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タイタニックは二度沈む  作者: 佑黒ドリル
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法月楓 二月二十一日 午後十四時五十五分

法月楓 二月二十一日 午後十四時五十五分


 ウインドミル杯の関係者のみが入ることを許されている共用の待機ルームには五十人ほどの人がいた。この五十人全員がライバルであり、今から私のターゲットである。

 共用の待機ルームの中央には巨大なモニターが設置されていた。そのモニターには

「まもなくスタート」という文字が表示されている。レース開始後には民間のテレビ局がしかけた待機カメラにより、レース中の映像が流れるようになっている。

「私の仕事は清水スバルの名前を誇張した話をここでばらまくこと、ただそれだけ」

 独り言をそっと心の中でつぶやいた。

「このモニターを通じて伝えられる限られた情報に私のペテンをからませる。それだけでいいんだ」

 何度も心の中でつぶやく。何度も繰り返し自分に言い聞かせるのはは人を騙すというのが、それだけ難しいからである。

 では人間はなぜ嘘をつき、人を騙すのか? 答えは明確だ。騙された人間が自分よりも不幸になるのを見るのが大好きだからである。

 逆をいえば、相手がひっかかってくれないペテンなんていうのは、ただ自分だけが損をするめんどくさいものでしかない。だからこそ成功してみせる。

 スタートの時間まで残り三分。

 普通のナビゲータならば、このへんでチームごとに与えられた個室にでもこもってパイロットに励ましの言葉なんていうのを言ってるのかもしれない。しかし、私たちのチームのパイロットはタイタニックの完成が三日前だったこともあり、操縦の練習もろくにしていない素人だ。

「今までのお前の努力を信じろ」

 なんてこと言ったところで、まったく意味が無い。励ましにならない励ましはそれこそダメなペテンでしかない。

 だから私は私の仕事に専念する。というのが、私がこの集中力を維持するための私の私に対するペテンだ。

 スタートしてからの発進成功後の心のスキを狙わせてもらう。

 

ピ・ピ・ピ・ピーーーーー


 スタートの合図がなった。待機ルームでは、それぞれ自分のチームの無事なスタートを祈る言葉が次々と放たれていく。

 モニターを見ると、コロニーの外郭にあるそれぞれのチームの発射口から高速宇宙船が出てくるシーンが映し出されていた。スバルの乗るタイタニックはどうだったかというと……文句のつけようもないほど鮮やかなスタートをしていた。

 スタートに失敗しているチームはないかと、モニターに映る他のチームの機体を見回してみる。モニターに映る限りでは一台も撃沈していない様子だ。

 次はモニターの前でたたずんでいる人を見回す。先ほどから最前列で騒いでいるのはライバル候補の激熱チームの人たちだろうか? 明らかにガラが悪い。

 その中に一人の人間を見つけた。さっきからZレースのうんちくを喋りまくっている男である。声も大きくリアクションも派手だ。

 普段なら話しかけるのも躊躇わられる相手だが、今日の私の仕事にはこれ以上の人材はいない。この男に話しかけてみることにした。

「すみませーん。面白い話が聞こえてくるんで気になってたんですけど、どこのチームのかたですかー?」

 自分でも口調がキャラに合ってないと思いつつも、笑顔で話しかける。

「ん? おれは……俺たちはあの赤い機体の激熱のチームだ。ねーちゃんなんかようか?」

 近くで話しかけてみて改めて思うが、声が大きい。やっぱりコイツを選んで正解だった。私も同じぐらいの声の大きさで話しかける。

「実は、私ー、ここの運営の人たちが話してるのを聞いたんですけどー、年間賞金王最多獲得の清水さんの息子さんがパイロットとして参加してるって聞いたんですー。それでどこのチームなのか気になってて、さっきから物知りなことを言ってたのが聞こえたんで知ってるかなーみたいな?」

「清水の息子? 確か名前は『清水ス……』とかそんな感じだったはずだが、そんな有名なやつがこんな地方のZレースにくるもんかね? おいっ。お前ら出場者の名前確認しろ!」

