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サンたくっ! ~異世界なんて隣町? 俺って、この複雑怪奇な多元宇宙で、3人目?~  作者: 星嶺
第2章 採って盗られて獲られて捕って(とってとられてとられてとって)
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採って盗られて獲られて捕って 第3話

ばっさり講座(勉強になりました。ありがとうございます)にて頂いた御批評・御指摘を元に、読みやすく判りやすくする為に、第2章も続けて加筆・訂正、全面改稿。

 「だぁあ! どっちも成人してて働いてんだろうに! これかよ」


 今月の小遣いを全て使い果たし、俺は春麗らかな青空に向かって毒づいた。


 「また、巻き込まれかぁ……」


 溜め息を付きつつ、しかしナゼか、それほど嫌では無い。

 昨年秋の、ニセ総理事件で俺は確かに変わった。それは間違いなく、あの二人に出会ったからだ。そう言い切れる。


 「だけどさ……俺が手伝えるような事件が、有るのかなぁ?」


 前回は偶然、しかもラッキーの寄せ集めで何とか成ったような物だった。

 普通の高校生が関わって無事に済むような、生易しい事件では無かったはずだ。だから、今のままの俺では正直、二人に会いたくは無かった。


 「密輸事件二人は、まだしも……強盗団は、なぁ」


 8号さん改め、阪本銀八さんが俺に見せた写真には総勢30名以上の、屈強な男達が写っていたんだ。

 正直、あんなのに囲まれたくない。


 「とは言え……棗のオッサンの方も、なぁ」


 密輸事件の犯人達は、1438宇宙の住人であるらしい。

 オッサンが店を出ていく前、俺に手渡した詳しい説明が書かれた書類を眺める。これ、オッサンのお手製かな。ワープロで打ったのかも。

 小綺麗な寺カフェの横に立ったまま、捜査資料を読みふける。ちょい場違いかも、とは思うけどね。


 「へぇ~」


 思わず声が出た。

 1438宇宙の生命体は、基本的に臆病で皆、あの犬と同じように驚くと自動的に体が透明に成って行くらしい。


 「人間も変わらず、かぁ……見たくないなぁ、絶対」


 理科室の人体模型が団体で押し寄せてくる、余りにもグロい映像が脳裏に浮かんで、俺はまた胃が飛び跳ねそうになった。


 「犬が一番、繁殖してて、一番の輸入品っと。これは、さっき聞いたっけ」


 その後の犯人に関する所が、一部破れていて読めない。


 「雑だなぁ、棗のオッサン」


 もう完全に、この世界でのコードネームで呼ぶ事にした俺は、多元宇宙からやって来た巡査に溜め息をついた。

 個人貿易商に関する情報が無い。これでは探し様が無いじゃないか?


 「とりあえず、社員の方は……」


 サンジープ・八田・ナーヤル。インド人とのハーフ? 1438宇宙にもインドは有るのかぁ……って、えぇ?


 「前科8犯?」


 よく、そんなの雇ったな。採用試験とか、面接とか、しなかったんだろうか?


 「二人で1398番宇宙……オッサンとこだな。に、商品搬入中に全て盗まれ?」


 ドジ過ぎだろ、それ。防犯設備は無かったのかな?


 「赤字解消の為、代用品として野犬を獲るに至る」


 で、オッサンとこの成金に売ろうとした訳か。さっき寺カフェ内で聞いた話の通りだ。


 「しかし、安直と言うか、もう少し考えれば……捕まったら意味無いだろうに」


 まぁ、社員が前科8犯じゃ、犯罪に手を出す方が楽なのかも知れない。

 そんな事を考えつつ、寺カフェ横で資料を読みふける俺の視界の端に、カラフルな衣装を着た人が、山門を出て行こうとするのが映った。

 確認の為、仮性近視用の、度の軽い眼鏡を掛ける。確かに法要用の袈裟を着込んだ和尚さんだ。


 「何だ、居るじゃないか」


 しかし、だ! 犬の散歩に出かける? 我が家の法要の相談をすっぽかして? 坊さんボケたか?

 軽い怒りが込み上げて来て、俺は寺カフェの端から境内を横切り、山門に向かって走り出した。

 こちとら体育会系だ。追いつくぜ! 心の中で、棗のオッサン風に気合を入れた。

 邪魔になるメガネを、むしり取って全力で駆け抜ける。さほど視力が落ちた訳じゃない。普通は、掛けてないから大丈夫。


 「ちょいと! 和尚さん!」


 山門を出た所で、後ろから呼び止める為、大声を上げる。その瞬間、気付いた。


 「金髪?」


 階段を下りきって、振り向く坊さんの頭は見事なブロンド。そして、浅黒い肌の色。額にはテレビで見た事の有る赤い印。


 「イ、イ、インド人だ、インド人だ、インド人だ」


 自分でも、馬鹿な事を口にしている。とは思ったが、目の前の袈裟を着たニセ和尚に思わず、そう繰り返していた。


 「何、だ? お前!」


 ガラの悪そうな口調で、金髪のニセ和尚が、こっちを睨みつける。


 「俺は、半分、日本人だ、舐めんなよ!」


 いや、舐めて無いし。

 それより、やっと気付いた。こいつ、あの手配書、オッサンの資料に写真が載ってた。

 って事は……こいつの連れてる犬は?


