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隠し部屋のある異世界ダンジョン  作者: なみがら
迷い込んだ異世界と始まる新生活
7/11

村の将来

いつもより気持ち長めです

10/2[修正]:文章の体裁を少し弄りました。


「冒険者らの退避は済んでるな。火を入れるぞ」


 制圧隊の一人、ラポが魔法導線と石窯のような装置を接続する。


 すると、洞窟へと延びる飴色の魔法導線が輝きだした。

 一瞬洞窟から爆発音にも似た音がした後、洞窟の入口が揺らめく光で照らされたのが確認できた。


 石窯に似た装置のボディには燃料の残量が確認できる窓が付いており、満タンだったものから指一本分ほど減っている。

 このまま稼働し続けても、一日以上は維持できるだろう。


 装置の稼働状況を点検し、問題がないと分かるとラポはその装置から離れた。



****



 夜も更け、もうじき空が明るくなるであろう時間帯。

 ピントン村に出現したダンジョンの近くには4人の人間がいた。


「これで作業は完了です。皆さん、お疲れさまでした」


 仕事を終えたラポが待機していた冒険者3人に任務の完了を告げた。


「はー、長かったー。これで一先ずは安心だね」


 ようやく仕事から解放されたミーテは大きく伸びをする。


「噂に聞くほど荒れてはいなかったのが妙だが、村が救われて何よりだ」


ソトムも思ったことを述べて緊張を解く。


「確かにこのダンジョンは特異な点がいくつかある」


 ソトムの意見に同意するようにラポが続く。


 立ち話もなんだ、と言ってラポは皆をピントン村に向かう様に促してから、カムイに話しかける。


「彼らを率いていたのは君だったね。小数ながらも良くやっていたよ」

「ありがとうございます。あの二人が良い動きをしてくれたお陰です」

「そうか。彼らの将来に期待が持てるな」


 簡単な挨拶を済ませると、ラポは気になっていたことを聞く。


「ところで、ダンジョンの中にあった松明は、君たちが用意したものかね?」

「いえ、ダンジョン内に始めからあった物です」


 カムイの返答に対して肯定するように頷くと、続けて質問する。


「ではダンジョンの広さについては、あれで全貌かね?」

「私たちが確認した中ではあれで全てでした」


 この返事も予想通りと言う様に頷くと、考えこむ様に顎に手を当てる。


 暫くすると今度はカムイが気になった事を報告をする。


「ダンジョンの隅に宝箱がありました」


 おお、とラポはカムイの言う事に若干驚きながらも、冷静に宝箱の残骸らしきものが残って居たことを思い出す。



***



 当たり前の事だが、宝箱というのは財宝を保管する箱である。

 その種類は様々で、一般家庭で見られる小さな貴重品などをしまう木箱から、冒険者が思い描く、金銀財宝がぎっしり詰まった金や宝石で装飾された箱まである。


 冒険者らにとってダンジョン内に宝箱が存在しているというのは常識である。

 そして、宝箱はダンジョンからの貢ぎ物であるという考えが広く伝わっていた。


 しかし、何も知らぬ一般人からすれば、ダンジョンに宝箱が置いてあるなんて不自然極まりないと感じる事だろう。

 更にはダンジョンが財宝をもたらしてくれるなど、おとぎ話の類にしか思えないだろう。

 仮に存在したとしても、それは罠である可能性を強く思うだろう。

 このような心配を打ち消しているのが、ある宗教の教えである。


 パンファーリオ王国に存在するヴィクトコート教団は、ダンジョンは被害者であり、そこに巣食う魔物を退治することで共生することが出来るという考えを持っている。

 もちろんだが、なんの根拠も無くこのような考えを提唱している訳ではなく、いくつかの実話とそれらの当事者によって裏付けられている。


 ヴィクトコート教団は当然、ダンジョンの宝箱に対しても肯定的な意見を持っており、宝箱は魔物を撃退している我々への感謝の意であると述べている。


 当時はダンジョンの宝箱が罠であることが非常に少なく、教団の言う様にダンジョン側からのプレゼントのような扱いをされていた。

 そういう理由でヴィクトコート教団は冒険者から広く支持されていたのだが、ある時この宝箱についての事情が変わった。


 ダンジョンに宝箱に化ける魔物が出現し始めたのだ。


 出現した当初は宝箱が魔物や罠だと疑う習慣が無かったため、多くの冒険者が犠牲となってしまった。


 幸いにも、発見から直ぐに宝箱の魔物の存在が広く知れ渡ったのだが、ヴィクトコート教団の一部の聖職者がこの存在を否定したことで、冒険者らの警戒心は大きく高まる事はなかった。


 当時、冒険者らの良き理解者として親しまれていたヴィクトコート教団の発言力は大きく、信用も十二分にあったため、宝箱の魔物の存在は実在するにも関わらず、架空の存在であるように認識されてしまった。


