Kaleidoscope、枯れ井戸(かれいど)すこ~~プッ! 第5話
井戸の底に降り立って、俺は背負ったリュックから懐中電灯を取り出し、周りを見る。
「なんかぁ井戸って感じじゃ、無いよねぇ」
「まるで、抜け穴みたいな?」
「もしかしてよ、奥沢城の隠し通路、だったりしてな」
時代劇によく有るアレだね。確かに、奥沢城跡の碑の更に奥で見つかったんだから、スケコマ師の意見は正しいのかも。
竪穴の底に、屈んで通れる横穴が見つかった。三人で順番に穴をくぐる。
穴の向こうは、かなり広い横穴が続いていた。ライトの光が奥まで届かないくらいの。三人はムダ話に話を咲かせつつ歩いて行く。
「本当に城からの抜け道なのかな」
「こう言うのさぁ、映画で見たよねぇ、主演は勝真十郎だったっけぇ?」
「かつし……ん? いや違ってるだろ、お前言ってんの禿武者じゃね?」
ちなみに、カンフー映画ファンの俺に対して、スケコマ師は熱烈な時代劇ファン。
「そう言えばねぇ、勝真十郎の孫娘が、この辺りに住んでるってぇ噂だよぉ、女子大生だってぇ」
「マジか! お会いしたいぜ」
気にせず話を進めるヲタ平もすごいが、流石はスケコマ師、女性の話で全て吹っ飛ぶね。
「ところで、どのくらい歩いてきた?」
俺の声に、二人が振り向く。眩しいって、そのヘッドライト。
「せいぜい20分くらいじゃ……」
携帯を突き出す俺。もう1時間以上も歩いてたんだ三人で。
「うそぉ……」
「変だよな、感覚的にはスケコマ師の言う通りなんだけど」
何か変なんだ、このトンネルと言っていい横穴は。終わりが見えないって言うか。
「堂々巡りをさせられてるぅ? 一方通行で歩いてきたけどぉ」
「少し戻ろうか?」
「そうだな、こう言う時は右側に手を当てて、入口まで戻ろう、だ。きっと見逃した何かが有る」
スケコマ師の気合いの入り方が、とにかくすごいね。女の子二人、いや三人分か、のお願いを背負って燃え上がってるよ。
更に歩き続けて先頭のスケコマ師こと駒下が、急に足を止めた。
その時には俺ら三人は、もうすぐ井戸の竪穴に出る小さい穴が見える所まで戻ってきていたんだ。
「あれ? さっきまで壁、石と土だったのに……」
「どうした?」
「ここ、木だ。しかも板を組んである」
三人はそこに集合。全員で壁にライトを向けた。確かに、そこにはドアのように立てかけてある木の板が。
「こんなのぉ、さっきは気付かなかったよねぇ」
全くだよ、平坂君。君は正しい。
「これ、動くんじゃないか? 時保、頼む」
何で俺?
「お前、俺らの中じゃ一番、体育会系だろ」
力仕事は任せたってか? まぁイイけど。
意外と簡単に動かせたので、木の板は横に置いた。そこには同じサイズの更なる横穴が。
「何だ?部屋、なのか?」
覗き込んだスケコマ師が中を見渡して言う。
「真ん中にもぉ、板が組んで有るねぇ。まるでぇ箱だねぇ、これ」
そう言いつつヲタ平は真っ先に、六畳ひと間くらいの部屋の中に入って行く。流石はサークルリーダーだね。
「トッキーさぁ、これもお願いぃ」
へいへい、力仕事は全部お任せって事ね。
「痛ぇ!」
つい大声が出てしまう。この板組の箱、雑すぎだよ、釘が突き出してた。
「うわ、血が出てきた」
「大丈夫か? 時保」
「すごい出てるよぉ、トッキー」
とりあえず持ち上げた木箱は横に下ろして、俺はヲタ平に治療してもらう。血が出てる右手の中指に消毒液をぶっかけられたよ、こいつの治療も雑!
その時、箱をどけた空間に置いて有った物が、いきなり光りだした。しかも訳の判らない音声を流しながら。
「七色に光る……でっかい、卵?」
俺は血が流れてるのも忘れて、そう呟いていた。
七色に光り輝くラグビーボール大の卵型の物体、って言うのが一番正しいんだと思う。多分。
「これぇ見た事有るよぉ」
ヲタ平が陶然とした表情で呟く。マジか?
「インペリアル・イースターエッグって言ってねぇ。ロマノフ王朝が作らせたロシア最高の宝飾品だよぉ」
「馬鹿かよヲタ平。そんなモンが枯れ井戸の底に有る訳が無いって」
「でもでもぉ、これって絶対インペリアル・イースターエッグだよぉ」
「いやいや、絶対ないって」
そんなわが友二人の会話を聞きながら、俺は別の事を考えていた。
また、巻き込まれましたか?
