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サンたくっ! ~異世界なんて隣町? 俺って、この複雑怪奇な多元宇宙で、3人目?~  作者: 星嶺
第5章 Kaleidoscope、枯れ井戸(かれいど)すこ~~プッ!
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Kaleidoscope、枯れ井戸(かれいど)すこ~~プッ! 第7話 幕間その1

幕間はサイドストーリー。


主人公の行動とほぼ同じ時間に、別の場所で別の登場人物達が織り成す物語です。それは主人公が紡ぎ出す本編へとつながって行く支流のような展開。


その為、外伝と同じく通常とは違う三人称形式となります。ご了承ください。

 夜半の林の中を、二人の男が歩いて行く。


 「んだって、夜中に男とだぁな! んな所を歩かにゃならんのだぁ!」

 「好きで歩いてる訳では有りませんよ、これも仕事です」

 「わぁってるよ!」


 ここは東京都、九品仏の浄真寺、紫雲楼と名付けられた仁王門横に続く奥沢城跡の碑の、その更に奥。


 「ところでよぉ。オメェ、あのボウズを病院に連れてったんだってなぁ」

 「耳が早いですね」

 「単独捜査権ってヤツをよぉ、もらいに行った時にな。んで、元気だったかよ? あのボウズはよぉ」

 「ええ。思った以上に丈夫ですよ、琢磨君」


 その名を耳にし、カマキリの顔のようなサングラスをかけ、この季節には不似合いな革ジャンを着た男は、口角を上げた。


 「琢磨君ねぇ、つい笑っちまうなぁ」

 「仕方有りませんよ。あくまでも、ここ1500番宇宙での時保琢磨は彼なんですから」

 「オレ様だってよぉ、1398番宇宙に帰りゃ、そうなるぜぇ」

 「1637番宇宙でなら、私も当然そうですよ」


 昨年の落ち葉が残ったままの、掃除もされていない林の中を歩きつつ、こんな所には不釣合いな程に涼しげな洗練されたジャケットを身に纏った青年は笑った。


 「多元宇宙での同一人物三人が、この1500番宇宙で顔を合わせてしまったんですから、ここは譲るべきでしょう」


 まぁな。そう言いつつ、皮ジャンの男は目的地に着いた事を相手に確認する。


 「ったく。井戸ってぇより、土饅頭に穴ボコが空いてるって感じだぁな」

 「ここを降りたら、他の多元宇宙の穴に繋がってるとか?」

 「な訳あるかぁ!」

 「冗談ですよ。ただ、ここで何度も異常現象が目撃されているのは事実です」


 カマキリの顔のようなサングラスを外して、もう5月も半ばを過ぎた季節に、革ジャンを着込んだ男は穴を覗き込む。


 「んだかよぉ、嫌な結界が張ってあんのを感じるぜぇ」

 「流石、剣と魔法の世界の住人ですね、棗さん」

 「んな危ねぇ世界に住んじゃ居ねぇって、何度も言ってんだろうがよ。こぉのガス人間8号がよぉ」


 そう言いながら、棗と呼ばれた男は振り向いて首をひねる。


 「何でぇ、その御大層な機械は?」

 「もしも、ここが本当に広域窃盗犯81号のアジトなら、それなりの準備が必要でしょう」

 「まぁ、そうなんだがよ。どっから、んなモン取り出したんでぇ? 銀八ぃ」

 「近くまで運んでもらってましたので」

 「ブルジョワってかよ?」

 「まさか、レンタルですよ、全て」


 棗と呼んだ男の方を見る事も無く、魚群探知機に似ているような機械を操作しつつ、ガス人間8号は涼しげな容貌を曇らせた。


 「確かに。単純なフォースフィールドでは有りませんね、これは。何重にも重なり合って複雑怪奇です」

 「だぁろ? で、レンタルって事ぁ自腹かよぉ銀八ぃ」

 「当然です。今月は厳しいですね」


