『回想の事件簿』
この作品は、1話完結モノとしての作品ですので、短編作品として投稿させていただきます。
製作者側は慣れないミステリーモノに挑戦をしていますので、まぁ……今まで通りめちゃくちゃな内容のモノとなっているかと思いますが、最後まで見てやってください。
今回は、題名の通り回想の話となります。さて、どのような事件が起こったのか、回想での話となるのでしょうか。
でわ、本文へどうぞ↓
今からさかのぼる事、数年前の出来事であった。当時、とある学園の通学路にて1件の殺人事件と思われる事案が発生していた。それにより、その学園に通学する生徒達はもちろん、他の住民達にもかなりの迷惑が掛かっていた事があった。その事件は警察内に存在するとある1チームと数人の学生達の協力ももと無事に解決された。思えばこれが、彼らの出会いでもあり、新たな事件簿の始まりとなったのである。さて、今回はその話を振り返ってみるとしよう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あー、寒ぃ~。」
時期は冬まっただ中、それとなく雪が積もり空気も冷たい日であった。3人の男子学生達がとある山道を歩き学園へと向かっていた。この道は彼らにとっては通学路のようであり、毎日通っている馴染みの道であった。そして、この日も彼らはいつものように会話をしつつ……まぁ、少々話を流している感もする表情でいる人物もいるが、歩いていた。すると、視線上にいつもと違った光景が入ってきたのである。
「何だぁ!? 人が立ち往生してるぜ?」
それを見た1人がそう口にする。先ほどの寒いなど、今の立ち往生などの言葉を放っているのは、この3人の中でお調子者且つ純粋(?)な馬鹿である五十嵐缶三郎である。ちなみに、残りいる2人のうち1人は、その五十嵐を上手く(?)扱っている池谷和也と、この関係に慣れきっている不藤雄一である。
彼らは、五十嵐の言葉を聞いて、正面を向く。確かに人が立ち往生しているのが見て分かる。3人は何気にその人混みの近くへと移動する。一体、何が起こっているのだろうか? 必死に奥を覗き見しようとしている五十嵐と、それに目もくれずに横に立っている池谷がいる中、不藤はそう思っていた。
そして、この人混みがちらほら動いている時、彼の視線上に誰もいなくなる瞬間があった。文字通りそれは、一瞬の出来事であったが、この時に彼はとあるモノを視界に入れていたのである。それを見た不藤は、人混みをかき分けてそれがある場所へと進んでいく。残りの2人も慌てて彼の後に続く。人混みをかき分け進んだ先にあったのもそれは『KEEP OUT』と書かれた黄色のテープであった。そのテープは50mぐらいであろうか、それぐらい先にまで貼られているようであった。
「これは、事件かな?」
不藤は何となくそう呟く。それに対して残りの2人が彼の方を向き反応する。池谷がそう言った根拠を彼に聞くが、彼の口からはテレビでこういうのを見た事があるから、という答えしか返ってはこなかった。そんな中、五十嵐はこの先に何があるのか興味津々のようであった。ついに、その意思を抑える事が出来なくなったのか、あろう事か彼はテープを上に上げて潜り抜けようとしたのである。
だが、その数秒後の事であった。
「ちょっとぉ!! 何してんすかぁぁぁ!!」
「ぬぐわあああぁぁぁ!?」
五十嵐は1人の男によってテープの外側に蹴り飛ばされたのである。これを見て2人の反応は共に「五十嵐、お前が悪い。」というモノであった。
「何でだよ、明らかに蹴り飛ばしてきた向こうにも否があるだろうよ!!」
「勝手に入ろうとしたお前の方が悪い。」
必死に言い張る五十嵐であったが、彼らの答えは一切変わりはしなかった。この返しに五十嵐は渋々そうであると認めるようであった。それはさておき、五十嵐を蹴り飛ばした男は何者なのであろうか? そして、どうして彼はこのテープより内側にいるのであろう。それが気になった不藤が彼にその理由を聞く。
すると、男はとある物を3人に見せてこう説明した。
「私は、警視庁の者です。今回、ここで死体が見つかったとの連絡があったため、この一辺を調べているんですよ。」
どうやら、見せられた物は警察手帳のようであった。これ見たのと話を聞いて彼らは男が向こう側にいる事にすんなりと納得がいったようである。そして、池谷が悟ったかのようにこう口にする。
「つまり、事件があったと?」
その言葉を聞いて男は驚いたかのような表情を見せ、何故分かったのかと問う。池谷が先程の言葉から察してだと返すと、男は悟らせないように言ったつもりだったと言うが、馬鹿と言われている五十嵐が分かるレベルのバレバレさである。
「まぁ、とにかく捜査の邪魔はしないようにして下さいね?」
男はそう言ってその場から立ち去って行った。男がいなくなった後、彼らはどのような事件が起こったのかという事を少しばかり考えていた。しかし、ふと現実に戻る。そう、自分達は今、学園に向かって登校している最中であるという事を。だが、通学路がこれでは回り道をする他向かう手段が無いが、そうすると確実に遅刻以上の代物と化してしまう。
「どうすんだよ、この状況よー。」
五十嵐は、ダルそうに2人に語りかける。しかし、2人は冷静であった。携帯電話を取り出し、担任の連絡用アドレスに現状をメールを送信し、別の道で向かう事にした。そして、歩くこと数十分後、彼らは何とか1時間目の授業のみ欠席という形で学園へとたどり着いたのであった……。
それから時間は過ぎ昼休み、彼らは担任のいる部屋に出向きもう一度、朝の事情を説明していた。ちなみに、彼らの担任の名前は、破出崇紘旧……通称、破出崇先生という先生であり、彼もまた先生としては十二分の実力の持ち主であるが、それを十分に発揮しようとしない事や、学業以外の事に非常に興味を示すというような教師としては、かなり変わった一面がある先生である。
彼らから改めて事情を聞いた破出崇先生は、事前に連絡が来ていたし、実際にそれが確認できているから問題ないよと彼らに返していた。しかし、その一方で彼らの話を聞いてこのような事を言い出した。
「実に興味深い内容だね、それは。」
「は、はぁ……?」
破出崇先生からの回答に少々戸惑いを見せる3人であったが、いつもの事なのでそれ以上は何ともなりはしなかった。そして、分かっているのだが不藤が一応こう聞いてみる。
「ちなみに、興味深いとは何がでしょう?」
「朝の事件的なやつの話だね。」
「でしょうね。」
彼の返事に対して3人の言葉は綺麗にシンクロしていた。それに関しては破出崇先生も少々笑うという形となっていた。その後、彼は警察が解決してくれるだろうから気にしなくて良いと3人に伝える。彼らもその考えには同意であり、その意見をすんなりと受け入れる。
そして、もうすぐ昼休みが終わるため3人は自分達の教室へと戻って行った。
「ふぅー……さて。」
彼らが部屋を後にするのを見届けた破出崇先生は、彼らの姿が見えなくなった後、机の上に肘を置き、顎に手を当てて何かを考えだしていたが、彼は何を考えているのか、それは現時点では本人にしか分かりえない事であった……。
そして、時間が過ぎ放課後の部活時間へとなった。不藤は1人、自分の部室にいた。池谷と五十嵐は、は他の部活と掛け持ちで入っており、この部活動はサブ活動として登録しているため、毎回来るという事はそこまでは無いようである。
ちなみに、この部活の名前は『管理部』という。どういう部活だと聞かれると、謎が多すぎるという部活であるとしか言えないのが事実である。ただ、現時点では学園内の厄介事や学生達の相談に応じるという事をしているらしい。簡単に例えるなら、何でも屋と言えば良いのかもしれない。そういうような部活であるためか、全部員は3人いるが、そのうち2人は先程のサブ入部であるため、実質は不藤1人が部員というような形でもある。
そして、部員が少ない理由は顧問にもある。何故なら、この部活の顧問は例の破出崇先生だからである。
そのため彼とまともに部活を運営していける者でしか入部はしないのである。確かに、顧問として何をしているのかと聞かれれば、これもまた謎なのである。だが、作られてから今まで問題なく継続している部活であるため、功績は何かしろあるには違いないだろうが、外見では全くもってそれは認識不可能である。
そんなこんなである部活動だが、彼らは自分達なりにやりこなしているようではある。さて、今は何をしているのであろうか? 不藤は机の上に並んでいる資料を小分けしていた。破出崇先生はコーヒーを飲みながらそれを見守っている。……もう、完全に庶務係の仕事風景であるような感じだが、黙っておくとしよう。
そして、資料が残り少しとなったところで、破出崇先生がとある話を切り出してきた。
「そういや、昼休みにはさ、あんな風に言ったのを聞き入れたように見えたけど、実際はどうなんだい?」
これを聞いた時、不藤は作業の手を止めた。すると、それを見た破出崇先生は何かを確信したかのように、彼にこう訪ねる。
「僕自身、興味深いと言ったし、僕は気にはなっているよ、朝の出来事。……君も正直そうじゃないかい?」
「そうですね、気にはなっていますよ。」
このように、気にしないでおこうと言っておきながら、気になってしまうというのが人間でもある。今の彼らはどうもそういう状態なのであろう。そして、彼らはそれ関連の話を始めたのだった。話が終わったのは、部活終了時刻辺りの事だった。彼らは話を終えて今日やるべき事を済ませた上で、部室を後にするのであった……。
そして、次の日の事である。
「あ、忘れてた……。」
不藤達3人はいつもの癖で捜査中である通学路まで迷いなくやって来てしまったのである。引き返そうとする池谷と五十嵐だが、不藤だけはその場に留まっていた。そして、何やら考えているようであった。それを見た池谷は察したかのようにこう言った。
「結局、お前も気になったままって事か?」
この言い方、どうやら池谷と五十嵐も昨日の出来事を忘れてはいない様子であった。彼の言葉に軽く不藤は頷く。そして3人は数分間その場に立ち止まっていた。すると、テープの向こう側から聞き覚えのある声で中に入らないようにという言葉が彼らに聞こえてきた。
「お前は!!」
その声の主が視界に入った五十嵐は、その人物を指さしていた。そう、この声の主は昨日ここで五十嵐を蹴り飛ばした警察の男であった。
まず、男は人に指をさすな、と一言五十嵐に言い、彼の手を叩き落とした。そして、改めて3人に向かってこう忠告するかのように言う。
「良いですか? ここには近づかないで下さい、危険ですから!!」
この男の言っている事はごもっともである。こちらは、関係者では無いただの一般の学生である。中に入るなどという事は到底許されるモノではないだろう。彼らは男の言葉を聞いた後、別の道を使い学園へと向かって行った。
「全く、近頃の学生ときたら、学習力の無い……。」
正直この男は彼らの行動に呆れていたが、あえてそれは口にしなかったようである。だが、表情と体制でそれは見ているだけでも伝わってくるような感じであった。すると、そんな彼を後方で誰かが呼んでいた。その声に反応し、男はそちらへと向かう。そこには、帽子を被った警察関係者の姿があった。そして、男に向かって色々と話をしている。口調からして帽子を被っている男は、3人を追い返した男の上司であるようだった。
「何だ、また誰かが入ろうとしていたのか?」
「えぇ、昨日も入ろうとしていた学生達ですよ。」
「そうか、まぁ……好奇心が旺盛なんだろうな、近頃の学生というのは。」
このような話をしつつ、彼らは他の話もしていた。
「それで警部、何か新しいモノは出ましたか?」
「いや、あれ以降特に目星になりそうな代物は出て無いようだ。」
「では、あれが重要な手掛かりになりそうですね。」
「あぁ、今は鑑識が調べている最中だ、暫く待つとしよう。」
いかにも、警察官の会話といったような内容である。そして、この会話を終えると彼らはテープの外に出て行き、どこかへと向かって行くのであった……。
ちょうどその頃、不藤達は学園で授業を受けていた。池谷以外には苦手の科目であったのか、不藤は聞いていてもあまり理解が出来ていない様子である。五十嵐に至っては、寝言をつらつらと言っている有様だった。これも日常茶飯事なのであろう、他の生徒は愚か先生も何も言わない。そして、このような時間が過ぎていくのである……。
