Kaleidoscope、枯れ井戸(かれいど)すこ~~プッ! 第9話
本編再開です。
え? ホントに、ここの主が帰ってきた?
しかも多分、十代後半の女の子、かな? それもバリバリの関西弁。誰? あんた。
そう思う俺に反応したかのように、ヲタ平が奇声を上げた。
「あぁ! その声!」
そう言った途端、倍以上のデカい声でヲタ平の嬌声は、かき消されてしまう。
「眩し! ライト消さんかい!」
「はい! すいません!」
圧倒されたスケコマ師が間髪入れずに、ライトを消しながら謝る。でも、こう言う時のヲタ平は信じられないくらい、しつこい。
「その声! 絶対ぃ雨麗ちゃんだよねぇ!」
はぁ? ユーリー、ちゃん?
「馬鹿かよ、こんな地下にアイドルが居る訳ないだろ? あの子は、確かに地下アイドルかも知れんけど」
スケコマ師の容赦ない言葉がヲタ平に降り注ぐ。身長差で得してるね、スケコマ師。
「でもでもぉ、この声、絶対ぃ……」
「あぁ、もう! 鬱陶しいんや、お前ら!」
しつこいヲタ平にキレた黒ずくめのトレーナーの女の子が、いきなりお公家面の額のライトをもぎ取って投げ捨てた。
ガラスの割れる音と共に、枯れ井戸の地下の部屋は真っ暗に。ただ、あの卵だけが淡い光を灯して、何かキレイだ。
「怖ぃ……こんなのぉ、雨麗ちゃんじゃないよぉ」
「やいやい言ぃな! 人の家に無断で入り込んどいて、五月蝿いんや!」
確かに怖い、ヲタ平の言う通り。でも、ここが本当に彼女の家なら怒るのも当然かも。
「お前ら、空き巣か? 泥棒なんか?」
「泥棒は、オメェだろうがよ?」
暗闇の中、新しい男の声が。って、この声、オッサン?
「しつこい奴ちゃなぁ。サツのくせに、人の家に無断で! お前、何様や!」
「あ? オメェが言ったろうがよ、警察だなぁ、オレ様はよぉ」
間違いない。この人、別世界の俺、1398番宇宙の時保琢磨だよ。
幸い、部屋の中が真っ暗で俺が居る事に気付いてないみたいだ。判ってたら絶対、何か言われてるよ。ロクでも無い事。
「オメェら手下じゃなさそうだぁな。ならよぉ、そこで大人しくしてな。コイツ捕まえたらオレ様出て行くからよぉ」
「何、好き勝手ぬかしてんねん、誰を捕まえるて?」
結構、この女の子は獰猛だよ。オッサン相手に一歩も引かない。だけど、直後に聞こえた声に、彼女は小さな悲鳴を上げたんだ。
「決まっていると思うが?」
第三の人物登場。いったい誰?
「あの野郎、相手してろっつったのによぉ」
「彼は賢明だったぞ、私の邪魔をせずに通した」
「覚えてろよぉ、ガス人間8号めぇ」
え? 銀八っあんも来てるのか?
「さて、退いてもらおうか。そ奴は我々が追ってきた。ここで取り逃がす訳には、いかないのでね」
「殺し屋に渡す訳にゃ行かねぇなぁ」
オッサン、殺し屋って。そう思ったのは俺だけじゃない、ヲタ平もスケコマ師も小さな声で、その単語を呟いてる。
「衛視、だ。何度も言わせるな」
イラついたって感じが、第三の登場人物から漂う。なんかヤバい感じもね。
そう思ったのは、黒ずくめのトレーナーの女性も同じだったみたい。
オッサンとヤバい男の人が睨み合いになった瞬間に、彼女が動いた。
「ほな、さいなら!」
関西弁の彼女は、あの卵に飛び付いて抱え込むと、部屋から飛び出そうとする。
「逃がさぬ」
短い、けど怒りのこもったセリフと共に、ヤバい感じの男の人が出口を塞いだ。
暗闇に慣れた目に、シルエットだけが移動する。女の子は逃げようと後ろに飛んで、俺にぶつかった。
「きゃあ!」
可愛い悲鳴と共に、彼女が俺の上に倒れ込んでくる。何、この凄いボリューム。
こう言うのを、とんでもなく肉感的って言うのか?
「こらぁ! どこ触ってんねん! エッチ」
違う! どこも触ってない。君が俺の上で動くからだよ。それにしても、もの凄い巨乳。俺までヤバい、別の意味で。
「あ、しもた!」
彼女の手から落ちた卵が地面を転がる。それを追って最後に入ってきた男の人が、そしてオッサンが動く。
「待たんかい!」
一瞬早く、彼女の手が卵に触れた。すくい上げるように卵を弾く。
宙を舞った卵が、俺めがけて飛んでくる。淡い光がきれい、なんて言ってられない。
ラグビーの選手みたいに、俺は両手でキャッチした。つもりだったけど受けそこねて手の間で卵が踊る。
その途端に、息を吹き返したかのように卵が、さっきみたいな光を放ち始めた。
「座標入力、完了イタシマシタ。防御壁ヲ展開イタシマス」
「な、何でや! ウチまだ、なんもしてへんのに?」
黒ずくめのトレーナー女子が叫ぶのを合図に、さっきと同じく卵が七色に輝き始める。
「オメェ、ボウズじゃねぇか!」
「やべっ!」
輝く卵の光が、俺の顔を晒した。オッサンが気付いて怒鳴る。うわっ、面倒な事に。
「閉鎖空間、完成イタシマシタ」
卵の声と共に、部屋中が光に包まれていく。
ただ、さっきと違うのはモニターが現れる代わりに、何重にも見える壁のような物が部屋を取り囲んだって事。
まるで万華鏡のように、様々な色の光が重なり合う。その中で卵が告げた。
「多元宇宙移動、開始マデ残リ10秒。カウントダウン」
3、2、1、ゼロ!
