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隠し部屋のある異世界ダンジョン  作者: なみがら
迷い込んだ異世界と始まる新生活
2/11

ダンジョン運営とは

9/16[修正]:文章を大部分改変しました。情報量は変わっていません。

10/2[修正]:文章の体裁を少し弄りました。




「さて、道真には何から話せばいいものか」


 扉を抜けて作戦拠点へと入場したフージェと俺はテーブルを挟んでソファーに腰かけていた。


 部屋の中央にはテーブルと二対のソファーがあり、その上にはシャンデリアが吊るされている。

 ただ、その他に家具は無く、四方を窓の無い石壁があるだけだ。

 一応その壁は灰色一色ではなく、均一に青く光る石が埋め込まれていてミステリアスな雰囲気を醸し出している。

 この空間自体がゲームに登場するダンジョンのようだ。


「迷宮やら、エネルギーやら、話すことは山ほどあるからな。道真よ、気になることはなんだ」

「なら、その迷宮ってのが何なのか教えてくれ」


 隠し部屋の宝庫でもある「迷宮クリエイター」にも、タイトルとして使われている単語。

 思った通りの内容だろうが、これに差異があっては困るので真っ先に聞いておきたい。


「迷宮、あるいはダンジョンというのはな、人間が素材を求めてやってくるような場所だ。私たちはその迷宮の管理を行っているのだぞ。道真の仕事もダンジョンの管理だ」

「見事にゲームのような設定だな」


 思った以上に想像と一致していて、思わず口を開いてしまった。


「それなら話が早い。早速ダンジョンを作っていくぞ」


 フージェはテーブルの上に複雑な模様が書かれた紙を広げる。

 その紙に軽く手を這わすと、フージェの手から光が粒子となって漏れ出し、紙に吸い込まれていく。

 光を吸収した模様が次第に光りだすと、紙の上の空間に映像を映し出した。


 映し出された映像には土をくり抜いたような簡単な洞窟が立体的に映し出されている。


「まさにSFの世界だな」

「えすえふ?ではないぞ。魔法陣だ」


 関心したように俺が頷いているのを見て、フージェが何かに気づいたように話す。


「そうか、お主は魔法を知らんのだな。思い返せば加斗吉もそうだったな」

「魔法って、もしかしてあの魔法か!」

「どの魔法かはっきりせい。恐らくその魔法だ」


 魔法と言えば火の玉を飛ばしたりするようなものが思い浮かぶ。

 折角、異世界に来たのだから魔法の一つや二つは是非とも使ってみたい。


 俺が魔法についての知りたいのが分かっている様子だが、フージェは至って冷静にダンジョンの続きを話す。


「一先ず魔法は後回しだ。ダンジョンの作成を始めるぞ。よく見ておれ」


 フージェは先ほど敷いた紙の下から透明なシートに描かれた魔法陣を引っ張りだすと、それに連動するように何かの一覧表が現れた。


「一番最初は魔物の湧き場の配置をするぞ。これが無ければダンジョンの意味が無いからな」


 フージェは一覧から、奇妙な人型の魔物のアイコンを掴むと、先ほどの洞窟の中心に置いた。

 見たところ文字通り、3D表示されたマップ上に手を突っ込んだだけの様だ。


「これで、ダンジョンにゴブリンが出てくるようになったぞ。簡単であろう」


 確かに、直観的に操作できる様でかなり簡単そうに見える。

 ところで魔物の居ないダンジョンは作れないのだろうか。


「魔物は配置しなきゃダメなのか?」

「基本的にはな。ある意味では魔物が居るからダンジョンとして機能するのだぞ」


 どうやら作れないことも無いようだが、それはダンジョンとは言えないようだ。

 詳しく言えば、魔物が居ないと異世界人からはダンジョンと認識されないとのこと。


 ちなみに「迷宮クリエイター」では、魔物の有無に関わらずダンジョンだったのだが、こちらとは定義が違うみたいだ。


「もし魔物の居ないダンジョン?迷宮を作るなら何か違う点があるのか?」

「方針だけ言えば、魔物の代わりに別の生き物を仕留める必要があるぞ」


 魔物が居ないから魔物を倒せないのが分かるが、別の生き物を倒す必要があるってのはどういうことだろうか。


「んーなんだ?結局は魔物以外の生物を配置しなきゃいけないのか?」

