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隠し部屋のある異世界ダンジョン  作者: なみがら
迷い込んだ異世界と始まる新生活
6/11

制圧隊と魔法

9/16[修正]:文章を一部変更しました。情報量は変わっていません。

10/2[修正]:文章の体裁を少し弄りました。


 異世界に来てから恐らく一日が経過した。


 あの後直ぐに疲労からの眠気に襲われ、休眠することにした。

 忘れてはいたが、俺が異世界に来る前はランニングを終えた時であったし、尚且つ数時間もダンジョン作成に没頭していた。

 疲労が溜まっているのも当然だ。

 ちなみにだが、与えられた自室は本当にベッドが一つだけの一室だった。

 収納ダンスやテーブルも無く、忽然と中心にベッドが置かれているのはかなりシュールだ。

 見方を変えれば生贄の祭壇のような雰囲気でもあった。

 まあ、ある意味じゃ俺は現代世界からの生贄の様ではあるが。



****



 その朝の一幕。


「ようやっと起きたか道真。もう7時間近くは経過しておるぞ」


 自室から出ると、テーブルに向かい作業をするフージェに声を掛けられる。


「人間なんてこんなもんだろ。大体4時間から8時間くらいじゃないか」

「長すぎだぞ。一日に数回も寝たらあっという間に一日が無くなってしまうぞ」


 確かにフージェの睡眠時間を考えると長いのかもしれないが、一日に数回寝るっていうのが気になる。


「基本一日に寝るのは1回だろ。2度寝とか昼寝とかもあるが、それ程長い時間寝る訳じゃないしな」

「んー、そういうものか。竜人にとっては一日4度、2時間程度寝るのが普通だぞ」

「やっぱり種族が違うと勝手が違うもんだな。人間がそういう習慣を真似たらクタクタになりそうだ」


 人間とは違う習慣を持つ人型の生物というのは想像だけなら簡単だが、実際に話に聞けば奇妙に感じるのが面白いところ。


 それはさておき、気になるのがダンジョンの様子だ。


「ところで、ダンジョンの方は何かあったか?」

「見ての通り、制圧隊が仕事をしているぞ」


 話と視線をダンジョンの方に向けると、ダンジョン全体が焼け野原になっているのが見えた。

 制圧隊というだけあってダンジョンそのものがほぼ無力化されているようだ。

 実際に湧きだしたゴブリンは直ぐに炎が纏わり、粒子となって力尽きた。


「この炎もやっぱり魔法なんだよな」

「そうだ。この場合は部屋の至るところに魔法陣を貼って、それらに魔法導線を使って魔力を供給しているぞ」

「んー、なんだ、何言ってるのか分からん」


 とりあえず分かったことは、ダンジョンを占めている炎は魔法によるものということだ。

 一括りに魔法と言っても種類があるらしく、単純なものではないようだ。


「そうだな、暇な時間が出来たことだ。魔法について話しておくぞ」

「おお!ようやく魔法が使えるのか」

「ふふふ、残念だが道真の思っているような魔法は恐らく使えないぞ。魔法と素性は密接に関係しているからな」


 フージェに促され向かいの席に着く。

 机の上にはいつの間に用意したのか、模様のある紙と色ガラスでできた針金のようなものが置いてあった。


「まずは根本を知っておいてもらうぞ。魔法を使うには魔力が必要だ。そして魔力はどの生物でも持っているぞ」

「それじゃあ俺にも魔力はあるってことか」

「そういう事だ。道真が寝る前に使った魔法陣も魔力が無ければ動かないぞ」


 どうやら魔法陣の使用には魔力を消費するらしい。


 思い返してみれば、風呂の代わりの魔法や現在進行形でダンジョンを燃やしている魔法も魔法陣によるものだ。

 少し違うものを上げれば、エネルギーを使ったおにぎりの生成や扉を異世界につなげた技術などが魔法っぽく感じる。


「魔法ってのは魔法陣ありきで動くものなのか?」

「いや、そうではないぞ。魔法陣はあくまで手段の一つだ。生まれ持った素性次第だが媒体を用いずとも魔法を使うことはできるぞ」

「素性次第ってことは、使える人間と使えない人間がいるってことか」

「今はその解釈でいいぞ。厳密には使えない生物はいないが、実用的ではないものだ」

「ちなみにフージェは何か使えるのか?」

「竜人は皆使えない体質だ。あと加斗吉含め、向こうの世界の住人は皆使えない者しかおらんぞ」

「その例だと俺も使えない人か」

「そうだな」


 残念でならないが、素性次第と言われてしまえば手の打ちようがない。

 魔法陣を使わないで行う魔法を実際に見てみたいのだが、フージェが使えないとなると現地の人間の使うところを見る他無さそうだ。


 そう言えば、宝箱を叩き潰してくれた冒険者が氷属性の魔法を使っていたな。


「んー、あれは確かに魔法陣ではないはずだ。剣の方に仕掛けがあったかもしれないが」


 フージェに聞いてみれば、素性による魔法かもしれないとのこと。

 また新しい要素として、武器の方に仕掛けを施した魔法もあるようだ。


「等身を氷で覆うギミックのある剣なんてのもあるのか?」

「あるかは知らないが、エネルギーからそういったものは作れるからな」

「なるほどな。そういった報酬を用意するのも良いかも知れないな」


 つい最近触った「迷宮クリエイター」でも、新しい武器の入手は起こって嬉しいイベントの上位に当然該当していた。

 その景品は個性的であるほど良いのは当たり前だし、評価が高いほどそのダンジョン自体に期待が高まっていくのも必然だった。


 机の上に用意されて居た道具を持ちフージェが話を続ける。


「話を戻して道具を使った魔法についても話しておくぞ。ここにある魔法陣や魔法導線等が主な道具だ。道具の魔法は魔法を放てない者が魔法を使う手段でもあるぞ」

「魔法陣ってのが、書いてある陣に対応した魔法を起こせるって解釈であってるか?」

「大まかに言えばその通りだ。魔法導線ってのは、ただ魔力を送るための導線だ。主に直接触れない場所に魔力を送るときに使うものだ」

「そうか。今のダンジョンの状況だと、複数の魔法陣を機能させるために魔法導線を張り巡らせているんだな」

「理解が早くて助かるぞ」


 専門的な話は分からないが、ざっくり言えば魔法陣を動かすには魔力が必要だが、場合によっては直接触ることが出来ない。

 そのために魔法導線を通じて魔力を送っているようだ。

 

