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サンたくっ! ~異世界なんて隣町? 俺って、この複雑怪奇な多元宇宙で、3人目?~  作者: 星嶺
第1章 「俺がアンタで、アンタが君で、君はヤッパリ俺なのか?」
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俺がアンタで、アンタが君で、君はヤッパリ俺なのか? 第1話

挿絵(By みてみん) 



 冷たい雨が降ってる。

 レンズの端っこを雫が流れ、ずり落ちてくる眼鏡を俺は中指で押し戻した。

 秋もすでに終わりを迎えようとする夕刻、繁華街じゃないこの辺り、普通の住宅街はもう薄暗がりに閉ざされている。


 「6時過ぎたか」


 部活で遅くなった俺は腹を空かせて降り注ぐ雨粒でちょっと肌寒い中、傘を片手に帰路を急いでいた。

 イマイチ部活も乗り気になれない、全てにおいて退屈な日々。高校生活って、こんなモンなんだろうか?

 入学して半年以上が過ぎ、そんな自問自答が続いてる。理由は判っている、ただマトモに向き合おうとしないだけ。俺が。

 でも……


 「近道すっか」


 学校からの帰り道。裏通りに足を向ける。

 家二軒分の、かつては人が住んでいたんだろう更地。今では雑草が入り混じって伸び放題になった生垣だけが、辛うじて痕跡を留めてた。


 「こんなトコに空き地が?」


 思わず独り言。

 未だに、よくこんな空き地が残ってるよな都心で。いや、この区は都心から外れてるか。でもここも、テレビで見たスラム化する東京の一部かな?

 気付けば隣の家も、この時間で電気ついてない。真っ暗だよ。まさか……ね。

 そんな事を考えながら、空き地を突っ切ろうと一歩踏み出して、俺の足は止まった。

 仄暗い街灯に照らされ、倒れている人の足が見える。それも二人分。

 片方の上に覆いかぶさって、どうも衣服を剥いでいるらしい者が居た。


 「人……殺し?」


 広がっていく黒っぽく見える液体が周囲に放つ独特の匂いに、鼻を抑えながら俺は呟く。

 上に居た奴が、倒れている人の上着を放り投げた。警官の服だ、そう思うと同時に聞いた事の有る男の声が。


 「見ぃたぁね?」


 疑問で聞いてきた男の首が、ぐるりと動いて、こっちを向いた。

 警官殺しは俺に向かってニチャっと笑う。雨に濡れた顔が、ことさら気持ち悪い。


 「う、嘘ぉ……」


 つい声が漏れてしまった。そして腰が抜け尻餅を付く。傘が転がり、雨に濡れた眼鏡がズレ落ちた。

 普通ならここまでヘタリはしない、でもこれは無理。

 警官を殺して銃を奪っている男は、昨夜もTVで見た、この国の現首相、総理大臣・尾部甚蔵に瓜二つだったから。


 「生かしちゃ、置けないねぇ。君」


 声まで同じだ。あ、当たり前か。

 不思議と怖くはない、ただただ気持ち悪いだけ。しかし体は尻餅ついたまま動けない。そんな状況で、漠然と俺は下らない事実を認識した。全然、好転しないけど。

 そう思った時、俺の右側からスピーカー越しのような声が聞こえた。雨音に混じって。


 「待て! おぶじんぞう!」


 う、誰だ? 誰でもいい。助かった。

 そう思いつつ、声のした方を向くと……何で? そこに着ぐるみが立ってる。


 「仮面ヒーローかよ……」


 どう見ても、戦隊ものか何かの着ぐるみにしか見えない。その割に至る所が薄暗い街灯の明かりにさえ反射して光ってたりする、総理大臣の名前を呼んだ男。

 その声は確かに男だった。

 スピーカー越しでもイケメン声優さんを思い出させるような、ちょっと大人の甘い声。

 彼は何かを突き出した。え? スマホ?