「全く的外れだぞ。生き物は現地調達しなければ意味がないぞ」


 いわゆる迷宮の核として、何かしらの生き物が必要なものと予想したのだが違うらしい。


「そうだなぁ、先にエネルギーの話をしておいた方が良さそうだな」


 話がかみ合わなくなってきたのを悟ったのか、フージェの方から話を切り出してくれた。


「エネルギーっていうのは、私たち竜や竜人にとっての生活必需品だ。迷宮を運営するのも、このエネルギー調達のためだぞ」

「俺たちにとっての電気みたいなものか」

「道真の世界の事情はよく分かっていないが。実際に見てもらった方が早いな」


 フージェは立ち上がって俺の隣に移動すると、手で器の形を作った。


 そして目を瞑り、歌う様に呪文を唱える。

 すると何処からか、淡く薄い紫色の煙が発生し、フージェの手の中に集まり始める。


 集まった煙は次第に透明度が無くなり、物体がはっきりと出来上がっていく。

 数多くの小さな楕円型の白い物が厚みのある三角形を作り出していた。


 その完成品には見覚えがあった。


「おにぎりじゃねえか」

「当たりだ道真。そうだ、おにぎりと言っておったな」


 そう答えると、フージェはニコリと笑い頷いた。

 2つ出来た白一色のおにぎりの一つを俺に差し出し、もう一つを口に運んだ。


「このように、エネルギーを使えば食べ物だって作れるぞ。他にダンジョンの維持にもエネルギーを用いてるぞ」

「悍ましいものだと思っていたけど、すげぇなエネルギー」


 俺の想像をはるかに超える有能っぷりに素直に感心した。

 ちなみに、フージェから受け取ったおにぎりを食べてみると、いたって普通のおにぎりであった。


「エネルギーはすごいぞ。何かが欲しい時に先ずエネルギーを使うのが私たちの世界、ドラゴニアでの常識だ」


 取り合えず分かったことは、エネルギーは生活を支える万能素材であって、その確保のために迷宮を営むという事だ。

 それで持ってフージェの口ぶりからすると、生き物を仕留めるとエネルギーが得られる仕組みなのだろう。


「一応確認だが、迷宮を作るのは生物を仕留めてエネルギーを得るためってことで合ってるか?」

「その認識で間違えないぞ。厳密にいえば、迷宮の中で仕留める必要があるぞ」


 なるほど、分かってきた。

 ゲーム感覚でダンジョンを作ろうとした身としては、生物を殺す必要があるのは心苦しいものがあるが。

 もちろん生物には人間も含んでいる事を考えると、余計気が滅入ってしまう。

 俺としてはできる限り平和的に行いたいのだが、何か突破口はないか。


 そう言えば、ダンジョンの話で気になる事を言っていた。


「ダンジョンの話だが、魔物か生物を仕留めればエネルギーが得られるって事だよな?」

「そうだが、何か気になる事でもあるのか?」


 気になるも何も、魔物からエネルギーが取れるっていうのに疑問が残る。

 魔物を用意しているのはダンジョンの方のはずだ。

 ただ配置すればエネルギーが増えるなんて、虫のいい話があるのか。


「思ったんだが、魔物を生み出しているのはフージェだろ。その魔物が死ぬとなんでエネルギーが取れるんだ?」

「確かに道真の言う通り、魔物自体を作っているのならそれを倒したところで収穫は生産コストと相殺されるぞ」


 フージェはダンジョン作成の魔法陣をこちらに向けて、説明を続ける。


「だからここでは、ゴブリンそのものではなくゴブリンの湧き場を作っているのだぞ。簡単に言ってしまえば、湧き場はエネルギーを消費せず魔物を作る環境そのものだな」

「とりあえず、湧き場から出た魔物からはエネルギーが取れるってことだな」

「…そこだけ分かっていればいいぞ。話の続きをしたいが、ゴブリンが湧くまで一端休憩だ」



****



 おにぎりを完食し、そこから数分後にゴブリンが出現した。

 ゴブリンは等身の割に大きな頭と貧弱な手足、そして若干丸い腹をした風貌が如何にもモンスターという感じがする。


「説明を再開するぞ。こうして湧いた魔物を人間などに倒させるのがダンジョンの目的なのだが、魔物を用意しただけで人間が積極的に狩ってくれるわけではないのだ」

「報酬か何かが必要ってことだな」

「そう言う事だ。早速、ゴブリン討伐の報酬を決めるぞ」