この時、とある場所のとある一室では、5人の男達が机の上に大量の資料を並べて何やら話あっていた。
どうやら、ここは警視庁のとある一室のようである。おそらく、先程の2人の男達のいる班なのであろう。
「これが、先程鑑識から提出された資料です。」
1人の知的そうな男が参考となる資料をホワイトボードへ磁石を使って貼り付けていく。他の4人はそれを見つつ、色々と考えているようだった。しかし、その最中に1人の理的そうな男がとある事に気が付く。
「ちょって待て、鑑識からの資料ってこれだけか?」
「確かに、少ないですね。」
他にいる平凡な男もその意見に同意のようであった。彼らの言う通り、自分達で調べて来たであろう直筆の情報資料と提出された資料、それらの数量を比べてみると自力で調べてきたモノの方が多く、提出された資料にもこれといって捜査を発展させられる原動力になり得るようなモノが少なすぎていた。何故、このような事に陥っているのだろうか? それは、知的そうな男が教えてくれる形となった。
「仕方ないですよ、我々の部署はこういう扱いで今まで存続しているんですから。」
どうやら、彼らの班は組織の中では、本当から切り離されている浮島のような存在なのであろう。そのため、重要なモノなのが入って来にくいという環境のようである。まさに捜査環境としては、劣悪過ぎる環境である。だが、彼らもそれには慣れているような感じではある。
すると、五十嵐を蹴とばした男がこう言う。
「はぁ、毎回毎回……手柄と資料は殆どあっち行きですよね。」
「まぁ、その分ここの規制は緩くなっているんだ、仕方ないと思うしかないだろ。」
帽子を被った男がそう彼を押し留める。しかし、手柄は無いとしてもこれでは事件解決をする事が不可能に近い。そう彼らは悩んでいた。ここで、平凡そうな男がとある事を提案する。
「そういえば、昨日彼からこの事件について気になっている人がいると連絡がありませんでしたか?」
他の4人はそういう事もあったな、という表情で返していた。そして、少しの間沈黙した空気が流れた後、帽子を被っている男が手を大きく叩きこう言う。
「よしっ、一丁その人間とやらに頼ってみるか!! コンタクトを取って欲しいと伝えておいてくれ。」
「了解。」
彼の指示で提案した張本人がそれを進める事にした。どうやら、ここの5人はその人物に事件を解決出来るように賭けようという事であった……。
その頃、不藤達は放課後の部活動を始めていた。そして、この日は珍しい事なのか、彼以外の2人つまり池谷と五十嵐が管理部の部室にやって来ていたのである。彼らはこういう様に、不定期的にこちらの部活動に顔を出してくれているようである。
さて、それはさておき彼ら3人と破出崇先生は何やら会話をしていた。机上には大量の資料がある。おそらくこれは自分達の学園に関する何らかの資料であろう。
「相変わらず、無茶苦茶な仕事だぜ……。」
作業をしつつ、そうぼやく五十嵐。彼らが行っていた作業とは会計関連の内容のようだ。彼らが触っているモノをよく見ればそれは、部活動の経費などの内容が記載されている資料であった。
「流石に数年間、メインでここに所属している人間でもコレは辛いだろうな。」
そう、不藤と破出崇先生は数年間、この管理部に所属をしていて、このような仕事は日常茶飯事と言える程度には行っているのであるが、そのような人物でも唸り声をあげるぐらいの仕事は大量に押し付けられる事もよくあるようである。そのため、辛いというレベルの話では無い。という表情が今の彼らから伺える。
「―で、何でこんな事を?」
「察しなさい?」
「へ~い。」
彼らは休める事なく、作業を続ける。作業を続ける事、数十分の事である。部室に電話がかかってきた。生徒3人は誰一人として電話を取る気配など無い。破出崇先生は、資料を置き電話を手に取った。そして、電話の向こうの相手と何やら会話をする。たまにこちらの様子を伺いつつ、彼ら通話を続けている。話す事数分、会話が終わったらしく電話を置き再び戻ってきて作業を再開する。
「先生、何の電話だったのですか?」
「あー、僕に用事があるみたいだけど、何だろうね?」
何だろうね? と聞かれても、こちらには返す答えなど出てこない。そんなの電話をかけてきた相手にしか分からないのだから。彼らは黙々と作業を続ける事にする。そして、数十分経った頃である。誰かが部室のドアをノックしたのだ。
破出崇先生は、どうぞと入室の許可を出す。すると、1人の男が部室の中に入って来た。
「誰!?」
生徒陣3人は声を合わせて言う。破出崇先生は、知り合いと一言で返信する。そして、やって来た男を歓迎し、空いている椅子に座らせた。ここで、五十嵐が何故がもう一度。
「誰!?」
さっきそれは言っただろうに。まぁ、こういう事をするのが彼の特徴の1つでもあるのだが。しかし、今回はそれが良い方向に働いたようだ。男は破出崇先生に良いか、と口にした。破出崇先生は大丈夫だと思うと即答する。すると、男は懐から3人が見覚えのあるアレを取り出し見せながら名を名乗った。
「えー、警視庁第8係の大原哲だ。」
「おー、警部みたいだぜ?」
大原警部の手帳を見て五十嵐がそう口にする。そんな中、他の2人は警察の人間が何故この学園にやって来たのだろうかと、思っていた。そして、不藤がそれと全く同じ言葉を投げかける。
「あぁ、現在とある事件が起こっていてだな、それの調査の手伝いとして紘旧の知り合いにミステリー系の事に興味を持っている人間がいると聞いていたから、その人間に協力を依頼しようと思って彼を訪ねたんだ。」
3人はこの話で事を納得した。どうやら、聞いた感じだと大原警部は破出崇先生と知り合いのようである。それよりも気になるのは、破出崇先生の知り合いについてであるが、それに関しては彼らの会話から誰がそれに当たるのかが分かってくる。
「―で、例のミステリーに興味を持つ人間ってどこにいるんだ?」
「あー、大丈夫だね、すぐに分かるから。」
大原警部の問いに破出崇先生はそう返すと、スッととある方向を指差した。その先にいるのは、不藤達3人である。大原警部もそっち方面に指を指しているのは分かるが、その方面には学生しかいない。そのためか、彼の行動を少々疑っていた。
「待て待て、そっちには生徒しかいないじゃないか。」
「だね。」
「いや、だからさーその知り合いは!?」
「ほい。」
破出崇先生の指の向きは変わる事など無かった。そして、再度それを確認して大原警部は事を察した。その上で彼は一応、破出崇先生に確認をする。
「この3人か?」
その言葉に対しては、彼は首を振った。では、この中のうち1人かと聞き直すと、破出崇先生はそうだと答えを返す。しかし、彼には誰がその人物であるかは分かってはいない。そのため、大原警部はこういう手段に乗り出した。
「こん中でミステリー好きな奴、手ぇ挙げて!!」
この瞬間、一室にはシーンとした空気が流れた。だが、そんな事はお構いなど無い。誰も手を挙げないので大原警部は続けてこう言葉を切り出す。
「恥ずかしがる事はない、だから手ぇ挙げて!!」
もちろん、空気は先ほどと同様である。そして、手を挙げる者も現れはしない。堪らず、大原警部は首を傾げる。すると、破出崇先生が彼の方に手を当ててこう告げる。
「大丈夫、3人連れて行けば後に分かるから。」
そりゃそうだ、としか言いようのない言葉だった。彼はその言葉の通り3人一緒に連れて行こうと考えた。そして、再び協力依頼の内容を彼らに伝え破出崇先生に3人を借りる事を了承してもらい、もちろん3人自身の許可も取った。そのうえで、大原警部は彼らを連れて部屋を後にした。
「さぁ、どういう結果になるか楽しみだね。」
彼らが部屋からいなくなると、破出崇先生はそう1人で呟いていた。相変わらず、何を考えているのか理解し難い人物である。そして、大原警部を含む4人はそんな事に気づく事も無く、彼の車に乗り込み学園から目的地に向かって移動するのであった……。
その頃、警視庁内のとある一室では、資料の少なさに気力を奪われつつも捜査資料に目を通し、改めて気づいた事柄を残されていた4人の男達が行っていた。
「やはり、何度見返してみても、資料が少なすぎるという結果に留まりますね。」
とある資料の確認を終えた知的そうな男がそう口にする。この意見についてはこの部屋内にいる他の3人も果てしなく同意のようで大きく彼の言葉に頷きを見せていた。だが、色々と言葉だけを並べていても全く進まないので、彼らはぼやきつつも作業を続けていく。
そのまま時間が過ぎる事、数十分。ここまで来て何も追加の情報が見つからない。流石に限界が来たようで、徐々に作業の手が止まる。そして、4人全員が休憩を取り出した。彼らの表情からは諦めた感が見て取れるという状態である。そんな時である、部屋の扉が開き不藤達を連れた大原警部がここへ戻ってきた。
「お疲れ様であります!!」
「どうだ、進んだか?」
4人全員がそう反応をすると、彼も全員に似たような反応を返す。そして、大原警部はメンバー全員に進行度について聞くが、答えは彼らの表情が物語っている。そう、正直言ってお手上げの状態である。
「まぁ、資料が資料だしな。」
彼らの思いに大原警部も同感のようであった。すると、不意に五十嵐を突き飛ばした男が不藤達の存在に気づき声をあげながら彼らが立っている方を指さす。その瞬間、他の3人は反射的にその指の向いている先に視線をおくる。すると、五十嵐がその男と全く同様な行動を男にし返した。
「何だ、お前達知り合いなのか?」
大原警部と他の3人の男達は事が分かってはいない。この状況となっている理由が分かっているのは、不藤達3人と指を指している男だけである。そのため、他の3人の男達も大原警部と同様の状態でこの倍にいるという事になっている。ここで、彼らにこの状況が分かるような会話がされる。
「知り合いも何も、例のテープの中に入ろうとしていた人物達ですよ!!」
「あー、うるせぇーよ、俺を突き飛ばした奴だろーが!!」
五十嵐とそれを蹴とばした男の言っている内容は、どちらも互いの言っている内容に間違いは無い。そして、この2者の言葉を聞いただけで場にいる全員が彼らがどういう関係でしっている同志なのかを理解した。そして、互いに近くにいる方をまず落ち着ける。
「なるほど、彼らがお前の言っていた連中か。」
大原警部はそう語る。男は何故ここへ連れてきたのかそれを尋ねてくる。すると、大原警部は彼らに向かって今までの事の経緯を説明した。それを聞き、4人の男達はにわかには信じがたいという表情で話を聞いていたのだった。
「まぁ、俺もな初めて聞いた時は同じだったさ。だが、紘旧がこの3人の中にいるというから、まとめて連れて来たんだよ。」
男達は、なるほど。と、反応する。そして、誰がその対象者なのかすぐに知りたがる。だが、大原警部だけはその事は知っていた。何故なら、ここに来るまでの道中に3人と会話をしており、その会話の最中に聞いていたからである。ちなみに、ミステリーに興味を持つ人材とは、不藤の事である。そして、それを4人に伝える。すると、こんな意見が知的な男から返される。
「待ってください、誰か分かったのなら、どうして全員連れて来たんですか?」
「まぁ、色々と訳ありでな?」
ごもっともらしい質問にそう返す大原警部。まぁ、簡単に言えばこうなった理由というのは破出崇先生に対象が誰だか分かった後に連絡を入れると、3人を揃えておかないと色々と辻褄が合わないだの何だの。そして、彼らは彼らなりに行動するだの。よくよく聞いても分からない内容の事を言ったようで、全員連れてくる事にしたようだ。
「まぁ、人手は多い方が良いから問題は無いが。」
理的な男がそう口にすると、他の3人も同意らしくそれに対して軽く頷く。すると、ここで大原警部が彼らを仕切りだす。
「よし、とりあいず作業を再開するか。……あ。」
ここで何かを思い出したようで大原警部はそっちの内容を先に口にする。
「言い忘れたが、この3人、右から順番に五十嵐・不藤・池谷という苗字だそうだ、覚えてやってくれ。―で、あっちにいる知的そうな男が東大天才、理的そうな男が上田何作、いかにも存在感の薄そうな男が歌川等心。そして、お前達が知っているであろう男が坪井速人という。まぁ、仲よくやってくれ……な?」
