拾って来ました。
誤字脱字等が御座いましたら御指摘下さい。
結局、餌の事は後回しにしてダンボールごとスライムを拾った青年は家に小走りで向かう。雨の中、水たまりで靴の中に水が入るのもお構いなしに暫く走ると一般的な物より大きな家の前で止まり、両手が塞がり開けられ無いのか肘でインターホンを押して中に居るであろう姉を呼ぶ。
少しすると中から青年に良く似た黒目黒髪のスタイルが良い(但し胸は無い)女性_つまり姉がドアを開けた。
「お帰りー、今日は何を拾って来た…の!?」
何とか最後まで言い切ったが、その最後の言葉に驚愕の色を隠せない様だ。それもその筈で、青年が拾って来たダンボールの中にはRPGでお馴染みのスライムが居たのだから。
「……………弟よ、その中に居るのがスライムに見えるのだが幻覚かね?」
「安心しろ、幻覚じゃない本物だ」
「なっにを…!」
「? 姉さん?」
「…っ何を拾って来とんじゃ、お前はあぁぁぁぁあああ!?」
近所迷惑になるかならないか位の絶妙な大きさで叫ぶと言う器用な事をやってのける青年の姉。
「雨の中、震えてた。可哀想だろう?」
因みに震えてたんじゃなく、ただ揺れていたのが正解である。
「だからって…!だからって…っ!スライムを拾って来る馬鹿が何処にいる!」
「ここに居る。」
「屁理屈言うな!あぁー…っ、この前はつちのこを拾って来たから幾らか耐性は出来てたと思ってたのに…」
この台詞から察するに、この青年の姉は常識人、且つ、苦労人の様だ。青年の姉は深呼吸して少し落ち着いてからため息を付く。
「…姉さん。怒ってる?」
「ん?あぁ、別に怒って何か居ないさ。弟の非常識さに泣きたくはなったけれどね」
「…姉さんって、涙出たの?」
驚愕の事実っ!とばかりに目を見開きあり得ないと言う表情をする青年。それを聞き、呆れながらも自分がどんな存在になっているのか聞いてみる。
「弟よ、君の中で私はどんな存在になっているんだい?」
「毒舌ドS鬼畜最凶最悪のチート臭する自称一般人」
「喧嘩売ってんのかテメェこの野郎」
思わず口調が荒ぶる姉はそう言って拳を構える。が、本題からズレている事に気付いたのか拳を解いてまたも落ち着く為に深呼吸をし、青年にしっかりと目を合わせる。
「あのね?私は君を心配しているんだよ?
過去に拾って来たの中でも珍しいのはネッシーの幼体、阿修羅の幼体、河童、つちのこ、そして今日は…スライム。
これ等が本当に居ると分かったらどうなると思う?更には、生物を雨の日の夕暮れに帰り道で必ず拾うなんて青年、普通は有り得ない。
これが知られたら研究者共に弄られるのが君になるかもしれないんだよ?」
姉はそれはそれは心配そうな表情で、辛そうな表情で、淡々と事実を突き付ける。
「…人権とか、動物愛護団体とか」
「そんなの、人間の欲望の前では無いに等しい。それが偉い人だったら更に…ね」
反論するが、それすら簡単に論破される。
「…姉さん。」
青年は姉に躊躇いながらも声を掛け、決意したのが真っ直ぐとした目で。
「寒いから取り敢えず中に入ってから話さない?」
「………………………。」
「スライムも寒くて震えてるし」
あくまでスライムは揺れているだけである。
「俺も雨の中を走って来た所為で靴に水が入って足が冷たくて…」
そこでやっと姉の異変に気が付いたのか言葉を止める、姉は拳を握り締め、俯いて全身で怒りを表している。そして…。
「暫くそのまま冷えて風邪でも引けば!?」
そう言ってバタンと勢い良くドアを閉めてしまった姉。少しすると玄関近くの窓から吸水性の高いバスタオルを渡される。
青年はそんな姉の態度を見て何を思ったのかインターホンを鳴らし、「ツンデレ乙」と言った結果「排水溝に足を突っ込んでそれで転んだ先に犬の【ピー】あって制服を汚したあげく、その現場を近所の女の子に発見されて蔑んだ目で見られてしまえば良いのに」と、何とも長くで地味にリアリティな事を言うのであった。
大人って皆汚いのよ…。と言う事を書きましたがあくまで作者の考えであり、その考えを推奨する訳でなく、世の中を批判しようだなんて度胸は御座いませんのでご安心を。