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隠し部屋のある異世界ダンジョン  作者: なみがら
迷い込んだ異世界と始まる新生活
3/11

ダンジョン作りと休息

9/16[修正]:文章の一部変更しました。情報量に追加事項はありません。

10/2[修正]:文章の体裁を少し弄りました。


「私が動かすのはここまでだ。道真、実際に触ってみるのだ」

「おうよ」


 早速、表示されているダンジョンに手を触れてみる。

 ゴブリンの立つダンジョンの床に触れようと思えば、壁やゴブリンはすり抜けて行くのだが床だけはしっかりと固い感触を返す。

 そのまま床を掘り起こすように掴めば、土を丸めた感触が帰ってくる。


 その分の土は実際にその場から消失しているようで、床に浅い穴が開いていた。

 床に穴を空けた影響でゴブリンが体勢を崩したのか、穴の中でひっくり返っていた。

 この瞬間に操作した事はリアルタイムに反映されるようだ。


「操作も直観的で分かり易いな」

「それは僥倖だ。後の操作は何かを追加したい時に他の魔法陣から持ってくるだけだ。この二つさえ出来てしまえば、もうマスターしたも同然だ」


 他の操作も先ほどのフージェの手順を見る限り、物を動かすような単純作業で出来そうだ。

 何より、魔術的な知識や操作が要らないというのが非常に助かる。


「見た目は複雑だが大した事ないな。ところで、なんの変哲もない所に突然魔物の巣窟が現れるとか大問題だよな。あそこの村の人たちは大丈夫なんか?」

「それがダンジョン運営というものだからな。気にしたところで仕方ないぞ」


 面白いことを考える、と楽しそうに笑みを浮かべるフージェは異世界人の事情には余り関心が無いように見える。


 実際に異世界人がどのようなものかは知らないが、いつか会ってみたいとは思う。

 やはり俺の知る文化とは全く異なる生活を送っているのだと思うと期待に胸が膨らむ。

 それに、異世界人が何を求めているかを知れば、それに見合った報酬を用意できるだろう。


 寧ろ今の内から交流するというのも、作戦の一つに成りえそうだ。


「思ったんだが、人と交渉すれば効率良くエネルギーを得られるんじゃないか?魔物を倒す代わりに望むものを渡すという形で」

「ん。ふあぁ、そーだな」


 フージェがあくび交じりに答える。


「仲間の中には確かに道真の言うような体制を取っているところもあるぞ。だが異世界人は物欲と戦闘力が必ずしも比例してはいないのだ」


 やっぱり異世界人も考えることは同じようで、最小の労力で最大の利益を出したいという欲があるのだろう。


 フージェは眠そうに目を擦りながら続ける。


「権力だったか?無駄に物欲だけあるような人間とは絡みたくはないのでな。私のダンジョンは交渉はせんぞ。あと、やばい教団の偶像になるのも禁止だ」

「いろんなタイプがあるもんだな。というか最後のなんだ」

「友人が物は試しと始めたのだが、教団の奴らが常軌を逸しておるから、怖すぎて下手に止められないと言っておったな」

「気がおかしい奴らは竜人でも恐れるのか」

「そりゃ感情のある生き物だからな。怖いモノは怖い」


 フージェは一頻り話し終えると、立ち上がって体を伸ばした。


 先ほどまで存在を忘れていた両翼が大きく広がるのを見て、改めて異世界に来た実感を覚えた。

 

