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サンたくっ! ~異世界なんて隣町? 俺って、この複雑怪奇な多元宇宙で、3人目?~  作者: 星嶺
第3章 素にして嫌だが否ではない(そにして やだが ひではない)
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素にして嫌だが否ではない 第4話

 今、俺は秋葉原を後にして隅田川近くの総合病院を目指している。


 「えっと……なんて病院だっけ」


 携帯に来たメールを確認しつつ、銀八さんこと1637番宇宙の俺との会話を思い出していた。





 秋葉原テロ爆破事件、そう呼ぶしかない出来事は思った通り、銀八さんが追っていた強盗団絡みだった。

 まだ煙が吹き出すビルの下、怪我人が救助され警官がビルを包囲する中、その真っ最中に鳴った携帯。


 「銀八っあん?」


 相手の声を確認するより先に、俺はコードネームを呼んでいた。


 「二人とも見つけましたよ」


 穏やかな、ちょっと大人の甘い声が俺の耳に感動の科白を伝えてくれる。ひたすらお礼を繰り返すしか俺にはできなかった。


 「無事です。が、若干のかすり傷と、かなり煙を吸い込んでいましたので、病院に運びました」


 再び感謝の言葉を繰り返す俺に、ガス人間8号さんは笑う。約束したでしょう? と。


 「とりあえず、ご両親には連絡して来て頂いています。君も彼らの姿を確かめたいでしょうから、病院の場所はメールします」


 そう言って通話は終了、直ぐに病院の名前と地図がメールで送られてきた。


 「行かなきゃ」


 今度は棗のオッサンこと1398番宇宙の俺の事が気になったが、あの鈍足では会えなかっただろうと思い、俺はその場を離れる事にしたんだ。


 「あの人は……」


 そう。あのレイヤーなガンマンは俺達を、あの場所にいた全ての人達を、助けてくれたんだろうか?

 だとしたら……なぜ?

 会って聞いてみたい。そんな事を考えながら秋葉原駅の電気街口へ急ぐ。

 駅を目前にしてた俺の目の前を、あの人が横切った。そう、あの人。数時間前、中央道り交差点の横断歩道の向こう側に居た、あのどストライクに綺麗な女性が。

 通り過ぎた後に、スカーフが。これって落し物? まさか、こんなドラマみたいな展開って有り?


