表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サンたくっ! ~異世界なんて隣町? 俺って、この複雑怪奇な多元宇宙で、3人目?~  作者: 星嶺
第1章 「俺がアンタで、アンタが君で、君はヤッパリ俺なのか?」
4/94

俺がアンタで、アンタが君で、君はヤッパリ俺なのか? 第4話

挿絵(By みてみん) 



 住む世界が違うって、どういう事なんだ?

 しかも、同一人物って……小学生とオッサンと、普通の高校生だよ? どこが同じひとりの人間なんだって?

 頭の中を言葉がグルグル回っている。つもりだったんだけど、口から出ていたらしい。


 「まぁ、気持ち判らんでも無いがよぉ」

 「だんだん面倒になってきました。きちんと説明すべきですね」


 オッサンと小学生が、代わる代わる話し始めた。


 「どうせ記憶消しちまうんだしなぁ」

 「話半分で聞いていて良いですよ、この世界の時保琢磨くん」


 そう言う小学生の顔、言われてみれば見た事あるはずだよね。

 卒業アルバムに、こいつによく似た顔の俺が写ってた。こんな皮肉でダークな笑い方して無いけど。


 「ボウズよぉ、オメェが住んでるこの世界はだなぁ。千年以上昔に探検家が発見して回った、多元宇宙の中の一つ、でだ」


 多元宇宙? 何だよ、それ。

 そう思いつつ見てるオッサンの顔、どこかで見た事有る訳だ。毎朝、見てる鏡に映ってたよ、俺の面影ってやつか、これ。

 ただ、あと十何年ほど経ったら、こんな顔になってしまうのか? 苦労が染み付いてオッサン臭い顔って……嫌だよ俺。


 「この世はね、三千以上を数える世界が並んだ、近くは似てて、遠く離れるほどに違った世界で形成された、言わば異世界の集合体みたいな物なんですよ」


 しょ、小学生のくせに人を小馬鹿にしたような顔して。

 そうは思うけど、否定する言葉が出てこない。耳が二人の話を追いかけてる。


 「簡単に言ゃあ石鹸の泡がブクブク生まれちゃ消えるように、多元宇宙ってぇな出来てんだよぉ。日々、新しい世界が生まれてるって事よ、今じゃ三千どころじゃねぇ」

 「泡、そうですね……シャボン玉の方が近いかも知れませんね。その一つ一つがそれぞれの世界と考えるなら。沢山のシャボン玉が浮いてる広い部屋を想像してみて下さい」

 「それが多元宇宙てぇ事だぁ、判ったか? ボウズ」


 いや、全く判んねぇよ! オッサン風に言えば、こんな感じか。


 「それは無理でしょう。ここ、1500番宇宙は一部の組織を除いて一般人はおろか国家規模でも、知識も情報も無いはずです」


 何なんだよ、それ。隠蔽いんぺいとか言うんじゃないのか、そう言うの。

 俺の憤りをスルーして、二人はすでに説明を終えたって感じになった。でも俺が聞きたい事は、まだ答えてないぞ。


 「俺が、この世界のって……」


 どういう事だよ。まで言わさず、オッサンが遮る。


 「悪ぃがよぉ。ボウズに付き合ってる暇は、無ぇんだわ」

 「全くです。逃げた尾部を追わねば」


 さっき逃走した総理の事を言ってるらしい。


 「総理が殺人犯って……」

 「さっきも言ったがよぉ、ありゃ、この世界の尾部甚蔵じゃ無ぇ。すでに何人もの人を殺めた犯罪者だぁな」

 「ニセ総理って事か」

 「この1500番宇宙で、奴が狙ってんなぁ、そういう事だろうよ」


 手にした魔法使いみたいな杖で、自分の肩をポンポン叩きながら、オッサンは吐き捨てるように言った。


 「この先に居ますね、動いていません……いや、今、動き出しましたね」

 「何やってんだぁ? オレ様が追っかけてこれねぇとでも思ってやがったのかよぉ」

 「貴方、足を撃たれてますね? 先程から動きが悪い」


 そう言いつつ、小学生はスマホに似た何とかケーターをオッサンの太ももに向ける。ライトの灯りがGパンを照らす。


 「血が、出てない?」


 驚く俺の声に、元着ぐるみマンの小学生の指摘が続いた。


 「銃で撃たれたら、ケイ素生命体と言えど体液か何かは流出するはずですが。貴方は何者なんです?」

 「気にすんじゃ無ぇ」

 「しますよ」


