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サンたくっ! ~異世界なんて隣町? 俺って、この複雑怪奇な多元宇宙で、3人目?~  作者: 星嶺
第3章 素にして嫌だが否ではない(そにして やだが ひではない)
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素にして嫌だが否ではない 第5話

 連休初日から大事件に遭遇。典型的巻き込まれ型だと、自分自身で思う。

 1398番宇宙の俺、ここでのコードネーム棗のオッサンに、引きが強いって言われたけど、事件引き寄せるのが俺の能力?


 「んな訳、有るかよぉ……」


 ちょいオッサンの口調を真似てみる。何の解決にもならないけど。

 5月に入っての連休二日目、今日も俺は秋葉原の街を彷徨いていた。朝も早よからってヤツだよ。

 多元宇宙の、もう二人の俺のどちらからも相手にされない役立たず扱いの、三人目の俺。

 何が何でもこの俺が、今回のビル爆破犯を見つけ出す。絶対に。これはもう意地だね。


 「あいつら、居ないかな」


 あのピンクモヒカン率いるパンク野郎軍団が怪しいんだ。奴らこそ犯人に違いない、そう思ってる。俺しか奴らを見てないし。

 そして奴らは、ここ1500番宇宙とか呼ばれてる俺の居る世界の住人じゃ無い。物を透過できる人間なんて、この世界に居ないんだから。

 とは言え、当てが有る訳じゃない。午前11時を過ぎても、ただただ歩き回ってるだけ。


 「アキバも広いな……どこ行けば、いいんだか」


 必ず犯人を見つけなきゃ。そして、多元宇宙のもう二人の俺に結果を見せつけなきゃ。時保琢磨ここにあり! ってね。

 あ、あの二人も時保琢磨だった……ややこしいのは変わりない、多元宇宙じゃ当たり前。


 「オッサン、巡査だって言ってたな」


 そう言えばニセ総理事件の時、戻ってくるのを待ってた、とか言ってたような気がする。真似てみようか。

 犯人は必ず事件現場に戻る。確かに刑事ドラマの鉄則だね。今はそれに賭けるしか無い。手がかりなんてゼロだから。


 「やっぱ、あのビルかな」


 歩き回ったあげく中央道りに戻る、爆破現場に向かって。


 「う、そぉ……」


 引きが強い。オッサンの言葉が脳裏を駆け巡った。


 「あの後ろ姿、絶対だよ」


 まさかまさか、あの人も棗のオッサンと同じタイプだとは。今日も、あの格好で歩いてるなんて。


 「もう5月だって」


 未だ冬の出で立ちってヤツ?

 あのトレンチコートに身を包み、堂々と中央通りを歩いているんだから、俺の驚きも誰もが抱く所だと思う。


 「暑くないのか?」


 とりあえず跡をつけるしかない、手がかりが見つかったんだ。逃したら、ここで終わる。そんな気がした。

 ひっそりと、相手に気付かれないように後をついて行く。

 尾行始めた途端、いきなり携帯が鳴った。いや、俺のじゃなくて前を歩くレイヤーなガンマンの、が。


 「もしもし」


 あ、普通に出た。けど、渋い。年齢を重ねた渋い低音ヴォイス。なんか大人だ。銀八さんとは、ちょい違うけど、大人だ。


 「ふむ。私も少々、困っている」


 普通に話しながら、レイヤーなガンマンは秋葉原の中央通りを歩いて行く。ちなみにスマホじゃなくて俺と同じガラケーだ、ちょい親近感が沸いた。こんな時だけど。


 「奴らを集めたのは、雇い主だと思うが?」


 うわっ。いきなり核心に迫る話?

 どう考えても、あのピンモヒの件だ。面倒なので略すけどピンクモヒカンとその軍団の話に違いない。


 「ほう……では私に一任すると? 第一部隊さえ残れば、奴らは解雇も構わんと言う事で?」


 あ、ピンモヒども首切られるのか?やりすぎだよね、ビル爆破なんて。で、第一部隊って、奴らは?


