最終章・希暗の試練③[改]
《side 希暗達》
順調に攻略(?)も進み現在希暗達がいるのは100層のボス部屋の前
このダンジョンに再び突入してからまだ半日ちょっとしか経っていない
普通であれば考えられないような速度だ
それもそのはず
あのあとクロアのとった方法はハマりにハマり92層以降の遺跡ステージの攻略はとんでもない速さで終わり今に至るわけである
なんせクロアの魔法によってあいた穴をただひたすら一直線に走るだけの簡単な事
その道のりには魔獣はほとんど出ない上に罠なんかは軒並み消されているのでひとつも見当たらない
この状況では攻略に手こずるほうが難しいだろう
ちなみにクロアが使用した魔法
あれは呂阿がクロアにこんなの出来ないか?といって自分で実践してみせた魔法のうちクロアが習得出来た魔法の1つである
あの魔法の本来の使い方は大きく分けて2種類
拡散型と集中型である
拡散型は拳の前方に広い範囲で衝撃波を繰り出したり魔法を使用した対象が生物ならば、その生物の全身に振動が行き渡るといった感じの効果を持つ
使い所としては対団体戦やその際に魔法が多数向かってきた場合なんかだろうか
その逆に集中型は言葉の通り威力の1点集中に近い
さっき使用したのもこっちの型の方でありイメージによって多少の差があるが魔法を発動させた拳の直線上に破壊をもたらす
つまり簡潔に言うと飛ぶパンチ
某ガンダムの技にある拳が飛んでいくのと同じようなもんだ
本来の使い方としてはタイマン戦用で体内にある相手の弱点をピンポイントで撃ち抜くためのもの
決してさっきのような壁を一直線に壊していくために作られた魔法ではないし制作者もそんなことは全く想像していなかっただろう
ちなみにクロアがこれと同列で習得してあるのは足技の方にもありそっちはもう完全に嵐〇の上位互換みたいなのと、某美食屋の如く手刀で斬撃を飛ばせるようなものがあるといった感じだ
まぁどれも呂阿が興味本位で作っていたのをクロアの戦闘スタイルをみて
(あれ?このやってみたかったシリーズの技って全部クロア使えるんじゃね?なら面白そうだし教えてみようっと)
という阿呆の気まぐれでクロアが習得することになったのだ
イメージが簡単で呂阿が実践してみせたということと呂阿から直接頼まれたということでクロアがかなり本気で取り組んだのは言うまでもない
更にいえばこの魔法
呂阿ならば魔法としてではなくもう単純に魔力を発動箇所に込めるだけで使うことが出きたりする
ちなみにこんな感じのネタ技はセリアもリーニャもそれぞれ別々のものが使えるようになっていたりする
そんなこともありクロアのおかげで疲労を増やすことなくボス戦に挑める希暗達3人はクロアの圧倒的な戦闘力についてはもう考えないことにして目の前のボス戦をどうするかに意識を向ける
といっても何の情報もないためやることといえば体力や魔力を回復させて体勢を万全にすること以外にほとんどないのだけども
前回の90層のボス戦では情報が少ない魔獣かつその中でも上位個体であるボスが出てきたため今回もそれ同様のボスが出てくるのか
もしくは高ランクの有名な魔獣が出てくるか
希暗達はこの2つのどちらかであると予測している
だけどこのボス戦が終わればあとはアシュロンからの試練を残すのみ
3人のやる気は必然的に高まる
その点クロアはどんなのが出てきてもやる気充分であるし同じ魔獣、更にいえばその中でも上位の龍の王であるためそんじょそこらの魔獣に負けるわけにはいかないというプライドがある
ちなみにこれはシシリア以外に誰も知りえぬ情報ではあるが現在のクロアの実力を単体で上回る魔獣はこの世界に邪神の従魔を含めて両手の数で数えられる程しかおらずその全てが伝説の存在
こんなダンジョンでは出てくることはまずないのでクロアはどこのダンジョンでもボス戦で負けることはほぼないというのが現実だ
だがそんなことは知りえぬ、というか知っていたところであまり関係ない希暗は準備を完了させるとボス部屋の扉の前に立つと指示を出す
「まず最初は様子見でいこうと思う。最初にかなり力を込めた一撃を僕がやった後に、僕は前衛で壁になるから玲奈は白月さんのそばを中心にして遊撃。白月さんは魔法を試したり僕の状態によって回復魔法もお願い。クロアさんは後衛から援護お願いします」
そう言われた3人は頷く
今回のボス戦はあくまでメインは希暗達3人
クロアはそのおまけでしかないのだ
だがその存在が後ろにあるというだけで3人はそこはかとなく安心感を胸に抱いていた
希暗は全員が準備を出来たのを確認すると扉を開き中に入りその後ろを3人が付いていった
中に入るとその場所はごくごく普通のボス部屋
特にこれといったギミック何かもなく普通の場所
だが部屋の真ん中には何か蠢く物体がいる
先程までの部屋がとても明るかったため薄暗い今の場所では目が慣れてなくほとんどはっきりと見えていないので希暗達3人は防御の構えをとりつつ目がなれるのを待つ
この時ただ1人目を魔力で強化することによってこの部屋の中央にいる物体を視認することが出来ていたクロアはその姿を見た途端冷や汗をながし少し震えはじめる
だがそのクロアの様子に希暗達が気づく様子はない
そして3人の目が慣れてきたころやっとの事で希暗・桜前・白月は部屋の中央で蠢く謎の物体を視認する
そしてその姿を見た瞬間
「いやァァァァァ」
「きゃァァァァ」
と桜前と白月が叫び謎の物体から目を背けクロアの後に隠れてしまう
ここで希暗の後に隠れないあたり防衛本能が自動的に働いたのであろう
では何故クロアが冷や汗を流し震え、2人が悲鳴を上げることになっているのか
それはこの部屋のボスの見た目にある
率直に言って………滅茶キモい
全身を包む黒色のうねうねとしている触手
虫のようなギラギラとした眼
さらに何処までが口なの?とツッコミを入れたくなるぐらいに横に広がっている口
そして何よりも気持ち悪いのがまるで笑っているかのような顔をしているところだ
勿論こんな魔獣は冒険者ギルドにも認識されていないし何故こんなのがここにいるか分からないが一応ここのボスだというわけだ
ここまでくると女性である3人には刺激がきついうえに男である希暗ですらこれとは戦いたくないと思ってしまう
だが男としてやらねばならぬ時がある
今こそその時だ
そう覚悟を決め深呼吸してから攻撃を仕掛けようと希暗が構える
だがそんな希暗の心構えは少しばかり遅かったようだ
ボスに向かって走り出そうとしていた希暗の後から黒い炎の巨大なレーザーのようなものが一直線にボスへと向かい轟音とともに直撃する
そして砂埃が晴れたあとボスがいたと思わしき場所には塵一つ残っておらずそんな様子を見てから希暗は後ろをふりかえる
そしてさっきの攻撃をやったであろうクロアと目が合うとクロアはこう言った
「すみません、さっきのを見るのはもう限界でした」
そう言われてただただ希暗は納得するしかなかった
……To be continued