Kaleidoscope、枯れ井戸(かれいど)すこ~~プッ! 第18話
こんな広い空間を埋め尽くすような重力波動、初めてだ。余りに強烈で、立ってるのも一苦労だよ。
「おい、ありゃぁ……」
棗のオッサンの声と共に収まった重力の震動。イケメンさんが指さしてた方角に、俺も目を向ける。
「あ、あれって確か……」
石でできた真ん中辺りが太くなる円柱、が並んだ白い……そう、神殿。確か教科書で見たような気が。
「パルテノン神殿やろ?」
それ、それだよ。ティンはん、ありがとう。
「クソガキ。歴史とか地理とか、めっちゃ点低いやろ? 赤点確実ちゃうんか?」
う、言われたくないけど。中学時代から社会科系は苦手なんだよ、俺。
「んなモン、その体育会しか興味なさげな体ぁ見りゃ判んだろぉがよ」
オッサン! 失礼にも程が有るぞ。
「まぁな、細マッチョちゅうヤツやて、さっき判ったけどな」
あれだけ何回も抱きしめられたら気付かれるか。まぁ、こっちも良い思いってヤツは、一応させてもらったけどさ。ってイカンイカン、お姉さんの事が第一。
「けどな、何でパルテノン神殿が、こんな砂漠に出んねん?」
「蜃気楼ってヤツかぁ?」
いやいやオッサン、違うって絶対。確かに何となくぼぅっとした感じはするけどさ。そこに在るって、漂ってくるよね、あれは。
そんな時に、ジレーザのイケメンさんが呟いた。
「あれは、まさか……セカンズドア?」
セカン……第2の扉って事?
「あ? 何だかなぁ、どっかでよぉ似たようなの聞いた気がすんだが」
「貴殿、知らんのか?」
「何をだぁ?」
うわっ。こう言う時に棗のオッサンに向ける視線って、みんな銀八さんと同じになるんだな。更にイケメンな分、凶悪だけど。
「この多元宇宙には……いや、知らんのなら別に良い」
あ、ジレーザのイケメンさん放棄した。まぁ仕方ないけど。俺が聞きたかったよ、その話を。
そんな会話の間に、神殿の前の空間が揺れて何か出てきた。
「おい、あれってよぉ。機械じゃねぇか?」
オッサンの言葉通り、白い神殿の前に、八本の足を持つ重機みたいなマシンが。いや、重機よりもお尻から糸を出しそうな、アレに似てる。
そんなのが30機以上も並んでいた。今にも動き出しそうだよ。
「何や、また出てきよったやん」
お宝ティンはんの言う通り、今度はキャタピラで移動する戦車の上に、腰から上だけゴリラみたいなロボットをくっつけたブサイクなのが現れた。
両肩に大砲でも積めば、少しはマシに見えそうなんだけど。
そんなのが全部で40機以上も? にしても……
形が、さっきのライオン少女を思い出すから嫌なんだよ、余計に。
「おぉっと、動き出しやがったじゃぁねぇかよ。一斉に」
「何か言うとるで、あれ。言葉やろ?」
「たぁ思うがよ、翻訳できねぇ」
「ウチのも、や。どこの言語やねん」
確かにマシン群は何かをスピーカーで流しながら、化け物どもの方に向かって行く。
けど、翻訳?