 「承知した。では、後ほど」


 そう言うと、もしかしたら命の恩人かも知れない、爆破事件の一味かも知れない男は、電話を切って角を曲がった。


 「ここって……」


 それは未だ立ち入り禁止の状態にある、あの爆破されたビルの横。

 表には数人の警察官が居る。でも未だ煙が出てて、くすぶってるビルの中には入ろうとはしないね。むしろ入ろうとする者を押し止めていた。


 「ホントに現場に戻ったよ」


 ここで見失う訳には行かない。俺も忍び足で角を曲がる。


 「えっ?」

 「少年。なぜ私の跡をつけてくるのかね?」


 そこに、仁王立ちしたレイヤーなガンマンが立っていた。


 「あ、いや、その……」


 動転して頭が、うまく回らない。なんで深夜アニメのキャラそっくりなんですか? レイヤーだから、コスプレイヤーだからだ。で終わってしまうか……何か無いのか?

 これしか無い、もうストレートに聞くしか。


 「あの……なぜ、僕らを助けてくれたんですか?」


 ここは、僕で無いとな。自分に言い聞かせつつ、言葉を選ぶ。


 「君とは面識が無いと思うが?」

 「昨日、お、いや、僕は、このビルの前に居ました」


 返事は無い。イケるかも。


 「落ちてくるビルの下敷きになる所でした」

 「それが、私に何の関係が?」


 う、誤魔化す気か?

 ここからでは見えないけど、昨日、見たビルの屋上方向を指差しながら、口を開く。


 「あのビルの上に居ましたよね?」

 「それだけで、命の恩人なのかね?」


 もう一歩、思いっきり踏み込む。


 「十日ほど前、練馬の寺の前」


 俺の一言に、レイヤーなガンマンの片方の眉がピクリと動いた。イケる。


 「寺の山門前に俺、居たんです。走ってくるワゴン車と追いかけてくるスクーターを、その後に……」

 「了解した。君が何を言いたいか、理解したつもりだ」


 渋い低音で、トレンチコートの中年過ぎはゆっくりとうなずいた。


 「だが少年、それは君の人生を縮めやしないかね?」


 トレンチコートに右腕を差し入れていく男の静かな眼差しに、俺の背筋は凍りつく。

 確かに、秘密を知り過ぎた奴でしか無い、俺は。しゃべり過ぎた事を後悔したが、ちょい遅かったか。


 「このまま、Uターンして帰りたまえ。そして私の事など忘れる事だ」

 「あ、え?」


 レイヤーなガンマンが取り出したのは、煙草とライター。中年過ぎの男は煙草に火をつけ、ゆっくりと吸い込む。


 「関わらない方が良い。君自身の為だ」


 煙を吐き出しながら、そう言う。


「やっと見つけたんです、貴方を」

「困ったな」


 若干、苛立っているように見える命の恩人に、俺は畳み掛けた。


 「やっぱり、貴方が助けてくれたんですね? あのビルが落ちてくるのを、消し去ってくれたの、貴方なんですね」

 「忘れたまえ。そして早く帰るんだ」

 「そうは行かんぜ!」


 聞き覚えのある声の方に、瞬時に首が動いた。奴も居たんだ。


 「だから、貴方は帰れって……」

 「ちと、遅かったがね」


 再び煙草の煙を吐き出し、レイヤーなガンマンは自嘲気味に言う。


 「そいつは帰す訳には行かんぜ、あんたまで見てんなら」

 「彼は関係ないはずだが?」


 その一言に、ピンクモヒカンが手にしていた鉄パイプを振り上げ、俺の命の恩人の頭上に叩きつけた。


 「あ! あぁ、あ?」


 奇妙な声を上げてしまった俺の目の前で、レイヤーなガンマンを直撃したはずの鉄パイプが、その顔を透過して行く。


 「無駄だ、お互い様だが」

 「あ~そうだよな、その通りだ。が、そっちはどうかな?」


 ガンマンが俺の方を振り向く、俺もそれを見て振り向く。そこにピンモヒの手下、スキンヘッドが同じような鉄パイプを振り上げて居た。


 「やべっ……」


 俺のつぶやきを合図にしたかのように、鉄パイプが振り下ろされる。


 「よせ!」


 渋い低音ヴォイスの叫びと暗くなる視界、そして懐かしい煙草の臭いと、更にとても懐かしい、頼りになる大人に抱き抱えられた記憶、抱擁の感触。

 そんなのをまとめて感じた刹那、強烈な殴打の衝撃に、俺は庇ってくれたレイヤーなガンマンごと、アスファルトの路面に叩きつけられ気を失った。

お読み頂きありがとうございました。

厳しい御批評・御感想、そして御指摘、お待ちしております。

今後とも宜しくお願い致します。

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『平行宇宙(パラレルワールド)は異世界満載?』
「サンたくっ」の世界観を構築、解説してまいります。どうぞお立ち寄りくださいませ。

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