Kaleidoscope、枯れ井戸(かれいど)すこ~~プッ! 第6話
ヲタ平の言う多チャンネル一斉放送、が一番正しいんだろう。全てのモニターが全く違う風景を映し出してる。
ただ、多元宇宙実況チャンネル、が正解なんだろうな、多分。
「これってぇ、ドラゴンだよねぇ?」
一番近くのモニターを覗き込んで、ヲタ平こと平坂登は、歓喜の声を上げた。
ドラゴン、ラノベで市民権を得た最強の幻獣が今、編隊飛行中なんだよ。ヲタ平で無くても興奮するよね。
「もっと大きい画面で見たいよぉ」
確かに無限にモニターを並べる感じなんで、一個辺りの大きさはパソコンの15インチモニターくらい。
「確かに小さいなぁ」
俺のつぶやきに卵は即、反応する。
「一ツ、ニ絞ル事ハ可能デスガ」
「そうしてくれ、一個でいいよ。このドラゴンが飛んでるヤツ」
瞬時に、無数にあったモニターが消え、ヲタ平が見ていたのが壁一面に拡大された。
「すげぇな」
「これ、最高だよねぇ。最新のプロジェクションマッピングかなぁ?」
俺達の目の前の壁が一枚のモニターと化して、そこをさっきのドラゴンが横切っていく。
「でかっ!」
俺の身長と同じくらいのドラゴンの頭が、モニターいっぱいに。思わず叫んじゃったよ。
「うわ、こっち見たぞ!」
俺の叫びに応じたのか? ドラゴンの目が動く、本当にこっちを見たような感じで。
「あぁ、止まったぁ?」
空中で一回転してホバリング中の、さっきのドラゴンがこっちを向く。そして口を目一杯開いた。その口の中で燃え盛る炎が。
「ヤ、ヤバイってこれ!」
慌てふためく俺の目の前で、火の玉がドラゴンの口から吐き出され、こっちに飛んでくる! と思った瞬間、映像が切り替わった。
「え? ドラゴンは?」
ボケた声を出す俺の横で、へたりこんだスケコマ師が画面を指さす。
「どこだよ、これ。いきなり変わったぞ」
農民の方々が畑を耕してる向こうの道を今、一頭の馬が駆け抜けて行くところだった。
「戦国時代か?」
「よく判るな、スケコマ師」
「大河小説ドラマは毎年見てるぜ」
そっからかよ。とは思うが、ホントに好きなんだな、時代劇。
馬に乗ってるのは、まだ少年って感じ。
「なんだか高価そうな着物だな、どっかの若様かよ」
スケコマ師は、そう言うけどね。
「にしては、帯じゃなくて縄だろ、腰に巻いてるの。頭だって縄で結ってないか?」
「半袴に赤鞘の刀か……って、まさか?」
「何だよ、知り合い?」
笑う俺に、スケコマ師こと駒下恭介は真顔で告げる。
「織田信長じゃね?」
「え? いや、画面全体にでも拡大しないと確認できんでしょ?」
そう口にした途端、卵が応じた。承知致しましたってさ。
大画面いっぱいに、美少年と言っていい横顔が。美しい、のレベルだよね、この子。
「これ、女の子だ」
「んな馬鹿な。織田信長なんだろ?」
「いや、間違いない。俺が女性を見間違えるかよ」
う~ん。説得力有る一言、それだけの為に生まれてきたと自称してるだけの事は有るね。流石はスケコマ師。
「乙女信長って小説有ったなぁ」
スケコマ師が小説?
「何だよ、時代劇小説は必ず読むぜ」
お見それしました、って言ってる間に画面がまた変わった。お別れです、多元宇宙のどこか別世界の織田信長様。
そして今度は棍棒持った豚面の大男どもに、やたらSFっぽい甲冑の騎士団らしき男達が、巨大な剣で斬りかかって行く。
かと思えば、ホバークラフトかと思うような空中を浮かんで移動する、高級車とパトカーのデッドチェイスだったり。
あるいは嵐の荒野でぶつかり合う、白黒2体の巨大ロボットの剣戟シーンが映し出されたり。
全く違う映像が、次々に壁いっぱいのモニターに映し出されては消えて行く。
「今度は海賊船が、でっかいタコに襲われてる」
「クラーケンっての。時保はホント、そっち系に知識無いな」
「ゲームやらないからな、俺」
「ま、いいけど……おぉ!」
一つところを映してるのは、各1分前後なんだろう。次々に画面が切り替わっていくんだ。しかしヲタ平の声が、さっきからしない。
「スケコマ師、ヲタ平は?」
舞い踊る美人の人魚達に抱きつこうと、大画面に取り付く我が友が、面倒臭そうに地面を指差す。
「気、失ってる?」
「最初の、ドラゴンの後。直ぐな……あぁ」
画面から光が消え、卵がガイドツアーの終了を告げた。
「残念、もっと見ていたかった」
「最後のだけだろ」
そう言いつつ俺は、倒れたままのヲタ平こと平坂登を起こす。全然いいとこ見れなかったんだな、こいつ。
「起きろよ、ヲタ平。終わったぞ」
真っ暗に戻った井戸の底の部屋の中、スケコマ師の額のライトが点灯した。ありがたい事にケガはしてないみたいだ、ヲタ平。
「う~ん、ここはぁ、どこぉ?」
いやいや、君が連れてきたんでしょうが?
