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サンたくっ! ~異世界なんて隣町? 俺って、この複雑怪奇な多元宇宙で、3人目?~  作者: 星嶺
第3章 素にして嫌だが否ではない(そにして やだが ひではない)
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素にして嫌だが否ではない 第8話

 あ……。

 一瞬だけどピンモヒの事、その場に居た多分、全員がきれいに忘れてた。そりゃ腹も立つよね。悪役完全無視って。


 「そこで指くわえて見てやがれ!」


 捨て科白を残して、壁の中にピンモヒこと富末は消えた。


 「まずいです、ビューレットさん。起爆装置は遠隔操作で、このビルの最上階に有るんです」


 救いを求める人達は次々に情報を開示してくれる。助かりたいからね。


 「更に1階には昨日、爆破してない火薬がまだ大量に残っていますよ。その、スイッチは富末の奴が持っているんです! さっき奴が手にしていた物ですよ」

 「何だとぉ? んじゃ今すぐヤツを追いかけねぇと!」

 「いや、誘拐された人々の救出が先だ。だが、その為にはまず、このビルの爆破を止めねば。しかし……」


 苦渋の決断ってヤツ? を迫られたレイヤーなガンマンさんを見て、俺は叫ぶ。


 「あのピンモヒは、俺に任せてください!」


 そこに居る全員の視線が、ただの高校生である俺に集中していた。

 流石に大勢に囲まれて、視線の集中砲火は痛い。けど、俺は引き下がらない。


 「俺が食い止めます」

 「あの~」


 金営さんが、小さく手を挙げてる。俺じゃダメだって事?