 歩き出そうとするオッサンのGパンに手をかけ、小学生は撃たれて空いた穴に指を突っ込む。


 「うわっ! やり過ぎだろ」


 俺の叫びを無視して、とんでもなく冷たい声が。


 「空洞ですね。貴方の体、どうなっているんです。しかも撃たれた周囲が硬化し始めていますよ、生命体と言えるんですか?」

 「あ? 1398番宇宙じゃ、これが普通だぁな。尾部の野郎も含めてよぉ。それよりオメェ、さっきから輪郭がボヤけて来てんぜぇ」


 オッサンの言う通りだった。小学生の体が映画のCGキャラみたいにユラユラ揺れ動いてる。


 「1637番宇宙の我々は、気化生命体と呼ばれているようです。他からはね」


 きか、せいめいたい?


 「この世界の大気は濃密過ぎて、リミッター無しでは形を保つのが難しいですね。油断すると分散し、大気に同化されてしまいそうです」

 「ガス人間8号ってかよぉ」

 「失礼な、誰がガス人間8号ですか」

 「オメェしか居ねぇだろうがよぉ?」


 頭がクラクラしてきた。

 俺、時保琢磨が三人も顔を会わせたって事だけでパニクりそうなのに、同一人物のはずの二人とも普通じゃない。

 どこが同一人物なんだよ、異世界から来た俺?

 片方はケイ素生命体とかのオッサンで足が空洞、いやホント足だけなのか?

 もう一方は、今や輪郭どころか全体に揺らめき出して、何となく向こうの壁が透けて見えてきた気化生命体。だって?


 「何なんだよ、一体」


 何度目かの、同じような呟きが漏れた。俺は夢見てるんだと思いたい。


 「ったく。デカでも無ぇ上に霧散しそうなガス人間8号たぁ、何の役にも立たねぇ野郎だぁな、オメェ。こりゃ参ったぜぇ」

 「ひどい言われ様ですね。私も、もっと面倒見の良い頼れる方にお会いしたかったですよ。捜査チームが出来てたのなら」


 さっきニセ総理逮捕に協力し合うって言ってたじゃないか、喧嘩始めそうな二人を見て俺はそう思う。


 「言い争ってる場合かよ! ニセ総理を捕まえる事が最優先なんだろ?」


  何だか頭にきて、俺は叫んでた。知り合いの無残な姿が、脳裏をかすめたって言うのが理由かも知れない。


 「確かに、君の言う通りですね」

 「まぁ、ボウズの言う通りなんだがよ」


 二人の、異世界の俺、時保琢磨の声が重なる。また頭がクラクラしてきたよ。

 これでホントに、ニセ総理を捕まえられるのかな?


 「奴がまた、一箇所に留まりましたね。ここで追いつかねば」

 「確かにな、で? どこに居やがんでぇ、奴ぁよぉ」


 ここです。そう言って元着ぐるみマン、今はガス人間8号って呼ぶべきかなと思う小学生は、何とかケーターをオッサンに見せた。


 「地図かよぉ、判んねぇな、こりゃ」


 横から覗き込んで、俺はその場所を確認する。知ってる店だ、多分。


 「そこ、多分コンビニが有るね。それほど流行ってないけど」

 「コンビニエンスストア、ですか。何故」

 「そこに奴が居んだろ? なぁら、行きゃ判んじゃねかよぉ」

 「いや、それよりも少し遠いですね」


 え? そんなに距離は無いと思うけど、ここからなら5分くらいだって。


 「そろそろ危ないんですよ。先程も言いましたが、ここの大気に取り込まれそうです」

 「で? どうなるんでぇ」

 「文字通り、拡散して私という存在は無に帰ります」


 それって……俺は恐ろしい現実に気付く。


 「オメェ、お陀仏ってぇ事かよ?」

 「そう、なりますね。その前に尾部を捕らえたいんですが」

 「救助とか応援とか呼べないのか?」


 異世界の俺自身なんて未だに信じられないけど、俺は目の前の小学生が死んでしまうなんて納得できなかった。


 「無理ですね、元より警官では無いし。ここへも無許可で来てますし」

 「一応よぉ、警察勤めなんだろうが?」

 「言ったはずです、送り出す所だと。警察所属の時空転送局と言うのが勤務先でね」


 ガス人間8号くんは肩をすくめて言う。


 「元々、捜査一課希望だったんですが、父が手を回してそんな所に務める羽目になったんですよ」

 「過保護だぁなぁ」


 オッサン今それを言うか?


