素にして嫌だが否ではない 第1話
待ちに待ったGW。そう、ゴールデンウィーク!
初日はバイト最終日だったから、棒に振ってしまったけど。5月に入ってからの今日は、俺にとっての連休初日。
「いやぁ、トッキーからアキバ行こうなんてお誘いがあるなんてぇ」
「いや、その呼び方は止めてくれ」
「まだマシだろ、時保。俺より、は」
肩をすくめながら言うのは、俺の友達。駒下恭介。
「スケコマ師って似合ってるよぉ?」
そう口にしたのは、もう一人の友達、平坂登。まったりとした口調によく似合う、お公家系ちょい体重過多な奴。
「殴られたいのか?ヲタ平」
「非道いよぉ!何とか言ってよぉ、トッキーさぁ」
「いや。だから、それ止めろって」
秋葉原の街中を、そんな会話を交わしつつ三人の高校生がブラブラ歩いていく。
キョウスケコマシタ……今日、女こました。で、長身馬面男の仇名はスケコマ師。その仇名通りの性格の持ち主だ。
「せっかくアキバ来たんだからな、男三人いたら、する事はナンパだろ?」
「なんでさぁ。今日は僕に付き合ってくれるはずでしょぉ?」
「いや、それは無い」
断言した俺に、平坂が噛み付いた。
「え~。トッキーまで非道いよぉ」
「地下アイドルの公演になんて行くかよ。この体育会系が」
確かに、アイドルなんて別に興味ない。今日は買い物に来ただけだった。
「アイドルより女子レスラーだろ? 時保は。類人猿最強の女とかの追っかけか?」
「いや、それも無い!」
いくら何でも普通の高校生が、んなイカツイの追っかけるかよぉ!
って……イカン、これではオッサンの口調そのままだ。影響受けすぎだね、俺。
心の中で深く反省し、話を変えた。
「あの、さ。ちょい聞いてもイイかな?」
ん? て感じで二人が反応する。
「えーっと、ぬくれ……何だったっけ。ぬくれ、おち……」
「何? 抜く、落ちる?」
嬉しそうにスケコマ師が食いついてくる。が、俺が聞きたいのはそっち系じゃない。
「ヌクレオチド?珍しいねぇ、トッキーにしては」
時々、ヲタ平の薄い笑いに背筋が寒くなる事がある。細めた目の邪悪な事、こいつ絶対お公家の出だよ。
「ヌクレオチドはねぇ、塩基と糖、リン酸からなる物で……」
「悪ぃ、ヲタ平。俺にも判るように」
「いや、俺も判らんよ」
スケコマ師の声に思わず本音を吐いて、俺は易しい解説を懇願したんだ。
「仕方ないねぇ。平たく言うとぉ、ヌクレオチドが連なって核酸が出来てるんだよぉ」
「ふむふむ」
「判るのか? スケコマ師!」
「いんや、全く」
「ダメだねぇ。つまりぃ、生命体を構成する基本材料である生体高分子の構成要素がぁ、ヌクレオチドとかアミノ酸なんだよぉ」
やっと俺にも判る所まで来たよ。
「アミノ酸の仲間なのか」
「う~ん、まぁ、それでいいよぉ」
「何? 網野さん?」
「それ、ボケのつもりだよねぇ、スケコマ師ぃ?」
首をひねるスケコマ師こと駒下を無視して、俺とヲタ平こと平坂は、さっさと目的地に向かって歩き出す。
もっとも正確にはヲタ平の、だったけど。
「ここだよぉ」
嬉しそうに声を上げる彼が見上げるのは、かつて二百人以上の巨大アイドルグループの活動拠点だったビル。
既に解散式を済ませ、今やグループは無くなってしまったけど、そのスタートである劇場は現在も営業してる。まだ売れてないアイドル達の為の貸劇場として。
「だから、地下アイドルのステージなんて興味無ぇって」
「地下ドルじゃないよぉ、彼女は台湾からやって来た出稼ぎアイドルさ」
いや、あんまり違いないような気がする。
「女の子に人気高いんだよぉ?」
「って事は、観客席には素人娘が?」
「多分ねぇ」
スケコマ師の眼が俄然、本気モードに。単純すぎるだろ、それ。
「時保、俺も参戦するわ」
「ヲタ平の面倒は任せた」
「えー、トッキーは来ないのぉ?」
「とりあえず、遠慮します。ステージ約二時間だろ? 後で合流しよう」
二人を見送って、俺、時保琢磨は自分の買い物の為にビルを離れた。
「流石、GW。人多過ぎ」
そんな呟きと共に店頭にスマホを並べる店を物色していく。
「ん?」
何だろう。視線を感じて俺は振り向いた。
中央道り交差点付近、横断歩道の向こう側。視線とぶつかる。
我を忘れて見入ってしまったよ。ちょい釣り目気味の女の人、女子大生くらいかな? 俺より少し年上だよ、多分。
「きれい……だ、な」
思わず呟くほどに。本音から言えば、どストライーーク! って叫びたいくらいだけど、人多過ぎて、流石に恥ずかしいから止めとく。
真っ直ぐに俺を見つめる視線に、周りが全然見えなくなって、俺はフラフラと横断歩道に向かって歩きだした。
途端に人とぶつかってしまう。周りが見えてないから当然だよね。
「す、済みません!」
思いっきり頭を下げて、それから相手を起こそうと手を伸ばして、俺は固まってしまう。
「銀八っあん?」
そう、俺がぶつかった相手は多元宇宙の、別世界に生きる俺。
通称ガス人間8号さん。ここ、1500番宇宙でのコードネーム阪本銀八さんだった。
「琢磨くん? なぜ、ここに……」
「それはこっちの科白」
笑いかける俺に、気を取り直した銀八さんの表情が激変する。
「早く、ここから離れてください」
「え?」
「ここは間もなく……」
銀八さんが言い終える前に、壮絶な爆発音が休日の秋葉原に響き渡った。
「遅かったか!」
珍しく銀八さんが声を荒げる。更に連続して轟く爆発音に俺は振り返った。
「ヲタ平! スケコマ師!」
煙を吹き出していたのは、さっき俺と別れた二人が向かった劇場のあるビルだったんだ。
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