 「ピンモヒって、何っすかね?」

 「あ!」


 そっち? 皆さんの視線の理由。

 確かに魔術師と呼ばれたい男の科白に、ある者はウンウンうなずき、ある人は先を促すような視線を送ってくる。


 「あの富末って男、ショッキングピンクのモヒカン頭ですよね? だから略してピンモヒっと……」


 語尾が消えてく、何か丁寧に説明すると恥ずかしいね、これ。


 「なるほどなぁ、それでイイんじゃねぇかぁ? 短い方が言いやすいしよぉ」


 あぁ、ため息が出るよ。こう言う時、棗のオッサンの単純さが堪らなく嬉しいね。


 「まぁ、確かに」


 こう言う時の銀八さんのひんやりした対応も、もう慣れっこだけどね。


 「コードネームはピンモヒっすか。ちょっと哀れっすね」

 「それは構わん。が、少年。君には荷が重過ぎるのでは無いかね?」


 ビューレットさんこと、俺の命の恩人は厳しい表情で断を下す。そりゃそうだね、相手は爆破魔で誘拐犯で多分、殺人を意に介さない奴だ。


 「大丈夫です、捕まえる訳でも倒す訳でも有りませんから」

 「そりゃぁ、どう言う事でぇ?」

 「時間稼ぎ、ですか?」


 やっぱりオッサンよりガス人間8号さんの方がイッタクだと思う、今ので。


 「そうそう。ピンモヒは弱い者をなぶるタイプだと思うんだ。だから俺が囮になって逃げ続ける。俺を追い回してる間に……」

 「我々はこのビルの爆破を止め、誘拐された人々を救出し、爆弾の遠隔起動装置を解除もしくは破壊する。そういう事かね?」


 レイヤーなガンマンさんが、俺に問う。


 「はい! そうです」


 胸を張って俺は答える。信じて任せて欲しいと。しかし、返って来たのは否定だった。


 「危険過ぎる。君は、この1500番宇宙の、ただの高校生では無いのかね?」


 もちろんそうだ。だからこそピンモヒを釣るには最適のはずだ、俺はそう主張する。


 「確かに。だからこそ、この人物が言うように危険過ぎますね」


 ビューレットさんを信用してない感じだけど、気化生命体である1637番宇宙のもう一人の俺の言葉も、やっぱり否定だった。

 棗のオッサンこと1398番宇宙の俺も、その科白にうなずいてる。

 やっぱり俺、役立たずなのかなぁ。

 泣けてきそうな状況の中、俺をじっと見ていたビューレットさんが、あの渋い低音ヴォイスでつぶやいた。


 「だが、それに賭けるしか無い、か」


 発言した本人と俺以外の、そこに居た全員が驚愕の視線を向ける。


 「本気ですか? 貴方」

 「おいジジィ! このボウズに……」


 異世界から来てる、もう二人の俺が噛み付くのを全く意に介さず、レイヤーなガンマンさんはオッサンの言葉を遮って、俺に向き直った。


 「決して無理をせぬ事。挑発したら逃げたまえ、私が駆けつけるまで、ただひたすらに」

 「判りました!」


 思わず敬礼する俺の肩を、ビューレットさんはポンと叩いて送り出す。同時に、自分を班長と呼んだ優男さんに声をかけた。


 「少年の護衛役、勤まるな? 手品師」

 「多分そう来ると思ってったっすよ。ハイハイ、承知っす」


 あと魔術師っす。と付け加えて優男さんが俺の後を走り出す。


 「琢磨くん!」

 「ボウズ!」


 多元宇宙の同一人物である二人の俺が叫ぶ。振り向く俺の目に、それを我が命の恩人さんが遮るのが映った。


 「二人は私を手伝ってくれ。早く済めば、それだけ早く少年の元に駆けつける事ができると、私は思うがな」


 その言葉を背に、俺は走り出す。やっと俺を信用してくれる人ができた。それだけで、何でもできる気がする。

 散乱する家電品の間を走り抜け、階段を駆け上がる。これがスタートだ、そう自分に言い聞かせながら。


 「いや~イイお仲間が居るっすね、さんたく君」


 後ろに付いてきてくれてる優男、金営さんが、そう声をかけてきた。もう、サンたく決定ですか……ため息付きそうだよ。落ち込みつつも返事は、しなきゃね。


 「まぁ、ね」

 「およ? 歯切れが悪いっすね」


 いい仲間だよ、もちろん。仲間だと向こうも思ってくれてるなら、だけど。

 二人に認められたい、仲間だと言われたい。その一心で犯人探しにアキバに来たけど、捕まってちゃ、ダメだね。多分。


 「ふ~む。ワケありっすか。若いってイイっすねぇ」


 妙な調子で感心しつつ、魔術師と呼ばれたい男は階段を走りながら、あの小型注射器を出した。

 それこそ、パッと! って感じで。


 「器用だね、金営さん」

 「お褒め頂き恐悦至極っすよ」


 そんな難しい言い回しをしつつ、今度はピンモヒが持ってたバタフライナイフを出す。


 「さんたく君。これ使えますか?」


 あ、また話し方変わった。どうやら真剣モードらしい。こんな時ちょい、銀八さんに似てる。


 「ナイフ? 一応は」

 「刺せます? 人を」

 「怖い事、言うね」


 俺は多分、若干引きつっているんじゃないかな? まだ、その経験は無い。


 「富末、じゃないっすね。ピンモヒか、あいつをこれで刺すっすよ。無理なら傷が付く程度に引っ掻く、でもイイっす」


 そう言いつつ注射器の中の液体を、ナイフに注ぐ。


 「これは使えないっしょ? 意外と針が刺さらないっすから。けど、ナイフなら君でも振り回せるっすね」


 空になった注射器を見せて、今度はパッと消した。ホント手品師だね、金営さん。


 「あと一つで最上階っすよ」


 階段の踊り場から外が見える。昨日、斜めに裂けたビルの傷口から、午後の日差しが降り注いでいた。

 ただし、踊り場の足元はビルの残骸だらけ。コンクリートの塊や、ねじ曲がった鉄パイプが散乱したままだった。


 「あいつが居るかもっすよ、注意を……」

 「誰が居るって?」


 その声は壁から直接、聞こえた。正確には、壁から半分出てきた状態のピンモヒ自身から。


 「ぐほぉ!」

 「金営さん!」


 腹を押さえて、魔術師と呼ばれたい男は踊り場に崩れ落ちる。ピンモヒこと富末の廻し蹴りがクリーンヒットしていた。奴は壁の中を移動していたんだ。


 「お前も俺と同じ1962番宇宙の出だろうが? ずっと横について来てたっての、気付かないのかよ?」


 意識を失って倒れた金営さんを見下ろして、ピンモヒは更に一撃を蹴り込もうとする。


 「やめろよぉ!」


 叫びながら俺は、さっき受け取ったバタフライナイフを構えて突撃していた。


 「おっと。危ねぇなぁ」


 軽くかわされ、俺は危うくビルの裂け目から、外を覗き込む事になる。危ないのは、こっちの方だって。


 「そのナイフによ、固定材ぶっかっけてんの見てんだよ。誰が、やられるかってぇの!」


 そう言いながら、ポケットからペンライトみたいな金属の筒状の物を取り出した。


 「これが欲しいんだろ?」


 あれが、そうか。爆弾の起爆装置か。なら、意地でも奪い取る!


 「どぉりゃああ!」


 棗のオッサンそのままの雄叫びを上げ、俺はナイフを振りかざした。


 「ど素人が!」


 足癖の悪い富末らしい蹴りが飛んでくる。けど予測通りだ。

 ブロックできる、両腕で抱え込む。けど、その為にナイフを落としてしまう。俺、やっぱり素人だ。


 「離せよ、クソガキ! うげぇ!」


 暴言の後に、無様な悲鳴。俺に片足抱え込まれた状態で、ピンモヒは首を巡らせる。


 「グッジョブっすよ、さんたく君」


 半身起こして、ダーツを投げ終えたようなポーズのまま、金営さんが笑ってる。


 「貴様! ケツに突き刺しやがって」


 よく見ると、その言葉通りピンモヒの尻に、あの小型注射器が突き刺さっていた。


 「さんたく君、今っす! 壁に……」


 最後まで言わせるより早く、俺は富末の片足抱えたまま、三度目の突撃を敢行する。注射器一本分の固定材を注ぎ込まれて、壁抜けできないピンモヒは、そのまま激突した。

 その手から、あの起爆装置が転がり落ちる。

 俺は奴の足を離し、それを拾い上げて魔術師と呼ばれたい男に放り投げた。


 「魔術師さん! 頼んます!」

 「いい事あるっすよ、素直な子には。さんたく君……危ない!」


 金営さんの叫びと同時に、首の後ろを鋭く硬い物が横に動くのを、俺は生まれて初めて味わっていたんだ。

お読み頂きありがとうございました。


厳しい御批評・御感想、そして御指摘、お待ちしております。


今後とも宜しくお願い致します。

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