 「なんか、用、かよ? 俺は、忙しいんだ! ガキ!」


 サンジープ・八田・ナーヤルの、前科8犯のドスの効いた、しかし変なイントネーションのセリフに、思わず後ずさりしてしまう。

 そりゃ俺はまだ、普通の高校生なんだから。


 「なんか、用かって、聞いてんだろうが? あぁ?」


 キレる寸前の顔で、完全にこちらに向き直った前科8犯が、俺に向かって一歩踏み出そうとした刹那それは、やって来た。

 壮絶なスピードで、ワゴン車が寺の山門前の道路を爆走してくる。


 「な、何、だぁ?」


 犬のリードを握り締めたまま、ニセ和尚は尻餅をついた。その眼前を爆走する車が通り過ぎて行く。

 1台、2台、3台。

 怯えた犬が泣き喚きながら、前科8犯の周りを跳ね回っていた。

 しばし間をおいて、またワゴン車が爆走して来る。その向こうに追跡してくる2輪車が見えた。

 最初に出会った時の、戦隊モノのヒーロースーツに身を包んでる訳では無い。が、ただ一台で追跡してくるその姿は、確かにヒーローぽかった。


 「銀八っあん?」


 追いつけるはずの無いスクーターを跳ばして、ワゴン車を追いかけてくるのは間違いなく、ガス人間8号さんだ。


 「せめて、バイクに乗ってよ……」


 変身ヒーローなら。

 スクーターってのが、ちょい様にならない。探偵だったら……いやいや、これは妄想だね。

 しかし、そのスクーターが最後の1台のワゴン車に迫っていく。


 「いや、違う」


 ワゴン車の方がスピードを落としてる。前の3台を逃がす為の囮か? でもスクーター相手なら振り切れるはず。

 そんな事を考えていると、ワゴン車のドアがスライドした。


 「ブ、ブッ……」


 ブレイド・ストッカー。

 深夜枠でヒットしたテレビアニメの登場人物ソックリの、トレンチコートにメガネを掛けた中年を通り過ぎた髭面男が、ワゴン車から身を乗り出す。

 その手にはアニメさながらの、ドでかい拳銃が握られていた。

 ちょうど山門の前、俺とニセ和尚の前で、レイヤーなガンマンの銃が轟音を上げる。


 「危ない!」


 確実に銀八さんを狙って放たれるであろうと思われた弾丸は、しかし山門手前のアスファルトに命中した。


 「えっ!」


 そこに、道路は無かった。

 銃弾の命中した箇所は、円形に穴が空いている。それも爆発で出来たんじゃない。


 「消滅した?」


 と、しか言いようの無い、すり鉢状の穴が目の前で忽然と生まれたんだ。

 スクーターは避けられず、その穴に前輪を突っ込み、前に向かって銀八さんが放り出される。

 しかし気化生命体である通称、ガス人間8号さんは我々の様に地面に叩きつけられる事も無く、軽い衝撃でアスファルトの上を転がるに留まった。

 それを確認する事も無くトレンチコートの男は車内に戻り、ワゴン車はスピードを上げて去って行く。

 それを見送る俺の携帯が、突然鳴った。


 「銀八っあん!」


 車と携帯の事は頭から追い出し、ようやく起き上がろうと頭を振る1637番宇宙の俺に駆け寄る。


 「大丈夫? 銀八っあん」

 「誰の事ですか? それは」


 若干、間の抜けた声で俺に聞く8号さん。

 ほぼ同時に、鳴り続けていた携帯が静かになった。母さんかな、後で謝らないと。そう思いつつガス人間8号さんに答える。


 「いや、さっきカフェで母さんに、そう名乗ったし?」

 「あぁ、もしかして、それが私のこの1500宇宙での……」

 「そう! コードネームってヤツ?」


 心底、情けなさそうに銀八さんは大きな溜め息をついた。


 「もう少し考えてから、名乗るべきでした。悲愴感満載ですね、これでは」

 「まぁ、悪くないんじゃないかな?伝説の教師から取ったんなら」

 「一気に老けてしまいそうでしょう?」


 思わず吹いた。

 確かに、あのドラマの主役はガス人間8号さんよりも30歳以上は年上のはずだ。


 「で、君は何故、ここに居るのですか? お母様から、カフェで待つように言われたのでは?」

 「あぁ、それなんだけど。実は……」


 そう言って振り返り、指さしたまま、俺は固まった。


 同時に、銀八さんの呟きが聞こえる。


 「これは……確かに醜悪ですね」


 二人の琢磨の目の前で、半ば内蔵だけになった犬と、筋肉むき出しの顔で呆然と座り込むニセ和尚の姿が、そこに有ったんだ。

厳しい御批評・御感想、そして御指摘、お待ちしております。

今後とも宜しくお願い致します。

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連載エッセイ
『平行宇宙(パラレルワールド)は異世界満載?』
「サンたくっ」の世界観を構築、解説してまいります。どうぞお立ち寄りくださいませ。

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