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サンたくっ! ~異世界なんて隣町? 俺って、この複雑怪奇な多元宇宙で、3人目?~  作者: 星嶺
第3章 素にして嫌だが否ではない(そにして やだが ひではない)
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素にして嫌だが否ではない 第2話

 爆発を続けるビルに向かって駆け出そうとする俺を、銀八さんが引き止めた。


 「危険です。君まで巻き込まれてしまいますよ!」

 「友達が、あのビルに!」


 それだけ言うと、俺は多元宇宙の別の俺を振り切って走り出す。


 「待ちなさい!」


 銀八さんが俺に併走してきた。

 二人で逃げ惑う人達をかいくぐり、黒煙を吹き出すビルの下までやってき来た時には、脱出してきた人達でビルの前は溢れかえっている。


 「どうしよう。これじゃビルに入れない」

 「任せてくれますか? 琢磨くん」


 いつかの寺の境内で見せた、透明すぎる爽やかな笑顔でガス人間8号さんは言う。


 「だけど、二人の顔も名前も……」

 「何か、その二人の顔かたちが判る物は?」


 そう問われて、俺は携帯の写メを見せた。三人で写っている画像、これなら。そう思ったんだ。

 銀八さんは自分のスマホらしきものを取り出して、操作しながら俺の携帯に重ねる。


 「少々、情報を抜き取らせてもらいました」

 「え?」

 「平坂くんと駒下くん、必ず助け出します。君は安全な場所に避難を」


 言うが早いか、ガス人間8号さんは、まだまだ大勢の人達が雪崩のように出てくるビルの入口から、スルリって感じで中に潜り混んで行った。


 「抜き取ったって……あれ、ただのスマホじゃ無いよな」


 ニセ総理事件の時に一度、預かった物だと思う。なんて言ってったけか?