 フージェは手際よく新たな魔法陣を引っ張り出して、その中にあった、ゴブリンの皮という名のアイテムをゴブリンの沸き場に持っていく。


「これでこの沸き場から出てきたゴブリンからはゴブリンの皮を手に入れられるようになったぞ」


 魔物を倒すとアイテムを落とすというのが如何にもゲームの様だ。

「迷宮クリエイター」でも使われていた要素の一つとして、敵を倒した時に扉の鍵をドロップするというのがあった。


「アイテムはそのモンスターに因んだものじゃなきゃだめか?」

「別のモンスターでも設定は可能だがお勧めはしないぞ。後は報酬の品もエネルギーで産み出していることに注意すればいいだけだ」


 確かにフージェの言う様に、豚から鶏肉が取れるような状況になってしまえば混乱を生むだろう。


「オーケーだ。大体把握できた」

「呑み込みが早くて助かるぞ。仕上げにこのダンジョンを異世界、イフラットに配置するぞ」


 テーブルの上に映し出されているダンジョンの全体図を全て両手で丸め込むと、ダンジョンの代わりに世界地図のようなものが現れる。

 そのマップはフージェが動かしているのか、次第に大陸から国に、国から街へと拡大していく。

 そしてどこかにある小さな村が見えるほどに拡大すると、そこから少し離れた道の脇にある丘に、手に持ったダンジョンを埋め込んだ。


「これでダンジョンがイフラットに出現したぞ。ダンジョンの設置や拡張時には、エネルギーを消費するから注意だぞ」

「ダンジョン運営開始だな。この後は待っていれば勝手に入ってくるのか?」

「見つかり次第だ。その後には一番重要な仕事が待っておるぞ」


 とりあえず人が入れる状態になったというのは良い。

 しかしその後の仕事と言えばなんだろうか。


 頼れる情報源がファンタジーものの資料しかないのが心許ないが、ダンジョンと言えばどこか知らにダンジョンの心臓と言えるものが有って然るべきだろう。

 それを考えれば、必要なのは心臓を守るための設備や護衛だ。


「あれか。ダンジョンを守るための設備を整えろって訳か」

「違うぞ。野良のダンジョンなら確かに守るべきコアがあるが、竜人のダンジョンには特別なモノはないぞ。強いて言うならエネルギー残量がそれに相当するな」


 的が外れた。

 守る必要がないとなると、必要なのは利益を出すことだけだろう。

 言い換えれば、ダンジョンにより多くの人を呼び込むことを目標にすれば良いというわけだ。


「それじゃあ、人が集まるようにするってのが仕事か」

「そういう事だ。だが、簡単にはいかないぞ。何せ、その場限りで集まっても仕方がないからな」


 話を聞く限り、長期的に一定の収益を出すことがダンジョン運営の目的になっているはずなのは察しが付く。


「ああ、分かってる。そこで先輩から、何かアドバイスはありませんか?」

「んー私か?ダンジョンの運営に関してはさっぱりだぞ」


 ふざけ気味にフージェに意見を聞いたが、指導者とは思えない返事を貰った。

 まさかとは思って、前任だった加斗吉爺さんの例を聞いてみた。

 あの爺さんの口ぶりからダンジョンに携わっていたのは確実な上、あの様子だと失敗をしたような感じでは無い。

 是非とも、隠し部屋を組み込みつつ完成させたダンジョンを見てみたかったのだが、残念なお知らせが返ってきた。


「いやいや。そうは言っても加斗吉爺さんのダンジョンも見ていたんだろ」

「見ていたが、いつの間にか立派なダンジョンに成っていたぞ。私が関わった所なんて、操作方法ぐらいだったぞ」

「それじゃあ、そのダンジョンは残ってるのか?」

「無いぞ。加斗吉の要望で取り潰した。ゼロから作るほうが後任も楽しいじゃろーとか言っておったぞ」


 びっくりするほど有力な資料がない。

 純粋に加斗吉爺さんのダンジョンも見たかったが、参考資料としての価値すらも許されなかった。

 妙に誇らしそうに語るフージェに少々呆れ気味に問う。


「というか、フージェが作ったダンジョンは無いのか」

「…全部、潰した」


 そう答えたフージェは何かを諦めた様子だった。

 正直、だらしないと思ったが口に出さないで置いた。


 閑話休題、ダンジョンに人を呼び込む方法について考えよう。

 というのも、方法はもう考えてある。


 俺は隠し部屋を作りに来ているのだ。