 眉間にシワを寄せつつ答えたイケメンと呼ばれる類の男に、暑苦しいくらいの革ジャンを着込んだ棗は笑いかける。


 「ほっほぉ~、お坊ちゃんでも浪費家は、生活が苦しいってかよぉ」

 「誰がお坊ちゃんですか、違和感満載でしょうに。それよりも、この枯れ井戸ですが」

 「何でぇ、気になる事でも有んのかよ?」

 「ええ、どうも地層が、と言うか……井戸内部とその周辺で違うような」


 聞いた方は首を傾げていた。


 「どう言う事でぇ、そりゃ」

 「より正確に言えば、別の場所から転送でもしてこの地に設置したのか、そんな感じでしょうか」

 「もうちょい判り易く言えや、こぉのガス人間8号がよぉ」


 言われた方は涼やかな顔に、あからさまな落胆の表情を浮かべる。


 「まるで、別の所に有った井戸内部を丸ごと、この場所に持ってきて埋めたような。こう言えば判りますか?」

 「なるほどねぇ、そう言う事かよぉ。流石は銀八だぜぇ」


 再び、落胆丸出しの表情と共に嬉しくない。と言う呟きが、イケメンの口から漏れた。


 「気を取り直して言いますが、これは恐らく……」

 「多元宇宙の、どっかの野郎の仕業、ってぇより広域窃盗犯81号ってぇ野郎なんだろうがよ?」

 「間違い有りませんね。こんな事が出来るのは盗難届が出ている物の力でしょう」

 「ホントに有んのかよぉ? ロマノフの卵なんてなモンがよ」

 「正確にはロマノフ王朝の秘宝、トランスポーターエッグだそうですがね。それすらも本当の名前では無いはずですが」

 「1221番宇宙のロマノフだがなぁ。ってよぉ、本当の名前?」


 こんな林の中では似つかわしくない、涼やかな夏物ジャケットの青年は、真顔でうなづいた。


 「この1500番宇宙の、この国で言う都市伝説みたいな……聞いた事有りませんか?フィフスドアの名を」


 耳にした名前を小声で反芻してから、棗は首をひねる。


 「知らねぇなぁ」


 何度目かの落胆の表情と共に、銀八は首を振った。


 「聞いた私が馬鹿でした。とりあえずロマノフの卵で良いですよ」

 「何でぃ、小馬鹿にされてるみてぃじゃぁ無ぇかよ。で? それがどうした?」

 「それを中心に何層ものフォースフィールドを張り巡らせ、その内部を独立空間として多元宇宙間を移動する。それが可能な機械ですよ、棗さん」

 「乗り物だってぇ事かよ、そのフィフスドアってぇのは」


 近いかも。そう言いつつ、銀八と呼ばれる青年は操作中の機械に顔を寄せる。


 「まさか、今?」

 「どぉしたよ? 銀八ぃ」

 「井戸の中に生体反応、三人ですね」

 「一気に逮捕できんじゃねぇかよ。こいつぁチャンス到来ってぇヤツだぜぇ」


 革ジャンの二の腕で力こぶなど作りつつ、棗と呼ばれる男は立ち上がった。


 「待ってください、高エネルギー反応が。これは……卵が有りますよ、この枯れ井戸の地下に、必ず」

 「盗品も押収できるってかよ。一石二鳥ってぇのは、この事だぁな」

 「三人とも動いては居ません、卵の位置も変わらず、ですね」

 「んじゃぁ、行くか!」


 そう言って踏み出した瞬間、枯れ井戸から溢れた光が、林の中を照らし出す。

 様々な色に変わりながら、その光は余りの眩さに多元宇宙の別の世界からやって来た、二人の時康琢磨の視界すら奪っていった。

お読み頂きありがとうございました。


厳しい御批評・御感想、そして御指摘、お待ちしております。


今後とも宜しくお願い致します。

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『平行宇宙(パラレルワールド)は異世界満載?』
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