 そんな事を考えていたら、また爆発音が。上から割れた窓ガラスが降り注いで、ビルの真下にいる人達は頭を抱えて逃げ惑う。


 「ヲタ平! スケコマ師!」


 少し離れた所に居たから、友の名前を叫んで上を仰ぎ見たから、俺だけが多分それを見たんだ。

 爆発するビルの吹き出す黒煙に混じって、開いた穴から飛び出してきた、二つの人影を。


 「何だ?」


 それは、間違いなく人だった。もくもくと吹き出し続ける煙の、一瞬の切れ間に見えたのは。


 「女の……人?」


 一人は事件現場に似合わない、ブリブリのアイドルコスチューム。そしてもう一人は、更に場違いなロングドレスを身に纏っていた。

 二人は再び黒煙の中に消え去り、俺は幻を見たのかと呆然となってしまう。


 「何だったんだ……今の」


 そんな呟きを漏らすのが、やっと。だから、ビルから出てきた男達に対して反応が遅れた。


 「オラ、オラ、オラァ!どけ!」


 そんな下卑た叫び声をあげて爆発し続けるビルから出てきた、先頭の男に気付いた時は、もう俺の目の前に迫って来ていたんだ。


 「どけぇ!」


 そう叫びつつ男は真っ直ぐ進んでくる。

 大柄で、けっこう整った顔立ちなのに、着ているパンクな服装と下卑た叫び声が、男を危ない奴と思わせた。

 何よりも、脱色して金色になった髪の両サイドを刈り込んで、更にモヒカン風のテッペンをショッキングピンクに染めた頭が、逃げ出したくなるほど怖い。

 ぶつかる。そう感じて目を固く閉ざした俺を、奇妙な感触が通り過ぎた。


 「えっ?何」


 そう言いつつ振り向いた俺の目の前で、ピンクモヒカンの後頭部が遠ざかって行く。

 再び呆然と眺めるだけの俺の右肩から、パンクな鋲打ち革ジャンが生えて、抜け、そしてツルツルスキンヘッドの男が俺の前を歩いて行く。


 「そんな……馬鹿な」


 二人の男が俺を、通り抜けていった。文字通り俺の体を、壁抜けみたいに透過して行ったんだ。


 「野郎ども! ここにゃ、もう用は無ぇ、帰るぜ!」


 ピンクモヒカンが振り向きざま叫ぶ。スキンヘッドが応じて拳を突き上げる。俺の周りにいた、手下らしきパンク野郎どもが雄叫びをあげ、同時にまたビルが爆発した。

 その間に、見覚えのあるようなワゴン車が数台走ってきた。その先頭の車の中からお気楽な声が響く。


 「皆さん、お疲れ様っす! ささ、どうぞ、お乗りくださいっす!」


 声の主に何か言うでも無く、パンク野郎どもは次々に乗り込むと、悠々とその場を去っていく。


 「何だったんだ……今のは」


 さっき黒煙に消えた人影を見た後と変わらない、そんな呟きしか出せないまま、俺は走り去るワゴン車の列を見送るしかなかった。

 そんな風に呆けた刹那、最初に出会った時と同じく、その怒声は後ろから浴びせられた。


 「くぉらぁ! こんな所で何してやがる!」

「オッサン?」


 怒鳴り声の主は言うまでもなく、多元宇宙のもう一人の俺、オッサンことコードネーム棗武志。


 「何でこんなトコに居るのさ?」

「そぉりゃ、こっちの科白だっ!」

 「ここ、アキバだよ。友達と買い物くらいくるさ」

 「この現場に! 何でボウズが突っ立ってんのか? ってオラァ聞いてんだよぉ!」


 ビル爆破現場のすぐ横で、多元宇宙の同一人物、時保琢磨二人が押し問答を始める羽目になった。


 「銀八の野郎から連絡が入って、ここまで駆けつけてみりゃぁ、オメェは何でヤベェ所に首突っ込む!」


 首突っ込んだわけじゃない! 巻き込まれたんだ。毎度同じく。

 いや、まぁ……逃げるようにって銀八さんに言われたんだけど。友を置いて逃げるなんて、やっぱりできない。

 それを棗のオッサンに説明しようと思った時だった。今までで一番でかい爆発音が鳴り響いいたのは。


 「逃げろ! ボウズ。走りゃどうにかなんだろ?」


 先に口を開いたのはオッサンの方。


 「オッサンは……」


 そこまで言って、俺は絶句した。

 Gパンが裂けて、覗く足にも刃物で切り裂かれたような傷が。そして皮膚はプラスチックみたいになって茶色味を帯びている。


 「まぁた、やられちまってよ。左足が固まり始めてんだぁ。オレ様の事ぁ放っといて、サッサと逃げろや」

 「できるかよ!」

 「オラァ何が有っても直ぐにゃ、くたばりゃしねぇ。けどよぉ。ボウズは、そうは行かねぇだろうがよ」

 「けどさ……」

 「オメェ体育会系だろうが? 突っ走れ!」

 「一人で行けるかよ!」


 そう、オッサンだけ残して、なんて後味悪い真似できっこない。それに、友達二人と銀八さんが、まだビルから出てきてないんだ。

 ここに居る人達だって五十人近く居るはずだし、放っておけやしないよ。それをオッサンにぶつける。


 「妙な正義感振りかざしてんじゃねぇ! 死んじまったらオメェのカァちゃんはどうすんだ?」


 うぅ。と言葉に詰まった。一番痛い所を突いてくるよ、棗のオッサン。

 そんな押し問答の最中に、爆発とは違う音と悲鳴が上がる。


 「おい! 崩れるぞ!」


 叫ぶ声に我に返って、俺は爆発し続けるビルを見上げる。


 「こいつぁ、ヤベェ……」


 オッサンが息を呑むのが判った。

 二人の、そして周りの人々が見上げる中、屋上から下に向かって斜めに、ビルの壁に亀裂が走った。

お読み頂きありがとうございました。

厳しい御批評・御感想、そして御指摘、お待ちしております。

今後とも宜しくお願い致します。

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