 男は自分の後輩に命令していた。男の見た目は二十台後半ぐらいに見える。そろそろ暴走族でも、珍走団でも引退してなくてはいけないぐらいの年齢だと思うのだが……。

「ねーちゃん。その話をしてたやつが誰だか教えてくれねーか?」

「えーっと、声だけだからよくわかんないんですけど、なんか危なそうなことを言ってましたよ?」

「危なそうなこと? 清水のバックになんかついてんのか? いや、ねーちゃんにこんなこといってもわかんないよな……」

 この男が言っているのはどういうことかというと、Zレースに参加する際には基本的にスポンサーがつく。

 出場自体に多額のお金がかかるため、スポンサーを使うことでお金を稼ごうというのはめずらしくないことである。

 逆をいえば、スポンサー側もスポンサーになったからには、支援しているチームに勝ってもらわなければならない。

 つまり、このレースの妨害者は出場チームだけでなく、スポンサー自らが参戦してくることもあるのである。

 もしもこのとき武器会社などがスポンサーについていたとしたらどうなるだろうか?

 もちろん、危険だ。まず間違いなく妨害してくるだろう。しかもまずいのはそれだけではない。

 仮に、今回のレースでその武器会社がスポンサーについているチームを妨害して撃墜したとしよう。そうなると、武器会社側にしてみれば、このレース自体は敗退確定のため、妨害行為をストップするだろう。

 しかし、そのあとのことを考えてみると武器会社との間に撃墜したチームは大きな遺恨を残すことになる。

 私たちのような今回一度限りのZレース参戦目的ならいざ知らず、これからの人生をZレースでまかなおうとしている人間なら、大手のスポンサーとの状態悪化は避けておかないといけない状況である。なぜならば、いつ違うレースで復讐の対象とされ優先的に狙われてもおかしくないからだ。

 だから妨害をする際は相手のスポンサーをチェックするのが普通である。

 だが残念なことに、私たちタイタニックチームのスポンサーは武器会社でもないし、他チームに遺恨を残したくないとおもわせるほどの会社でもない。ただの有名でないだけの会社である。

 されどスポンサーが有名ではないということが、イコール恐ろしくないというわけでもないのがこのZレースを盛り上げる要因のひとつだ。姿がつかめないゆえに想像で考えることしかできなくなる。つまり無限の可能性を秘めているのである。これが私の仕事のキーになることはいうまでもない。

 面白いのはここからである。

「はぁはぁ、にいさん!! 見つかりました。パイロットとして清水スバルって名前が登録されてます。チーム名はタイタニックだそうです」

 息を切らしながら走ってきた青年が男に話しかけた。手には分厚い書類をもっており、その中に出場者の名簿もあるのではないかと思われる。

「よくやった。タイタニックチームというと、どれだ? あのトップを独走中の派手なやつか……。その書類の中にスポンサーの名前は載ってるか?」。

「にいさん。スポンサー名は書いてます。でもそのスポンサーってやつに、ちょっと問題がありまして……」

「やばいところがスポンサーなのか? 妨害を中止させないとまずそうだな……」

「そうじゃないです。スポンサーの名前は『トラストマネー』というんですが、そのスポンサー名をいくら検索してもなんの情報も出てこないんです」

 それは当然の結果であった。この時代は知りたいことがあればパソコンや携帯で検索をかければたいがいのことはわかる。しかし大手の会社の現金を預かり、税金対策ののためのダミー会社になることが、このトラストマネーの仕事である。そんな法律すれすれの会社がインターネットで調べたぐらいで簡単にわかるわけがないのである。

 実はこのZレースの費用の一部をトラストマネーの預かり金から捻出しているため、私たちはこのレースで負けられないのだが、それはまた別のお話ということで……。

「調べても出てこないだと? そんな会社が今時あるとわな……。もしかするともしかするかもしれない。今すぐアタッカーに連絡いれろ。第一の妨害地点でのタイタニックチームへの妨害はなしだ」

「いいんですか? このままだとタイタニックチームが優勝してしまいますよ」

「いいんだよ。俺らのチームの目的は名前を売ることだ。それさえできれば優勝しなくてもおつりがくる。それよりもこれから先、やばいやつを敵に回すよりは何倍もいい。それに俺たちの妨害可能な地点はここだけじゃない。今のうちにそのスポンサーを調べ上げろ」

 男の怒号が響き渡る。それに釣られて他のチームにも慌てる人が出始めていた。待合室は私の思惑通りざわめきだしたのだ。

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