この場にいる全員に互いの名前を知らせたのである。そして、彼は自分の持ち場へと戻り4人の作業の手伝いを再開する。ここで不藤達3人は何か取り残された感を感じる。すると、坪井がそんな3人に手伝うように促す、それを聞き3人は支持された内容を手伝う事にした。
そして、8人が作業を続ける事1時間程度が経過した時であった。
「ったく、さっきから似たような資料ばっか見てるぜ……。」
ついに、五十嵐がぼやきだした。だが、池谷はそれを肯定せざるを得ない。ここで、痺れを切らしたのか不藤が資料を借りに行かないかと彼らに提案するが、却下される。もちろん、不藤自身もここに来るまでに大原警部に事情を説明されているため、そう返されるとは思っていた。だが、彼はその後にこう言う。
「では、これ以外の事を調べに行きませんか?」
「聞き込みは終わったよ。」
上田がそう返事をする。だが、不藤はそれについても承知している。では何故そう言ったのか、それはすぐに彼の口から明かされた。
「外もそうですが、警視庁内にもですよ。」
「え?」
他の7人は揃って彼の方を見る。不藤はこの反応を見てある事を確信したのだ。そして、それを言い出す。
「どうやら、他の部署がこの事件についてどのような調査をしているか、あまり定かではないようですね。」
図星だった。資料が少ないという事も捜査が進まない原因の1つでもあるのだが、他にも進まないと思われるような原因は存在していたのだった。
「じゃあ、行きましょうか。」
不藤はそう口にする。一体何処へ? この場にいる彼以外の全員はそう思っている表情だ。すると、不藤はこの部署以外にどのような部署が存在するのか、大原警部に訪ねる。彼はいきなりの問いに戸惑いつつも、この事件を捜査しているであろう部署を幾つか教えた。
「なるほど、じゃあ……」
不藤は、その部署の名前をホワイトボードの空きスペースに書いた。そして、それらを手分けして回り情報を集めようと考えていると全員に告げる。この方法、情報の共有という面では非常に良い方法であるが、ここはそういう部署では無い。
「我々に、他の部署の人間が教えますかね。」
「確率が限りなく低い気がしますが?」
坪井と東大がそう口にする。他の人間も考え込む。すると、今まで一切喋っていなかったであろう、歌川がこう呟く。
「直接は無理でも、間接的になら可能かと。」
「あ。」
他の4人は同じ反応をする。どうやら、そういうやり方があったかというような感じであった。不藤はすぐに、それが可能な理由を説明してほしいと言う。歌川はそれに対してすぐに対応した。
「我々は、直接的に各部署に赴いてもたらい回しです。ですが、部署によっては知り合い達もいる部署が存在します。その知り合い達に調べてもらい、共有してもらうという事です。」
なるほど、それなら確かに有力な情報が入ってくるかもしれない。話を聞いた不藤はそう思っていた。すると、ここで大原警部が立ち上がり声を張る。
「じゃあ、その路線でやってみるか。」
「はい!!」
彼らに気合が入り、それぞれが行動しようとした時、不藤がちょっと待つようにと彼らを止めた。どうやら、何か彼らに言いたい事があるらしい。
「全員が全員、それに回ってしまうと他の事をする人間がいなくなってしまいます。」
「あー、確かに。」
池谷は、彼の意見に同意のようである。なら、どうしろと言うのだろうか。そのような空気が漂ってくる中、不藤はこう口にする。
「なので、残る人間と警視庁内の知り合いにあたる人間に分かれた方が良いかと思います。」
「なるほどな、じゃあ……」
彼の話を理解した大原警部は、部屋に残る人間を東大・上田・坪井・自分とし、先ほどの案を挙げた歌川は知り合いをあたるというように5人を分類した。ここで五十嵐が鋭いコメントを入れる。
「あれ、俺様達は?」
「すまん、忘れてた。」
そんな事だろうと思った。不藤達の反応はそうであった。だが、彼は言われて改めて思ったのである。この3人をどこに配属させるを。基本的に外部からの借り者であるため、この部署で管理する必要がある。ならば、この部屋に残ってもらうのが妥当なのだが、そうすると部屋に残る人数が7人で他の部署の知り合いに依頼に行く人間が1人という非常に偏った構成になってしまうのである。
途方に暮れた大原警部は堪らずこう言った。
「どう人数は割り振れば良い?」
まさかの不藤という、外部の人間に頼ってきたのである。まぁ、詰んでしまった時に周りに助けを求めるという行動に関してはあながち間違いではないし、効率は良いだろうが他に頼る人間がいるのではないかと思える。だが、誰もそのような事は気にしてはいない様子であった。
「まぁ、私が考えるには……」
不藤はホワイトボードに割り振りについて書きだした。彼がどういう風に割り振ったかは次の通りである。
・外での調査
大原警部・坪井
・他の部署の知り合いに合う
歌川・不藤
・部屋に残る
上田・東大・池谷・五十嵐
これならば、ある程度バランスは取れていると言えるであろう。何故、学生グループが分裂しているかは別として。
「待って下さい、自分達は外の調査ですか?」
坪井が外の調査などしないんじゃなかったのかというような感じで不藤に投げかける。すると、彼はこう答えるのだ。
「私は、外の調査は必要ないとは言っていませんよ? 内部に聞いて回るのも必要でしょうというような内容を言った気はしますが?」
「確かに。」
彼の言葉に全員そうとしか返さなかった。というわけで、彼の考えたように彼らは動く事とした。互いに何かあれば、この部屋に残っている人物に連絡を入れるようにと大原警部は部屋から離れる者達に伝える。逆に、部屋に残る者達には何か分かったら自分に連絡をくれと指示を出し、調査を始めるように指示を出した。他の全員はそれに応え、それぞれの担当の仕事を開始するのであった……。
部屋を出た後、大原警部と坪井の2人は駐車場に止めてある車へと乗りこんだ。そして、車を大原警部が発進させた。それから少しして坪井がこんな事を言う。
「良いんですか? 一般の学生達を信用しても。」
確かに彼の気持ちは分からなくはない。ミステリーなどに興味を示しているとしても、彼らはただの学生であり、今までにこういった経験などを果たしてはいない。そのため、そんな者達に任せても良いのかというのが彼の考えであった。しかし、大原警部は高らかに笑ってこう返す。
「確かにな、分からん事は無い。だが、俺達も立場は違っていたとはいえ、最初はあんな感じだったじゃないか。それを思い出すのも良いかもしれんしな。」
「ですが警部、何かがあってからでは遅い事もありますよ!?」
「大丈夫だ、紘旧が提案してきた事だ、そこまで狂いは無いだろう。それに、俺は他の年代からの視点で見れば何か進展があるとも思ったから迎え入れただけだ。まだ、完全に納得している訳でもないさ。」
「なるほど、そういう事でしたか。」
「だから、今回の案件では、彼らの考えも多く取り入れようと思っている。まぁ、何かがありゃ責任は取るつもりでもいるしな。」
彼らはこのような会話をしながら、調査場所へと車を走らせる。そして、先ほどの言葉の後に少しだけ間を開けて大原警部は付け足すかのようにこう言うのである。
「まぁ、今回の事件が解決したら、それは間違いなく彼らの力もあっての話になるだろう。その時は俺は認めてやるつもりだ。お前も他の者もそう思っているだろう?」
そして、彼の言葉の後、坪井は軽く頷く、それを確認した大原警部は軽く笑い、車のスピードを上げてさらに走りだすのであった。その頃、第8係の部屋内の状況はというと、このような感じであった。
「ったく、一体いつまで同じ作業を続ける気なんだよ……。」
「五十嵐、ぼやく暇があれば手を動かせよ。」
なんやかんやと言いながら池谷と五十嵐は、部屋に残っている上田と東大と一緒に資料に目を通す作業を繰り返していた。いちいち何度も見直すという事は見落としを回避するための行動であろう。ただ、第8係側の2人は何やら予想と違うというような表情で彼らの作業姿勢を見ていた。
「案外、やれるじゃないか、あの2人。」
「えぇ、これは慣れている手つきですよ。」
何と彼らの作業姿勢は2人にとっては好評のようであった。そして、この2人も彼らの作業に見とれていないで、自分達も作業を続ける事にするのであった。さて、残りは他の部署へと向かった2人であるが、彼らはどうしているのであろうか……。
「不藤さん、何故あなたはこの案を考えたのです?」
「まぁ、情報は少ないよりは多く手に入れたいでしょう?」
「それはそうですが。」
「もしかして、あの量で何とかなりそうでしたか?」
「いや、足りませんね。」
「でしょ?」
2人は知り合いの刑事がいる部屋へと向かっている最中であった。何だろうか、歩きながら色々と話していたのか、彼らは普通に意気投合しているような感じに見て取れない事もない状態まで進展していた。他にも捜査についての話を幾つかしてはいたが、割愛させていただくとしよう。そして、会話がかなり進んだところで、ふと思い出したかのように不藤がこう尋ねる。
「――で、これはどこへと向かっているのです?」
「すぐに分かります、ちょうど到着しましたから。」
そこは第1課と書かれている部屋であった。そう彼の知り合いの刑事が今いるのはこの部屋内なのである。歌川と扉をノックし、中へと入り挨拶をする。不藤もそれに続けて同様の行動をとる。だが、この広い部屋の中にはたった2人の刑事の姿しかなかったのである。
「人少なっ!!」
思わず本音が出る不藤。だが、聞くところによると本来この部屋を使用していう者達は皆、合同捜査会議に出ているため、この時間帯は空っぽであるという事が判明した。では、この2人の刑事達は何者なのだろうか。不藤がそれを尋ねると歌川から返事が返ってくる。
「彼らは捜査2課の刑事です。どうやら、1課には元々許可を得た上でここへと来ているみたいです。」
なるほど、納得がいった。どこかの誰かさん達はと大違いの行動で資料を求めてやってきたようだった。もちろん、その対象者達は誰であるかなど言う必要もあるまい。そして、ここで歌川の口から知り合いの刑事だという事が不藤に初めて伝えられた。
「どうも、警視庁第2課の柏原誠利です。」
「同じく、警視庁第2課の川口淳二と言います。」
2人の知り合い刑事はこちらに自らの名を教えてくれた。不藤も警視庁内の人間ではないが、礼儀として自らの名前を彼らに伝える。もちろん、本職は明かしてはいない。だが、彼らも刑事である。何か異変に気づいたかのように歌川に向かって川口がこう言うのである。
「彼、学生じゃないの?」
「こちらにも、色々と事情がありましてね、今回は見学及び体験という形で、第8係が預かっています。」
「なるほどな。」
危ない質問であったが、何とか乗り切ったよである。彼の言葉のおかげで不藤はこの場にいても大丈夫だという事になった。そして、歌川から資料について相談があったのを知っているので、柏原が机に置いてある例の事件の捜査資料を見せた。歌川はその文面を必死に黙読する。不藤も影ながらではあるが、その資料に目を向けていた。ここで、資料を見せた本人である柏原がふと思った事を口にした。
「そういや、お前……ここに入る許可は取ったのか?」
「取ってないですけど?」
「怒られるんじゃないのか?」
「だって、合同捜査会議をしていて留守だなんてしらなかったので。」
続けて放たれた川口の言葉にも歌川は普通に対応する。まぁ、許可を求めたところで、彼らの部署の扱われ方を想像するに、許可など降りはしないだろう。だから、何も言わずにやってきたのである。そのため、この状況が見つかると、第2課の2人は大丈夫であろうが、第8係の2人は雷が落ちる可能性はあるかもしれない。そのような空気が漂う中、彼らは見る事の出来る限り、資料を共有させてもらう事にする。
「流石、警視庁のメインの課の1つですね、こちらとは情報の扱える数が多い。」
「その通りですね。」
不藤の言う言葉を否定さえできない歌川。これほどの共有の差があれば、そうなるのは当たり前であろう。そして、彼らが次の資料に手をかけた時であった。部屋の扉が開き、ここの者と思われる人間が入ってきた。どうやら、合同捜査会議が終了したようである。