「あ? 頭打ったのかよヲタ平。井戸の地下だろ? しっかりしてくれ、超常現象研究サークルを部活に昇格させんだろ?」
スケコマ師、なぜかヤル気満々。あ、女の子三人の期待が掛かってるからね。
「ふぅ。思い出したよぉ」
「んじゃ、帰ろっか?」
努めて明るく、俺は二人に声をかけた。
「おいおい、まだ……」
動画撮影できてない。そう続けたい駒下を無視する形で、ちょい肥満気味お公家面は、あっさりと俺の提案を飲んだんだ。
「そだねぇ~。帰ろうかぁ」
「え? オーケーって?」
「ヲタ平、お前!」
驚く我ら二人に、元々細い目を更に細めてヲタ平は、ニタァって感じで笑う。
「プロジェクターの使用登録はぁ、トッキーがしてくれたじゃなぁい。だからぁ今からってぇ急がなくても良いんだよぉ」
プロジェクターじゃ無いんだけどね。
ってヲタ平、さっきはオーパーツとか言ってたくせに、いつの間にか常識の範囲内で物事を捉えてるぞ?
「今度はぁ、七色の光だけじゃなくてぇ、本物のプロジェックションマッピングをぉ見せれるしぃ」
だからプロジェクターじゃ無いって。
完全に普通の思考、どこが超常現象研究サークルなんだよ。
「あぁ、そうだぁ。ここから運び出そうよぉ。こんな地下室にぃ、置いとく事、無いじゃなぁい?」
「それもそうだな」
ウォナハイム社製? とか言いながらヲタ平は卵の重さを測ろうと下から手を回す。
「そんなにぃ重くないよぉ」
「あ、コンセント抜かなきゃな。コードはどこに伸びてんだ?」
プロジェクターじゃないから、そんな物どこにも、付いても伸びても無いって。
「無いよぉ」
「電池式か」
な訳、有るか! オッサンなら間髪入れずに怒鳴るんだろうな。
だいたい、どれだけの電気代がかかるんだ? 壁いっぱいの大画面投影って。
そう言えば、投影じゃなかったな。壁に画面が浮き上がってたような。
それにだよ、どこにあれを動かす電源が有るんだろ? エンジン搭載? せいぜいラクビーボールくらいの大きさの卵なんだよ。
疑問の連発で頭がパニックになりそうな俺を尻目に、二人がかりで多次元宇宙移動装置を持ち上げようとしてる。
「ちょ、ちょ待って!」
「何だよ時保」
「これって持ち主が居ないのか?」
二人はポカンとした顔を、互いのヘッドライトの明かりに照らしていた。
「だって、そうだろ? 井戸の地下に部屋作って板で扉も作って、この卵を板囲みで隠してたんだぜ」
「発掘品かもぉ」
「そうだぜ時保、奥沢城の遺跡から出たお宝かもな」
いやいや、これってどう考えても別世界の代物だろ? 壁をモニターと化して動画映す機械だよ? 普通じゃないだろ?
「さぁやちゃんに見せたいよねぇ、これ」
「我らが超常現象研究サークルの女子連中に見せたいじゃないか。時保、判るだろ?」
いや、判らないでも無いけどさ。そこは。
「けど、ここから持ち出すのは、やっぱヤバイって」
そう、もしも多次元宇宙の他の世界から来てる奴の物なら絶対、揉め事の種だって。
「こんな所にぃ隠してんだからぁ、犯罪の匂いがするのはぁ」
「まぁ確かだな」
「犯罪の匂いって、ならマズイの判るだろ? ここまま、ここに置いて帰ろう」
もし見たくなったら、ここに来ればイイって。それだけの事だよ。
俺は、そう力説した。どうやら、渋々だけど二人も俺の言う事に耳を傾けてくれそうだ。
「トッキーが参加してくれたらぁ、プロジェクションマッピングは、いつだって見れるしねぇ」
「まぁ俺達が泥棒になる訳には、いかないか。やっぱり」
良かった。とりあえず納得してくれそうだ。
「じゃぁ、今夜はこの辺りで。帰ろうぜ」
俺がそう言った刹那、真後ろから突然、怒鳴りつけられた。
「お前ら! 人の家で何してくれとんねん! 空き巣か? こらぁ!」
それは俺達と年がそんなに変わらない、若い女性の声だったんだ。
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