「もう一つ道具系の魔法として"音"というものがあるぞ」

「"音"って、あの"音"か?」

「どの"音"なのかは分からんが、主に鐘がよく使われるぞ。簡単に言えば魔法陣の発動の際に、魔力に加え音を鳴らす必要がある道具のことだ」

「それって、魔法陣と何か違うのか?」

「違うのは効果だ。精神的な影響を及ぼす魔法はこういった音系のものが主流なのだぞ」


 音系の道具を介せば精神的な攻撃作用を使えるってことだろう。

 逆に物理的なのが今まで話していた魔法という事になるのか。


「一先ずはここまでだ。ざっくり説明したが、この他に素性ごとの得意不得意があるから、また今度説明するぞ」

「まだあるのか、大変だこりゃ」

「今すぐ必要な知識ではないからな。のんびりやっていけば勝手に慣れていくぞ」

「そうだといいんだがな」


 話の内容を要約すれば、魔法には道具を使うものと、そうでないものがあるという。

 竜人や現実世界の人間は道具無しでは魔法は使えない。

 そして、道具の魔法は魔法陣と音があり、補助道具として魔法導線を用いることもあるといったところだ。


「魔法陣と魔力があれば魔法が使えるってことは、魔法陣さえ自由に作れれば好きな魔法が使えるってことか」

「そう考えてもらっていいぞ。ちなみに、エネルギーからならほぼ希望通りの魔法陣を作ることも可能だぞ」

「これは時代が来たな」


 魔法陣を介すだけで魔法が使い放題となれば、生活の幅が一気に広がる。

 外出もできず、ダンジョンも弄れない今の時間には打って付けの暇つぶしだ。


 そんなことを考えていると、フージェが急に立ち会がる。


「それじゃ私は寝るぞー。ダンジョンの方はしばらく放置で構わないぞー」

「おっ、ああ、おやすみ」


 かなり唐突だがお休みの時間らしい。

 フージェは特に疲れた様子もなく、自室の方に入っていった。

 よくわからないが一日に数度寝る竜人にとっては7時間以上の活動は夜更かしと同じ感覚かも知れない。



****



 魔法について色々教えてもらい、それなりに時間を潰せたのだが未だにダンジョン内は釜土のように燃え盛っている。


「とりあえず魔法陣があれば魔法が使えるんだよな」


 現状ダンジョンは制圧されていて、フージェの言っていたようにモンスターが過剰に湧くような設定に変更されている。

 下手にダンジョンを追加してモンスターの避難場所になってはエネルギー収集の効率が落ちてしまうだろう。


 丁度良く時間が空いていて、且つエネルギーはそれなりにあるので魔法陣を作ってみることにする。


 まず作るのは単純に水を生み出す魔法だ。

 理由は万が一があっても被害がそこまで大きくないだろうという予想からだ。


 魔法陣と言われてぱっと思いつくのが、昨日使った"風呂"の魔法陣である。

 普通のものよりも質がよさそうな紙の片面に描かれた魔法陣に手を当てて使えば、反対側に添えた手から全身を掃除してくれるという仕組みだった。


 これから作る魔法陣のベースも同様に紙媒体にするとして、問題は水をどうやって出現させるかだ。

 布を使って水を生み出すと考えた時にパッと思いついたのが雑巾絞りだが、魔法陣の性質が分からない以上は紙の形状を維持していきたい。


「実物を見ないとなんも分からんなこれ。作ってみるか」


 早速席に着き、目的の物を出現させてみることにする。

 作るのは"風呂"と同じく紙に描かれた魔法陣だ。


 だがここで問題が発生する。


「そう言えばどうやってエネルギーから物って作るんだ?」


 フージェが行っていたように手の平に出現させるつもりでいたが、やり方が全く分からない。

 思い返せば、フージェはおにぎりを生み出すのに何か唱えていたような気がしないでもない。


「やっぱり詠唱か何かが要るのか?いやでも、フージェは魔法は使えないだろうし」


 エネルギーの使用も魔法の一種として捕らえているが、それも定かではない以上フージェが何をしていたかもわからない。

 恐らくはエネルギーを使うためのに呪文を唱えていたのだろう。

 もし、詠唱がエネルギーを使うための必須事項であれば完全に詰みである。