 「この通り、捜査令状は取ってあります。しかも今や現行犯、この世界でまでね。もう逃げられませんよ!」


 なんだか妙に迫力の無い丁寧な言い回しで仮面ヒーロー、いや、着ぐるみマンは言う。


 「その服。君、あそこから私を追ってきたのかね? ご苦労な事だね」


 総理らしい、いつも通りの人を食った物言いに、着ぐるみマンが叫んだ。


 「黙れ! 人殺し」

 「そうだねぇ、では君も」


 総理は、と言うしか無いけど、警官から奪った銃とは別の物を握った左手を、着ぐるみマンに向ける。

 それはまるで、亡き父の遺品にあったグリップの細い電気シェーバー。

 場違いだけど、洗える電動カミソリだぞ。と言う親父の言葉を思い出した。


 「喰らいなさい」


 電動シェーバーを突き出しながら、総理は静かにそう告げた。


 「それは! せんぱ……」


 着ぐるみマンの声が途中で途絶える。

 音も無く着ぐるみマンの体が発光した、ストロボみたいな一瞬の輝き。

 その後に、薄暗い街灯の明かりさえも反射して明るく瞬いていた着ぐるみに、暗い穴が次々と開く。

 1つ、2つ、3つ。無言で着ぐるみマンは仰向けに倒れた。その穴から、煙のような物が漏れ出て、雨空に消えて行く。


 「正義の味方が……」


 絶望のうめき声を俺は漏らした。だってそうだろう? 正義の味方が簡単に殺されてイイ訳が無い。


 「総理! どうして?」


 着ぐるみマンを倒してニチャっと笑った目の前の男に、俺は叫んでいた。


 「君も居たねぇ」


 そう言いながら手にしてた電気シェーバーもどきを俺に向ける。

 今度は俺の番なのか。一瞬、絶望が背筋を駆け下りた。でも何も起きない、雨だけが二人の間に流れた。


 「からかね、仕方ない」


 左手の電気シェーバーもどきを倒れた着ぐるみマンの方に投げ捨て、今度は右手に持った拳銃を俺に向ける。

 撃たれる!

 衣服を剥いでいた警官から奪ったリボルバーの銃口が、俺の眉間に向いているのが薄暗い空き地でも判った。


 「これで充分でしょう」


 どこと無くオネェっぽい喋りで再びニチャっと笑うと、総理と同じ顔の男は引き金を引いた。

 思わず目を閉じた俺の耳に轟く銃声。でも、その前に確実に俺の前に何かが落ちてきて、空き地の水たまりを跳ね飛ばした音を、俺は聞いていた。

 ついでに跳ねた水は、眼鏡を落とした俺の顔に盛大に掛かったんだけど。


 「痛ぇな! んなモン食らったら、くたばっちまうだろうがよぉ! ここの連中なら」


 いきなり聞こえた野太い怒声に、恐る恐る目を開けた俺が最初に見たのは、濡れたGパン。そのまま上に視線を動かすと厚みのある皮ジャンの背中が。


 「ここの連中? 貴様、追っ手かね?」

 「んな事ぁ、判りきってんだろうがよぉ。ここでまで何人も殺めやがって! テメェ、神妙に縛に付けぇ!」


 な、何だ? セリフが時代劇?


 「丸腰で、私を捕らえる? ふざけた事を」


 総理の声と共に撃鉄を起こす音が。さっき怒鳴った野太い男の声が、それに続く。


 「三千世界の理! 物理法則の全てにおいて、我はこの地に顕現す! 気は我に答えよ」


 今度は呪文? それとも祝詞ってヤツ?


 そんな事を考えるより早く、銃声が薄暗い空き地に轟く。今度は立て続けに4発も。


 「貴様……術師か?」

 「んな事ぁ、どうでもイイんだよぉ! そこらで逝っちまった奴らの分、返してやんぜぇ!」


 怒鳴りながら皮ジャンの背中が動く、手にした棒状の物を振り回してるのが見える。

 続けて4回、硬い物を打つ音が俺の耳に飛び込んできた。まさか、この人……銃弾を弾き返してる?