「それじゃ、私は寝るぞ」

「おおぅ、唐突だな。そういえば風呂とかは無いのか」

「んー。あー、体を清めたいという事だな。それならこの魔法陣を使うだけだ」


 フージェはこちらに向きなおる。

 その手には一枚の折り紙に似た大きさの紙が握られている。


 紙に書かれた魔法陣に手を触れると、線状の青白い光が体を検査するように走りだす。

 角先からつま先、翼と尻尾を含めすべての部位に光が駆け抜ける。


 一連の動作が終ったのか、魔法陣は光を失った。

 元々目立つような汚れが無かったが、それでも角や髪の艶が真新しく、服に関しても整った印象を受けた。


「これで身を清められたぞ。ほれ、お主の望んだ風呂だぞ」

「風呂を手渡しで受け取るなんて初めての経験だぜ。流石は異世界だ」

「それほどでもないぞー」


 少々面倒になってきているのか、無感情の返事が返ってきた。


 早速その魔法陣に手を乗せると、フージェの時と同じように光が走り始め、全身を清めることが出来た。

 何気に魔法を使ったのはこれが初めてだ。


「この先が寝室になってるからなー。道真が開ければお主の部屋に繋がるぞー」


 フージェの声の方を見ると、いつの間にか木で出来たの扉があり、その扉から顔を出しているフージェが見えた。

 俺が適当に返事を返すと、扉はそっと閉じた。


 フージェが退出すると、少しぶりの一人の時間が訪れた。


「そういえば、外はまだ昼間だったよな」


 先ほど少しだけ開いた異世界の扉の奥の情報だ。

 フージェに続いてそのまま寝ようかとも思ったが、昼間から寝る気にはなれない。

 確かに少し眠い気もしているが、ダンジョン作りを経験してしまった以上、当分は興奮が覚めない。


 気分転換に他の事をしたいけれど、残念ながら異世界へ行けない。

 当然ダンジョンに携わるのは楽しいのだが。


「誰かが来ないと、実際に在るっていう実感が湧かないな」


 やっぱり、探索者が居てこそのダンジョンというものだ。

 良いダンジョンを作るには、体験者から意見を反映するのが近道だろう。

 「迷宮クリエイター」では自身のダンジョンを攻略できるテストプレイがあったのだが、そんな機能は見当たらない。

 そうなると、異世界人の反応が頼りだ。


 ダンジョンを弄って暇を潰そうとも思ったのだが、そんな訳で人が来ない内に下手に弄って評価を下げたくない。


「村も近くにあったし、割とすぐ気づいてくれると思うんだがな」


 少し楽観的過ぎるかと自問自答しつつも、出来ることがないのでどうしようもない。

 ソファーに体重を預けて、人が来るまでゆっくり待っている他ないわけだ。



***



 それからしばらく、ダンジョンの入り口周辺と深部を永遠と右往左往するゴブリンを眺めていた。


「ん、あれは…人っぽいな」


 洞窟の入口の目の前には一本の舗装された道があり、その上には2人の人影があった。

 一人は荷車をもう一人はその傍を歩いていた。

 彼らの進路には村がある。

 そしてその手前にダンジョンの入口がある。


「気付いてくれるといいが。いや、見慣れた道に洞窟が出来てれば流石に気付くか」


 洞窟の前に彼らが差し掛かると、予想通り立ち止まって行動を起こしていた。

 二人で何かを少し話した後、傍らにいた男が荷台の男から何かを受け取り洞窟に向かっていった。


「入ってきそうだな。そういえば洞窟内に明かりが無いのか」


 剣と光源を携えて入ってくる男を見ながら、反省点を見つける。


 しばらくして、男がゴブリンの居る場所に到着する。


 先に相手を視認したのはゴブリンの様だ。

 慎重に進んでいる男の正面から野蛮にも突撃しようと動き始めた。

 潜む様子も無く、両手挙げて駆け出すゴブリン。

 流石にその足音と動く影に気が付いたのか、男はしっかりとゴブリンの方へ向き抜刀し構える。

 ゴブリンは真っ直ぐ伸びる両刃の直剣には目もくれず、男に向かって走り続ける。

 光がゴブリンの全貌を捕らえた時、男は冷静に突きを放っていた。

 勝負はこの一手で決まった。


 ゴブリンの顔面に垂直に突き刺さった直剣は、素人の道真が見ても致命傷だと分かる。

 事切れたゴブリンはすぐに離散し始め、物の数秒で死体を残さず消え去った。

 魔物の居た場所にはゴブリンの皮らしき物が残されていた。

 男はしばらく警戒を解かずに周囲を簡単に散策した後、ゴブリンの皮を拾って入口へと引き返した。


「なるほどな。こうやってエネルギーが増えていく訳だな」


 イベントを終えたダンジョンから目を離し、魔法陣の一つが表示していた統計を見てみると、変化が表れていることに気が付いた。

