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隠し部屋のある異世界ダンジョン  作者: なみがら
迷い込んだ異世界と始まる新生活
8/11

広がるダンジョン

  気が付けば一か月ほど経っていました。お待たせしました。

  続きからの方への注意点として、今までの話の修正時に既存の場所を命名致しました。

 内容は以下に記載した通りです。

 

 「作戦拠点」 :道真が現在いる空間

 「イフラット」:ダンジョンの出現した世界

 「ドラゴニア」:フージェら竜人・竜の世界

 「現代世界」 :転移前の道真の居た世界



「これはどういうことだ?雨でも降ったのか?」


 ごつりと鈍い音が聞こえた時、彼女が起床したことに気が付いた。

 ドアに揺らされた桶が貯めこんでいた水を床にまき散らすと同時に、俺は冷や汗をかいていた。


 彼女がぐるりと辺りを見渡せば、部屋中に置かれた水の入った桶が目に入るだろう。

 

 全く同じ大きさの桶が、それぞれ異なる水かさを持ち、ソファーとテーブルを厳重に包囲するように、壁に行き着くほどの隊列を組んでいる。


 この現実離れした光景を目撃した彼女は座った目をこちらに向けて、そう言った。



****



 普通に怒られました。

 そりゃ、部屋中を水入り桶で埋め尽くしてれば顰蹙を買うのは当たり前だ。


意外にも頬をつねる程度で怒りを鎮めて頂けたようで何よりだが、洗濯ばさみよりも痛かった。

その分素直に反省している。


 その後の展開だが、先ずは部屋を片付けた。

 十割方、俺の実験によって散らかしてしまった上で、フージェに手伝わせるのは恐縮だったのだが扉も窓も洗面所も無い状況での排水方法など、異世界初心者である俺では思い浮かばなかった。