「お邪魔しております!!」
第8係の2人は一瞬、「あ。」という表情を見せたが、第2課の2人に合わせてそう入って来た人間に言う。
「あー、はいはい何か収穫になるものがあれば良いな。」
どうぞ見たいものがあれば好きなだけ見て行ってくれて構わないというような態度で最初は軽く返事を返した第1課の人間であったが、ふと明らかに場違いの存在がいるという事に気が付いた。
「――って、何やってんだお前は!? そして、お前は誰だ!?」
「いや、彼は、諸事情で第8係で預かっている不藤です。」
「明らかに学生だろ!?」
「ですから、諸事情で……。」
どうにか話を収めようとする歌川。すると、その事には諸事情という言葉で納得したのか話題がもう1つの方向へと傾いた。
「――で、何をやってんだよ!!」
「資料の共有に……」
「真面目に答えるなよ、お前らは関係ないだろう!?」
「いや、最初に事件を受け持ったのは第8係ですが?」
「上が、関係ないと下したんだ、だからお前らは関係ないんだよ!!」
「そんな事は聞かされてませんけど?」
「言う必要が無いと判断されたんだよ。」
「せめて、教えていただけないと……。」
「分かったよ、今教えたから一件から退いてくれ。」
この水掛け論に対して、歌川は何とか彼に言葉を返すが、ものの見事に気迫とゴリ押しで突破させる。そんな修羅場のような状況の中、第2課の人間は共に、「またか。」という表情でそれを観察している。不藤はこれが日常茶飯事なのかと彼らに聞くと、それを肯定する答えしか返って来なかった。そして、彼らの後方に隠れて彼は何かを始めた。
そして、この水掛け論はなかなか終わりを迎えようとはしなかった。
「いいか? とりあいず、出て行ってくれ。」
「いやぁ、ですからn……」
「――もへったくれも無いんだよ、お前らまず無断でここに入っている事んだぞ!!」
「あー、それは否定しませんが……」
「なら、早く出て行ってくれよ、今からこの部屋は第1課がいつも通り使うんだからな。」
刑事の言葉に歌川が押し込まれた時であった。柏原と川口の2人に重なる形で何かをしていた不藤が喋りだした。
「歌川さん、帰りましょう。無断で来た以上、追い返されても仕方ありませんよ?」
歌川はその言葉通りにするとした。歌川と言い合っていた刑事は、少しはまともな人間が第8係にもいるのだと少々感心している表情であった。そして、このまま彼らは扉に向かって歩き出す。……かと思えば、不藤はその場から動かずにとあるプレートのような物が入っている封筒を手に持ち、こう言ったのである。
「出る前に聞いた事があります。」
「何が聞きたいんだよ。」
「私が持っている封筒についてなのですが、これゴミ箱に捨てられていましたが、どうしてですか?」
まったく、いつの間にそのような所を見ていたのだろうか。聞かれた刑事もその様な表情を浮かべていた。ちなみに、彼がゴミ箱の中を確認していたのは、さっきの水掛け論となっていた最中の事である。論議に夢中になっていた2人は気づいていないのはもちろん、それを見ていた第2課の2人も彼の行動には気づいていなかったようである。
「何ですか、それ?」
歌川は不藤が持っている物に興味を示す。すると、言い合っていた刑事がそれが何かを教えてくれる。
「いたずらだよ。最近もあるんだ、訳の分からん手紙やらを送ってこられるって事がな。」
「だから、破棄するつもりだったという事でしょうか?」
「そうだよ。」
不藤は彼の言葉を聞くと、「なるほど。」と一言。さらに、彼は破棄するという事は使用しない物であるかどうかの確認もとった。答えはもちろんYESであった。そして、これを聞いた上で、このような提案をするのである。
「なら、これ貰って構いませんか?」
「は?」
その場にいる全員が同じ反応を返した。それもそうである。何故この学生はゴミだと言っている物を欲しがるのか、彼の提案に対して周囲の人間は皆、不思議な感覚に呑まれていた。そして、男は軽くため息をつき、こう言葉を返す。
「好きにしろ、やっぱ全く第8係には変わり者しかいないな。」
不藤はその答えの前半部分に対して例を言い、歌川を連れてこの部屋から出て行った。彼らがいなくなった後、この部屋にいる3人は皆、首を傾げて何を考えているんだアイツは、という表情になっていた。そして、部屋から出た後彼らは部屋に戻ってくる捜査1課の人間達とすれ違ったが、軽く一礼をして第8係の部屋へと向かっていった。もちろん、また部屋にやって来ていたのかという言葉と誰だあの学生みたいなのはという言葉を放っている者がいたが、彼ら2人には聞こえてはいないようであった……。
「――で、気になったから貰って来た、と?」
第8係の部屋へと戻った彼らは、資料の話などを共有するために部屋から出ている者達を呼び戻していた。だが、まずは池谷が言っている気になったから貰って来た物についての話が先にされる事となる。部屋内の人間は持って来た張本人以外は「何故これを持ってきた?」と言わんばかりの表情で彼を見ていた。もちろん、彼自身も全員がそう思っている事など理解している。だから、今から持って来た理由を説明しだす。
「あー、そんな顔しなくても説明しますから。」
不藤はとりあいず全員にそう前ふりを伝え、全員の表情が普通に戻った事を確認すると、本題について語りだした。
「何でこれが気になったかですが……封筒内に入っているプレートのような物について気になったという事と、封筒の裏面に記載されているコレにも興味がわいたから貰って来たのですよ。」
不藤はそう言いつつ、封筒の後ろ側を全員に見せる。そこには『西のミステリーキラー』と書かれていた。おそらく、これは差出人の名前だろうか。だが、このような名前の人間は存在しないであろう。そて、これは一体。池谷と五十嵐はこれが何かは分からなかったが、第8係の5人は何やら心当たりがあるらしい。その表情を見た不藤はこう言いだす。
「どうやら、第8係の皆さんはこの差出人については知っているようですね。」
誰もその言葉に反論する者などいなかった。むしろ、反応する者しかいない。だが、ここで彼らも驚く事を不藤が口にする。
「この差出人は、事件の情報を独自のルートで掴み、可能な限り警察にその情報を提供してくれる人物……皆さんからすれば、影の助っ人とも言える人物ではないでしょうか。」
第8係の5人は何故そんな事を知っているのかという反応を返す。言っている事があながち間違っていないという事を確信した不藤は軽く笑いこう続けて話す。
「知っていますよ、ミステリーに興味があればこれくらいの事は。」
「まじかよ。」
「少なくとも、僕らは初耳だな。」
彼の言葉に五十嵐と池谷の反応はこうであった。ここで、不藤はこの空気で何かを感じたのか少々話の路線を変更する事にする。
「まぁ、何故知っているかは、興味本意で知っていたで片づけるとして……気になるのは、何故今回のかn……いや、西のミステリーキラーの情報がいたずらだと認定されたのでしょうか。」
「あ、確かに。」
学生2人の反応はいずれもこうであった。だが、その理由は東大がこう推測して話してくれた。そして、その内容がこれである。
現在では偽装キラー事件と言われるようになった事件が以前に起きていた。事件の内容は、西のミステリーキラーを名乗った人物が同じように警察に情報を提供してきたが、その情報は捜査を進展させるどころか、逆に捜査を混乱させてしまうという内容の物でしかなかった。そして、その偽の情報提供のせいで事件の解決が遅れ、被害者が多く出てしまったという事件であった。この時、第8係は本捜査から隔離されていたため、独自の捜査をする事が可能であったため、提供された情報について色々と調べたところ、偽者の情報を送りつけて来ていたのは、本人とは全くの別人であり、本人はその事件の期間中、一切の活動を行っていないという事が分かったため、本捜査部隊もそれ以降の偽情報には惑わされる事なく、捜査を進めていった。だが、犯人は逮捕に成功したが、肝心の偽情報を流した偽装キラーについては逮捕出来ておらず、未だに野放しとなっているという事件である。
「――以上が、偽装キラー事件の大まかな説明です。」
「災難だな、これが本人だったら、偽物のせいで信用されなくなって、いたずら扱いにされるとはね。」
「まぁ、今回のも偽物だと思われたんでしょうかね。」
東大の話を聞いて池谷はそう反応する。それに続けて坪井がそう推論を出す。上田は、無くもない話だが実際のところはどうかは分からないから判断しようがないという考えを出していた。だが、実際のところ、坪井と上田の言っている事は両方正しいかもしれない。仮に本人が情報を提供していても、偽物だと思われていれば、当てになどされないであろう。その考えで行くと、池谷が言った言葉が一番しっくりくるであろう。
「どちらにせよ、調べてみたいとは思える内容だな。」
「えぇ、ですが戻る際に2人で見ていましたが、中にあるプレートが何を意味しているのか分かりませんので、どうにも……。」
大原警部の言葉に歌川がそう返す。不藤はプレートを机の上において全員が見られるようにした。これを見せられた時、場にいる全員が歌川の言っている事を理解できた。何故なら、プレートには何も書かれておらず、白紙であったからだ。
そして、一瞬沈黙の時間が部屋内にやってくる。
「これじゃあ、分かる以前の問題じゃね?」
この空気を打ち砕いたのは池谷であった。……まさに、その通りだとしか我々からは返す事が出来ない。
「お前、これの何が気になったんだよ!!」
「いや、差出人だろ。」
五十嵐の問いかけに本人よりも早く上田がこう返していた。だが、不藤自身が気になっていた点は差出人以外にもあったようである。その内容を彼は自分の口から放った。
「差出人以外に、中の白紙のプレートらしき物にも興味がありましたしね。」
つまりは、この物の全体に興味を示していたようであった。堪らず、この場にいる彼以外の全員は呆れた様子で溜息をつく。しかし、不藤は彼らに向かってこのような事を口にする。
「まぁまぁ、でも気になるでしょう? 偽物の仕業か本物の行動かは分からなくても、今までにこうも意味の無いような事はして来ていなかったのですから。」
「確かにな。何かありそうではあるが……。」
確かに大原警部の言っている事は否定できない。だが、プレートを見ても凹んでいたりしなければ、変色しているというような事もなかった。強いて言えば、少々厚みのあるプレートであるという事ぐらいである。
「……まぁ、これは後回しにした方が良さそうな気がしますね。」
東大が渋々そう口にした。他の全員もそれには同感であったため、これについては現時点ではあまり考えないという事にし、第1課で見てきた資料についての話に路線が変更されようとした時である。坪井が時計を見つつ、こんな事を言う。
「っていうか、そろそろ学生は戻らないといけなくないですか?」
3人は、不意に彼の視線上に目を送る。すると、時計の時刻は夕方を過ぎていた。どうやら、思いのほか捜査に夢中になっていたからなのか、かなりの間、ここに居座っていたようであった。
「あ……。」
彼らは一瞬固まった。そして、すぐに帰り自宅を開始する。彼らはまだ学生であり学生寮にて生活をしている。そのため、指定されている時間までに亜学生寮には戻っていないといけないのだ。まぁ、それについは第8係の全員も分からなくもないであろう。
「それじゃ、お疲れ様でしたー!!」
3人はそう言って、この部屋から出て行った。彼らを見送った第8係の5人は学生の大変さを改めて実感しているという感じであった。そして、話し切れていなかった資料についての話を再開する事にした。すると、その時である。忘れ物をしたかのように不藤が戻ってきた。
「どうした?」
「いや、ちょっと忘れていた事がありまして。」
大原警部の言葉にそう返し、彼は机の上に置き去りにしていた例の物を手に取る。そして、それを預かっても構わないかと彼らに聞くのである。そして、付け足してこう言うのだ。
「おそらく、資料の事を知ると色々と大変な事になってくるでしょうから、プレートの件はこっちで考えてみようとおもいまして。作業は並行して行った方が良くないですか?」
