Kaleidoscope、枯れ井戸(かれいど)すこ~~プッ! 第16話
砂漠に似合わないって点では、メスライオンに跨る少女も、暑苦しいまでの革ジャンを着込んだままの棗のオッサンも変わらない気がする。
そんな両者が今、向き合い睨み合っていた。
「何でぇ。あのジト目は、このお嬢かよ」
あ、意外。オッサン気付いた?
「全然、オレ様の事ぁ見てねぇなぁ。おいボウズ、オメェの知り合いかよ?」
はい? んな訳無いだろ。って聞くまでも無い事だよね。そう思っていたら後ろから、お宝ティンはんの声が。
「やっぱり。クソガキの知り合いかいな」
「いや、違うって。こんな所で知り合い居る訳ないって」
「ま、普通はな。けどよぉ、オメェは巻き込まれ型だかんなぁ」
何だよ、寄って集って。まるで俺が悪いみたいじゃないかよ。
そう口にしたら前後から言葉の集中砲火。
「そら、お前がこんな砂漠に飛ばしたんやろが、このクソガキ」
「あの卵、オメェが動かしたんだよなぁ? ボウズよぉ」
いや、確かに、そうなんだけど。
俺たち三人の緊張感の全く無い会話に、目の前の猛獣が焦れたように吠えた。
同時にメスライオンの背中に乗った少女の眼差しが、また変わった。
「オレ様ぁ邪魔者ってかよ? 傷付くねぇ、このお嬢よぉ」
オッサンの言うとおりだ。確かに彼女の瞳は、さっきと違う感情に揺れている。文字通りオッサン邪魔って。
それに応じるかの様にメスライオンが、再び咆哮する。
「なぁ、お嬢。そいつから降りちゃくれねぇか? お前さんこそ邪魔なんだがよ、オレ様にとっちゃ」
一応、ライオンの背中の少女の事は気にしてるみたいだ。こう言うトコ、実に棗のオッサンらしい。
でもそれを全く気に止める事も無く、メスライオンはオッサンに飛びかかる。黒い大鎌が一閃して、危険な猛獣は後ろに。
さっきの、砂漠の砂すら切り裂いた風を放ったのが目の前の革ジャン男だと、ライオンは気付いているのか?
更に、少女は絶妙なバランス感覚を持っているのか、猛獣の背中から落っこちる気配すら無い。
ただ怒りをみなぎらせた眼差しを、こちらに向けて来るだけだった。
「ラチが開かねぇ」
イラついたように棗のオッサンが口を開く。同時に大鎌を振り回した。
避けて下がりつつ、大振りの後の僅かな隙を突いて獰猛な肉食獣の顎が、革ジャン男に迫る。ヤバいよ!
「うぜぇ!」
器用に鎌を半回転させ、オッサンは突っ込んでくる牙に向かって柄の部分を水平に突き出した。
メスライオンは大鎌の柄に噛み付く事になる。やったね、オッサン。猛獣の危険な顎を塞いだよ。
そう思った途端、俺の頭の上から巨乳地下アイドルの罵声が。
「何やってんねん、おっさん! 前足なめとんのか? 猫パンチ来るで!」
ティンはんの言葉が引き金になったのか、大鎌の柄をくわえたまま後ろ足で立ち上がろうとするライオン。
「な事ぁ、百も承知だぁ!」
相手に合わせて鎌の柄を押し上げる棗のオッサン、メスライオンは空を見上げる格好に成った。
革ジャン男は一気に鎌を突き放す。凶暴な野獣の無防備な腹が、俺達の前に晒された。
「ハッ!」
裂帛の気合ってヤツがオッサンから発せられる。同時に、踏み降ろされた足が地響きを生み出し、その足元を中心に砂が噴水の如く吹き上がった。
突き出される拳がメスライオンの腹に向かって伸びていく。
だけど敵だって、やられるのを待っては居なかった。
「危ない、オッサン!」
思わず叫ぶ俺。ライオンはその状態からでも右手、いや右前足を強引に振り下ろす。そこには棗のオッサンの頭が。
凶悪な爪を避けてバランスを崩しながらも、1398番宇宙の時保琢磨は強烈な一撃を、敵の無防備な腹部に打ち込んだ。
どちらもそのままの姿勢で動かない。硬直したまま流れる時間。
俺は固唾ってヤツを音を立てて飲み込んだ。途端に響くオッサンの声。
「体制崩れちまったぁ、クソッタレ!」
折角の名シーンのはずが台無しだろ、1398番宇宙の俺こと棗のオッサン。
確かに。まぁ敵の攻撃を避けた、かなりバランスの悪いポーズでの一撃だったけどね。