 フージェが提案した方法は、この部屋の物をダンジョンに送るというものだった。

 見れば単純明快なその手順は、ダンジョンのマップ上に物を置く、これだけだ。


 実際に大量の水をダンジョンに送ったのだが、テーブルの上に水を流し込むという正当な手順なのだが、十数リットルともなれば背徳感が物凄くて気持ち悪い。


 桶は部屋の隅に積み上げたまま残っているものの、エネルギーに還元する方法を用いて処理することになった。


 もちろん桶も送る事はできるが、ダンジョンに人工物を残すのは得策ではないだろうと思い止めておいた。


 ちなみに、エネルギー還元には膨大な時間がかかるようなので、エネルギーの回収方法としては用いられないとのことだ。


 そんなこんなで水は片付き、一端落ち着くことが出来た。


 さてこれからダンジョン設計していくぞ、と思った矢先にもう一波乱起きることになってしまった。


 波乱と言っても俺がまた、やらかしていただけの事。


 前回、冒険者らが制圧に来る前に追加した松明に問題があったらしい。


 松明の炎の維持のために魔力が必要だったらしく、代わりにエネルギーがじわじわと消費されていた。


 毎秒の消費量は本当に雀の涙ほどだったが、塵も積もれば山となるようで、制圧隊が来る前に間引かれたゴブリン分のエネルギー量を上回る出費になっていた。


 更に悪いことに、俺が実験に用いた魔法陣他、道具類を合計すると現在までの制圧隊による成果をも超える浪費となっていた。


 俺とフージェが現在のエネルギー量を確認したときに発覚したのだが、時既に遅し。

 消費した分は帰ってくるはずも無く、結果的に現在までに冒険者や制圧隊が狩ったゴブリン分のエネルギーはパーとなってしまった。


 この件に関してフージェから、おはなしがある様だ。



****



「ところで道真よ。あの大量の水は魔法で出したものか?」


 一頻りお説教をもらった後、どういう意図があるのかフージェに質問された。


 確かに理想は叶えられなかったが、魔法陣を使って水を生み出したのは事実だ。

 だがそこに、また問題があったのだろうか。

 これ以上のお説教は御免被る。


「そうだが、何か不味いことでもあったか」

「いや、問題はないぞ。…んー、でも下手すれば一大事か? まあ前例はあるし、大丈夫なはずだ」


 なんだか不安を煽る返答だが、言われたような大丈夫な感じは全然しない。


 魔力とか言う今まで存在を知らなかったモノを使っているのだから、体に異常が起きても可笑しくはないだろう。

 その仮定を考えていなかったのは俺の落ち度だ。

 もちろん、使用した魔力が適量なのか過剰なのかは現在進行形で分からないが、魔力消費によって何かしらの影響があるのは口ぶりから分かる。


 過ぎたことを悔やんでも仕方がない。

 気になるのが、下手した場合の症状だ。


「全然大丈夫じゃないんだが。まさか爆発したりしないよな」

「ふざけてるのか道真。爆発したければ、魔力を過剰に補給をすればいいぞ」

「ああ、そうか。逆に過剰に減った場合はなんだ?貧血みたいなものか?」

「それと似たようなものだぞ。仮説の例だが、魔力はもう一つの水分とも解釈されているぞ」


 なるほど、結構危ないな。

 魔力が体重の一部だと考えれば、俺はこの2時間程度で十数kgの減量をしたようなものだ。

 ある意味、腹を削り取っているのと変わらないだろう。


「ひとまず安心するのだ道真。普通の人間がこれほどの魔力を消費すれば、経験者でも気絶しているはずだ」

「何一つ安心できないんだが」

「そうだなー、魔力の枯渇の初期症状は怠さを感じる事だ。そうなったら止めておけばいいぞ」


 現状では体に異常は感じられないので、まだまだ魔力に余裕があるみたいだ。

 だがあんな話を聞いた後では、もう羽振りよく使う気にもなれない。


「魔法はほどほどにしておくべきだな」

「いや、もっと使っても問題ないぞ。恐らく、道真の魔力は底なしかも知れないからな。…加斗吉もその様だったからな」

「それなら嬉しいが、根拠が心もとないな。他に有力な情報は無いのか」

「なら、自分で使って証明した方が確実だぞ。私も付き合うからな」

「あー。まあ、そうなるよな」


 魔法を自重しようと思っていたら、魔法を使い切る流れになってしまった。

 魔力を使うのが怖いから、魔力を使いまくって限界を知るってのはどこか矛盾しているような気がしないでもない。

 いや、ある意味では何が居るかわからない部屋を調べちゃうようなもの。

 それ即ち、恐怖を好奇心で打ち消しているという事ではないだろうか。

 そして好奇心とは知りたい、やってみたいという心情だ。

 つまり俺は魔力を使い切りたい、のではないだろうか。


 まあそんなことは無く、仕方なくやるのだが。

 そして既にフージェは桶を持ってスタンバイ済み。

 というか、なんでそんなに積極的なのかも気になるが、フージェが協力してくれるのなら水の魔法の完成を目指すとしよう。



****



 結論だけ言うとフージェの助言もあって、たった数分で目的の魔法は完成した。

 魔法というよりかは道具に近い代物になったが。


 完成品を一言で表すなら竹の水筒だ。

 効果は持っている間に魔力を消費して水が溜まっていくというもの。


 作成の際にフージェに言われたのが、魔法陣を物に貼り付けるのが一般的な魔法道具の作成方法だという事。

 そして、"風呂"のように魔法陣単体で使うのは、自身に影響を与える場合などの特殊なケースだと言う。


 それを知ってからは、あっという間に事が進んだ。

 何せ魔法陣だけは十二分に作ってあり、その中から使えそうなものを選ぶだけだった。


 そう言った訳で、大した魔力も使わずに俺の用事は終わったのだが、フージェとしてはこのまま終わらせるつもりは無かったようで、その後に様々な属性の魔法陣を押し付けられた。