誰も彼の言葉に異論は唱えなかった。むしろ、プレートに関しては、その物自体が謎すぎて何の事かさっぱり分からないから、持って行ってくれと言わんばかりの表情でもあった。そして、それを持って行って構わないと大原警部は許可をくれた。
「ありがとうございます。また、何か分かれば連絡します。」
不藤はそう言うとプレートを例の封筒に入れて荷物入れの中に入れた。さらに、帰り際にもし自分達に用がある時には、破出崇先生に連絡して下さいという事を伝えて帰って行った。そして、彼が帰った後、第8係では資料の事について話が始まるのであった……。
そして、何日か日は過ぎた。互いに一向として連絡を取らないという状況が続いていたのである。どうやら、双方ともに担当しているモノについて、まだ作業が終わっていないようであった。そんな中、不藤達はいつも通り学園の講義を受けていたのである。
「――で、あるからして……電球やライトという物が発明されたという事さ。」
本日の授業は、科学の分野であろうか。どうもそれらしき内容の話が破出崇先生からされている。ここ最近の授業中、不藤は例の事について考えていた。池谷と五十嵐についてはいつも通りと何ら変化は無い。そして、破出崇先生がふとこんな話をする。
「そういや、現代ではLEDや特殊な光を放つ物も開発されているようだよね。」
生徒達は、「あー、そういやそうだ。」というような反応を返す。ここで破出崇先生は話を学生の視点に向けて話し出す。
「君達の中には、そういう特殊な光を当てる事によって文字が見えるように加工されているペンを持っていたりしないかな? あれなんかは、インク自体にそういうような加工がしてあって、そうなるのかな……まぁ、専門家じゃないから詳しくは知らないけどさ。」
この話を聞いて持っている生徒は、「あー、あるねー。」というような反応を、持っていない生徒はそれに対して少々興味を示しているような感じだった。不藤も例の事を考えらがらも何気にこの話を聞いていた。そして、話が進み破出崇先生がこのような事を話に出してくる。
「いやぁ、初めて見た時は僕も驚いたよ。だって、書いている時はさ、透明で何が書かれているか見えないのに、専用の光を当てるとそれが見えるんだからね。」
この瞬間、不藤が何かひらめいた。そして、彼にはそれ以降の先生の話が頭に入ってくる事は無く、例のプレートについての考えが脳内を支配する。そして、その結果とある1つの結果にたどり着いた。そして、それにたどり着いた時、破出崇先生の話を遮るかのように「それだ。」と声を発した。
破出崇先生は、彼の言葉にどうしたのかと問いかける。彼は特に何とも無いというような事を返した。破出崇先生は何かを察したように、軽く頷き先ほどまでしていた話を続ける。不藤は、荷物入れの中から例の封筒を取り出した。彼の行動に池谷が気が付き、こう言う。
「まさか、何か分かったの?」
不藤はその言葉に対して大きく頷く。そして、封筒の中から例のプレートを取り出して、じっと見つめる。どうやら、彼には何かしらの確信があるようであった。
そして、授業が全て終わり放課後の部活動の時間帯となる。今回も珍しく管理部には不藤と破出崇先生以外に2人の生徒が出席していた。そう、言うまでもなく池谷と五十嵐である。彼らは机の上に置かれている封筒とプレートを見つつ、椅子に座りながら何やら話し合っていた。
「なるほど、この物についての事情はだいたい理解できたよ。……それで? あの時何か分かったんじゃないのかい?」
状況を理解した破出崇先生は単刀直入にそう切り出す。不藤は破出崇先生が授業で言った内容を繰り返し、そう話したかを確認する。もちろん、彼は否定などはしない。それを確認すると、彼はこう話し出した。
「この白紙のプレート、もしかしたら文字が書かれているかもしれませんね。」
「あー、授業で話したような物でかい?」
「はい。」
だとすれば、外見だけを見てもそうそう分からないであろう。すると、五十嵐が早いところ見るようにと急かしてくるが、そう簡単に見られる代物ではない。何故なら、そういった物をここにいる人間は誰1人としても所持していないからである。その現実は池谷がしっかりと五十嵐に伝えてくれた。
「じゃあ、どうすんだよ!!」
「だから、こうやって考えてんだろうが。」
この2人、反諦めモードである。だが、そうなるという事を分からなくもない。せっかく何かを掴んでもそれより先に進めなくては意味が無い。そして、彼らは色々と良い作がないかと考える。1案としては、他の生徒に借りる、実際に買ってくるなどの事が挙げられたが、どれも手間がかかる可能性があるため、有力な案として捉えられるという事はなかった。
すると、不意に破出崇先生が何かを思い出したかのように言う。
「これぐらいなら、彼らでも作れるかも……。」
「え?」
3人は同時にそう発し、彼の方を見る。その表情はまさに、「彼らって誰らだよ。」と言わんばかりの表情であった。破出崇先生はその彼らが誰であるか3人に伝えてくれた。
「あー、あの人達ね。」
「なかなか会ってないぜー?」
「そういえば、学園はしては同じ所に所属しておられますね。」
3人の反応は以上であった。破出崇先生は、話は通しておくから今から行ってみるようにと彼らに勧める。彼らもそうするようで、封筒とプレートを持ってその人物達がいる場所へと向かう事とした。その道中、五十嵐がこんな事を言い出した。
「なぁなぁ、そういやさ西のミステリーキラーからの物かもしれないって言っていただろ?」
「あー、封筒とプレートの事か?」
「あぁ。……でよ、西のミステリーキラーがいるという事はだぜ? 東にもそう呼ばれる人物がいるんじゃねーのか?」
「今更感のある事だな、五十嵐よ。」
彼の言葉に池谷は度々そう返していた。そして、これと同じ問いが五十嵐から不藤に向けて言われる。彼は軽くこう答える。
「いてもおかしくはないだろうな。……まぁ、案外近くにいたりするかもしれないけどな。」
確かに、こういう存在ほど、探していれば身近に存在していたという事もあったりするであろう。そして、先ほどの言葉に続けて不藤はこうも言っていた。
「まぁ、そのうち会うかもしれないな、あまり意識はするなよ。」
それは分からなくもない言葉であった。そして、このような会話をしていると彼らの目指していた部屋へとたどり着いた。だが、すぐに部屋の中に入らずに扉の前で彼らは立ち止まり何やら話し出す。
「久しぶりだな、大学部に足を踏み入れたの。」
「まぁ、俺様達からしたら疎遠だしな。」
「まぁ、僕らは来年から普通に使うようになりだろうけどな。」
この話を聞いていると、分かる人には分かるであろう。彼らが現在通っている学園は、敷地内に高校としての学業を行っている建物と、大学としての機能を果たしている建物の2種類の学校が存在しているのである。まぁ、特別教室や教員の部屋などは共有棟と呼ばれている高校側と大学側の学生の両方が使用可能である棟に分類されている。今回彼らが来ているのは、共有棟ではないようである。
3人は長い間、廊下に立っているのは馬鹿らしいので、ノックして部屋内に入って行った。すると、そこには男女1人ずつ大学部の学生が彼らが来るのを待っていた。
「何だ、お前ら本当に来たのかー。」
「どうもやって参りました。」
真っ先に対応してきた男子学生。彼の名前は神守隆史という。不藤達の1つ先輩の大学部の学生である。そして、まだ言葉を発していないが、3人に手を振っている女子学生の名前は、田崎愛魅といい、彼女も隆史同様、彼らの1つ先輩で大学部の学生だ。
しかし、隆史の言葉に対しての不藤の対応の仕方を見るに、さほどそこまで上下関係を重視していないようである。だが、これは彼らにとって前々からの事なので、もう誰も何とも思っていないようである。さて、話を戻すとしよう。
3人が部屋に入ってきて、例のやり取りがあった後、愛魅が例の物についてはもう出来ているからと言い、彼らを部屋の奥の方へと招く。招かれた先にある机の上には、小型の懐中電灯のような物が置かれていた。
「流石ですね。」
「これぐらいなら、問題なく作れるっての。」
「そうでしたね。」
不藤と隆史のやり取りが終わると、愛魅がその懐中電灯のような物を手に取ってこう聞いてきた。
「それで、作ったはいいけど……何に使うの?」
「あー、えっとですね……。」
不藤は、例のプレートの入っている封筒を机の上に置いた。そして、その中からプレートを取り出し、ここに何のために来たかという事を2人に伝えた。「なるほど。」と2人は、これを作ってくれと言われた事を納得した。そして、早速それを使ってプレートを照らしてみる事とした。すると、不藤が予測していた通り、文字が浮かび上がって来たのである。
「信頼の花?」
全員が声を合わせた。そう、プレートから浮かび上がって来た文字とはそれであった。すかさず、池谷に写真を撮るように不藤は促し、彼はこの状況を写真に収める。さて、この文字についてはいつでも見る事が可能となった。後はこの『信頼の花』についてである。この場にいる全員は何の事だろうと、首を傾げる。すると、愛魅がふと口にする。
「すいれん……?」
「はい?」
他の4人は何の事やらさっぱり分からないという表情である。それを見た彼女はこう話し出す。
「確か、すいれんって花の花言葉に信頼って、あったような……?」
「……同じ花言葉持っている花って、他にありますか?」
何かを察知したかのように不意に不藤がそう聞き出す。愛魅は思い出すかのように幾つかの花の名前を出した。
「辛夷、矢車菊……後は、出てこないや。」
不藤は「なるほど。」と一言。そして、池谷にメモしておいてくれと頼んでおく。まぁ、何にせよプレートに何が書かれているかという事は理解できた。彼ら2人のおかげである。その旨を彼は2人に伝える。そして、池谷と五十嵐を連れて部室に戻る事にした。
「んで、これどーするよ。」
「……そう言われも、ねぇ?」
彼らがいなくなった後、このライトの処理をどうするか考えさせられる2人なのであった。一方の3人は破出崇先生に結果を報告して学生寮へと帰って行ったのである。そして、次の日……。
「なるほど、互いに色々と進展したという事か。」
3人は第8係の部屋へとやって来ていた。大原警部の言葉通り、彼らも資料を見て来た事により、前よりは格段と捜査が進められていた。特に何も有力な情報が記載されていなかったあのホワイトボードには、情報が大量に書き込まれていた。不藤がまず、それについて詳しく説明をしてほしいと大原警部に頼むと彼は、メンバー全員を椅子に座らせてホワイトボードの情報を元に説明を開始する。
「まず、今回の被害者の白崎純也は、住んでる家の家賃を払わず地域の条例を違反する常習犯であった。そのためか、恨まれていたというケースが濃厚だろうな。それで、家賃滞納について気になったから調べてみると、彼は借金などはしておらずバイトの掛け持ちで生計を立てていたという事が分かった。だが、その給料を全て、遊びや食事に当てており、家賃をずっと滞納していたようだ。」
ここまで聞いて、池谷からの一言。
「被害者、馬鹿だろ。」
誰も否定はしない一言であった。そして、それに対して大原警部は軽く反応して、話を先へと進めていく。
「――で、容疑者として挙げられている人物だが、被害者の住んでいた家の大家の松田隆一、被害者の住んでいた地域の組合長である石上徹、そして彼女の坂東鳴海の3人が重要人物として挙がってきた。それでだ……東大、詳しい事は任せる。」
大原警部は東大に話を投げやると、さっそうと自分の席についた。この投げやり方に学生側3人はガクッと体制を崩すという反応を取らさせられた。だが、これに関しては第8係のメンバーが初めてこの方法を取られた時にも同じような行動をしていたのか、第8係側は軽く受け流しているという形で聞いていた。
そして、もちろん話を任された東大も、平然として立ち上がりホワイトボードの前に達、続きを話し出す。
「まず、大家の松田は被害者に対しては100回以上は家賃の支払いを催促していました。」
これを聞いた池谷の「多いな。」という反応は軽くスルーされ、話は進んでいく。
「これだけ催促しても、一切払おうとしなかったためか、かなり周囲に愚痴を言っていたようです。次に、組合長の石上ですが、地域の会議に被害者が参加すると、ムードが悪くなると言っていたようです。」