そんな銀八さんの声が聞こえてきそうだよ。
これってもしかして、多元宇宙のどこかから来た物なんじゃないかって、俺は思う。
そして、最初から聞こえていた音声が、何となく聞き覚えの有るのに変わってきた気がする。
「今の、英語じゃなかったか?」
「え? 聞き間違いだろ」
そう結論付けるスケコマ師の隣で、うなずくヲタ平。
「今度のはドイツ語だねぇ」
「え? そうなのか」
おい! ヲタ平が言うと納得するのかよ。スケコマ師。
「なら日本語だって……」
俺が言い終えるより早く、卵の方が言葉を変えた。何って言うか、思いっきり機械がしゃべってますって感じだけど。
「解析終了イタシマシタ。1500番宇宙。自称、天ノ川銀河。オリオン腕。太陽系第三惑星。地球。ノ生命体。人類ノ日本人ト認識」
「これは、日本語だ。絶対」
俺の声に、二人は呆れたように呟く。
「そんなの言われなくても判るって」
「これだからぁトッキーはぁ」
そんな言葉は気にならない。いや、ちょい傷付くかも。でも、それよりこの卵が俺に言ってきた事の方が気になるよ。
「確認イタシマス。利用者登録ナサイマスカ?」
「はい?」
俺の返事は、卵に肯定として受け入れられたらしい。
「承知イタシマシタ。デハ、手続継続。オ名前ヲ、ドウゾ」
なんかヤバイ事になりそうな予感がする。このまま放置して帰ろうか。そう思った矢先、スケコマ師が俺を呼んだ。
「時保、どう……」
「トキヤス・ドウ様。本人確認ハ、DNA認証ノ為、血液サンプルガ必要デス」
「トッキー、血だよぉ。トッキーの血で目覚めたんだよぉ。早く血を注いでぇ」
いや、無茶苦茶な話だろ、それ。
「起動時ノ同血液ヲ、天頂部ニ付着サセテ下サイ。同時ニ音声キー、登録イタシマス。オ名前ヲ今一度ドウゾ」
「時保、なんかヤバくないか?」
駒下君、君はノーマルだったんだね。嬉しいよ、俺。
「何言ってんのぉ、超常現象、オーパーツの発見だよぉ。トッキー早くしてよぉ」
平坂君、いや、ヲタ平。お前は変だぞ。
「放っといて帰ろう、ヤバイってこれ」
「いいからぁ」
意外にも力強く俺の手を取って、ヲタ平が卵の頂辺に押し付ける。まだ乾いていなかった血が、そこに塗り付けられた。
「起動時採取ト同血液ト解析。オ名前ヲ登録イタシマス。再度、姓名全テデ、ドウゾ」
「さぁ、ここまで来たんだからぁ」
ヲタ平、ここまで強引な奴だったとは。日頃のお公家風味は、どこへ行ったんだ?
「仕方ないぜ、これは、もう」
スケコマ師の諦め切った表情と、ヲタ平の希望と欲望に満ち溢れた顔を見比べ、俺は首を振った。仕方ない、か。確かに。
「時保琢磨」
「トキヤス・タクマ様。先ホド登録ト異ナリマスガ?」
「時保どう、は間違い。正しくは時保琢磨」
「承知イタシマシタ。ソレデハ、トキヤス・タクマ様、登録完了イタシマシタ。コレヨリ他ノ音声入力ニハ、反応イタシマセン」
それでは、って……なんか人間臭い反応するな、この機械。そう、この卵は機械だね、いくら俺でもそれは判る。
でも、他の音声には反応しないって、俺の声にだけって事?
「これって、何なんだ?」
卵型の何かの機械、を指さして俺は二人の友に訪ねてみた。
「判る訳無いだろ、俺達ただの高校生だぜ」
スケコマ師の言う通りだ、聞いた俺が馬鹿だったね。そんな俺達を無視して、ヲタ平は卵の置かれてる台を調べてる。
「マニュアルくらい有ってもぉ、良いんじゃないぃ?」
「もしくはチュートリアルとか、欲しいよな。絶対」
多元宇宙の喋る機械、明らかに俺達の世界より先に行ってる。銀八さんのスマホらしき物みたいに。
「マニュアルにチュートリアルね、有る物なのかな、んな物に」
二人が何言っても沈黙してた卵が、俺のボヤキと言っていいセリフには反応した。
「取扱説明書ハ、ゴザイマセン。ガ、基本操作ノ個別指導ハ行イマス」
へぇ。っと言う声が漏れた。俺自身か、それとも二人、いや三人ともだったかも。
「タダ、登録サレタバカリノ初心者デスノデ、トキヤス・タクマ様ニハ機能体験ヲ、オ勧メイタシマス」
「機能体験ってぇ、これ自体何ができるのかぁ、判らないよねぇ」
ヲタ平の言う事は、ごもっともだね。俺達には卵が何ができるのか、が判ってない。
「お前、何ができるんだよ」
「馬鹿か、時保。何、話しかけて……」
スケコマ師の言葉を遮るように、卵は俺の問いに答える。
「多元宇宙間ノ安全ナ移動ヲ目的ニ、私ハ開発サレマシタ」
はい? 多元宇宙間の、安全な移動?
「お前、乗り物なのか?」
「少々、認識ガ異ナリマス。ガ、間違イデハ有リマセン」
「じゃ、機能説明ってのは?」
「ガイドツアー、ガ、最モ近イ、カモ知レマセン」
ガイドツアー? 俺、オッサンや銀八さんみたいに多元宇宙を渡れるって事? 二人の居る別世界に行けるって事?
「おい、時保。何言ってんだか、まるで判らんぞ」
「説明してよぉ、一人で喋ってないでさぁ」
二人の声を聞き流し、俺は叫んでいた。
「ガイドツアー、やってくれ! 今すぐ」
「承知イタシマシタ」
返事と共に、卵が七色に輝き始める。そして部屋の壁、天井、床にまで次々とテレビ画面みたいな映像が。
「何だよ! これ。部屋中モニターだらけかよ?」
「多チャンネル一斉放送みたいなぁ?」
そんなヲタ平の言葉に忠実に、モニターには見た事も無い風景や人々が、次々に浮かんできたんだ。
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