「ボウズよぉ、オレ様はオメェの1500番宇宙たぁ違う所から来たんだぜぇ。それもかなり遠くからだぁな。そのまんまで言葉通じると思うかよ?」
え? 今まで考えた事も無かったよ、俺。最初に出会った時から同じ日本人だからって、普通に話しできてたと思ってた。
「ホンマ、あほ丸出しやな。クソガキは」
お宝ティンはんの視線が痛い。完全に見下してるよね、俺の事。イケメンさんは目を伏せて、俺の方を見ないし。
「ちゃう世界から来たモンが、同じ訳無いやろ? さっきも言うた通りウチの筋肉、ラバー繊維やで。体の造りから違てるやん」
そう言いつつ、ティンはんは自分の首筋を撫でた。
「え? 何それ」
今まで見えて無かった首輪状の物が。
「これで互いの言葉を翻訳しあってんねん。これ外したら多分、さっぱりやで。クソガキ」
「まぁな。オレ様も似たようなモン使ってるがよぉ」
割り込んできたオッサンは補聴器みたいな形の機械を耳の後ろに付けていた。
「んだがなぁ、全く判んねぇんだぁなぁ、あれがよぉ」
遠くを通り過ぎて行くロボット軍団を指差して、棗のオッサンはボヤく。
「ホムンクルスどもが増え過ぎた、半数以下に削除せよ。だ、そうだ」
ぼそっと。本当に、ぼそっとジレーザのイケメンさんが呟いた。
「何やて! お前、あれ聞き取れるんかい」
「マジかよぉ……」
何か凄いぞ、この人。そんな俺の視線に気付いたのか、ジレーザのイケメンさんが前髪に付いていた砂をはたくと同時に、首から耳にかけて二人とは明らかに違う重厚なメカが垣間見えた。
「ウチらの使てるモンと全く違てるやん、それ」
もしかしてイケメンさん、俺の為にわざわざ見せてくれた? 一瞬だけで、すぐに消えたからね。
「何でぇ、そりゃ。軍事用だろうが。流石、王家御用達は違うぜぇ」
凄い、やっぱイケメンさんは貴族だったのか。何か憧れの眼差しを向けてしまった、俺。
「我らジレーザは王家直属では無いが……まぁ、それは良いか。問題は、あの機械群の所属だな」
どういう事?
多分、三人とも同じ顔でロシア貴族のイケメンさんを見たと思う。
「奴らの使っているのはゲール語だ」
「んだ? そいつぁ」
「知らんわ、そんなん」
俺も同じなので言葉が出てこない。鉄の刃と呼ばれた人は顎に手を当てて、考えながら話しだした。
イケメンだと何やっても決まるなぁ。
「ゲール語を公用語にしている世界は今のところ無い。1580番宇宙の軍事機密に関わる所以外は」
最後の一言で、オッサンもティンはんも文字通り凍り付いたんだ。
ちなみに俺は判らないので、ポカンと。マヌケ面を晒してたと思う。
「ウソやん。1580番言うたら、125ヌクレオチド連合の……」
「あぁ、イーアァウーの盟主だぁなぁ」
125ヌクレオチド、前に聞いたような気がする。確か、オッサンが銀八さんと話してた時だよ、絶対。
「そういう事だ。つまり、ここは連合の支配下にある場所。深読みすれば生体兵器の開発、更には新型兵器の実験場なのかも知れん」
「それて、めっちゃヤバイやん」
「平和第一の通商連合だぁ? 裏じゃ軍事大国たぁな、大嘘八百じゃぁねぇか……」
お宝ティンはんの顔が心なし青ざめて見える。オッサンは苦虫噛みつぶしたって感じの表情で通り過ぎていく機械を見てる。
その時、機械群のキャタピラの騒音をかき消すかのように、ライオンの雄叫びが轟いた。
「あれって、まさか」
「牝獅子お嬢、やる気だぁな」
砂漠の空に響き渡る咆哮を合図に、化け物どもの群れが一斉に動き出す。
「ロボ軍迎え撃つつもりや無いの?」
おそらくティンはんの読みは正しい。
ライオン少女を取り囲んでいた化け物ども、イケメンさんが言うホムンクルスどもが一斉に立ち上がった。
「数だけは優ってるがよぉ」
オッサンの言う事も判る。あれだけ倒し続けたんだから。でも、今回は違った。
「奴ら、統率が取れている。指揮官が居るような動きに変わったな」
