最終章・予定調和の決戦場所
《side フロリア&リア》
この場所では他の戦場と比べてもより多数の魔獣の呻き声や咆哮、更には魔獣達と相対する3種族の連合軍の人々の必死な叫び声なんかが木霊している
そんなここはスリイアの王都の近く
時刻は既に決戦の開始より数十分が経つ頃
戦況としては完全に魔獣達によって押されている現状が今のスリイアにおける戦いであった
だがそれに関しては特に問題なく、はじめから予測されていたことである
何故ならばセリア・リーニャ・クロア・希暗といった戦闘における特筆戦力が唯一存在していないこの戦場において邪神の従魔、更には他のどの戦場よりも多い魔獣達との戦闘がそう有利に運ぶわけがない
なのでこの戦場にいる3種族の連合軍+αに課された役割は至極単純
セリア達特筆戦力率いる精鋭部隊が他の戦場での戦闘にいちはやくケリをつけ、この戦場へと援軍として駆けつけてくれるまで耐えうることである
それ即ち攻撃をほぼ捨てた上での耐久戦を意味する
そんなわけで最初から耐久メインの作戦が適応されたこの戦場における陣形としては完全に囲櫓
その中で唯一敵に対して攻撃を加えるのが……今まで存在感が全くなかった異世界人達である
ちなみに遠山や近山、近藤達といった異世界人達の中でも上位に位置する奴らは全員とも六首邪覇龍の足止めもとい生贄として今回の作戦に組み込まれている
ちなみに異世界人のうち戦闘組の戦力としてはこの世界におけるゼラス率いる魔人達といい勝負をすることが出来るぐらいまでは呂阿によって引き上げられており、本来ならば戦闘への恐怖を抱いていたりした奴らも全て呂阿の訓練という名の洗脳によって今回の戦いに問題なく参加している
そしてその中でも足止めという名の生贄である遠山達はなぜその役目を拒むことなく請け負っているかと言えば単純に
「どうせお前らじゃあれには勝てん、勝てん。大人しく希暗が助けに来てくれるまで壁として役に立ってろ(* ̄m ̄)」
とかなんとか言って呂阿が煽ったからであり、案の定呂阿の目論見通りに全員が足止め役をかって出て
「「「俺達だけで倒してみせる!!」」」
とか言って戦闘開始前は意気込んでいた
だがそんな彼らも今やズタボロの状態
やはり化物を倒すことが出来るのは化物の領域に足を踏み入れている者共だけである
一応彼らの名誉のために言っておくと彼らは六首邪覇龍の保有する全魔力量のうち3割を削ることに成功している
それに加えて作戦通りに足止めをし続け、未だに六首邪覇龍による3種族の連合軍に対する被害はZEROである
これはただの人間達が化物に対して抗った結果としてはかなりのものだろう
まぁそんなこと言っても負けは負け
呂阿は予定通りとぐらいにしか考えていないのだけれども
呂阿にとってはクラスメイトというのは希暗達数人であるぐらいの感覚なので他のメンバーに対して扱いが雑なのは仕方ないことである
そんなわけで今現在絶賛耐久なう!な状態であるスリイアにいる連合軍
戦闘開始からもうそろそろ一刻が経とうとしているが当初の作戦通りにことを進めることが出来ているために被害自体はあまり大きくない
といってもやはり押され気味
いつこの均衡が崩れ甚大な被害が出るかわからない
そんな事を考えながらもこの戦場における指揮者であるフロリアはつい先日呂阿より護衛として遣わされたカルナの頭を撫でながらただただ今は耐え忍ぶ
ここでフロリアやリア、それにカルナが戦線に加わったぐらいでは特になんの影響にもならない
実際にはカルナを投入するだけで格段な戦力強化になるのだけれどもそれは呂阿以外に知る由もない
まぁどのみちカルナの性格を考えると即座に六首邪覇龍に突撃しそうな気もするけど
今だって周りの状況が気になって見に行きたくなっているのを呂阿の言いつけと何故か懐いたフロリアのおかげで大人しく座っている
周りの人々はこの可愛らしく座っているカルナがまさか伝説の魔獣のうちの一体であるフェンリルとは誰一人として想定していないだろう
そんな感じで適度に指示を出しつつ後衛にて援軍の到着を今か今かと待ち続けるフロリアの耳に余り芳しくない情報が入る
「戦況を報告します!現在例の魔獣の足止めをしていた異世界人達が負傷により戦闘不能状態、よって退却しています。それによって例の魔獣が再び移動をはじめこちらに向かってやってきております!」
そうフロリアの元にやってきた伝達役が伝える
とうとう遠山達にも限界がきたようで六首邪覇龍を足止めをするのはここまでのようだ
そんな情報に対しフロリアは呂阿から渡されている数通りの作戦書を開き3種族の連合軍に対して指示を出そうとした時
今までとは全く異なる死を予感させるような禍々しい雰囲気が辺りをつつむ
その原因は誰にでも簡単に想像出来た
それは遠くから六首邪覇龍が来ているのを視認したことで確信に変わる
そう
確実に最初見た時よりも六首邪覇龍が強くなっている
というよりは六首邪覇龍から感じ取られる威圧感が格段に上がったのだ
その事実に3種族の連合軍の人々の心の中には絶望が生まれかける
だがこんな時こそ英雄の出番だ
そう言わんばかりのタイミングでフロリアの近くに設置されていた各戦場を行き来するための魔法陣が輝き出すとそこに待ち焦がれた2人の姿が現れる
「何故か反応が大きくなっていますがロア様は大丈夫なのでしょうか」
「私達の主様が負けるわけありません。それよりは目の前のあいつをきちんと始末して私達の役目を果たしますよ」
「そうですね。まずは私達の役目を無事に果たしてロア様のお力に少しでもなれるようにしますか」
そんな感じで軽口をいいながら現れた2人、セリアとクロアを見てその実力を知っている人々からは歓喜の声があがる
まぁなんで知っているかと言えば単純に呂阿がデモンストレーションを連合軍ほぼ全員の前でやってその力を見せつけたからである
そんな軽口を言い合い全く緊張した様子の見えない2人にフロリアは頼む
「セリアさん、クロアさん。あの魔獣の討伐をお願い致します」
そう言われた2人は力強く答える
「「貴方に言われるまでもありません!」」
そう言うとセリアとクロアは六首邪覇龍へと駆け出す
こうして絶望的な状況にあったスリイアにまずは2人という希望が生まれたのであった
……To be continued