「とうしてですか?」
「彼が会議に参加すると、必ずと言っていいほど、地域の人間をけなし尽くしていたようです。そのせいでムードが悪くなると話していたらしいです。」
「なるほど。」
東大の説明に不藤はそう反応する。そして、東大は話を次へと進めていく。
「最後に彼女である坂東鳴海ですが……。」
「何故、ここだけフルネーム?」
この池谷のツッコミも軽くスルーし、彼は話を進める。
「彼女は、被害者に多額の金を貸していたそうです。しかし、返済すると約束した期限を過ぎても返済されなかったので、問い詰めると金を貸してしまったお前が悪いと責任転嫁されたと言っています。結果、貸した金は一切戻って来なかったようです……以上が、3人について分かった事でした。」
東大の話が終わると、全てを聞いたうえで池谷がこう発する。
「これ、完全に被害者側がヒールじゃね?」
「そうだな、俺達も同じ意見だ。」
「まぁ、自業自得ってやつですね。」
「報いが来たと言っていいのか、どうなのか。」
彼の言葉に上田、坪井、歌川が順にそう反応する。そして、それに対して全員が言いたい事は分かるよという反応であった。すると、ここで何を思ったのかこんな事を五十嵐が言い出した。
「そういや、被害者ってよ、毎日のように容疑者3人の足と道の間にいたのか?」
「は?」
このわけの分からない発言に思わず声を合わせる五十嵐以外の全員。すると、分かりやすく伝えようとしたのか五十嵐はこう言葉に追加する。
「いや……だって、ヒールって。」
「いや、靴のヒールじゃねぇーからな!?」
「ちげぇーの?」
「話の流れを考えてみろよ、この馬鹿野郎!!」
「俺は馬鹿じゃねぇーよ!!」
「あー、悪い悪い。」
「分かれば良いんだよ。」
「馬鹿じゃなくて、アホだったな。」
「おいぃぃぃぃぃっ!!」
池谷と五十嵐による馬鹿らしい茶番はスルーし、不藤はふと根本的な何かを知らないような表情でいた。そして、茶番が続く中それを思い出し、第8係の人間にこう聞く。
「そういえば、殺害方法って?」
「あー、それなら刺殺でしたよ。」
「なるほど。」
彼の問いに坪井はそう答えた。不藤はそれを聞いて、凶器は何かという事を聞くと、凶器は包丁で未だに見つかっていないという事が歌川から教えられた。そして、この頃には後ろで行われている茶番は何とかカタがついていた。ここで、不藤がこう口にする。
「3人のアリバイとかはどうでした?」
「3人ともアリバイがあると言っていたな。」
大原警部は懐から警察手帳を取り出し、それを見ながら説明する。まぁ、そう言うであろう。なければ御同行という形になるであろうからな。しかし、それに関してはまだ他の課も本当の事かどうかまでは分かっていないようであった。
不藤は少々考え込んでいた。アリバイがあるか無いか断定していないため、下手には動けないという事が分かった以上どうするかを考えいたのである。その時、歌川がふと彼に話かける。
「そういや、プレートの謎はどうなったんですか?」
そういえば、プレート件については進展したとは言っていたが、詳しい事はまだ伝えてはいなかった。不藤はそれを思い出し、荷物の中から例の封筒を取り出し机の上に置いた。そして、プレートをその中から取り出した。それを見た第8係の全員は「白紙のままじゃないか。」という表情でこちらを見た。
「あ、重要な品かもしれないので、そのままにしてありますが、池谷……写真を頼むよ。」
不藤がこう言うと、池谷は携帯電話を開きプレートに文字が浮かびあがっている状態の写真を彼らに見せた。5人はその写真に目を凝らす。だが、互いの頭がかさばって見るどころの話ではない。そこで、上田が池谷に携帯を貸してくれと言う。彼がそれを了承すると、上田は部屋にある自分のパソコンに写真データを送り込み、それを拡大し解像度も調整したうえでカラーで印刷した。そして、それを机の上に置いた。これで、難なく全員が見る事が可能である。
そして、プレートに浮かび出ている文字を認識した時、彼らの反応は学園内で不藤達が取っていた行動と全く同じような行動であった。
「信頼の花とは、どういう事だ?」
大原警部が堪らずそう口に出す。すると、不藤は池谷にメモした花の名前を見せるようにと、指示を出す。池谷はすぐさま携帯でその画面を表示する。第8係はそれを見る。これを見て、歌川がこれらの名称が花の名称であるという事に気が付いた。そして、続けて東大がこれらの花言葉が信頼というような意味合いを持っているモノであるという事を説明した。この場にいる全員が、この言葉の意味を理解した瞬間であった。
だが、それを知るとどうしてもこういった謎が浮かんでくる。
「これらの花が、何なんでうしょうか?」
坪井が発したこの謎である。あの時、不藤は「なるほど。」という一言で済ませていたが、実際のところはこの花の名称が何を意味しているのか気にはなっていた。あの時はただ言わなかっただけだったようである。
全員が必死で考えるが、特に何を意味しているかという事は分からない。そして、何気に歌川がプレートを手にして見ていた時である。それを見て上田が少し表情を変えた。そして、「貸してくれ。」と言って彼からプレートを借りる。そして、それの側面を事細かに観察する。
「ん? これは……。」
どうやら、何かに気付いたようだった。自分の机の引き出しからカッターナイフを取り出すと、そのプレートの側面を削り出したのである。そして、彼は手を止めて「そうか。」と口にした。その瞬間、全員が彼の周りに集結する。どうしたのかと大原警部が問うと彼はこう話した。
「このプレート、よくよく観察すると気付かれにくいというに特殊なコーティングがそれいます。少し気になってこのコーティング部分を削ってみたんです。すると、こんな風になっていました。」
彼は全員にその状態を見せる。彼が削っていた部分を見ると、穴が開いている。というよりもプレートの中に数ミリのスペースが存在していた。これを見て全員は驚かされた。まさか、このような事がされていたプレートだったとは、と。
「流石ですね、よく気が付きましたね上田さん。」
「まぁ、自分でも驚いてはいるがな。」
坪井の言葉にやや笑いながら上田はそう返していた。しかし、どうして気が付いたのかと池谷が彼に質問する。上田は得意げにこう返す。
「実はな、俺は今までに色々な物を発明していたんだよ。それで、こういう事もよくしていたから、まさかと思ったんだよ。まぁ、発明が好きすぎて色々と作っていたら、センスが良すぎるのかどうなのか周りからは発明家や錬金術者と言われていたんだよ。」
「ちょっと盛りましたね?」
「ちょっと、な?」
彼の言葉を聞いて冷静に東大が訂正を加える。学生側3人は「ほー。」と驚いた反応を見せていた。まぁ、それほどの実力の持っている彼なら確かに分かりそうな事ではあるだろう。ここでふと不藤がこんな事を言った。
「もしかして、中に何かがあったり……。」
「待ってろ、残りの面もコーティングを剥がしていくからな。」
上田は言葉の通りコーティングをカッターナイフで削っていく。すると、全ての面がコーティングが剥がれた時であった。プレートが二つに分かれたのだった。どうやら、2枚のプレートが重ねられていたようである。そして、上田はカッターナイフと机に置き、分かれたプレートを互いに裏返す。すると、不藤の予想通り、プレートの裏面となっていたところに保護された形で小さなメモリーカードが取り付けられていた。
「メモリーカードだな。」
上田はそれをプレートから外して手に取る。これは一体、何のメモリーカードなのだろうか? 大原警部は上田に解析するように指示する。上田は即座にパソコンを使って解析作業へと移る。解析作業中、全員は解析画面をじっと見ていた。すると、解析が途中で停止しこのようなメッセージが出た。
『ここから先はパスワードが必要です。』
そして、それと一緒に入力画面に移行するか否かの選択も出ていた。これを見た時、パスワードは何であるかという事の目星は全員がついていた。そのため、上田は迷いなく入力画面に移行する側のボタンを選択した。しかし、次にこのようなメッセージが表示された。
『パスワードの入力は1回のみです。間違えた場合は、これより先は永遠に見れなくなります。』
「まじかよ……。」
五十嵐がそう一言発した。今の全員の心境を彼が正しく代弁してくれた。部屋に沈黙の空気が漂う。そして、大原警部が「どうする?」と発する。どうすると言われても困る、そういう表情が全員から伺える。
「さっきの花の名前がパスワードだとしても、幾つもありましたからね。」
東大が痛いところを突いた。この空気になっている原因はそれである。パスワードであろうと思えるものに関しては複数の案が存在しているが、チャンスは1度きり。これでは失敗する可能性の方が極めて高いであろう。そして、そのまま時間だけが過ぎていく。
不藤は解析画面に視線を送る。だが、解析画面に目を向けても、大量のコマンドやこの解析しているファイルの名前ぐらいしか分からない。ここで彼らに解析を諦めるムードが漂ってきた。ここで、歌川が何気にファイル名について喋りだす。
「そういや、ファイル名が今日の日付と違っていますね。」
当たり前の事である。ファイル名というのは文字通りファイルの名前であって閲覧された日時を示しているモノではない。池谷からも「当たり前でしょう。」と返されて終わるぐらいの発言であった。でも、気にならないこともないのか、池谷がこう言う。
「何でファイル名を日付にしたんだろうな。」
「あれじゃね? これを完成させた日じゃねーの?」
「だったら、これは軽く半年前には完成されているファイルになりますよ。」
「あぁ、送り主は今回の事案を予知でもしていたのかってなるな。」
五十嵐の言葉に、坪井と上田がそう返す。だが、この会話を聞いて不藤が何やらひらめたようであった。そして、池谷に再び花の名前をメモした画面を出してほしいと言ったのである。池谷は何気にそれに従い、その画面を出した。そこには、あの時にメモをした花の名前が表示されていた。不藤はそれと解析画面を見て何かが分かったようである。そして、自分の荷物を持ってこの部屋から出て行こうとした。
「おい、お前どこに行く気なんだよ!!」
そう言いつつ着いて来ようとする池谷。だが、不藤は2人はここに残るとのように伝える。パスワードについて何か分かれば連絡を入れるから、連絡先を知っている人物はここに残っていてもらいたいようであった。池谷はそれを了承しここへ残る事とした。彼が部屋からいなくなった後も、彼らはパスワードについて色々と考えるのに時間をとられるのであった。そんな中、不藤は1人学園へと足を急がせるのであった……。
彼は学園に戻ると、高等部の建物内にある1つの部室の前へとやって来ていた。彼はここに来れば何かが分かるであろうと確信をしていた。しかし、何故か中に入ろうとせずに扉の前で立ち往生している。その理由だが、ただ単に中に入るのが気まずいという理由であった。だが、彼は意を決してノックして扉を開ける。部屋の中には多数の生け花などがあった。どうやら、ここは華道部の部室のようであった。
不藤は部室の中に入ると、とある生徒を探していた。すると、彼にその友人であろう女子生徒が何か用ですか? と声をかけてきた。彼女は、柊優魅といい、不藤の2つ下の後輩の1人である。不藤は彼女に用件を伝える。すると、彼女は部屋の奥にいた1人の女子生徒を呼んでくれた。呼ばれてやってきた女子生徒は不藤を視界に捉えると表情が変わった。
「何の用事?」
何だかツンとしているが、不藤に対する時だけこうようになるらしい。ここにいる全員は愚か、これについては学内の全員がこうなるという事について認識をしている。ちなみに、こういった感じではあるが彼女も不藤の2つ下の後輩であり、名前は佐藤志帆という。まぁ、不藤に対して彼女が何故こういったような態度であるのかは後々分かるだろう。さて、話を進めていくとしよう。
彼女が不藤の探していた生徒であったらしく、彼女の言葉にさっそうと用件を述べる。
「睡蓮、矢車菊、辛夷の開花時期について知りたいんだ。」
「……そう。」
志帆は、意外だというような表情を見せつつ、不藤と同様に目線をそらして受け答えをする。どうやら、2人は互いに顔を見て話すという事が難しい関係でもあるようである。彼女は不藤の言葉に反応を返すと、部室にある1冊の資料を持ってきた。