 最終的にフージェが寝るまでの間、ずっと魔力を使い続けることになった。

 そして分かったことは、この位の魔力消費では全く問題が無いという事だ。

 ただ、使っていなかった分が蓄積されているだけかも知れないので油断して使いすぎないようにしておく。


 この話はここまでにして、ダンジョン作りに移ろう。


 さてダンジョンの現状は知っての通り、制圧隊によって火の海になっている上、大量の水が流し込まれたことによって高湿度のサウナ状態となっている。


 前にも言ったように、今は直接ダンジョンに手を加えることはしない。

その代りに追加予定のエリアの構想だけ作って置けるようなので、今回はその方法でダンジョンを作っていく。

 ちなみに実装するには、初めてダンジョンをイフラットに出現させたときのように、掴んで持っていけば良いらしい。


 とりあえず肝心なのは今回のアップデートだ。

 丁度今回がフージェの言う大事な時期にあたるため、次回の訪問者にはしっかりと、このダンジョンの特色を知ってもらう必要がある。

 つまり、隠し部屋を作るのは決定事項だ。

 後は、エネルギー関連に注意しつつ行えばいい。


 言うのは簡単だが実際に両立させようと思うと、これが結構面倒くさい。


 ただ人を呼び寄せるだけなら、隠し部屋を大量作成するだけで可能だろう。

 大したリスクも無く、価値のあるものを入手できるのならそれに越したことは無いはずだ。

 不確定事項だが、破壊した"青サンゴの死骸"を持ち帰った所を見るに価値があったと思われるし、これを続ければ価値のあるものは自然と見つかるだろう。


 だが注意すべきは、以上の環境を用意するには相応のエネルギーが必要になるという事だ。


 エネルギーの入手にはダンジョン内で魔物を狩って貰う必要がある。

 当たり前だが、大量に狩れば獲得できるエネルギーも増えるし、それが出来れば両立も可能になるだろう。

 この方針で行くと仮定すると、必要になるのが大量の魔物だ。


 予想だが幾ら魔法があると言えど、一度に大量の魔物が出現したら危険度は一気に増すはずだ。

 そのため、魔物の増やし方を工夫する必要がある。


 考えられる方法は2つほどあり、出現間隔を狭めるか、同時出現数を増やすことだ。

 先ほどの考えを素直に持ってくるなら出現間隔だけを弄ればよいのだが、この場合の問題点としては探索時間が減るという点だ。

 探索時間に影響が出てしまっては、隠し部屋をメインに持ってくる上で大きな障害になってしまう。

 だからこそ、丁度いい出現間隔と出現数に設定する必要があるのだ。


 さて、この丁度いいを知るには、やはりダンジョンを運営するしかないのが辛い所。

 その手段として、ダンジョンの構造はゲームなどでもよく見られる深部に行くほど敵が強くなる形が、戦闘力を測る上で便利そうだ。

 なので、ステージは入口から一直線で最深部まで行ける形にする。

 そしてゴブリン以外の魔物だが、消費コストが倍ほど掛かるコボルトやオオカミ等を配置してみよう。


「ベースはこれでいいが、これだけじゃつまらないからな」


 このままだと、一直線の道に敵を配置するだけで終わってしまう。

 それはそれでダンジョンとして完成しているかもしれないが、俺としては面白くない。

 なので、ちょっとだけ手を加える。


 一直線のダンジョンの必要最低限の要素は、スタート地点とゴールがそれぞれ一つだけである事だ。

 逆に言えば、これだけ揃っていれば段々敵が強くなっていくダンジョンが作れるというわけだ。

 完結に何をしたいかと言えば、分岐路を作りたい。


「ダンジョンの形は鍵っぽくしてみるか」


 此処での鍵というのは環状の道に真っ直ぐな通路を組合わせた物だ。

 ちなみに入口が棒状の先端で、その道幅は広場の幅と同じ広さである。

 設置済みの広場と融合する形で配置する予定だ。


 環状通路を半周進んだ先にゴールを設置するのだが、ここでちょっとした問題が浮上した。

 

「ダンジョンの最深部ならボスが居るべきだよな」


 他のダンジョンがどうなのかは知らないが、戦闘力を測る上で強敵というものが居た方が参考にはなるだろう。

 ご褒美として大きな宝箱を差し上げても良いのだが、先日の件から宝箱は駄目だというのを学んだので工夫が要るという別の問題がある。


 それはさておき、ボスの話だ。

 気にするべき所は当然のごとく難易度なのだが、単純に強い弱い以外の項目が必要になってくるのだ。


「強いに越したことはないが、流石に逃げる隙が無いと不味いよな」


 忘れてはいけないのが、今回がダンジョンのお披露目回であることだ。

 初っ端から帰らぬ人を作ってしまえは、このダンジョンの将来が危うい。

 是非とも情報を持って帰ってもらう為にも、生還してもらわなければ困る。


 そこで欲しいのが、ある程度の強さと逃げきり易さを兼ね備えた魔物だが、残念ながら知識は有るはず無い上に図鑑のようなものも見当たらない。

 この件に関しては仕方がないのでフージェを待つ事にする。


 その間に今できる部分を仕上げて行く。

 やるべきことは、湧き場の配置と隠し部屋の配置だ。


 隠し部屋に関しては、前回同様に壁の一部が入口になっている部屋を採用する。

 前回との相違点は扉が完全に土で覆われている所と宝箱の代わりに木の板の上に景品を置く形をとっている所だ。

 では扉の見つけ方はと言うと、土壁の一部が色違いになっているのに気づく事だ。

 後は土を崩して扉を開ければ、景品をお持ち帰りできるという訳だ。

 ちなみに、探索の手助けとして隠し部屋内は魔物が湧かないような設定にしてある。


 沸き場は直線通路を3分割して、ゴブリンとオオカミを順番に配置する。

 入口から順に言うと、ゴブリン、ゴブリン、オオカミとなっている。

 ゴブリンを二つに分けた理由は、同時に湧くゴブリンの数に差を付けるためだ。

 もちろん後半の方が数が多くなっている。

 そして、環状通路にはコボルトのみを配置した。


「こんなもんか。もうちょっと凝りたいが、人が来ないと始まらないからな」


 今の土をくり抜いたような洞窟の風景以外にも多様なテーマで作りたいという気持ちはある。

 今回がダンジョンのお披露目回だから自重したと言うのもあるが、一度入ったことのある場所の雰囲気が大きく変わってしまうのも余計に警戒するだろうというのが我慢した理由だ。


 だが、ボス部屋の雰囲気を変えようと思っている。

 どんな風にするかは、実際に配置するボスを決定してからにするつもりだ。


 と言う分けで、ボス部屋に関してはフージェが起きてから進めるとしよう。


 それまでは、自分のセンスを信じて隠し部屋の景品を配置していこうか。


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