 これを使わない手はない。


「まあ、とりあえず人を集める事に関しては考えがある」

「おお、頼むぞ道真。運営に関しては私は非干渉でいるからな」


 なんだか、ほとばしる無能感が残念でならないが、ある意味自由にやっていいと言っているようなものだ。


 方針として隠し部屋を使うのが決定事項だが、異世界人の評判はいかほどかわからない以上、不安は残る。

 駄目だったからと言って隠し部屋の放棄は絶対に無い。

 寧ろ、新たな価値観として布教することも辞さない。


「任せておけ。んでもって、隠し部屋を広めて見せる」

「ふふ、気合を入れるのは良いが、主旨がズレてきているぞ」

「俺にとってはこっちが本心だ」

「そうか、まあ。…期待しているぞ」



****



 その後ダンジョンの説明が一通り終わったので早速構想を練ろうかという時に、フージェが話を切り出した。


「イフラットに行く時にはここに入ってきた扉を使うぞ。使う時には調整が必要だが、そのやり方は今度教えるぞ」

「それって異世界に行けるってことか!」


 話題に上がるまで気にしていなかったが、ここは異世界だ。

 ダンジョンや隠し部屋が魅力的過ぎて忘れていたが、現代とは異なる世界というのも十分魅力的だ。


 魔法があってゴブリンのような見知らぬ生物が最低限存在している世界だ。

 まさにゲームの世界の一員となってその場を歩けるとなれば、是ほど興奮するイベントは無いだろう。


「興味津々だな。折角だから少しだけ開けてやるぞ」


 俺の反応が気に入ったのか、笑顔を浮かべて作業に取り掛かるフージェ。


 彼女は扉に手をかざし何かを唱えると、石扉は青い紋章を浮かび上がった。

 一瞬光が強くなったと思うと、紋章が崩壊し始め、それらは光となって扉を縁取った。

 次第に光が薄まり完全に消えると、扉はゆっくりと開きだした。

 扉の奥には朽ちた小屋の入口と、その先に広がる木々と草原が映し出されていた。


「これでイフラットに繋がったぞ」

「おお、思ったより殺風景だな」

「それは人の居ないような場所だからだ。向こうから扉は見つからないが、出るときに見つかっては困るからな」


 見える範囲では残念ながら、異世界らしい妖精やら魔法やらといった要素が全く確認できなかった。

 折角の異世界なのに不可思議な要素が見当たらないのが悔しい。


「少し出歩いてみたいんだが駄目か?」

「まだ駄目だ。今出たら作戦拠点に戻る術がないからな」

「それは困る」


 残念だが仕方が無い。

 幾ら、魔法と言えども準備というものがやはり必要なのだろう。


「一先ずこんな具合で外出は可能だ。一番忙しい時期を超えた辺りで自由に使えるようにしておくぞ」


 そう言って扉を閉めると先ほどのように呪文のような事を行った。

 すると扉はまた青く光ったと思うと、元の明るさまで段々と戻っていった。

 フージェが何度か扉を押している様子を見るに、鍵を掛けたようだ。


 イフラットという、俺にとっての新世界に行ける事自体、好奇心を刺激する良い要素だ。

 もし自由に通えるようになれば、良い気分転換になる点もあるが、何より直接的な情報が得られるというのが大きなメリットになるだろう。


 俺の目指すダンジョンは、隠し部屋という目玉のあるダンジョンだ。

 隠し部屋とは、見つけた者に対して報酬を与える場とも言える。

 そして、この報酬の一番単純なものが物品だ。


 隠し部屋で人を釣るというのを言い換えれば、この物品を目当てに人が集まるようにするという事。

 つまりは、需要のあるものが手に入ればよいのだ。


 その需要とは何かという答えは、すべてイフラットにあると言っても過言ではない。

 しかも、供給に関しては全てエネルギーが解決してくれる。


 つまりあの扉が使えるようになった暁には、人の絶えないダンジョンが出来上がるのは必然だ。

 そうなれば、それに連なって隠し部屋というものも広まっていくだろう。


 今からその光景が楽しみだが、まずはこのダンジョンが人に受け入れられなければならない。


 このダンジョン運営においての最初の仕事、その時が正念場になりそうだ。


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