 結果として冒険者らは事例があるにも関わらず、それらを迷信だと信じ込んでしまい、更なる犠牲者を生んでしまった。


 膨大な被害はついに魔物の正体を確固たるものとし、その反動として宝箱への警戒心とヴィクトコート教団の不信感が大きく増加することになった。


 一方でヴィクトコート教団はというと、上手く機転を利かせて、狡猾な魔物による侵略であると断定することで、教団の不信を魔物に対する怒りへと変えることに成功した。


 そう言った背景を経て、現在でもダンジョンにある宝箱は魔物であるとう風潮が根強く残っている。


 そして宝箱の魔物に対する有効な対処法として知られているのが、擬態している最中に最大火力を用いて倒すというものである。


 この魔物は厄介なことに、高度な魔法を予備動作なく使用してくるため、非常に戦闘力が高く、尚且つ見た目は宝箱なので、何処を注視しているのかの判断はほぼ不可能なのだ。


 そんな魔物の弱点というのが触れるまで動かないことと、強度は精々擬態している宝箱と同程度という2点だ。


 この特徴から宝箱を見つけたら一撃で破壊するか、触れずに放置するかが正しい対処法としてダンジョンを攻略する冒険者らに伝わっている。



***



 かつてはダンジョン攻略に勤しんでいたラポも、宝箱の事情については良く知っていた。

 それ故、カムイの言葉に少しばかり驚いた。


「小さなダンジョンにも宝箱が現れるようになったか。本当に君のような経験者が居て良かったよ」


 ラポは御世辞でもなく本心から言っていた。

 もし、ダンジョンに初めて入る2人だけであったら、宝箱の対処を怠り犠牲となっていたことだろう。


 だが、そのような心配も杞憂に終わった。


「ええ。もし宝箱が魔物であればその可能性は有ったでしょう。ですが、宝箱は魔物ではありませんでした」

「なんと。まさか魔物ではない宝箱が在るとは」


 今度は本気で驚いてしまった。


 宝箱の魔物が完全に認知されてからは、全ての宝箱が魔物であると言って良いほどに広まっていたのだ。

 宝箱から戦利品を獲たという話が、宝箱の魔物を倒した時に落とす素材のこと指すのが普通になるほどに単なる宝箱というのは希少な存在だったのだ。


 ラポも驚きはしたが、すぐに信用は出来ていなかった。

 しかし、カムイの性格からして冗談ではないだろうと思えた上、魔物のように消失していなかった宝箱の残骸を思い出し、この件が完全に事実だと気づいた。


「あれほど狭いダンジョンなのに、ダンジョンコアはしっかり隠れている。その上、敢えて灯りを用意し、さらには本物の宝箱まであるとな」


 ラポは無意識に、制圧したダンジョンの特徴を呟いていた。


 はっきり言ってしまえば、ダンジョンとして全体的に可笑しな点ばかりである。


 ダンジョンコアの発見はともかく、ダンジョンの広さとしては異常なほど小さいのが引っかかる。

 小さかったお陰で制圧作業は短時間で済んだのは僥倖だったのだが、この意味を考えると計り知れない。


 そして灯りに関しても妙だ。

 ダンジョン自体は住みついた魔物の生息環境によって変化してしまうものらしいのだが、ゴブリンのせいで松明が出現したとは考えにくい。

 もともとゴブリンは夜行性であるし、夜目も人よりかは利く。

 あえて明るくする必要など全くないはずなのだ。


 極め付けは宝箱の存在だ。

 宝箱はもはや魔物の擬態先だ。

 かつてはダンジョンが宝箱を置いていたらしいのだが、今となってはダンジョン側も宝箱を用意していないというのが冒険者らの回答だ。

 だが、このダンジョンは敢えて宝箱を設置したというのだ。


「ところで、その宝箱の中身はなんだったのかね」


 ふと気になったことを当事者であるカムイに伺うと、カムイは青く透き通る破片をいくつか差し出した。


「見ての通り粉々になってしまいましたが、この宝石のようなものが入っていました」


 カムイの言葉を聞きながら、ラポは欠片を一つ取って見てみる。

 確かに宝石のようにも見えるが、宝石としては輝きは柔らかく、重さは軽い方だ。


 原型が分からないほど細かくなってしまったものだったが、ラポは偶然的に記憶と合致するものを見いだせた。


「水の魔法導線の素材だったか、これは青サンゴだろうね。この辺じゃまず見ない物だ」


 青サンゴ自体は海で獲れるのだが、生きたサンゴの採集難易度は海底に在るという点を含め少し高い。

 そのため、青サンゴを採取するには海岸に流れ着いた物を拾い集めるのが主な方法である。

 使用時には大抵、粉末状にしてからなので、小さな欠片でも十分利用価値がある。


 青サンゴの使い道はラポの言うような魔法導線などの魔法道具の素材、特に水属性に関するものだ。

 もちろん、魔法に関する道具と言えば大抵が消耗品であるし、人によっては必需品ともなり得るもの。


 その需要は万年高い水準であるので、魔法道具の素材である青サンゴも需要があるのだ。


 ラポはふと一つの可能性に気が付く。


 ダンジョンは故意に青サンゴを用意したのかもしれない、と。


