最終章・希暗の試練④[改]
《side 希暗達》
ボス戦が終わったにも関わらずなんとも言えない空気に包まれる4人
ボスらしき気持ち悪い魔獣の残骸である消し炭がたてるシューーっという音だけがこの場に響く
確かにやる気を持って望んだボス戦にしてはとても呆気ない終わり方をしてしまったために何も言えないのは分かる
というよりもこんなにあっさりもボス戦が終わったのは希暗達にとっては10層や20層のボス戦以来であろう
なので3人はクロアが一撃であのボスを倒したことについて言葉がでない
なんせ反応を感知することに成功していた希暗からすれば見た目こそあれだけど反応の大きさ的にかなりの強さであったのが分かっていたのでその分驚きが2人より大きい
桜前と白月はクロアに対して一撃でボスを倒したことに驚いてはいるもののあの見ただけで震えが止まらないほど気持ち悪いボスを倒してくれたことへの感謝の気持ちが大きかった
一方クロアに関していえばボス戦はただこなすだけの作業のようになってきてしまっているので今回のような一撃決着でも特に思うところはない
だが今回は自分がメインの攻略ではないため呂阿からも緊急時を除いてあくまでもサポートする程度に抑えるように言われていたことを思い出していたために、それを考えるとさっきのことは大分不味い
しかもさっきの一撃はほぼ反射的にかなりの魔力を消費して発動させてしまったために残り魔力では今後続けて攻略をするならば万が一の時に支障が出てしまう
だがそんなドジなことを今更希暗達に言えるわけない
なので何も言えない
そんな風にそれぞれが胸中に抱いている思いは別だけども言葉が出ないのは同じようだ
そんな中その空気を打開するべく希暗が口を開く
「・・・えーっと………まぁとりあえず今日は一旦この奥で休まない?」
そう希暗が言うと桜前が
「そ、そうね。せっかくボス戦も早く終わったんだからこのあとのことも考えて体調を整えましょう。それに久々に寝る時間も欲しいしね」
と言い希暗の提案を飲み込む
白月も
「そうだよね!休憩時間も大事だからね」
と言い2人の意見に追従したのでクロアは特に何も言わずに了承の意を示すべく頷く
それを見た希暗はとりあえず100層のボス部屋の奥の方にある通常ならば入口に帰還するための魔法陣を設置する小部屋を向かっていった
小屋に入った希暗達はすぐその場所に呂阿から貰った特製の簡易結界を使用する
勿論性能は呂阿のお墨付きであり効果も初期より圧倒的に高性能になっていてまず並大抵の攻撃では破壊することはおろかそもそも発見することはできない
しかもこの結界には攻撃を跳ね返す機能まで付いているのでぶっちゃけこれの大きなバージョンを作り出せば鉄壁要塞が作れるレベルの代物
まぁといってもその大きさになると発動までにとんでもない魔力が必要なのでまず使用することは呂阿以外には出来ないけど
リーニャが辛うじて出来るといったところ
それはさておき今回使うのは4人が入ってゆったりと休めるくらいのサイズの部屋を囲む結界なので希暗でも問題なく使える
そして結界の効果をろくに知りもせず使っている希暗達がこの結界の性能の凄さに気づくのはだいぶ先のこととなるのだけども
そうして結界を貼り安全を確保した4人は各々に装備を解除して休みを取れる状態になる
勿論ダンジョン内で水浴びや風呂なんてあるわけないので洗浄を使ってとりあえず清潔を保つしかない
実際は風呂に入りたいと思っている3人と、風呂の事などどうでもよくてはやくも呂阿に会いたくなってきていたクロアがいたりするけど
とにかくダンジョンの中では贅沢を言うことは出来ない
これは冒険者にとって至って普通の常識でありダンジョン攻略を志すものとしては本来なら心休まる場所のないはずであるダンジョン内部にて自分の身を守る以外に意識を向けることなど滅多にないのだ
それこそ日をまたいで攻略をするような上級の冒険者でもダンジョン内部では休憩すらままならないというのは誰でも知っている
だがそんな常識を覆すのが頭の可笑しい人外のお巫山戯
お手軽に作成してしまった簡易結界ですらこんな危険地帯においても安全地域を作り出したり、逆に適当なまほうによって即席拠点何かを作り出してしまうのだ
今回はそんな人外の協力を得ている希暗達
前回では主に希暗と白月でかわりばんこに結界を貼ったりして睡眠なんかをとっていたが今回は発動時に魔力を多少使う程度で半日は余裕でもつ結界を貼る魔道具のおかけで今や3人は結界の中でのんびりと過ごしている
希暗はほぼ日課である覚醒状態の精霊王モードの持続時間を上げるために瞑想していて桜前と白月の2人は既に軽く食事を終えて呂阿の準備した寝具を利用して仮眠を取り始めている
クロアもクロアで予想外に魔力を消費してしまったがために食事をとって体力と魔力を回復させつつもすぐに仮眠を取り始めた
もしこの場に呂阿の作った魔道具による結界がないならば寝ずに警戒に当たったかもしれないけど今回はそんな必要ないので短時間ながらもクロアは熟睡することに決めていた
そんな中、希暗は1人黙って瞑想を続ける
この練習によって希暗は現在精霊王モードでの全力戦闘を10分程ではあるが行えるようになっている
以前の1分にも満たない持続時間から比べると天と地ほどの差があるだろう
それにまだまだ持続時間も増えそうだ
更に希暗はこの力の上にもう一段階上の状態があるのではないかと最近考えていた
それは本当にただの予感
そうする気がするだけといった類のもの
だがこの予感は近いうちに正しかったと証明される
奇しくもそれが発揮されるのは希暗にとっても望ましくない状況において……となるだろうが
その後も適度に瞑想を続けて魔力の操作技術や明日からの攻略について色々と思考をしたのちに希暗も軽く眠りにつく
そうして4人はダンジョンの内部では出来ないと言われている安眠を取ることでこのあとのダンジョン攻略に向けての英気を養うのであった
……To be continued