 「あの……」


 ビビりながらも声をかける。落としましたよ、って。


 「あら、ありがとう」


 短い返事。でも、心が弾む。スケコマ師が言ってた、美人は声も美しいって。初めて尊敬するよ、言う通りだったよ! スケコマ師。

 多分、顔を赤くして見つめている俺に、彼女は笑いかけた。


 「君、衿くしゃくしゃ。直してあげる」


 え?そんな。

 心臓が爆発しそうだよ。綺麗な女性の美しい指先が俺の首筋に触れてる。何だか首の後ろ、くすぐったい。


 「じゃぁ、これで。ありがとう」


 それだけ告げて、彼女は去って行った。一人残された俺は、しばし惚けて、それからやっと駅に向かっていた理由を思い出す。


 「こんな事が無かったら、お姉さん、後を付いて行きたかった……って、ストーカーか! 俺」


 未練を引きずりつつ、深呼吸。駅の改札を抜けホームに。

 電車を待つ間に空の色が変わって来ている事に気付く。すでに夕刻を過ぎていた。

 午後から出かけたとは言え、かなりの時間をあの爆破現場で過ごしていた事に気付き、俺は苦笑する。


 「大変な休日になっちゃったなぁ」


 そう口にした途端、また携帯が鳴った。


 「もしもし。あ、母さん」


 電話は母からだった。

 当然だね、秋葉原に行くと言って出たんだから、あんな事件をニュースで知れば掛けてくるよね。


 「俺は大丈夫。ただ、二人が巻き込まれて入院したから、今から見舞いに行ってくる」


 電話の向こうから母の安堵が伝わってくる。そして友への気遣いも。


 「一目見たら、帰るから。そう遅くはならないよ。あ、電車来たから。んじゃ」


 それだけ告げて携帯切って、開いた扉に飛び込む。今は二人の無事な姿をただただ見たかった。もちろん、綺麗なお姉さんへの未練は若干、残ってたけど。





 そして目指す病院へと、たどり着いた時には夜空が広がっている。もうそんな時間になっていた。


 「済みません」


 受付でヲタ平とスケコマ師の病室を尋ねる。


 「もうじき面会時間終了ですから、お早めに。時間厳守ですので」


 念押しされて、俺は二人が居る病棟を目指して足早に進んでいった。


 「あ……」


 教えられた病室の前に、ガス人間8号さんこと阪本銀八さんが、俺を待っていたんだ。


 「どちらも、ご両親はお帰りになりましたよ。琢磨くん」

 「遅くなって、ごめん」

 「いえいえ、私の連絡が遅かったですからね。この時間になっても仕方ありません。あの後どうなったか、ニュースで見ましたし」


 だとしたら、銀八さんもレイヤーなガンマンがあそこに居た事に、もう気付いてるはずだ。でも今は、その件よりも二人に会いたい。


 「ヲタ平……スケコマ師……」


 二人は並んでベッドで眠っていた。平坂の方が顔に擦り傷を作っているくらいで、二人とも軽傷みたい。


 「良かった……」


 泣けてきそうになる自分が恥ずかしい、けど二度と会えないかとさえ思う瞬間も確かに有ったんだ、仕方ない。


 「念の為、検査をするようです。おそらく大丈夫との見解でしたが」


 医者の見立てを教えてくて、先ほど帰ったと言う二人のご両親も落ち着いて戻っていった事を、銀八さんは告げてくれた。


 「そろそろ面会時間も終わりです。出ましょうか?」

 「あ、うん。そうだね」


 もう一度、二人の顔を見てから俺は1637番宇宙の俺、気化生命体の銀八さんの後について病室を出る。

 すれ違う看護師さん達に頭を下げながら、俺達は病院の廊下を進んでいく。


 「また、巻き込まれてしまいましたね。琢磨くん」


 正面玄関から出て、病院を振り仰ぐ。二人の病室はどこだろうとか思いつつ。そんな俺に銀八さんが声をかけてきた。


 「言いたい事は判ってる、でも」

 「そうですね。偶然でした、そう思います」


 違う。そこじゃない。

 また何の役にも立てなかった、そこが問題。


 「ですが、すぐに君は逃げるべきでした。彼ら二人の事は私に任せた時点で」


 違うんだよ、銀八さん。

 逃げちゃダメだ。踏みとどまって立ち向かえなきゃ、意味が無い。

 多元宇宙の事、そこにある、隣町のように普通に存在する異世界からやってくる凶悪な奴らの事、知ってるのに知らないふりなんてできない。


 「あの日、お寺で言われたはずですね、棗さんに」

 「今回も、何もできなかったよ」

 「それで当たり前ですよ。君は普通の高校生なんですから」

 「でも、俺……やっぱり、見過ごせない」


 真っ直ぐに多元宇宙のもう一人の俺を見つめて、きっぱりと俺は告げた。


 「琢磨くん、さっきも言いましたが君は、普通の……」

 「判ってる。でも、今回みたいな事が当たり前に起きるんだろ? 多元宇宙の、他から来る奴らが犯罪者とかなら」

 「それは……確かにそうですが」


 ガス人間8号さんの困ったような顔に、俺は畳み掛ける。


 「どこに居たって同じだろ? 向こうは俺を避けてくれたりはしない。そして俺の友達や家族が、今回みたいに酷い目に遭うかも知れない。そうだよね?」

 「ええ、確かに」

 「なら、何ができるか判らないけど、二度とこんな事が起きないようにしたい」

「しかし君は……」

 「ただの高校生だよ。でも見て見ぬふりして逃げても、やってくるんでしょ? 他の宇宙から。あんな奴ら野放しにできないよ」


 ピンクモヒカンとその仲間のパンク軍団を思い出して、思わず声に熱がこもる。


 「それに、この世界でだってテロは日常茶飯事だって。日本はテロと無縁かも知れないけど、ISとか居るんだよ、世界中に」

 「それも事実です。確かに」

 「最初、あのニセ総理の時、思ったんだ。あんなのトップに立たせちゃダメだって。面白がって人殺しやる奴なんて」


 今回も多分、同じなんだ。ピンクモヒカンを見て、俺はそう確信してる。


 「授業で習った……その、確か……パリ・ポタとか言う、大量虐殺やった奴。そんな奴がトップの組織はダメだって」


 銀八さんが大きく頷いたのを見て、俺は判ってくれたかと期待する。でも違った。


 「琢磨くん、それも言うならポル・ポト、ですね。カンボジアの。やはり君は、我々に関わるより受験勉強した方が良いでしょう」


 言葉に詰まる。確かに勉強できる方では無いけど。ここで、それを理由にされるとは思わなかった。


 「でも、それでも、俺は」

 「君の覚悟は、確かに聞きました。その上で私は君には、やはり普通の高校生として生活して欲しいですね」


 穏やかに、でも、いつもよりも悲しげに銀八さんは締めくくった。


 「琢磨くん、我々の事は忘れなさい。そして母君と仲良く暮らすべきです」

 「判った。もういいよ!」


 叫んで、俺は多元宇宙のもう一人の俺に背を向けて走り出していた。

お読み頂きありがとうございました。

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