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赤い絆と緑の襷 第10話

 その音は俺の遥か後ろから、まさに音速で、それを運んで来た。


 「な、なんどぉあ!?」


 ピンモヒの、何度目かの絶叫が上がる。

 そりゃそうだろう。

 勝ち誇り、俺達を襲わせようとした刹那、殺戮マシーンが動かなくなったしまったら。

 正確には動けなくなってしまたら、なんだけど。

 ピンモヒ・ロボの両肩、両膝を金属の細い棒が貫いていたんだ。


 「鋼鉄の……矢?」


 俺の呟きに、ピンモヒの叫びが被さる。


 「なんどぉあ!? でめぇら!」


 出目江羅? 怪獣王の名前か? あ、てめぇら、ね。

 そんな馬鹿な事を考えながら、俺は振り向いた。

 異世界のテロリストが呼びかけたんだろう相手を確認する為、風切る音と共に矢が飛んできた方向を。

 そして、固まった。


 「う、うそぉ」


 それしか言えなかった。同時にカタカタと鳴る音が聞こえる。


 「嘘やん……なんで、ここに」


 お宝ティンはんが歯を鳴らしてた、恐怖のあまりに。そして優男さんは万歳バンザイの姿勢で固まってる。

 そこには、5日前に出会ったトンデモない4人組の姿があった。


 中学入学を前にした小学校卒業生くらいの男子、その後ろに中年のダンディー紳士。そして弓を手にした社長秘書風美女。

 八景島では怖い表情だったからマトモに見てなかったけど、今なら気付く。この人、メッチャ美人だったって。


 そんな3人を従えて中央に立つ、クビレと言うには細すぎるウエストのドレス姿の、どんな美女さえも超越した美しくも美し過ぎる姫君様。

 満面の笑顔を俺に向け、凛々しいほどに涼やかな声が五月晴れの夕焼け空に流れる。


 「久しいの、小僧。壮健で有ったか?」

 「スタリーチナヤ……様!」


 今度は、ちゃんと様を付けたぞ。そのおかげかジレーザの面々も激怒する様子は無い。

 そう、この絶望的な状況を一瞬でひっくり返してくれたのは、異世界のロシアからやってきた戦闘集団、ジレーザのメンバーだったんだ。


 「さても面妖な取り合わせであるな、小僧」


 今度は苦笑って感じで姫君様は言う。うーん、言い返せない。この面子じゃあね。

 そんな俺の後ろで、聞き取りにくい喚き声が上がった。振り返る俺に向かって、ピンモヒが全力疾走してくる。


 「貴殿の相手は、私だ」


 いつの間に、俺の隣に立っていたんだろう。

 俺に殴りかかろうとする異世界のテロリストに、そう穏やかに告げてダンディー紳士は伸びてくる相手の手を取った。


 「え?」


 早いなんてモンじゃ無かった。

 俺の目の前で、ピンモヒは足を空に向ける勢いで回転した。ジレーザ第2席と呼ばれる中年男性によって、一瞬にして投げ飛ばされたんだ。

 地面に叩き伏せられ、今度こそ軍人崩れのテロリストは気を失う。


 「凄い……」


 そんな陳腐なセリフしか出てこないほど、ダンディー紳士は圧倒的に強かった。

 俺の全身全霊の体当たりで、やっと数秒だけ意識を飛ばせた程度だったのに。


 「八景島でわらわの分まで僧会の者共を喰ろうておきながら、ここでも独り占めしおるか」


 呆れたように姫君様は、肩の埃を払ってる第2席さんに声を掛ける。


 「第2席はサンボマスターですからねぇ」


 小学生くんが口にしたサンボって、俺でも知ってた。ロシアの格闘術だよね、確か。


 「姫様に動かれましては、残骸の後始末が必要に為りまするゆえ


 フンっ。と鼻を鳴らして、そっぽを向く姫君様。何故かダンディー紳士とのやりとりだと、やたら可愛いぞ、この御方。


 「このような輩でも、それなりに使い道は御座いますれば」

 「ふむ、一理あるか。それよりも、まだ動くか? それは」


 姫君様の言葉通り、ギシギシと嫌な音が。4本の矢に射抜かれたピンモヒ・ロボが、同じ姿勢のまま動き出そうと足掻あがいていた。


 「我が矢に貫かれながら……申し訳ございません。やはり、頭部を撃ち抜くべきで御座いました」


 社長秘書風美人、第8席さんがスタリーチナヤ様に詫びを入れてる。

 こんな凄い事を普通にやって、なお謝らないといけないものなのか?

 そんな俺の気持ちを読み取ったかのように、姫君様は優しく部下をねぎらう。


 「破壊を禁じたはわらわじゃ。気に病むでない。オホートニチヤ、そなたの働きに満足しておる。卑下するでない」


 はっ。と短い返事をして第8席さんは頭を垂れた。代わって話を始めたのはダンディー紳士。


 「この形状、頭部に何やら奇妙な飾り物が取り付けて有りますが……おそらくは2177宇宙の使役用機械。自動人形オートマタと呼ばれる物かと」

 「シンギュラリティ・ワールドとか言われてる所ですかね?」


 小学生くんの単語はよく判らないけど、2177宇宙? また新しい異世界が出てきたよ。俺の頭、もう限界を超えそう。

 ついでに言えば、あのロボの鶏冠みたいなのはピンモヒが付けたのかな。飾りのつもりなんだろうか?