 「全くです。あの男は、自分は身内を顧みず仕事しか頭にないのに。こんな所だけ父親面をしたかったんでしょうよ」


 迷惑な話です。と、小学生は頭を振る。でも俺は文句を言わずには居られなかったんだ。


 「父親が子どもの事を心配するの当たり前だろ? やりすぎとは思うけどさ」

 「私の事を知りもしない君が、口出しする事では有りませんよ」


 ガス人間8号くんの視線も声も急速冷凍って感じになった。


 「例え異世界の同一人物でも、同じ暮らしはしてないでしょう? そんなのはこの1500番宇宙のすぐ近くだけ、並行世界と呼ばれる程度の距離に在るのが限度です」

 「それでも、親父さんは君の事を考えてやったと思うんだ」


 何だか更に難しい単語で誤魔化されそうになったから、俺はストレートに思う所をぶつける。


 「そう、かも知れません。君のお父上は、そうだったんでしょう」

 「ああ、そうだよ。今年の春、死んだ親父は、ずっとそうだった」


 こう言うの、カミングアウトって言うんだっけ? ちょい違う気もする。


 「それは、その、知らぬ事とは言え……」


 沈着冷静って感じの小学生が、しどろもどろになった。


 「オメェの負けだなぁ、ガス人間8号よぉ」


 それまで黙って聞いていたオッサンが口を開く。


 「誰が、その、いや、どうでも良いです、それは。それよりも」


 落ち着きを取り戻したのか、ガス人間8号くんが俺を見つめる。


 「これ以上、君は関わるべきでは無いでしょう。ここで記憶を消します」


 冷たい視線を向け、俺にあの何とかケーターを突きつけようとして、その手からケーターが落っこちた。


 「時間切れ、ですか……」


 少し悔しそうに、小学生はつぶやいた。その手が揺らめき透け始めている。俺は落ちてる何とかケーターを拾い上げた。


 「おい、どうすんだぁ、ガス人間8号よぉ。なんか手は無ぇのかよ。ボウズが言ったように、救助を呼ぶとかよぉ」


 オッサンの方が何だか慌ててる。この人やっぱりイイ人なんじゃないかな。


 「お守り替わりに持っていろ。就職祝いに父に渡された物ですが」


 言葉と共に、銀色の万年筆くらいの大きさの、ボタン付きの金属の棒をポケットから取り出して、小学生は左手で俺に渡した。


 「君が持っていてください」


 え? 何で俺が?


 「試してみたい事が一つ有ります。協力してくれますか?」


 元着ぐるみマンの小学生は、そう言って俺を見上げた。今にも消えそうなくらい、その全身が揺らめいてる。


 「琢磨くん」

 「はい?」

 「自分の名前に君を付けるのも、違和感満載ですが……済みません。本当に時間切れのようです。深呼吸してもらえますか?」

 「あ、はい」


 応じて俺は深く息を吸った。

 見た目小学生に君付けされる違和感は、この際、置いといて。


 「では」

 「え? えぇ!」


 叫ぶしか無かった。

 深呼吸と同時に、小学生の姿がCGのように揺らめき細長く伸びて、俺の鼻に吸い込まれて消えていったんだ。


お読み頂きありがとうございました。厳しい御感想、御指摘、お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング もし宜しければ、1票お願い致します。まずは、ここをクリック
連載エッセイ
『平行宇宙(パラレルワールド)は異世界満載?』
「サンたくっ」の世界観を構築、解説してまいります。どうぞお立ち寄りくださいませ。

感想評価レビュー を心よりお待ちしております!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