 ダンジョンで入手できるものの傾向として、ダンジョン自体の雰囲気に合った素材が手に入る場合が多い。

 当然例外もあるのだが、大体はダンジョンの雰囲気に似つかわしくない魔物が存在する場合にしか起こりえない。

 今回制圧したダンジョンはゴブリン以外の魔物はいなかった上に、水や海というような雰囲気も無いにも関わらず、青サンゴなどという素材が手に入った。


「あのダンジョンはやはり妙だな。それに計り知れないところが恐ろしい」


 ラポはダンジョンの異常性を改めて確認した。


 出現から間もないためか、ダンジョンにしては驚くほど小さい。

 しかし、魔物に関してはダンジョンらしく普通にいる様だ。

 だが、妙なのが人間にとって十分な光源と宝の入った宝箱がある事だ。


 これが意味するのは、あえて人を招き入れようとしていることだろうか。


「ピントン村は忙しくなってしまうだろうね。こんな危険なダンジョンの傍なら、尚更」


 冒険者にとって依頼や旨味の少ない集落は、名前どころか存在すらすら知る機会が無い。

 ピントン村もその内の一つだったが、これからはダンジョンという旨味を持つことになる。


 これが村の変化の切っ掛けとなるのは確実だ。

 そして、その変化は誰も止めることができない上に、舵を誤れば村の存亡にも関わるだろう。


 ラポは村の良き変貌を期待しつつ、これから数多の厄災に見舞われるであろうピントン村を案じた。



****



 太陽がちょうど真上に差し掛かった時間帯。

 緊急事態はあったものの、ピントン村の住人はいつものように畑仕事に勤しんでいた。


 ダンジョン制圧に参加したミーテら冒険者は、村に着くや否や泥のように眠りについた。

 一方で制圧隊のラポはグモルに任務完了の報告を済ませた後、パンファーリオ王国に帰還した。


 ピントン村の村長、グモルはこの村の将来を真剣に考えなければならなかった。


 ラポの話を聞く限り、今現在のダンジョンは脅威的ではないようだが、既存のダンジョンよりも奇妙な点が多く、今まで以上に危険なダンジョンに成りえるという。

 ダンジョンの脅威レベルは重要な情報だが、今必要なのは最低限のダンジョンへのアプローチである。

 要するに冒険者が必要だ。


 そこで何をすべきかと言えば、冒険者がダンジョンを攻略しやすい環境を作る事である。

 具体的には宿泊施設などの、人が集まりやすい環境を整えるのだ。


 ピントン村では安全な環境に加え、食糧事情も不自由がなかったので、行商人や冒険者が訪れることが滅多に無かった。

 そのため旅人を迎え入れる施設が無く、全てを一から作ることになる。

 幸いにも、村の収穫の一部を売りに行っていたために少しばかり資金があり、上手く使えば最低限の施設は用意できるだろう。


 だが心配になってくるのが、実際に冒険者を受け入れ始めてからの変化である。

 立地や環境のせいもあって閉鎖的になっていた村にとっては大きな機転になることは明白だが、その変化がマイナスであれば、それに対応する必要が出てくるのだ。

 当然対応するには資金が必要になるが、その資金はどうやって生み出すのか。

 宿泊施設が出来れば、少しは収入にはなるだろう。


 しかし忘れてはいけないのが、宿泊客となる冒険者らによって村が守られているという事だ。

 そして、彼らはあえてこの村に来る必要もないという事も留意しなければならない。

 それを踏まえれば、冒険者にとって居心地のよい場所を提供するべきなのだろう。


 これら全てを用意するとなれば、今の資金では難しい要件だ。

 仮に村全体で施設を用意できたとしても、その建物を管理運営するためには人を雇わなければならない。


 到底、村だけの力では解決できない難題にグモルは悩まされていた。

 問題解決には協力者が不可欠と判断したは良いものの、辺境にある村には宛がないのだ。


 グモルはふと気分転換をしようと思い、立ち上がる。

 その時になってようやく誰かが扉をノックしていることに気が付いた。


 村の誰かが来たのだろうと思い、入るように声を掛ける。


 扉を開けたのはやはり村人の一人であった。

 そして彼はよく物を売りに、パンファーリオ王国に出向いてもらっていた人物である。


 なんの用かと思えば、この村に珍しく客人が来ており村長のグモルに話があるという。


 客人が来ること自体は嬉しいのだが、よりにも寄ってこんな時期とは間が悪い。


 それに加え、客人とは彼が世話になっている商会の人物らしい。


 金銭や物資の出費を抑えたい今、商談には良い返事を返せないのが心苦しいのだが、折角このような辺境の村まで来られたのだから、そのまま引き換えさせるのは流石に非礼だ。


 一先ず、客人を客間に案内するように彼に頼むことにする。


 グモルはかつてない苦難に頭を痛め、その思いを上手く隠し切れないまま客人を迎えるのだった。


 この商会の訪問こそ、ピントン村が新たな段階へと進んでいく第一歩であるのだが、グモルは当然知る由もない。


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