 バカな事を考えていた俺に耳に、姫君様の声が飛び込んできた。


 「キンジャール、寝かせよ」

 「それって、電源を切れって事ですよね? 無傷で、ですよね。それが一番、厄介なんですよ。姫様」


 首を横に振りながら、小学生くんは言う。途端に頭を垂れていた社長秘書風美女が噛み付いた。


 「何を聞いていた、刃の眷属風情が」

 「そう怒るな。此奴こやつなりに、そなたの働きに敬意を表してるのじゃ」

 「な、何を……」


 笑みを浮かべた姫君様のセリフに、第8席さんの顔が真っ赤に。意外と純情なのか?


 「そういう事は口にしないから良いんですよ、姫様。さぁて、と」


 そう言いつつキンジャールと呼ばれた小学生くんの顔にも、お馴染みのスコープ状の機械が。


 「ずっと見ておられたんでしょ、第12席。解析お願いします」


 機械を通じて誰かと会話してる、って第12席? 何人いるんだ? ジレーザのメンバーって。


 「はい、判りました。有難う御座います」


 言い終えるなり小学生くんは、未だ摩擦音を上げながら蠢く殺戮マシーンに向かって走り出した。


 「速っ!」


 棗のオッサン並みに早いよ、小学生くん。

 小柄な分、動き滑らかでスケート選手みたいだ。とか思ってる間に、いきなりジャンプ。

 ピンモヒ・ロボの肩の上で片手倒立、ホントに身軽なんだな。サーカス団員の方が正しいかも。


 「これにて」


 そう言うと、いつの間にか手にしていた豪華な飾り付きの短剣で、小学生くんは殺戮マシーンの首の後ろを薙ぎ払う。

 ピンモヒ・ロボはパチッと音を立て、火花を飛ばして膝から崩れ落ちた。


 「終了でぇす」


 あっけらんと報告するジレーザ最年少に、第8席さんは渋い表情を浮かべたけど、ダンディー紳士は、こう賞賛したんだ。


 「見事だ、一撃とはな」

 「形状だけで無く、構造も人間に近かったんですよ。頚椎付近が弱点だと……」

 「ブゥディーリニクの見立てで有るか」


 姫君様は笑顔で頷く。


 「はい! 第12席のおかげです」

 「ではキンジャール。そちに後は任せるゆえ、運べ」

 「え! それも我が勤め、ですか?」

 「任せる。さて……」


 一転がっかりって感じになった小学生くんを尻目に、スタリーチナヤ様は先程から俺の後ろで蹲ったまま震えていた巨乳地下アイドルに目を向けた。


 「二度目であるな、相見えるは」


 姫君様のセリフ、怖いくらいに声のトーンが低い。


 「小僧、脇へ」


 有無を言わさない圧倒的な威圧感だからなのか? 

 俺は絶対そうしなければイケナイ、なぜか瞬時にそう考えていたんだろう。気が付けばスタリーチナヤ様に道を開けていたんだ。


 「オホートニチヤ、あの者を射よ」


 え? 今、何ておっしゃいました? 姫君様。


 「承知致しました」


 社長秘書風美女が自分の、栗色の髪に指を絡ませて引っこ抜く。その糸のように風になびく物が、瞬時に鋼鉄の細い棒に変わった。


 「あの矢って……」

 第8席さんの髪の毛だったんだ。そう言えば白い砂漠で御一緒したイケメンさんも、体の中から刃を出したっけ。

 なんて、のんびりしてられないよ。


 「ちょ、ちょ待って!」


 俺は慌てて、うわずった声で叫んだ。でも姫君様にもオホートニチヤって呼ばれた美女にも、完全に無視される。

 立ち塞がろうとした俺に向かって、真顔のスタリーチナヤ様が告げた。


 「動くでない、小僧」


 その一言で、俺は全く身動き出来なくなってしまう。なぜ?

 そうこうしてる間に、第8席さんは矢をつがえて異世界の泥棒女子に狙いを定めてる。


 「では」


 その一言を残して、彼女は思いっきり手にした弓を引き絞る。


 「ひぃい!」


 そんな悲鳴を上げて、お宝ティンはんが跳び退いた。でも恐怖のせいか筋肉がガッチガチみたいで5メートルも跳んでない。

 しかも着地と同時に、コケた。危ないって。


 「射よ」

 「はっ」


 そんな短いやりとりと共に、黒鉄くろがねの矢は巨乳地下アイドルに向かって放たれてしまったんだ。

お読み頂きありがとうございました。


厳しい御批評・御感想、そして御指摘、お待ちしております。

(できるならばブクマ、ポイントも)


今後とも宜しくお願い致します。

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