ロシア貴族の見立て通り、オッサン相手にしていた時と全く違う陣形ってヤツ? を展開しながらロボットどもとぶつかり合う。
怪獣対ロボット、まるで映画「パラダイス・リム」みたいな激戦が目の前で展開していく。しかも、何だか化け物どもの方が押してるみたいだ。
「おい、また何か出てくんじゃぁねぇか?」
パルテノン神殿の前の空間がまた揺らぎ始めた。今度のは今までと比べ物にならないくらいデカい。
「完成していたのか……RXー87tD」
小さな呟きが、鋭い眼差しになったイケメンさんから漏れた。
「あ、あれて……」
隣でティンはんが息を呑むのが判った。
今、神殿の前で天に向かって咆吼しているのは、翼の無いドラゴンを思わせる巨大メカ。ものすごく不吉な感じが漆黒の全身から漂って来る。
「これは……厄介な事になったな。最重要機密に触れてしまったようだ」
ジレーザのイケメンさんの声が重い。
「我々は間違いなく招かれざる客だ、奴らが我々に気付く前に帰還する事を提案する」
言われなくても、そう言葉にする前に、俺はティンはんの方を向いた。多分、必死の形相ってヤツで。
「言われた通りに動かしや、クソガキ!」
巨乳地下アイドルの表情も泣き出しそう。それくらいドラゴン形態のロボは凶悪無比なんだ。
「急げ! 奴が……」
ロシア貴族のセリフが終わらない内に、凄まじい光が。
「あの野郎ぉ! 火球を……」
オッサンの言葉も途切れた。あの井戸の地下で見たのと同じような光景が、俺の目の前で再現される。
ベタな感じだけど、メカドラゴンの口から発射された火の玉が、木の巨人を三角牛を、その他諸々の化け物どもを飲み込んで炸裂したんだ。
しかも自軍のロボット軍団も同時に壊滅、敵味方関係無しなのか?
「くそっ! ほぼ全滅かよ? 一撃で」
棗のオッサンの言う通り、あれだけ居たホムンクルスが数える程に。
「あれは……失踪中の、ミューラー公爵令嬢、か?」
ほとんど全てが消え去った焦げた砂漠に、ライオン少女のみが立っていた。化け物どもは彼女の盾になって消滅したんだ。それを見たジレーザさんが小さく呟く。
あ、いつの間にかアニメで見たターゲットスコープみたいな物が、ロシア貴族の片目に。
「こら、よそ見せんと、手ぇ動かし! このクソガキ!」
お宝ティンはんに叱咤されて、俺はひたすら言われるままに卵をいじくる。実は何やってんだか、よく判らないんだけど。
「奴がこちらに気付く前に、動かせるか?」
「今やってるやん! 気ぃ散るし」
「あのプラズマ兵器は防げん、急げ」
やってますって、イケメンさん。確かに、あんなの食らったら終わりだって。
「手遅れかも知れねぇぜぇ。ヤロォ、こっち見てやがる」
「我々はジャミング機構が有るが、その少年の姿は奴のモニターに写っているはずだ。まともにな」
え? ジャミングって……俺だけ晒し者な訳? 嘘だろ?
「よっしゃ! 入力完了や。あ、待ちぃや、そこプラス12。そんで、ええわ」
お宝ティンはんが頷くのと同時に、卵が光りだす。あの声が流れた。
「帰還コード確認。座標入力、確認。コレヨリ指定座標ニ帰還イタシマス」
そこにオッサンとイケメンさんの声が連なる。切羽詰まった感じが冷や汗を噴き出させるよ。
「ヤロォ、口開けやがった!」
「火球が形成され始めた、まだか?」
「防御壁ヲ展開イタシマス」
俺達6人の周りに、あの輝く何重にも見える壁のような物が張り巡らされて行く。光が乱舞して、まるで万華鏡の中に居るみたいだ。
「閉鎖空間、完成イタシマシタ」
「行けるで! カウントダウン開始や」
巨乳地下アイドルの言葉通り、卵が数を数え始めた。
「ドラゴンが……」
棗のオッサンの声に、振り向く俺の目に、ドラゴンメカが撃ち出した火球が迫り来るのが見える。
「当たる!」
俺自身が絶叫した、その瞬間。卵がゼロと告げた。
光り輝く渦の中、俺達の意識は一気に暗転してしまったんだ。
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