 ゴブリンの死亡によるエネルギー増加がゴブリンの皮の生成によるエネルギー減少を上回っている。

 もちろん、沸き場を作った分の元は取れていないが、時間が経てば回収もできるだろう。


「それにしても、始めて異世界の人間ってのを見たが服装以外の見分けが付かないな」


 実のところ、異世界人は皆フージェのように他の動物の特徴を持った人間ではないかという予感もあったのだが、純粋な人間が居ることが分かり少し安心した。


「魔法が見れなかったってのが残念だが、これでこのダンジョンが人に知れ渡るはずだ」


 人が来たことで、ようやくダンジョン運営らしくなってきたと思える。

 そして、そろそろ本当にやりたいことを始めていこうとダンジョンの操作を始めた。



****



 これから作り始めるものはもちろん隠し部屋だ。


「まずは手始めに単純なものをだな」


 最初の広間のすぐ隣に小さな小部屋を作る。

 その小部屋は物置にならないほど小さく、人間一人がすっぽりと収まる程度の広さしかない。


 そこに設置するのは宝箱だ。

 宝箱の中身は後で決めるとして、先に外装を作って行くことにする

 広間と小部屋を繋ぐのは一枚の木の扉だ。

 その扉を開けたらすぐ宝箱がある。


「ドアを隠すだけでいいか。一番最初だしな」


 広間から見えているドアを隠すために、周りから土を削り積み上げる。

 ただ完全に覆い隠すのではなく、かなり大雑把に仕上げる。

 言葉で表すと、誰が見ても隠そうとした努力が見られるが、そこに何かあると気付ける程度だ。


 これで一番最初の隠し部屋が完成した。


「向こうがどれほど探索熱心かは分からんが、まあ流石に気付くだろ」


 この部屋は俺の隠し部屋に対する熱意、そして布教の第一歩として生み出したものだ。

 役割として、この世界の隠し部屋というものの認知率を確認するというものがある。

 また、このダンジョンの特色としても期待している。


「ちゃんと機能してくれれば嬉しいんだが、どうなるか楽しみだ」


 構造は完成したので、宝箱の中身の選定に移ることにする。

 現状、この世界の価値観というものが全く分からないため、暗中模索で選ばざる負えないのが苦しい所。

 情報として男がゴブリンの皮を持って帰った事実はあるものの、金銭的な価値のためなのか、ダンジョンの存在証明のためなのかは判断できない。


「ゴブリンの皮でも入れておくのが無難な選択か?いやでも折角の隠し部屋だしな」


 隠し部屋にはロマンがある。

 そう言っていた加斗吉爺さんの意見に俺も賛成でいる以上、面白みのないアイテムを選ぶわけにもいかない。

 そうなるとゴブリンの皮や、ゴブリンから獲られそうなものは選択肢から除外だ。

 その他、武器や防具といったものを報酬にするのも、価値観が判らないため止めておく。


「やっぱり、エネルギー消費量から探った方が安全だよな」


 ほぼ唯一と言っていい指標がこれだ。

 当然、この量の法則性なんてものは知らない。

 単純な強さなのか希少性なのかも分からないが、ゴブリンの皮と同等や僅かに多い物から選びだそうと思う。

 一覧には薬草などといった消耗品や植物系の素材があり興味を惹かれたのだが、周りが草原や森とかなので希少性に欠けるという判断を下した。


「やはり、モンスター素材を選ぶべきか?ん、これは」


 ふと、目についたのが一風変わったものだった。

 "青サンゴの死骸"というアイテムだ。

 コストとしては、ゴブリンの皮より若干高い程度。

 だがその見た目は宝石の様に透き通っており、それなりの価値がありそうに見える。

 また、サンゴという平原には無さそうな素材であるというのもポイントだ。


「一先ず様子見でこれを置いておこう」


 隠し部屋を作り終えた後は忘れずに広間の光源を作っておく。

 洞窟の雰囲気に合う様に光源には松明を使う。


 これで一通りの作業は終えた。

 いよいよ隠し部屋の実装に踏み切り、遂に俺のダンジョンが始まる。

 俺の作ったダンジョンにプレイヤーではない、実際の人が入ってくるというのは中々感慨深い。


「後は人が来てくれるのを願うばかりだな」


 まあ、集落の近くにできた魔物の巣窟を野放しにするとは思わないが。


 とりあえず、序盤の目標はこのダンジョンに興味を持ってもらう事だ。

 願わくば、この隠し部屋が切欠になると良いが果たしてどうだろうか。


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