最終章・見せ場のない犬っころ
《side セリア&クロア》
魔獣達の大群との戦闘が開始されて僅か数分足らず
ガロ率いる3種族合同の精鋭部隊は魔獣達に対して互角というよりもやや優勢の状態で戦闘を行うことが出来ていた
優勢でいられる大きな要因としては呂阿がばら撒くかのように配布している魔道具、つまり魔力型手榴弾のおかけであるといえる
もちろん精鋭部隊というのも優勢である理由のひとつであるが、多少の練度の差を覆すぐらいに初手の大規模な手榴弾による攻撃が効果を見せた
他の戦場でも行われていることである作戦ではまず魔獣達が視界に入ったらそのままありったけの手榴弾を投擲するというのが第一段階
第二段階として各戦場の状況にそった陣形の展開と立ち回りが定められていた
てなわけで行われた手榴弾による大爆撃
これによって魔獣達の大群の第一波における低ランクの魔獣はぼぼ全滅
残っている中堅から上位の魔獣においても被害を無視出来ない程のダメージを負っている
そんなダメージを負っている魔獣達はここにいる精鋭部隊にとっては取るに足らずすぐさま殲滅することができる
なのでほんの数分の間に今回新たに邪神達によって生み出された魔獣は壊滅することが出来たのだ
その後は邪神達の影響を受けてここに集まってくる魔獣達を捌くだけでいい
そして現状では増える魔獣の数<殲滅される魔獣の数となっているためにガロ率いる精鋭部隊が優勢なのだ
もし手榴弾がなければ新たに生み出された魔獣達の相手をしている間に影響を受けた魔獣達が集まってきて、そのまま物量に押されてたちまち壊滅させられていただろう
これに関しては呂阿様々である
まさか本人もこれだけあれば何とかなるんじゃないかななんて軽い気持ちで作ったものがこれだけの戦況を左右するものになってしまったなんて考えてなかっただろう
何故呂阿がこの手榴弾を軽く見ていたかというと、単純に手榴弾の威力を見て
(俺の中級魔法一発とおなじくらいか、微妙だな)
なんて考えてたからであり、ほかの人々にとっては
(上級魔法並の威力があるだと!?この魔道具はとても凄いものだな)
なんて感じるレベルの威力だっただけである
これに関しては呂阿の感性が他の人とズレにズレまくっているせいなので仕方ないといえば仕方ないのだけれども
そうしてガロの指揮のもと順調に魔獣達を対処し役目を果たしている精鋭部隊の耳に何が破壊される音が聞こえる
そしてそれと同時に爆音と爆風が辺りに広がる
そんな中その音の正体にいち早く気づいたガロは音源の場所、すなわち結界を貼りセリアとクロアが冥腐三首子犬と戦っていた場所へと目を向けると
「手の空いているものはあの方面を警戒!」
という指示を出すと自身も武器を構える
結界が割れたということで考えられるのは2つの可能性
ひとつはセリアとクロアが負けた可能性
もうひとつは戦いが熾烈を極め結界の内部で抑えることが出来なくなった可能性だ
ガロとしては後者の可能性の方を信じたかったがそんな予測はあっさりと覆る
なんせ結界のあった場所から
「あなたは本当に手加減が下手ですね。おかけで砂まみれになったじゃないですか」
「あれは仕方ないことです。それよりもあなたがちゃんと攻撃してくれていたらここまで力を使わなくてもいけたはずです」
とかいい争いをしながらこちらに歩いてくるセリアとクロアの姿が見えた
それを見てガロは2人が無事に冥腐三首子犬に勝てたということに対して安堵するが、すぐさま気持ちを切り替えると
「無事に2人が勝利を手にしたぞ!我々も2人に負けることなく魔獣共を殲滅せよ!」
と大声で指示を出すとガロ自身も戦線に加わる
そしてガロの激励のもと戦意を高めた精鋭部隊は逃げたり動きの鈍くなった魔獣達をほぼ一方的に駆逐していった
〜〜〜〜〜(3分程前)〜〜〜〜〜
時間は結界が破壊されるちょっと前まで戻り今はセリアとクロアがほぼ一方的に冥腐三首子犬をボコボコにしていた時
セリアに翻弄されつつも嫌がらせのように身体の至る所に小さいとはいえ傷を負わされ、クロアにはガスガスと一撃の度に小さくはないダメージを与えられたり身体の一部を削られている
そんな冥腐三首子犬は既に3つあった頭部のうち既に2つを消滅させられていたりするがまだまだ戦闘を続行することが出来るほどの余力は残っている
それに対してセリアとクロアはもうじき今使用している魔法は一旦解除される
この魔法は長くても1回の発動において10分程しか今は持続出来ず、再び使用することができるようになるには魔力が5割以上まで回復するしかない
よって冥腐三首子犬を倒すためには今の状態が維持出来ている間しかない
それを理解している2人はもうすぐ来る時間の限界を感じ取り冥腐三首子犬にトドメを刺すために大技を繰り出す準備に入る
[今から仕掛けますよ。準備はいいですか?]
[大丈夫です。トドメは任せてください]
そんなやり取りをアイコンタクトによって交わした2人はそれぞれ己の担当行動に移る
セリアは冥腐三首子犬を翻弄しながら魔力を素早く練り上げる
クロアは少し距離をとると大技を繰り出すために魔力を練り上げ、更にその練り上げた魔力を右腕に集中させる
そしてクロアの準備が出来たのを察したセリアは冥腐三首子犬の懐に入ると細剣を胸に突き刺し
「自作魔法・電撃波」
と唱えたあと素早く冥腐三首子犬から距離をとる
セリアが使ったこの魔法
これは相手の体に電気を流し筋肉を麻痺させて動きを鈍くさせる魔法である
だがこの魔法単体で使用したならばまず冥腐三首子犬程の魔獣ならば効果はなかっただろう
だがセリアはこの魔法を使うために攻撃をする度に少しずつ電撃を加えていたのだ
それにより電気が流れやすい体質に一時的にそうされている冥腐三首子犬はセリアの目論見通り身動きが取れなくなる
そうなればもうこの先の展開はお察しのとおり
「自作魔法・激龍掌」
そう唱えつつ冥腐三首子犬を殴り右腕に蓄えた魔力を解放するクロア
ただでさえ獄覇龍使用時のクロアの攻撃は冥腐三首子犬の肉体を削る
そして今回はさらに魔法と魔力の追加攻撃
それから導き出される結論は…………!
はい、爆散と
とんでもない衝撃波と爆音、更には爆風を生み出したクロアの攻撃は冥腐三首子犬を木っ端微塵にしてしまいましたとさ
結界はそれの余波で壊れたに過ぎない
これが結界が壊れるまでの結界内部での出来事の全容であったりする
そんなわけでその後はセリアとクロアの協力もあったことで無事残る魔獣達も殲滅
これにてイグノアにおける最終決戦は無事に幕をおろしたのである
あまりにも扱いが雑な冥腐三首子犬にはちょっと同情するかもしれない
……To be continued