 しかし、エネルギーを使えば魔法陣が作れると言っていたのはフージェだ。

 これでフージェが確信犯なら意地が悪いが、他にエネルギーを使える方法があるのだろう。


 例えばダンジョンに物を置くように、簡単に物を出せないだろうか。


「ダンジョンに置くやつをそのまま持ってこれんじゃないか」


 忘れてはいたがダンジョンに置いた物もエネルギーからできたものである。


 単純にダンジョンに置く代わりにこの部屋に持って来れれば、エネルギーを物に変換できたと言えるだろう。


 物は試しと宝箱を設置した時のように、一覧から物を取り出す。


 選んだのは木製の桶である。

 水を使うので、その受け皿はあった方がいいだろう。


 次に配置場所だが、マップ上から所在不明のこの場所を探り当てることは不可能と言ってもいい。

 つまりダンジョンに物を置くのとは違う方法を取らなければならない。


 ダンジョン作成の仕様を思い返せば、持った物を置きたい場所に置くだけで設置完了となるというものだった。

 同じように考えれば、持った物をこのテーブルの上に置けば取り寄せられるはずだ。


 何も考えずに、一覧から拾ってきた桶を何も置かれていない場所に設置してみる。

 すると置いた場所を中心に眩しくない光が出現し、次第に物の形を作り広がっていった。

 光が止むと、そこには目的の桶が出現していた。


 試みは成功したようだ。


「物の出し方は分かったし、次は魔法陣の描き方だな」


 第一関門を突破して一安心だが、魔法を使うには最低限、魔法陣を用意でき無ければならないのだ。


 まずはヒントが無いかとダンジョン作成用の魔法陣から調べてみると、すんなりとそれらしきページを見つけることが出来た。

 ザッと目を通してみて分かったことは、幾つかの項目を組み合わせると、その条件を満たす魔法陣を生成してくれるようだ。


 よく見れば組み合わせを保存する機能もあるようで、既に数個の完成品が登録されていた。

その中でちょうど目に留まったのが水を出現させる魔法陣である。


「とりあえず、こいつを取り出してみるか」


 魔法陣作成自体初めてなので、見本が用意できるならあった方が助かる。

 物と同様の手順で魔法陣を取り出してみると、"風呂"と同じく紙に書かれた魔法陣が出来上がった。

 

 項目から読み取るに、魔法陣の描かれていない面に水が出現する仕組みのようだ。


 紙の裏面を桶に向けて魔法陣に手を触れる。

 魔法陣が輝き始めると同時に紙の裏面にはビー玉サイズの小さな水玉が出現する。


 水玉は風船が膨らむように急速に大きくなり、野球ボールほどの大きさになった途端に自ら紙面を離れ飛び出した。

 水玉は桶の中に命中すると同時に弾けて、何の変哲もない水のように桶に溜まった。


「こりゃ水属性の攻撃魔法って感じだな」


 ダンジョン攻略に役立つと言ったら、この魔法陣のような攻撃魔法が主なのだろう。

 だが、今は純粋に水を生み出したいだけで、威力などは無くしたい。


「仕様を見る限りだと、組み合わせ次第で何でもできそうだな」


 項目から魔法陣の詳細を見てみれば、空欄の項目がかなりある。

 特に趣向を凝らさなければ、水を出す程度のことは簡単にできそうだ。


「道具はそろったし、色々試してみるか」


 一先ずの目標は蛇口から水が出るような手軽さで、魔法陣から水をだすことだ。


 将来的には異世界生活を満喫するためにも、自身のやりたい魔法を自由に作れるようになりたい。


 いずれはダンジョンの報酬として、魔法陣を提供してみるのも面白いだろう。



**



 それから直ぐに水が湧き出る魔法陣は完成した。

 しかし、それは紙から水が滴り落ちるというもので非常に見栄えが宜しくなかった。

 この問題を解決すべく、長時間に渡り試行錯誤した。

 だが、ついに成果が得られなかったと悟ったのは、フージェがこの部屋に広がる惨状を目にした時だった。



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