Kaleidoscope、枯れ井戸(かれいど)すこ~~プッ! 第17話
化物どもが、あのライオン少女の周りに集まって行ったおかげで、我が友二人が寝かせれてる砂丘は今、平穏無事だった。
空中で器用にくるくると何回転かして、巨乳地下アイドルは砂丘の真上あたりで降りる準備に入る。
「クソガキ、衝撃に備えや」
「え?」
「結構、来るで。ほな!」
「えぇ!」
短いやりとりが終わらない内に、俺を抱き締めたままお宝ティンはんが今度は足から、砂丘の天辺に突っ込んだ。
初めて俺の間の前に降り立った時の、重力を感じさせない軽やかな着地は何だったんだ? と、言いたくなる。
さっき見たオッサンの一撃と同じく、サラサラの砂漠の砂が舞い上がり、俺はまた砂まみれに。
「はた迷惑な奴だな」
同じく砂の上に座り込んでいたジレーザのイケメンさんも大量の砂を被っていた。
「うっさいわ! 無理重ねて、へばってねんで」
「確かに、その内出血は異常だ。重力干渉も出来まいな」
重力干渉? もしかして、その力で軽々と? じゃあ今は……
ボロボロになった黒いトレーナーの太ももから下、巨乳地下アイドルのお御足が丸出し。 所々、紫色や青黒くなってるのは、全て俺のせいなんだ。俺を助けようと何度も無理してくれたせい。
それを口にした途端、またティンはんの平手打ちが飛んできた。なぜ?
「要らん事、言わんでええねん。このクソガキ」
「犯罪者の善行を否定する気は無いが」
とりあえず。そう言ってイケメンさんは軍服の内側から取り出した物を、放り投げる。
「ペットボトル?」
俺の声に反応するように、身構えていた巨乳地下アイドルは両手で掴み取った。あ、喉が鳴ったね、今。
「の、飲んでも……ええのんか?」
「好きにしろ」
「ほな、遠慮なんかしぃーひんさかい」
500ミリリットルのペットボトルを一気飲みして、お宝ティンはんは笑顔を取り戻す。
同時に、さっきまでの痛ましいお御足から嘘のように内出血が消えた。
「水分補給完了や!」
「え? 治ったの? ティンはん」
「その者の出自を知っていれば、驚く事でも無いのだが」
「お前らと違て、このクソガキら1500番宇宙の連中は人情を知っとんのや」
ティンはん、今1500番宇宙って言ったね。やっぱり君も……。
「確かに、ウチはお前ら1500番宇宙のモンやない」
ちょっと目をそらしながら、巨乳地下アイドルは口を開いた。
関節を外し、ゴムやバネのように筋肉を縮めたり伸ばしたりの反動で跳ぶ。それがティンはんの特技らしい。
「筋肉かてお前らと違うてラバー繊維、まぁゴムやな、ウチら。1405番宇宙のモンは、みんな」
あ、やっぱり。多元宇宙の他の世界から来た人だったんだ、お宝ティンはんも。
そんな思いに耽っていたら、ジレーザのイケメンさんの声が。
「流石に治りが早いな、ゴム製カエル女」
「誰がや! お前かて鋼鉄カマキリ男やないかい」
また不毛な会話を繰り返す。ティンはん、まずお礼を言おうよ。
「まぁ、そやな。おおきに」
「どう致しまして」
飾らず、さらっと返した。イケメンさんロシア貴族? 本気でそう思ってしまいそうだ。
「1405番宇宙と違い、ここは水分が極度に少ない。よくあれだけ酷使できたものだ」
「あ? 卵、無かったら帰れんやろ」
「ほう。得た時点で一人、逃げられたと思うが?」
「帰るなら、みんなで帰るわ! 見捨てたりせぇへん! お前もな」
あれ? 聞いた事が有る気がする、似たようなセリフ。
砂の上に座り込んだままロシアのイケメンさんは肩をすくめて、俺の方を見た。いやいや、ここで俺を見ても……じゃないな。俺の抱えてる卵を見てるんだろうな。
ティンはんの方を見ると、心なしか頬が赤いような気が。自分のセリフに照れたのかな、可愛いとこ有るよな、って思う。
「何や、こっちジロジロ見んな! クソガキの分際で」
何だかヒドイ事言われてるぞ、俺。イケメンさんはそんな俺達を見て笑ってる。最初のヤバい雰囲気は今、全く無いね。
「どのみち、我が国の秘宝は必ず取り戻す。それは肝に銘じておけ」
あっけらかんと笑いながら、ジレーザのイケメンさんは言う。やっぱり鉄の刃とか言われるだけあって、筋金入りって言うか折れないね、全く。
「これはウチのモンや」
折角ほのぼのとした雰囲気さえ漂いだしていたのに、ナゼこうなる?