「致命傷どころかよぉ、気絶もさせてねぇやな。最低だぜぇ」
ボヤきながらオッサンは、ゆっくりとメスライオンから離れる。振り下ろした右前足を追うように凶悪な猛獣は斜め前に向かって倒れ込んだ。
咳き込むライオンを俺、初めて見た。その後には猛獣の嘔吐シーン。珍しいの連続。だけど、そんな事どうでもよかった。
俺の目の前には、信じられない光景が。
「何やねん、くっついとる?」
頭の上からお宝ティンはんの指摘が。無言で俺は、うなずくしか無い。
「そうかよ。降りたくても降りる事ぁ出来なかったってかよ、お嬢」
倒れたメスライオンの背に跨っていた少女のロングスカートが捲れ上がって今、猛獣の腰の部分が明らかに。
その腰から俺を睨みつけていた彼女のウエストが生えていた。
「お嬢よぉ。アンタ、一身同体なんだな。その牝獅子とよぉ」
久々に聴く棗のオッサンの声音。以前、ニセ坊主事件の時に透明になる別世界の俺と出会った時の事を思い出した。
本当に気の毒だと思う時、オッサンはこんな声で語りかけるんだって事を。
その声に導かれるように、少女が頭を振りながら目覚める。
スカートが捲れて自分のお腹とライオンの腰が繋がっているのが、俺達の目に晒されている事に気付き、彼女は慌てて衣服の乱れを直した。
だが、すでに見られていた事を悟ると、彼女は怒りと共にライオンごと立ち上がる。そこで俺と目があった。
「な、何で?」
俺を見つめたまま、少女は頬を真っ赤に染めて次第に瞳を潤ませ、ついにすすり泣き始める。
「ボウズよぉ、オメェに見られたのが、よっぽど嫌だったらしいぜぇ」
そんな事言われても、理由が判らない。なぜ俺なんだよ?
考えに耽りそうになる俺を、オッサンの言葉が呼び戻した。
「ヤベェな、奴らが集まってきやがったぜぇ。囲まれちまった」
言われるまま周りを見渡すと、確かに化け物どもが俺達を取り囲んでいる。
けど奴らは俺達を無視して、ライオンの背ですすり泣く中学生くらいの少女の元に集まりだしたんだ。
まるで慰めるかのように手足付きの魚どもが、鳥女達が、更には木の巨人や三角牛までもが、彼女を中心に円形に集う。
「まぁるで王女様だぁな、このお嬢よぉ」
感嘆符が付いていそうなオッサンのセリフに俺も同感だよ。まるでキマイラ軍団の女主だね、ヲタ平には悪いけど。
不思議な静寂が砂漠の一角に生まれた。
「今がチャンスや、跳ぶで。しっかり持っとりや、クソガキ」
頭の上から俺に、あの卵を渡してお宝ティンはんは耳元でそう囁く。
そしてまた、後ろから俺をしっかりと抱きしめた。あぁ密着、圧が凄過ぎ。
とか思った瞬間、全てが一気に遠のく。
「おっさん、しっかり戻って来ぃや!」
「あぁ! テメェらオレ様を放ったらかしに……」
棗のオッサンの怒号も、一瞬でボリュームが小さくなって消えた。
俺と巨乳地下アイドルはイケメンさんと我が友二人が待つ丘に向かって、とんでもない距離をジャンプする。
遥かな高みから見下ろす光景は、壮絶の一言。ライオン少女を中心に、化け物どもが円陣を組んでいるような状態になっていた。
「やっぱり彼女、王女様なのかな……」
彼女の醸し出す、何とも言えない気品のような感じは確かに、どこかの国の王女と言われても納得してしまう物だった。
「気になるんか?」
何となく機嫌悪そうなティンはんの声。何でだよ、人の感想にツッコミ入れないで欲しいよ、まったく。
「あんなんがエエのんか? お子ちゃまやな、クソガキは」
はいはい。もう何とでも言って下さい。クソガキでいいです。
とりあえず、危機を脱出できたのはお宝ティンはんのおかげだからね。お礼はちゃんと言わなくっちゃ。
「何、今更」
そう言いながら、いきなり機嫌良くなったみたい。かなり単純だぞ、この巨乳地下アイドル。やっぱり悪い奴じゃない。
何とかジレーザのイケメンさんとも和解して欲しいな。そう思う内に俺達は、そのイケメンさんが居る砂丘に近付いていたんだ。
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