「この写真にあるのが睡蓮。そして、ここにある数字が開花時期を示すモノ。」
彼女が指差しているところには、5~10という表記があった。つまり、開花時期は5月から10月までの間だという事を示しているのである。そして、彼女はページをめくり、残りの2つについても同様に説明する。その結果、残りの矢車菊の開花時期は4月から6月、辛夷の開花時期は3月から4月という事が分かったのである。ここで横から優魅が何気にこんな事を言う。
「睡蓮って、やっぱり開花時期が長いよね~。」
「あー、でも一番良く開花する時期は、その中でも7月から9月辺りって聞いた事はあるけど……?」
彼女の言葉に普通に志帆はそう返す。この会話を聞いていると、不藤が何かを察知した。そして、少しの間考えを巡らせると、それが何やら確信に至ったようであった。彼は、2人に礼を言い、急いでこの部屋を後にした。彼女たちは何が何だか分からないまま、出て行く彼の姿を見ていたのであった……。
そして不藤は、事を終えて学園から第8係の部屋へと戻ってきた。すると、パスワードが正解であったらしく、解析画面が先へと進んでおり、もうすぐで解析が終了しようとしていた。そして、彼を視界に捉えた池谷が何故パスワードが分かったのかと聞いてきた。
「ヒントとなったのは、ファイル名。ファイル名に半年以上前の日付が使われている事と、それが隠されていたプレートに書かれていた花言葉の花……それらの事が気になってね? そのファイルの名前は8月2日。つまりは、この日付……あの3つの花の中では、睡蓮が最も開花するというように言われている時期を示している。だから、パスワードは『suiren』となる。」
彼がパスワードを分かった経緯はこういう事であった。まぁ、大体は理解してくれるであろう。彼がこの事を解説していると、ファイルの解析が終了したと上田が発した。その瞬間、部屋にいる全員がその画面に視線を送る。そして、上田はロックが解除されたフォルダを開いた。そこには、幾つかの調査ファイルと記載されているデータが保存されていた。
「何だこのデータ達は……?」
上田は上から順番に開いていく。どうやら、これらは全て今回の事件に関する調査資料のようであった。不藤と歌川が第1課に行って見て来た内容と被る資料も存在していたが、初めて見る資料も数多く保存されていたのである。
そして、このデータ群を見ると、不藤はとある事を確信したのである。
「どうやら、送り主は西のミステリーキラー本人のようですね。」
その場にいる他の全員は彼の言葉に頷いて反応する。何故、そうと信じれるかは簡単であった。偽物のキラーと言われている人物は、ここまで事までは一切しなかったからである。彼らは、送り主が本物であると確信すると、このデータ資料をもとに捜査を進めて行く事とした。
まず、データ資料を印刷しコピーする。そして、それら全てをじっくりと閲覧する。もちろんではあるが、見ていて知っている内容とそうでない内容が浮き彫りにされていく。そして、全ての資料を見終えてホワイトボードに情報を記入し、それらをまとめ終えた頃にはすでに日が沈みかけていた。
「ふぅ、お前達はここまでなんじゃないか? 時間的に。」
確かにそうである。学生寮へと戻る時間が徐々に近づいてきている。だが、不藤は戻ろうとはしない。そして、彼はこう言うのである。
「このまま今日中に解決しましょう。犯人も判明しましたし、逮捕も可能ですよ?」
「ですが、寮へ戻る時間なのでは?」
「あー、それなら……。」
坪井の言葉に不藤はそう返しつつ、携帯電話を取り出し誰かにメールを送った。そして、その数秒後にそれに対する返事が送られてきた。その内容が表示されている画面を5人に見せる。画面には、「諸事情により、不藤・池谷・五十嵐の3人は、学生寮に戻るのが遅くなります。」というメールに対して「分かった。」という返事が送られてきたというモノが表示されていた。
「これで、戻るのが遅れても大丈夫ですよ。」
5人はなるほど、と反応をしつつ、何故前回もそうしなかったのかという疑問を持つがそれは言わない事にした。そして、メールの内容を確認した後、歌川が犯人のもとに向かいますか、と言い出すが犯人はどこにいるんだと大原警部から返される。だが、歌川はそれについては分かっていると返し、彼も誰かからの返信メールの画面を見せた。
そこには、現在犯人がどこにいて、何をしているかということが記載されていた。ちなみに、そのメールの送り主は、柏原であった。
「いつの間に連絡を?」
「犯人が分かった時からです。」
上田の問いに歌川はそう返す。そして、聞くところによれば犯人が分かった時から、彼らにはその人物をマークしておいてほしいという依頼もしていたようである。これに対しても誰もそのような事をしていると気づいてはいなかったようではある。そして、東大がこう言う。
「なら、行けますね。」
「あぁ、全員出動の準備をしろ。万一の事が考えられる携行品の確認を怠るなよ?」
大原警部は彼の言葉に反応し、そう全員に伝えた。他の全員は彼の言葉に返事をし、出動の準備をし、それが終わると目的地へと向かって行ったのである……。
日は完全に沈み、夜を迎えた頃である。車に乗って不藤達と第8係の全員がそこへと到着する。そこは湾岸の倉庫であった。彼らの到着を確認し、犯人の現状を柏原と川口は教えてくれた。大原警部はそれを聞いた後、彼らに何かを頼みその場に待機してもらう事とした。
大原警部は、他の7人を連れて、倉庫の入り口へと向かって行く。そして、そこに着くと彼らは一度立ち止まる。
「作戦通りに事を進めるぞ、準備はいいな?」
大原警部の言葉に全員が頷く。それを確認すると、倉庫の扉を開けるようにと動作だけで指示を出した。坪井と上田はそれに従って倉庫の扉を開けた。中には3男2人と女1人の合計3人の人間がいた。彼らは何かを話していたようであったが、扉が開いた事に気づくと不意にそちらの方を見る。そして、8人を見ると誰だと言わんばかりの表情となる。
倉庫の中に全員が入ると、大原警部が懐から警察手帳を取り出し、その3人に見せつつこう言うのである。
「警察だ、お前ら松田隆一・石上徹・坂東鳴海の3人だな?」
「違います!!」
「嘘つけ!! 写真と全く同じだろうが!!」
速攻で石上が否定するが、完全に動揺しているのがバレバレである。そのため、その答えに対しても写真を3人の写真を持った坪井に速攻で言い返されてしまう。だが、万が一そうであってはならないため、東大が冷静にこう言う。
「なら、身分証明書か何かを見せていただけますか? 免許証でも保険証でも、あわよくば学生時代の学生証でも構いませんよ?」
最後のは大丈夫なのだろうか。それはさて置くとして。そう言われても3人はそれらを出そうとはしなかった。すると、東大がこう彼らに向かって言う。
「出せないという事は、違うという証明が出来ない、と考えさせてもらってよろしいですか?」
これに対しても3人は無言である。まぁ、そうですと答えると嘘をついたと認める事になるため、言わないのであろう。そして、こちらの話を無視するかのように坂東がこう言ってくる。
「あの、警察の方が何か用ですか?」
警察から話を聞きたいと言われた人間が大抵発してしまう代表例の言葉であった。ここで何故か警察では無い五十嵐が勢いよく言う。
「こちとら用があるから来てんだよ。」
誰も否定はしない。言っている事は正しいからである。すると、少々笑みを浮かべつつ松田がこう返してきた。
「あっ、こんな所で話をしているから、おかしいと思って誰かが連絡したんですかね? だとしたら、勘違いされるような紛らわしい行動をとってしまい、すみませんでした。……行くぞ。」
松田がそう言い終えると、他に2人も頭を下げてからその場から逃げるかのように立ち去ろうとした。この時点で警察が自分達のもとに来た理由を分かっているという事がこちらとしても理解できた。上田は横を通って行った松田の腕を掴む。何をするんだという松田に対して真顔でこう告げる。
「いや、行くぞじゃないでしょ?」
そして、その手を振り放す。だが、3人は何食わぬ表情で再び出て行こうとする。だが、再び歩き出した時であった。彼らが何かに足を取られてその場に倒れたのである。思わず3人は何に足を取られたのかを見る。すると、視線の先には何やらロープのような物が張られており、それに足を取られたのであった。そして、それらの両端にはロープを持った歌川と池谷の姿があった。……一体、いつの間に。
「あんたら何がしたんだ!!」
「こんな事してタダで済むと思ってるのか!?」
「抗議しますよ? 良いんですか!?」
松田、石上、坂東の順に3人はこちらに言い寄ってくる。すると、ここで不藤がボソッとこう言うのだ。
「あんた達こそ理解していないのですか? 自分達が何をしたから、こういった事態になっているのか。そして、本来であれば自分達はどうするべきか、という事を。」
重い一言である。そして、それも自分達よりも年下の人間から言われているため、普通よりも重く感じるであろう。ここで、ロープを持っていた二人もこちら側へと戻って来ていた。すると、年下の人間からこのような事を言われてムカついたのか松田が彼に向かって声をあげる。
「何だ? 偉そうに言ってくるじゃん。お前には分かってないの? お前らがさ、俺たちを不快にさせているだけだろ?」
「あんな事、言ってるけど?」
池谷は呆れたような口調でそう言い、不藤の方を見た。不藤は彼らの態度に思わずため息を尽かされた。どうやら、ああ言われたにも関わらず、彼らには意識が無いようだ。もしくは、その意識があっても隠し通せると思っているようであった。そのため、不藤がこう彼らに向かって言った。
「分かっていないようなので、はっきりと言わせてもらうと……あなた方には、白崎純也殺害の容疑がかかっているのですよ?」
「おやおや、驚いたなぁ……彼が刺殺されたなんてね。」
「えぇ、それもあんな人目の付きにくい森の中で。」
「刺殺だなんて、可哀想よねー。」
彼の言葉を聞いても全く悪びれる様子のない3人。だが、その言葉を聞いて不藤は目を閉じてやや微笑んでいた。そして、思わず笑い声を吹きこぼしてした。
「何がおかしいのかな?」
松田の言葉に不藤はこう返す。
「おかしいに決まっているじゃないですか。何故、あなた方はそこまでの事をご存じで? 私は殺害の容疑がかかっているとしか話していないのに。」
そう言われ、3人の表情が少し曇った。そして、石上が何か言おうとした時、それに重ねるかのように不藤がこう話す。
「ニュースで見た、新聞で知ったなどと嘘をつくつもりでしたか? なら、すみませんね……そのネタを私が先に言ってしまいましたよ。」
押し黙る石上。どうやら、言おうとしていた内容はそれだったらしい。そして、先ほどの言葉に続けて不藤はこうも言った。
「後、驚いたとも言っていましたが……正直言って驚かされたのはこちらですよ。ほぼシナリオ通りに事が進んでいるので。」
彼の言葉に「はぁ?」と声を合わせる3人。すると、もう茶番はここまでだと言わんばかりに第8係は証拠資料を3人に突き付けまくった。まずは、坪井からだ。
「犯人は3か所の刺し傷が存在しました。資料の到着が遅れたため、我々が知るのが遅くなりましたが、この傷はいずれも深さがと形が異なっているという事でした。調査をした結果、同一人物が3か所刺したモノではなく、別々の人間が刺したモノであると確認されました。」
彼の言う資料の到着が遅れたというのは、正式には回されていなかっただけだが、それはこの場には関係ない事のため、ああ言ったようである。そして、休み間もなく上田の番が来る。
「さらに、刺し傷から推測するに使用された凶器は包丁であった。ちょうど、そこに置いてあるモノと同じものを坂東さんが購入したという証拠が店側の監視カメラに映像で残されていました。それが、その場面を印刷した資料です。このカメラの時間帯からして、包丁を購入した時間は死亡推定時刻より前という事が認識できるでしょう。」
そして、次に東大の番である。