 「ひぃぃ! 痛い! 死ぬ、死んでしまうじゃないか!」


 総理ソックリの声が悲鳴を上げた。

 反射的にGパンの横から首を伸ばして、敵の姿を追う。眼鏡を掛けていない俺じゃ、ハッキリとは見えないけど。


 「パチンコ玉が当たった程度だろうがよぉ! んなモンで死ぬか!」


 野太いオッサン臭い怒声を聞きつつ覗き見る俺の目に、奪った銃を放り投げて、倒れた着ぐるみマンの方に這い寄る総理の姿が飛び込んできた。


 「諦めて、お縄を頂戴しやがれ!」


 時代劇っぽい革ジャン男のセリフを背に受けながら、総理は一心不乱に着ぐるみマンの腰の辺りをまさぐってる。


 「違う!」


 絶望の叫びをあげてスマホらしき物を投げ捨てた後、またニチャっと笑いながら立ち上がった総理が手にしていたのは、着ぐるみマンを撃ち殺したアレだった。


 「形勢逆転とは、この事だねぇ」

 「んだとぉ?」


 危ない、あの電気シェーバーもどきは。

 そう忠告しようと、俺が口を開きかけるより早く総理の声が。


 「くっ、撃てん。そんな、馬鹿な! 壊れているのか?」

 「ごちゃごちゃ言ってんじゃぁねぇ!」

 「くそ! 戦略的一時撤退ですよ!」


 撃てないと判ると総理は俺達に背を向けて、空き地の奥へと走り出す。とんでもないスピードで奴は夜の闇に消えていった。

 世界的短距離ランナーより速かったよ、尾部総理が陸上やってたなんて話、聞いた事無いけど。


 「あ、待てコラ!」


 追いかけようとして、低音の皮ジャン男は水しぶきを上げて空き地に倒れ込む。

 さっき、確かに俺をかばって撃たれたはずだ。あの位置なら足だ、きっと。


 「クソ! 足さえヤラレてなけりゃよぉ」


 倒れたままの皮ジャンから、そんなセリフが。やっぱり俺の代わりに撃たれてたんだ。


 「だ、大丈夫ですか?」

 「んなモン大した事ぁねぇ」


 そう言いつつ起き上がると、革ジャンにGパン姿の命の恩人は俺の方に近付く。撃たれた足は大丈夫なのか?


 「ボウズ。怪我ねぇか?」

 「あ、はい! 助かりました」

 「いいって、公僕が一般人助けんなぁ、仕事だしな」


 言葉悪いが良い人みたいだ、このオッサン。

 いや、ホントにオッサン面なんだ、低音の革ジャン男。多分、俺より15歳以上も年上なんじゃないかなって感じの。 

 公僕と言ったから、警察関係の人なのかも知れない。しかし、革ジャンにGパン。までは良いんだけど、何故か片手には映画で見た魔法使いが持ってるような木の杖。

 これか、棒に見えたけどホントに木だった。

 なんか、ちょっと以上にズレが有るかな、この人のファッション。いいのか? 私服OKとは言え、刑事がこれで。

 ただ、見た事有る顔なんだよな……どこかで、多分。

 パキっと小さな音が今、オッサンの足元で。

 あ、眼鏡、踏んづけましたね? 割れたな、こりゃ。まぁ仮性近視だし見えない訳じゃない、そう困らないかぁ。


 「あっちは、ダメか」


 もう俺の事なんか興味を無くしたのか、倒れている警官二人にオッサンは近付いた。手を合わせて拝んでる、やっぱり良い人なんじゃないかな。


 「拳銃はどっちも盗られてやがんなぁ。片方は使い尽くして捨ててきゃぁがったがよ」


 落ちてる警官のリボルバーに、俺の目は移動する。そこから更に着ぐるみマンに。


 「なんてカッコしてやがんでぇ、コイツぁ」


 そう言いつつ着ぐるみマンに、オッサンは近寄ると、軽く蹴りを入れた。

 途端に至る所が点滅し始める。


 「再構成完了、再起動」


 機械の音声表示みたいな声が、着ぐるみマンから聞こえた。


 「大穴が開いてやがんなぁ、手遅れかよぉ」

 「失礼な! 僕は生きてますよ」


 スピーカー越しの子供のような甲高い声が、動かない戦隊ヒーローのボディから響く。そのボディが真ん中から二つに割れた。


 「流石に、全体の40パーセントを失いましたからね。かなり縮小せねば」


 そんな事を言いつつ、ムクッって感じで起き上がったのは、確かに小学生くらいの男の子だったんだ。


お読み頂きありがとうございました。厳しい御感想、御指摘、お待ちしております。

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