見て俺は思わず呟く。

 ガス人間8号くんの言うとおり、今や俺の両腕は手の甲を中心に降りしきる雨をかき集めて、円形に渦巻く水が板状に回っていた。


 「オッサン。これ、ピタッと止められる?」

 「あ? こうかよぉ?」


 同じ声で、別人の違う喋り方。声優さんのオーデションかよ、なんて突っ込む暇も無い。高速で回転してたのが、本当に停止したんだ。



 見事に鏡面ですね。店の明かりどころか、このスーツさえ反射しています。



 肺の中から、感嘆符が付きそうなセリフが聞こえてくる。自分自身を映して俺は、オッサンの作戦に乗る事を提案した。


 「こいつぁ、鏡みてぇに光の弾、跳ね返せんじゃねぇか? 尾部の野郎によぉ」



 これなら、あるいは。油断は禁物ですが。



 「よっしゃぁ! 野郎を追いかけるぜぇ」


 叫ぶと同時に、水の盾はソフトボールの球くらいの大きさになって、手の平に回り込んで来たんだ。

 オッサン、ここへ来てのクラスチェンジ。気体使いから液体使いに、だね。これなら、ってガス人間8号くんの言葉に、俺もヤル気が沸き立つよ。


 「3号渋谷線は向こう……」


 俺の言葉が終わらない内に、オッサンは俺の体を使って駆け出す。



 琢磨くん、君すごいですよ。この人の体の使い方は炭素系生命体の許容範囲を越えています。



 にも関わらず、俺はオッサンの考える通りに全力疾走できてるらしい。

 薄暗い路地、所々にあるボンヤリとした灯りが光の帯になって、後ろへ流れ去って行く。今ものすごいスピードで走ってんじゃないのか? 俺。

 気分高揚って感じの時に、オッサンが呟く。


 「オレ様が自分で走るより、かぁなり遅ぇがよぉ」



 何を言ってるんです、空洞のシリコン体を動かすのとは訳が違うんですよ? かなりの身体能力と言わざるを得ないでしょう。



 「けっ、オレ様の体の構造に気付きやがったかよぉ」



 あの砕けた状態を見れば想像が付きます。



 「尾部の野郎とっ捕まえたら、教えてやんぜぇ。あぁ居やがった!」


 前方を、余裕を持って歩いて行くニセ総理が見えた。あれ、奴の手が黄色っぽく光ってる。ついでに何か数字が? 

 え? まだ40メートルも先なのか?


 「せめて近付くなら、あと半分」



 驚きました。このスーツが着れるのは、私が肺に居るからでは有りますが、スーツの機能を君は活用している。



 「どういう事?」



 尾部の手が光って見えるのは、ディスラプターのエネルギー反応、そして熱量です。距離表示も望遠視覚も、君がそれを見ていると言う事は、君を時保琢磨とスーツが認識していると言う事ですよ。



 「あ? 当たり前でぇ。俺ら3人、みんな時保琢磨だろうがよ?」


 そうだ。俺達3人は異世界の同一人物。3人の時保琢磨なんだ。


 「サンたくってかよ」

 「変な省略するなよ、オッサン」

 「放っとけや。さぁ、こっからはボウズ。オメェの独り舞台だぜぇ」


 そう。尾部を油断させる為に、まず俺一人で奴と対決、いよいよリターンマッチなんだ。

 小雨が止んだ路地、呑気に歩く後ろ姿が次第に大きくなる。


 「待て! ニセ総理!」


 20メートルくらいまで近付いて、奴が一番言われたくないセリフで、俺は異世界からの侵略者を呼び止める。

 予想通り、尾部甚三は足を止めて振り向いた。驚きが、その表情に有った。


 「その鎧、私を追ってきた警察官から託されでもしたのかね? 少年。君はもっと、賢いと思ったんだけどねぇ」


呆れたように、大げさに肩をすくめながら奴は言う。


 「たった一人で何ができるのかねぇ、君」


 確かに、俺一人じゃ何もできないだろう。 でも独りじゃない、異世界の同一人物、3人の時保琢磨がここに居る。しかも今は三位一体なんだ。


 「身の程をわきまえないとねぇ、賢い大人には成れませんよ?」


 現総理そっくりの、相手を怒らせる話ぶり。ホント間違えそうだ、俺も。

 引っかったりしない、今度は。さっきはコンビニで俺を怒らせて本当は撃とうとしていたってガス人間8号くんが教えてくれた。

 奴はニセ総理、俺が奴を煽る番だ。


 「この世界の、尾部総理大臣になりたいんだろ? アンタ。たとえ何をしてでも」


 俺の問いに、意外にもニセ総理は笑って答えた。


 「当たり前じゃないかね? 本当は私がなるべきだったんだからね」


 なるべきだった? あれだけ殺人を犯しておいて、か?


 「なんで、コンビニの客や店員を殺したのさ? 脅しで済むだろ?」

 「いや、あまりに簡単に死ぬのでね。面白くて、つい、ねぇ」


 つい、で済むか! そう叫びたいのを必死で我慢する。俺の方が煽られてるよ。



 すでに常軌を逸していますね。



 肺の奥からの声が言った通り、やっぱり殺人を面白半分でやっていたんだ、この男は。

 そして間違いなく、この世界の自分を殺して総理にすり替わるつもりなんだ。それを当然と言ってのけた。


 「アンタ、間違ってる。だから、ここで俺が止める!」


 俺はそう言うと、ニセ総理に向かって走り出した。

 プッツン切れてしまった、と言われればそれまでかも知れないけど。

 みんなのかたきは俺が討つ! その決意を胸に俺は、1637番宇宙の警官用装甲服で駆け出したんだ。

お読み頂きありがとうございました。厳しい御感想、御指摘、お待ちしております。

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「サンたくっ」の世界観を構築、解説してまいります。どうぞお立ち寄りくださいませ。

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