私と先輩その1
「せ~んぱい!」
放課後の廊下。私は愛しの先輩を見つけたので声をかけると同時に駆け出して振り返る時に抱きつけるようにスピードを調整する。
案の定先輩は私の声に振り返ってくれ……たと思ったらダッシュして私の横を通り過ぎた。
「って、え!? 先輩!? どうして逃げるんですか!」
あまりの衝撃に少し固まった私は振り返って呼び止めようとしたところ、先輩が走ってきた方から放課後だとは思えないぐらいの男子生徒が駆け出してきた。
「……あれ?」
愛しの先輩に声を掛けただけなのにどうしてこんな大事になったのか分からない私は、少し考えてから先輩が良そうな場所へ向かうことにした。
私は先輩の事が大好きである。そのことを公言しているせいか先輩が私のことを避けているのが何か釈然としない。
初めて会った時に一目惚れで、アタックしたりデートみたいに一緒に買い物したり映画観に行ったりおおよそ恋人とみられてもいい行動をしているというのに当の本人は恋人を否定する。
本当に酷い先輩だ。私はこんなに愛しているのに、あっさりとスルーするのだから。
そんなことを考えながら校舎裏にある物置みたいな古ぼけた小屋の前にたどり着いた私は、周囲に人の気配がないことを確認してから勢いよく開ける。
すると、案の定先輩が一人で読書していた。先程走っていたとは思えないほど静かに。
胸がドキドキと高鳴るのを自覚しながら、私は笑顔で先輩に抱きつこうとしたところ、本をめくりながら「散々な目にあったぞハル」と言われたので動きが固まる。
……え? 今名前じゃなくて愛称で呼んでくれた? いきなり段階すっ飛ばした!?
不意打ちに驚いて固まっていると、本を閉じて立ち上がった先輩は私を見て「なに驚いてる。俺が愛称で呼ぶのがおかしいのか?」と質問してきたので我に返った私は赤くなった顔を自覚して「べ、別におかしくありませんよ」と声が小さくなるのが分かりながら返事する。
「そうか」
「でも先輩。どうして今なんですか?」
気になったので質問すると、「お前今日誕生日だろうが」といつもと変わらない声で言ってそのまま出ていってしまった。
「…………」
あまりの嬉しさと何時の間にという驚きで立ち尽くしていると、テーブルにポツンと相手ある小さな箱が。
ここを知っているのは先輩と私以外にいないだろうから先輩が置いて行ったんだろうと思いながら箱を開けてみたところ、そこには高そうなペンダントが。
どういった経緯でこれを選び、買ったのか。それは私にはわからない。けれど、
「先輩が私にプレゼント……ひょっとして、いや、やっぱり脈ありってことですよね!!」
そうと決まったら先輩を追っかけなきゃ! そう思った私はプレゼントを鞄の中に入れてダッシュで追いかけることにした。
……でも、外堀埋めた方が早い気がするかも。