素にして嫌だが否ではない 第10話
結局、あの事件はテロリストによる無差別ビル爆破って事で、公式発表があって一件落着となった。
「何だかなぁ」
俺としては納得いかない。あれだけマトモじゃない事件が、何となくウヤムヤに普通の出来事になってしまったなんて。
大変だったんだ、あの後。
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気絶してしまった後、駆けつけた仲間に俺は起こされた。
「死にてぇのか! このクソボウズ!」
開口一番、棗のオッサンの罵倒。こっちもカチンときて取っ組み合いになりかけたけど、最上階から降りてきたレイヤーなガンマンさんと、未だコンバットスーツのままの銀八さんが引き剥がした。
「む? これは……」
ビューレットさんは床に落ちていた、あの黒い凶器を見つけ、ついでに何かを同時に拾ってた。
その間に俺は、多元宇宙の同一人物である二人の時康琢磨に、延々と説教される羽目になったんだ。
「それでも俺は、これからも関わり続けるからな!」
捨て科白に近かったかも知れないけど、俺はそう宣言したよ。
「多元宇宙の、他からやって来る奴らが犯罪者なら、俺の周りの人達が傷ついたりしないように俺、戦うからな!」
何ができるのか? 二人にそう突っ込まれたけど、あのレイヤーなガンマン、ビューレットさんが言ってくれた。
「少年は、いつか大人になる。今がその時なのだろう。ならば周りの大人は為すべき事を。では無いのかね? 保護者を気取るなら尚更だと思うが?」
「あぁ? こんなガキんちょに何ができるんだぁよぉ? ジジイ」
「確かに一人前には程遠い。が、君らにも有っただろう? そう言う時期が」
これには二人とも唸るしか無かったようだよ。うん。
「まったく、貴方がたは……」
棗のオッサンは元より、銀八さんまで、かなり憤慨してたね。まだコンバットスーツを脱がないのは、ビューレットさんを警戒しての事なのか?
「何かと相手にし難い。敵に回したくは無い、ですが」
「味方に出来んのかよぉ、こりゃ? って感じだぁなぁ」
「そにして、やだが、ひではない。と言ったところですかね」
それを聞いてビューレットさんは大声で笑い出したんだ。
「何が可笑しいんですか?」
「いや、失敬。普通はこう書くだろうがな」
トレンチコートの内ポケットから取り出したメモに書いてみせた。
粗にして野だが卑ではない
「しかし君のは、こうだろう?」
素にして嫌だが否ではない
「よく判りますね」
多分、銀八さん引きつっていたように思う。もちろん顔は見えないけど。まぁ、当然だよね、見透かせれるって、あれを指す言葉なんだろうなぁ。
「昔、同じ科白を言われた事がある。まだ、お互い駆け出しだったが……」
再び内ポケットに手を差し入れながら、こう続ける。
「その男は、自分は家族を守る為に仕事の鬼に、いや仕事の虫になる。そう言っていた」
ちょい遠い目をしてレイヤーなガンマンさんは口を閉ざした。
「そ、それは……貴方は、いったい……」
動揺する銀八さんを無視してビューレットさんは俺の方に、内ポケットから取り出した物を差し出す。
「少年、これは返しておこう。大いに役立ったよ」
それは俺の携帯。なぜ、これを?
「君が起きる寸前、これで手品師に電話をかけさせた。かけっぱなしで悪かったとは思っているが」
て、事は……電話代考えて、涙が出そうだ。
「おかげで中の状況、突入するポイント、タイミング。全て掴めましたよ」
銀八さんが口を開く。
「しかしなぜ、私の番号に特定を? 私を知っていたと言う事ですか?」
「さて? そろそろ私は退散しようか。部下、いや手下だな。を、回収せねばならんのでね。騙されて連れてこられた連中も、送り返さねばな」
ガス人間8号さんの問いを無視して、レイヤーなガンマンさんは足から床に沈んでいく。
壁抜けはピンモヒで何度も見たけど、床抜けは初めてだ。ムチャクチャするね、我が命の恩人は。
「なるほどなぁ。テメェの宇宙から持ってきた物だけかよぉ、透過できんのぁ」
床に残された俺の携帯を拾い上げながら、1398番宇宙の時保琢磨が、そう言う。
「万能では無い。本人がそう言ってましたからね。ビューレット氏、でしたか」
ビューレットさんが居なくなって初めて、1637番宇宙から来た時保琢磨は、マル暴アーマーと呼ばれたスーツを脱いだ。
解除されたイカツイ装甲服が重力波と共に消えていく。送り返したんだな、銀八さんの世界に。
「さぁな。ジジイで充分だぁろ?」
「確かに」
軽く笑い合い、二人揃って俺、この世界1500番宇宙の時保琢磨の方を向く。
「とにかく、帰りますよ」
「おうょ! カァちゃんのトコへ連れて帰んなきゃなぁ」
「ホントに、保護者気取りかよ!」
吠える俺を無視して、二人がかりであのビルから運び出され、GWのトンデモない事件は幕を下ろしたんだ。
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あのビル爆破事件で今年の、折角のGW・ゴールデンウィークを棒に振ってしまった。泣けてくるよね、絶対。
「まぁ、あんな事になるなんて、思いもよらなかったからねぇ」
「日本でもテロって起きるんだな、びっくりしたぜ」
あの後、約二日間の入院で二人は帰ってきた。わが友、スケコマ師とヲタ平。どちらも無事だった。
「ゴメンな。俺がアキバ行こうなんて言ったから……」
「何言ってんだよ、時保。俺ら事件に巻き込まれただけだろ?」
「そうだよぉ。トッキーに責任なんて無いよぉ。ただちょっと運が悪かっただけでぇ」
「二人共……」
泣けてきそうな事を言ってくれるね。
「連休、終わっちまったけど、どうする?」
スケコマ師こと駒下が、俺にそう聞いてきた。今は、今日最後の授業が終わったばかり。
「悪い。行くとこ有ってさ」
今まで日曜日だけだった小太刀護身道・スポーツチャンバラ。今日からは平日の夜の部にも顔を出す事にした。
あの時、もしかしたら俺の放った一撃は、ピンモヒ相手で無ければ決まっていたかも知れない。
ナイフはまだまだ使えないけど、俺が習ってる事は無駄じゃない。必ず多元宇宙の、もう二人の俺に追いつく。そう決めた。
「んじゃ、また明日」
そう言って、俺は近道になる裏門から出て行った。だから知らなかったんだ。正門で、ちょっとした騒ぎが起きている事を。
校門前で、俺を探して待つ美女が、その日に限って居た、なんて。
第三章 了
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