最終章・90層のボス戦
《side 希暗達》
希暗が扉を開けて3人が中に入るとそこは特別な環境………というわけではなく普通のダンジョン内の様子が広がっている
だがボス部屋は場所としては整えられておりボスがいる所を真ん中として円のような形になっていて更に周りの壁には一面に光る不思議な石が散りばめられているのでかなり明るい
いままで薄暗いダンジョンを突破してきた3人は堪らず眩しそうに目を覆う
そして3人が周囲の明るさに慣れ視力が回復した頃
部屋の中央に存在するボスを視認することが出来た
そのボスは全身真っ黒な甲殻らしきものに覆われており、目立つものとしては4つある挟まれたらオワタであろう大きなハサミ
そして2本の鋭く尖った尻尾がギラギラと輝いている
そして左右16本ぐらいある足がワサワサしている
そうつまるところ元の世界にいた蠍にとても良く似ているのだ
違うところはハサミと尻尾の数
そして何故か羽が生えているということだろう
もうこの時点で蠍と呼べないのだけども
いや言い方を少し変えよう
Gと蠍の合体版みたいなもんだねこれ
呂阿なら目視した瞬間に消滅させていたであろう嫌悪感を持つ見た目だ
勿論希暗達3人もボスを1目見た時に何に似ているのかを察したらしくとても苦い表情をしている
だが警戒を怠ることはしない
何故なら一応3人共ボスの反応を正確に感知することが出来てはいるのももそれがとても大きくボスがかなり強いことを理解しているからだ
希暗は嫌悪感を抑えつつも2人に指示を出す
「とりあえず様子見で僕がつっんでいくから隙を見て援護して欲しい。注意するところはあのハサミと尻尾、多分ハサミに挟まれると一発アウトだし尻尾には毒があると見て間違いないと思う。それに羽もあるから飛ぶのにも注意が必要だね」
そう言うと桜前が
「分かったわ。私は希暗とボスの周りを高速で動きながら隙を見て攻撃するわ。歩はボスと近づくことがないように主に希暗を援護して頂戴」
と言い、白月が希暗と桜前の言葉に頷く
それを見て希暗は未だこちらに向かってこずに足をワサワサさせているだけのボスへと攻撃を仕掛ける
ちなみに今回は毒を警戒してか回復効果のある魔法を使える水属性を主体で攻めるようで希暗の髪色が青へと変わり手にはいつの間にか水で出来た大剣が握られている
何故ならば既に希暗は無詠唱で各属性の大剣を作り出すことができるからだ
他にも初級魔法の球シリーズに相当する精霊魔法の中で難易度が低いものならば無詠唱可能だ
希暗は無詠唱で使える魔法は基本的に無詠唱で使う
戦闘をする上では詠唱をするのとしないのでは圧倒的に詠唱しない方が強いからだ
どこかのカッコつけのためだけに大きな声で魔法名を叫ぶアホの子とは大違いだ
ちなみに何故魔法詠唱をしない方が強いのかというと対人戦ならば言うまでもないだろう
声に出さない方が魔法発動に気づかれないからだ
次に魔獣との戦闘ならば少し変わってくる
何故ならば魔獣達が人間の言葉を一切分からないわけではないからだ
邪神に作れらし魔獣達は少しではあるが人間の言葉を理解する個体がいる
基本的に魔獣達は人々が魔法を発動する際の魔力の流れを感知して魔法発動に気づく
そして気づくのが早い魔獣程魔法が当たりにくくなる
それは魔獣として強くなればなるほど精度が上がっていくため3種族が設定している魔獣ランクも上になるというわけだ
更に上位個体となると人間の言語を理解するので対人戦と何ら変わらなくなる
いや、魔獣の上位個体となると無詠唱魔法が使いたい放題なので人なんかよりずっと強いのだが
それはさておき今回のボスも魔獣の中では結構強い部類に入るもので名前をコックスコルといい魔獣ランクはA(+)だ
特徴はやはり2対の強力かつ大きな挟と極悪な毒を持つ尻尾であろう
そしてなんとこの魔獣
羽があるくせに飛べないという弱点をもつ
見掛け倒しもいいところであるが今までに飛ぶところを目撃されたことはないらしい
なんで飛べないのかは未だに分かってないし、もしかしたら飛べるかもしれないが見た奴が生き残ってないのかもしれないという憶測が建てられている
目撃例も討伐例も少ないため断定出来ていないが希暗達はこの情報を知らなかったらしく、3人は慎重に戦いを繰り広げていた
希暗は2対の挟と正面からやり合い時々不意をつくように死角から現れる尻尾もことごとく交わしていく
だがコックスコルの甲殻はかなりの強度を誇るため様子見程度の攻撃ではまともな傷を追わせることが出来ない
一応足の付け根や関節等はほかと比べ脆いので対策としてはそこを狙えばいいだけだ
希暗は様子見をしつつコックスコルの弱点をだいたい把握していく
その間桜前も前後左右どの方角からも適度な攻撃を加え弱点を探し白月は光魔法を中心に希暗が捌き切れないような攻撃のタイミングを狙って援護していく
そして十数分たった頃に作戦の目処がたったのか希暗は桜前に合図をすると2人は白月の元へと1度退却する
希暗はコックスコルがこちらに向かってこないか警戒しつつも思いついた作戦を話す
「そろそろ本格的に攻めようと思う。さっき攻撃してみた感じだと多分関節部分が他よりも攻撃が通りやすいはずだ、だから玲奈はそこを狙って足や尻尾の数を減らしていって欲しい。あの挟は僕がやるから気にせずどんどんよろしく」
希暗がそう言うと桜前は
「任せてよ!あの気持ち悪い足を全て切り落としてやるわ!」
とやる気十分の様子だ
それを見て希暗は次に白月へと指示を出す
「白月さんはさっきと同じように光魔法を中心に僕の援護をして欲しい。主に玲奈が尻尾を切り落とすまで尻尾を警戒してて」
そう言われて白月は
「分かったよ。確か使える魔法の中に魔獣の動きを遅くしたりするのがあったからそれも使っていくね」
と返した
それを確認してから希暗は再度意気込みをする
「じゃあさっさと終わらせようか。早くしないとさっきから呂阿の念話がしつこいんだ……」
そう言うと作戦の話し合いを終えた3人は再びコックスコルとの戦闘へと意識を戻す
まずコックスコルへと突撃したのはやはり希暗だ
だがさっきとは異なり希暗の髪色は薄緑へと変わり手には竜巻のような荒々しさをもつ剣らしきものが握られている
希暗は切れ味に特化している風属性を選択したのだ
希暗が使える各属性の大剣はそれぞれ特徴が異なる
火なら広い範囲攻撃による団体戦
水なら自身の回復しつつ戦う長期戦
風なら凄まじい切れ味を誇る
土は風と対をなし破壊力が凄まじい
という感じでありそれぞれを場合場合によって上手く使い分けているのだ
なので今回は挟みを切り落とすために切れ味をメインにして攻撃するのだろう
そうして希暗が再びコックスコルと正面から戦闘をはじめると桜前は1人と1匹の周囲を円を書くように動きながら隙を見てはコックスコルの足をユニークスキルによって減らしていく
白月は光魔法による魔のものへ対するデバフ効果のある魔法を使用して2人を援護していく
そうして戦い続けていくうちについにコックスコルは足、尻尾、挟を全て失いダルマ状態になる
それを希暗が真っ二つにすることで今回の90層ボス戦は無事に終わりを告げるのであった
……To be continued