「あ、あのさ。長い間、借りてたから御礼を言って返却すれば……」
「アホかぁ! 誰が返すかいな。これは絶対、ウチのモンなんや! どこまでも逃げ切ったるて、ジレーザがナンボのもんや!」
俺のささやかな提案は、瞬時に却下されてしまったよ。怒りの視線をぶつけてくるお宝ティンはんに、鉄の刃さんが冷酷な口調で告げた。
「いかに優れた逃げ足でも、面が割れた以上、逃げ場は無い」
「それや! 何でウチが卵持ってるて、判ったんや。ウチの正体知っとる奴が1500番宇宙に居るはず無い!」
「我ら1221番宇宙の情報網を舐めてもらっては困るな。まぁ逃げ足に関しては見事だと褒めておられたが」
「あ? 誰が褒めたて?」
「秋葉原の劇場でお会いしただろう? 我らジレーザの主に」
イケメンさんのその言葉に、ティンはんは凍りついた。それから絶叫。最後にうずくまり頭を抱えて呟きだしたんだ。
「嘘やろ……あれ、ストリチナヤ本人やったんか。マジで?」
「発音が悪いな。スタリーチナヤとお呼びしろ」
スタ……またロシア語かな、何の事だか全く判らないよ。本人って事は人の話、だよね。多分。
お宝ティンはんは完全に意気消沈って感じになり、殺伐とした雰囲気さえ漂いだした途端、後ろから怒声が。
「くぉら! オレ様を置き去りにしやがってぇ!」
あ、忘れてた、オッサンの事。あの黒い大鎌を担いで、革ジャン男は砂丘を駆け上がって来る。
「オメェらだけで、すっ飛んで行きやがって……んだぁ? コイツ、ぶっ壊れっちまってんじゃねぇかぁ?」
やっぱオッサンもそう思う? って俺が言う前にイケメンさんが説明してくれた。
「貴殿と出会った秋葉原、覚えていよう?」
「足ぶった切られたんでなぁ、忘れられやしねぇぜ」
「しつこい奴だな。その時にだ、その広域窃盗犯81号めも出会っていたのだ」
「誰にでぇ?」
オッサンの問いかけに、顔を上げたお宝ティンはんが怯えた瞳で答える。
「どないしょ……ストリチナヤに面が割れてしもた……」
「んだとぉ? ストリチ……な、んだぁとぉ? 地獄の受付嬢が来てんのかよぉ!」
そう叫んで、オッサンは周りを見回す。イケメンさんは肩をすくめて首を振った。
「こんな所に居られるはずが無かろう? それよりもだ、姫様への無礼、聞き捨てならんな」
「あ? んならよぉ、切り刻むタツマキ女ってぇ言い直してもイイぜぇ」
「最早、許せんな」
最初に出会った時の数倍、とんでもなくヤバい雰囲気を醸し出しつつ、ジレーザのイケメンさんがゆっくりと立ち上がる。
「ほぉ、やろうってかよ?」
やっと協力し合える関係になったのに、これじゃ振り出しに戻っちゃったじゃないか。せっかく卵を取り戻して、みんな揃ったって言うのに。
「いい加減にしてくれよ!」
俺は思わず怒鳴っていた。
「やっと帰れる。そう思ったのに、何で今から!」
「ボウズ……」
「ここに卵が有るんだよ。みんな、ここに居るんだよ。化け物どもは、今ここに居ない、帰るチャンスじゃないのかよ!」
叫び続ける俺に、オッサンは珍しく呆然としている。イケメンさんがゆっくりと、俺に近付いてきた。
ちょい身構えてしまう俺。でもジレーザの刃さんは穏やかに切り出す。
「確かに、君の言う通りだ」
それから棗のオッサンの方を向いた。
「貴殿との決着は、1500番宇宙に戻ってからだ。それで異存あるまい?」
「あぁ、構わねぇぜぇ。とりあえずよぉ、こいつぁ返すぜぇ」
あの黒い大鎌を突き出しながら、革ジャン男はバツが悪そうにイケメンさんから視線を逸らす。
「捨ててくれば良かろう、邪魔になるだけだろうに」
「オメェの血液中の鉄分かき集めて、こいつぁ出来てんだろうが。返さなけりゃよぉ、寝覚めが悪いぜぇ」
え? そうなのか。そんな事したら呼吸だってままならないだろうに。昔読んだ漫画でそう言うの覚えたんだけど。
「律儀な奴だ」
ロシア貴族は苦笑いと共に、黒い大鎌を受け取った。途端に巨大な鎌がイケメンさんの手の平に消えていく。何か凄い、CG映画見てるみたいだ。
「放っとけ!」
頭を掻きながらオッサンは、そう口にすると、しゃがみこんだままの巨乳地下アイドルを立たせる。
「今は休戦だぁな。テメェも協力しやがれ、広域窃盗犯81号よぉ」
「うっさいわ! このクソガキしか今は使えんのや、あの卵!」
ティンはんが最初と同じ凄い目で、俺を睨んでる。こっちも振り出しかな。
「ならば貴様が、この少年に使用方法を伝授しろ。それで彼にも動かせるはずだ」
ジレーザのイケメンさんの一言に、お宝ティンはんはキョトンって感じの表情になった。
「あ……その手が有ったわ」
「何でぇ! ならよぉ、さっさと……」
オッサンが言いかけた瞬間、ものすごい重力波が砂漠に広がった。
「何や、いったい……」
「これは……何か来る!」
イケメンさんの指さす先、あの化け物どもが集まる場所と砂丘を挟んで反対側。急激に今、そこが蜃気楼のように歪み始めたんだ。
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