「さらに、被害者が殺害された当日。その死亡推定時刻辺りに、一台の車が殺害現場へと向かっていくのが確認されています。これがその証拠写真となります。この写真は森の近くにあるガソリンスタンドの監視カメラの映像です。このナンバープレートを照合した結果、石上さんの車のナンバーと完全に一致しました。そして、近所の方々に話を聞くと、事件が起こってからあなたは車を買い変えているという情報も入っております。それは、監視カメラに写っている可能性を考えて車を買い替えたのではありませんか?」
この次は歌川の番である。
「そして、こちらは被害者の携帯の着信履歴とメールの受信履歴の資料です。犯人はその履歴を消したのでしょうが、我々の手にかかれば復元するという事はたやすい事でした。発信履歴の最後には松田さん、あなたの名前があります。さらに、メールの履歴の一番上にもあなたの名前が存在しています。メールの本文には、あなたが被害者を殺害現場に来るように促している文章がこのように確認されています。偽造だと言うのであれば、あなたの携帯電話を貸して下さい。そこからデータが見つかれば言い逃れは不可能です。もちろん、消去していても復元可能ですしね。」
ここまで聞くと流石に3人もこちらに顔を向けようとはしない。ここで大原警部が彼らに向かってこう言う。
「これだけの証拠の他にもまだ幾つもの証拠資料が証拠品が出ている。今それについては鑑識や他の部署が一斉で調べているところだ。今逃れたとしても、いつかは必ず逮捕される事になるだろうな。」
いわゆるトドメの一撃のような事をかました大原警部であった。犯人たちも何も言い返せないという感じであった。これで事件が解決しそうである。と思っていたが、そんな往生際の良い者達では無かった。松田が急に声をあげ、机の上にあった包丁を手に取った。そして、残りの二人は彼の後ろに移動する。
「ちっ、無駄に捜査してくれたおかげで、こうなっちまったじゃないか。」
もう、自分達で自分達が犯人であると示しているような行動であった。松田はそう言いながら、包丁の刃をこちらへと向ける。坪井が「いい加減にしろ!!」と言って詰め寄ろうとするが、彼は持っている包丁を振り回す。そのため、坪井は接近を一度断念するしかない。
「良いか、そのまま動かず俺達がいなくなるまでおとなしくしていろ。」
松田はそう言って2人と一緒に徐々にこちらと距離を取っていく。すると、ここでふと思い出したからのように不藤がこんな事を言い出した。
「そういえば、あなた方に殺されてしまった被害者の方ですが……調べた所、個人の通帳にかなりの大金が貯金されていたらしいですね。その額は優に滞納していた家賃の全額と借金をしていた金額の全額を超える数値でした。」
これを聞いて3人は表情を変え、動きを止める。そして、こちらの方をじっと見つめる。不藤はこの話を続きを話し出した。
「銀行に確認したところですが、死亡される数週間ほど前からこの金額を貯金していたらしいですね。まぁ、ルートは色々と危ない経路の仕事で稼いでいたようですが。ちなみに、銀行の人にはこれは滞納していた家賃と彼女から借りていた借金の他にも、不快にさせてしまっていた地域の皆さんにお詫びをするためのモノであると言っていたそうですよ。そして、自分に何かがあった時には、その方々に渡して下さいとも頼んでいたみたいですね。」
3人はそれを聞いて動揺を隠せなくなっていた。そして、彼らの表情を確認した不藤は、念を入れるかのように最後にこう言った。
「つまり、殺さなくても、そのうち貸したモノは全て帰って来たという事ですよ。彼は彼なりに、遅くではありましたが、迷惑をかけてしまったという事を自覚し、それを反省し、自分の身はどうなろうが構わないから、迷惑かけた人たちにお詫びをするつもりでいたわけですよ。まぁ、遅くなりすぎたのが原因でこうなってしまったのでしょうけど……。」
すると、ここまで黙って聞いていた松田が叫びながら包丁を振りかざしながらこちらへと突進してきた。だが、すかさず上田がその包丁を2本の指で白刃取りをして砕いてしまった。そして、彼をそのまま確保する。石上は近くのモノをこちらに投げつけてくるのだが、大原警部がそれを受け流しつつ彼に接近し、そのまま確保する。残る坂東に関してはこの好きに逃げようとしていたが、瞬時に彼女の向かう先に坪井が先回りし、あっさりと確保された。
これで、犯人3人は全員が無事に確保されたのである。それを確認した他のメンバーは軽く頷きそれを確認したようであった。そして、その後この現場に他の部署の刑事達が到着する。どうやら、大原警部が突入前に2人に頼んでいたのはこれであったようだ。
この状況をみて、3人は流石にあきらめたようであった。そして、後に主犯格と分かった松田がここで不藤に向かってこんな事を言う。
「くそ、学生のくせに何者なんだよ!! そして誰なんだよ、お前はっ!!」
それに対して彼はこう答える。
「私の名前は不藤雄一......ただのミステリー好きの学生です。そして、またの名前を出すとすれば……私は東のミステリーキラーと呼ばれている人物です。」
この瞬間、この場にいる全員が驚かされた。西にいるなら東の人間は誰なのかと言わずとも全員が気にしていた事ではあったのだが、彼がの東のミステリーキラーに当たる人物だとはこの場にいる全員は今まで知らなかったからであった。しかし、この時にはその事について聞いている時間などは無かった。彼がそう名乗った後、他の部署の刑事達が彼らのもとまでやって来ていたのである。
「どうも、お疲れ様でした。」
我々にそう声をかけてきたのは、あの時に歌川と水掛け論を行っていた人物であった。そして、彼ともう1人別の人間も一緒であった。
「じゃあ、後はそちらにお任せする。……皆、行くぞ。」
彼らの言葉に大原警部はそう答え、犯人達をやって来た者達へと引き継いだ。そして、不藤達と第8係の8人はこの場から去って行くのであった。その彼らを見て2人のうち歌川と口論をしていた男じゃない方の男が一緒にいる男にこう言っていた。
「どうやら、彼が君の言っていた例の学生のようですね。」
「えぇ、そうですけど?」
「実に、面白い方が彼らの力となりましたね。」
口論していた側の男は、どういう事であるかと尋ねるが、もう片方の男は軽く笑うだけであって詳しいことは言わなかった。そして、そのまま2人は彼らの姿が見えなくなるまで彼らの方を見ていたのであった……。
この後、警視庁に送られた犯人達は互いに聴取により、正式に犯行を認めたという形となり、事件は解決を迎えたのである。そして、これをきっかけとして、不藤達3人は学業を行いつつも、第8係にこれからも協力するという事になるのである。
そして、これは後から大原警部から聞かされた事なのだが、どうやら第8係の人間は1人1人何やら突出した能力があるという事が分かった。それは、次の通りであった。
まず、坪井は異常なまでの脚力を持ち合わせていて、やろうと思えば光速そして音速を超えて滑走するという事が出来るようで、あの時の先回りに少々力が発揮されていた。そして、彼は現在進行形でその脚力をさらに鍛えているようである。
次に、上田には異常なまでの開発力があり、現時点の科学技術では発明不可能な物を個人で発明できたり、実在する物ならばあらゆる物を開発出来るという力と、全ての武術をマスターしているという能力が彼にはある。そう、あの時の凶器を破壊した力はそれ系統のモノである。
そして、東大にはある程度の事なら幅広い分野で知っているという知識力、さらには予知にふさわしいような推測力があるらしい。例の倉庫内でのシナリオを考えたのは、彼であり見事にシナリオ通りに事が進んでいたのは事実である。
歌川に関しては影が薄いという事が特徴ではあるが、彼はそれが特化しすぎているらしい。つまりは、酷い時では何をやっていても全く気付かれるどころか、姿を捉えられないというような事が起こるようである。あの状況でロープを張れたのは彼のこの能力があったからでもあるだろう。
最後に大原警部、彼曰く特に変わった力は無いと言うのではあるが、このような部下たちを統率しているという事が突出した能力といえるのではないだろうか。だが、他の4人から見れば彼が一番5人の中では凄い人物であるという事には変わりないようであった。
いずれにせよ、彼らの力はこれからも徐々に力を付けていくのであろうと、聞いていて思えた。だが、これらの能力については彼らは完全に開放をするという事はまず無いようであり、必ず手を抜いて使用しているとの事でもあった。……まぁ、完全開放すると、恐ろしい事になるであろうという事は分からなくもない。
第8係の5人については現時点ではこのような感じの解説でいいであろう。今後彼らと共に捜査をする事が増えてくるはずだ。だから、その時その時に何かと新しい発見があるのではないだろうか、そう不藤は考えながら、学生生活を彼らと共に送っていくのであった……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それから数年後……。
時は現在に至る、大学部へと進学した不藤と池谷と五十嵐はとある1件の建物で共同生活をおくっていた。この建物、かなり広く1人で済むという事はまず無いであろう。だが、この際そんな事はどうでもいい。彼らはこの建物の中でとある客人と話をしていたのである。そう、その客人とは、大原警部であった。
「しっかし、あの時は本当に驚いたよな、不藤がこっち側のキラーだったとはな。」
「まぁ、言うタイミングが分からなかったので……。」
彼らは数年前に解決した事件について語っていたようであった。彼の関係は相変わらずのようであった。だが、あの時と変わった事があった。それは第8係があの事件以降に警視庁内から少しだけ扱いが良くなったという事と大学部に進んだため、高等部にいた時よりは自由の時間が増えた。そのため、3人は前よりも多い頻度で彼らの協力が可能となった事である。
「よかったじぇねぇーかよ、得な事も沢山あってよ。」
「まぁな、お陰様で昔よりかは捜査がスムーズに進められているよ。」
それは何よりである。まぁ、現時点でも警視庁は彼らと例のもう1人のキラーに協力を要請するという事が多々あるようである。そこの面は前とあまり変化は無いようである。このような話をしていると、ふと池谷が時計を見てこう言った。
「あ、そろそろ昼になるみたいだね。」
他の3人は、もうそんな時間かという表情でいた。すると、奥の方か誰かがこちらへと食事を運んで来てくれる。あー、言い忘れていた変化がもう1つ。そう、現在では彼ら3人以外にもこの建物には1人の女子学生が住んでいる。彼女の名前は、火山紅葉。不藤達と同じ学園の大学部に所属していて彼らの1つ下の後輩である。彼女は、3人と第8係に助けられたうちの1人である。彼女は元々遠くの地区の人間であり、学園には編入するという形で入って来たため、学生寮に入る対象にされなかった。そのため、不藤がここになら住めるかもしれないと提案したところ、彼女は何も迷う事もなくここに住むと決意したので同居している。基本的に3人がやれない事を彼女がやってくれるので、彼らからすれば非常にありがたい存在でもある子だ。
ただ、1つ彼女にも変わった性格がある。まぁ、人に壁を作りにくく大抵の人に対してオープンなところである。そのせいか、編入生ではあるが学園にはすぐに溶け込み、元からいた生徒という感じになっている。もちろん、その性格は第8係にも影響し、今となっては昔から知り合っていたかのように思えるぐらいの親密感が生まれている。後は……やや天然(?)な面も特徴的であろう。さて、話を戻すとしよう。
奥で昼食を作っていた紅葉は、池谷の言葉が聞こえたのかそれをこちらへと運んで来てくれた。もちろん、客人である大原警部の分も作ってある。
「でわ、いただきましょうか。」
全員が食事の準備が出来て、席に着いたのを確認すると、不藤がそう言う。その後、全員で合掌し彼らは昼食を食べるのであった……。
長々と閲覧どうもありがとうございました。どうしても1話完結モノを作るとこうなってしまいます。
さて、今後ともシリーズ化するかのようにこういったのを書いて行くと思いますので、読む際には時間がある時に読んでいただけると幸いです。
後、あらすじにもありましたように、この話はフィクションとなっておりますので、どうかご了承ください。
それでは、次回作をお楽しみに。
でわでわ……