その刹那、とんでもない重力波を感じた。いつもオッサンや銀八さんが消える時よりも、もっとずっと凶悪なヤツを。
そして全てが真っ白になるくらいの強烈な光に飲まれ、そこに居た俺達は一瞬、意識が遠のいてしまったんだ。
「移動、完了イタシマシタ」
卵のセリフで、俺は意識を取り戻す。ぼうっと突っ立ったままだったんだ、俺。
「どこだよ、ここ」
さっきまで居た、枯れ井戸の底の地下室とは全く違う。
真っ暗な狭い部屋と比べ物にならない、開放感。雲一つ無い、真っ青な空が頭の上に広がっていた。
「砂漠かぁ? いってぇ何で、んなとこに」
オッサンの声に、俺は足元を見た。サラサラと風に吹かれて、細かい砂が流れてる。
サハラ砂漠? そんな訳、無い。俺は初めて多元宇宙を移動したんだ、きっと。
そう思った途端、いきなり俺は胸ぐらを掴まれた。
「何でや! 何で、こんな訳クソ判らんトコに来てしもたんや!」
黒ずくめのトレーナー女子が、俺の首を絞めにかかる。
「ちょ、ちょ待って。俺にも判らない」
「喧し! それより、何で? お前が卵をいじれんねん!」
よこせ! そう叫んで巨乳の黒ずくめトレーナーが、俺の手から卵を奪っていった。
「げっ! マジか? 新規登録て……再起動せな、ウチ使えんって? そんなアホな!」
喚き散らした後、凄い表情で俺を睨む。
「お前、どないしてユーザー登録できたんや! こんな早うに! ウチが、どんだけ苦労して登録できた思てんねん!」
そんなの知らない。とは、とても言えない表情で俺は今、睨みつけられてる。そんな顔しなけりゃ結構カワイイのに。
あれ? どこかで会った? いや、でも見覚えが。
「いや、その、偶然って言うか……」
「ふざけんな!」
「ふざけているのは、どちらだ」
その声に、顔を引きつらせて巨乳女子が沈黙した。
女の子が怯えてる?
男たるもの盾とならねば。そう思い、関西弁で怒鳴っていた彼女の前に立って、声の主の方に俺は向き直る。
「え? イケメン?」
機嫌の悪そうなオッサンの隣に、今の声の主、最後に地下に降りてきた第三の人物が立っていた。
あの銀八さんが霞むくらいのイケメンが。
プラチナブロンドって言うヤツ? 淡い金髪が風に揺れてる。
翡翠だったっかな? 緑色の宝石みたいな目をして、とんでもなく整った顔。しかも痩せてて足が長い。
見た事も無いコスチューム、軍人ぽいんだけど、ダサくない。この人もきっと、多元宇宙のどこかの別世界の人だよ。
その隣で、ヲタ平とスケコマ師、我が友二人が気を失って倒れていた。
「それは盗まれた我が国の秘宝。貴様如き盗人が、何をふざけた事を」
そう言いながら、一歩前に出る軍服のイケメン。ヤバい雰囲気は変わらない、どころか増し増しだよ。
「ま、気持ちは判るがよぉ、殺されちゃぁな、警察の面子ってモンが立たねぇ」
オッサンがヤバいイケメンを説得してる。銀八さんが居たら、違和感満載ですって言いそう。
「秘宝さえ戻れば、広域窃盗犯81号は貴殿に、くれてやるさ」
「ほぉ、大盤振る舞いだぁな、ジレーザさんよぉ」
地霊座? 何だよ、それ。
「勝手に決めんなや! 誰がお前らなんかに捕まるかい!」
俺の真横で、あの巨乳トレーナー女子が吠えた。その声のせいか、我が友二人が目を覚ましたみたいだ、ようやく。
二人に駆け寄ろうとして、俺は足を止める。
「何だよ、あれ」
俺の声を聞きつけ、喚き続けていた黒ずくめのトレーナー女子が、同じ方向を見る。
「何やねん、あれ……」
俺と同じ感想だったらしい。俺と巨乳女子の表情を目にし、オッサンとヤバいイケメンも同じ方を見ようと振り向く。
振り向いたまま、二人とも同じセリフを口にした。
「何だ、あれは」
今、俺達に向かって大勢、駆け寄ってくるのが見える。どこから沸いたのか判らない、けど数え切れないほどの大群。
ただ、それが両手両足を振り回しながら走って来る、その姿が人間の大人サイズの、魚だったんだ。
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